小倉昌男「経営学」に学ぶ


日経13面の日経Bizアカデミー「経営書を読む」欄に、この7月3回(7、14,21日)にわたって、ヤマト運輸で宅急便を立ち上げた小倉昌男氏の名著「経営学」(日経BP社刊)に関して、入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授)が解説している。国と戦い、“宅配便”市場を作った小倉昌男氏の創造性がどのように発揮されたか、非常に興味深い解説だ。

1回目(7日)は、「経営とは自分の頭で考えるもの」との小倉氏の発言を受けて本書の神髄は「学習の経営学」にあると入山氏は言う。新しい知見は、近くの知だけではなく、自分とは関係ない事を幅広く探索し、学ばねばならない(知の探索“(エクスプロレーション)と言う理論)。いろんなセミナーや講演から得た知見を試行錯誤しながらヤマトの経営に反映させた様子が「経営学」に記されている。”知の探索“とは、自分から離れた遠い知と、今自分が持っている知を組み合わせること。その点、小倉氏は例えがうまかったと指摘する。宅急便ビジネスの営業活動を行う配達員に「寿司屋の職人であって欲しい」と言う。その心は(1)送り主の家や取次店に出向いてモノを受け取り(朝、魚河岸で仕入れ)、(2)それらを必要な形に梱包し(魚を必要な形にさばき)、(3)自社サービスや発注方法などをお客に説明し(お客が来ればネタの説明をし)、(4)世間話をしながらセールストークをして(世間話をしてお客の機嫌をうかがい)、(5)満足度を高めてリピート率を上げる、ということ。

2回目(14日)は、”知の探索“の事例として、宅配便ビジネスに乗り出した契機が、2つの異業種からの学びだったと本書を紹介している。一つは「吉野家の牛丼」。牛丼だけに絞ることで高収益を上げていることを知り、ヤマトも個人向け宅配便に絞り込むべきと考えた。もう一つは日本航空の「ジャルパック」。行先も時期も個人の嗜好はバラバラの中で、パッケージツアーとして商品化することで市場を拡大したことを知り、宅配便も同じように送り先もタイミングもバラバラの中で「買いやすさ」が認知されれば大きな市場になるとの確信を持った。入山氏は、トヨタ生産システムも、スーパーマーケットの仕組みにヒントを得、「TSUTAYA」は金融ビジネスモデルを見て確信を得たように、「異業種に学ぶ」ことが新しいビジネスを考える基本だと言う。

3回目(21日)が最も興味深かったが、小倉氏の第2の学習姿勢は「顧客から学ぶ・現場から学ぶ」ことで、この姿勢がすべてのビジネスで重要であり、さらに小倉氏の凄い所は「相手の立場に立って考える」ことで、この学習姿勢を高めている所だと言う。入山氏は、近年「プロソーシャル」と言う考え方が注目されており、そこでは「相手の立場にたって考える人の方が、クリエイティブな成果を生み出しやすい」との考え方を紹介している。小倉氏は「利益よりサービス」を理念とし、潜在需要の開拓を目論んだ。不在なら何度でも配達を試みることで、顧客の満足度を上げる「在宅時配達」に舵を切ったのも小倉氏だ。小倉氏は労働組合との関係においても、「組合の人達の求めるものは何か」を考え、それを制度などに反映させることで信頼関係を築いた。そのことで、現場からの情報を組合員から得られるようになり、顧客の要望を聞き取り元旦配達を開始し、年中無休の営業体制を組合員の反対もなく実施することになったそうだ。

詳しくは日経Bizアカデミーの記事(http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/career/article.aspx?id=MMACz9000001072015)を参照ください。

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