「日本の課題」カテゴリーアーカイブ

目指す明日は見えますか(日経)

前稿の日経朝刊1面「成長の未来図」記事の続きです。1月5日第4稿のタイトルは「動くか“社会エレベーター” 目指す明日は見えますか」だ。

社会エレベーター”とは、OECDが提唱した指標で、各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ、最貧層から平均層に変わる確率を2018年に分析したもの。指標は最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す。

データ的には、中国やインドの7世代に対して日本はOECD平均(4.5世代)より良く4世代となっている。が、インドは「ITの巨人を征服するインド人」と言われて、昨年11月にツイッター社最高経営責任者についたパラグ・アグラワル氏に沸いた。地方の借家で育ち37歳で飛躍を遂げた。IT分野はカーストに規定がなく職業選択の制約を受けず、貧しくても秀でていれば競える。ユニコーン企業は21年11月時点で48社に上り日本(6社)を圧倒、年6万人超の人材が米国へ羽ばたく。地元メディアによるとグーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏も冷蔵庫がない質素な家庭から上り詰めた。

一方、日本のエレベーターの動きは鈍い。低成長で賃金の伸びは低い。「大人になったとき親世代より経済状況がよくなっているか?」、ユネスコが21か国の15~24歳に尋ねた調査で日本の「はい」の割合は28%で最低。ドイツ(54%)や米国(43%)を大きく下回る。日本の問題は平等主義と指摘する。突出した能力を持つ人間を育てる気運に乏しく。一方で落ちこぼれる人を底上げする支援策も十分でない。自分が成長し暮らしが好転する希望がなければ格差を乗り越える意欲はしぼむ。北欧の施策が参考になると言う。北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%超、2.8%の日本との差は大きい。日本は能力を高めた人に報い、活かす発想も乏しい。「世界は人材育成の大競争時代に入った。一人一人の能力を最大限に生かす仕組みをどう作り出していくか。さびついたエレベーターを動かす一歩がそこから始まる」と記事は締める。

6日の第5稿は、「寡占が奪うダイナミズム、競争こそが野心の源泉」のタイトルだ。世界のトップ10%の企業がM&Aを重ねて右肩上がりで収益を伸ばす一方で、圧倒的多数の企業ではほぼゼロ成長が続く。日本でも同じ構造だ。競争が減ることで投資は細る。OECDによると00年から19年までの日本の研究開発投資の伸びは30%にとどまり、中国の13倍や、欧米の70%に大きく見劣りする。ケインズは「野心(アニマル・スピリット)が失われると資本主義は衰退する」と。「企業の野心を呼び覚ます土壌を作り直さなければ成長の未来は見えない」と締める。

7日の第6稿は、「高齢化の不安乗り越える。センテナリアンの挑戦」だ。

昨年6月に米ワシントン大で「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率が13%」とした論文が発表された。センテリアンとは、1世紀を生き抜いた人々を示す言葉だ。「高齢化率が高い日本は、社会保障費の増大による財政、家計への圧迫という負の側面だけを見るのではなく、リモートワークや自動化の技術などを最大限駆使することで、元気で旺盛な高齢者の社会参加をどう促していくか、それ次第で未来の光景は大きく変わる」と締める。

“心の資本”は大丈夫ですか?(日経)

日経朝刊1面に「成長の未来図」の連載が年明けに始まった。日本の成長率が停滞している現状からどう脱皮するか、その課題に関して、2回目(1月3日)のタイトル「“心の資本”は大丈夫ですか」に目が留まった。

自動車などに代表される大量生産手法の確立により歴史上でも類を見ない経済成長を謳歌した20世紀。「テイラーシステム」とも呼ばれるストップウォッチを用いて生産工程を科学的に分析する方法で製造業の生産性の飛躍的な改善を遂げた。しかし、今経済の主役がモノからアイディアやノウハウという「知」に移るにつれ、従来のやり方では成長の実現が困難になってきた。その典型が20世紀の製造業の競争で優位に立っていた日本で、モノづくりの現場が中国など新興国に移る中、”知“の競争に対応できる企業システムの構築に出遅れたと言う。

驚愕のデータも示されている。米ギャラップ調査で、熱意をもって仕事をする社員は日本は5%で世界最低水準だと。30%を超える米国、20%前後の北欧諸国を大幅に下回る。”考える力“が問われる時代に社員が仕事に情熱を持てない状況では成長は望めない。パーソル総合研究所と慶応大の前野隆司研究室の調査では、幸せの実感が低い人が多い企業は減収が多かったそうだ。社員の幸福度の低さが企業の成長を阻み、それが社員の不満をさらに高めかねない。こうした状況の中、三菱UFJ銀行など有力企業が相次ぎ社内の幸福度を調べる仕組みを取り入れ始めた。賛否もあると言うが、”心の資本“の再構築なしには成長の未来図が描けないという危機感がある。

日立製作所の子会社ハピネスプラネットの「幸福度を測る」独自技術が注目されている。人が幸せを感じているかは呼吸や心拍数、筋肉の微妙な伸縮など無意識の変化に現れる。これをスマホアプリに搭載されたセンサーが10秒ごとにデータを取得する。約15年間に集めた延べ1000万日分のデータを活用し、人工知能がはじき出す幸福度に応じて、その改善に役立つメッセージを自動的に作成して送信する。実証実験では“心の資本”と呼ぶ指標が平均33%向上し、営業利益10%ほどの押し上げに寄与したそうだ。

知の競争に乗り遅れている日本としては、知の競争にふさわしい職場の在り方や社員の働きかた、報酬体系をどう確立していくかが大きな課題だ。当記事は、「企業収益が低迷し社員の賃金も増えない。そんな悪循環から抜け出す第一歩は挑戦が報われる仕組みを整え、働き手のやる気を覚醒させることから始まる」と締めている。

1月4日の第3稿では「人材移動こそ革新の勝機」として、米国やデンマークの状況と比して、日本の終身雇用下では技術の進化などに対応できていない実態を指摘している。この記事の最後は「人材の流動性が高ければ経済全体で見た適材適所の人材の再配置につなげやすい。働き手一人ひとりがスキルを磨き、力を十分に発揮できる環境を整えられるか、再挑戦しやすくする仕組みを本気で作らない限り貴重な能力も時間も死蔵されてしまう。」と締める。デンマークでは、リスキリングに政府が補助を出し人材の流動化を促進している。勤続年数が長い日本の生産性が低いと言う現状をどう見るか?日本の大問題ともいえる。

日本の課題として、当連載に関しては次稿でも紹介していきたい。

別稿「心の資本を増強せよ(https://jasipa.jp/okinaka/archives/9256)も参考にしてください。

日本はやさしくない国?

11月27日朝日新聞朝刊のコラム「いま聞く」にオランダフローニング大助教授田中世紀氏のインタビュー記事が記載されている。そのタイトル「日本はやさしくない国ですか」に一瞬戸惑いを覚えた。

記者(宮地ゆう)は、「“日本は他人にやさしくない国”と海外で暮らした人たちが、語ることがある。それって本当かと思っていた時に田中氏の著書「やさしくない国ニッポンの政治経済学 日本人は困っている人を助けないのか(講談社選書メチエ、2021.10刊)」にであったそうだ。田中氏もオランダで、町で見知らぬ人同士がよく会話し、気軽に助け合う場面にしばしば遭遇するという。この話を裏付けるデータが、英国の慈善団体が2009年からほぼ毎年行ってきた「人助け」調査(これまでに約160万人から回答)にあるそうだ。質問は、過去1か月に①見知らぬ人を助けたか②慈善活動に寄付をしたか③ボランティア活動をしたか」だ。2,021年6月発表の結果では、日本は114ケ国中①”人助け“が114位、②”寄付“が107位、③”ボランティア“が91位、総合結果では最下位となっているという。過去1か月となると私自身もあやしくなる。この慈善団体は、「日本は歴史的にも、先進国の中で市民社会が非常に脆弱な国だ」と指摘している。また米の調査会彩2007年に実施した「政府は貧しい人々の面倒を見るべきか」の質問にyesの答えが日本は59%、47か国中最下位だったそうだ(英国は91%、中国は90%、韓国は87%)。菅前総理が”自助“を強調した時に議論が沸き起こったことが記憶に新しいが、田中さん曰く「個人で人助けをすることが少なく、政府も困窮した人を助けるべきではないと考える人が多い国ということになる」と。2020年の内閣府調査では、「困ったときに助け合うのが望ましい」と考える人が約39%にとどまるとの結果も出ている。

東京オリンピック誘致で日本の“おもてなし”文化が世界に発信され、日本特有の他人への思いやりや優しさが宣伝され、日本人の誇るべき特性と思っていたが、”共助“より“自助”が優先される社会となっているのだろうか?

なぜ、こんな状況を生んだのか?田中氏は、「他人に迷惑をかけてはいいけない」との意識が、“公助”である生活保護の利用率の低さに表れているという。同じ内閣府の調査では6割以上の日本人から「社会の役に立ちたい」との回答を得た。しかし、その思いが行動に移っていないのはなぜか?「クラウドファンディング」や「ユニコーン企業」が、他国に比して進まないのはなぜか?田中氏が一つ上げるのは、日本では他国と比して、慈善団体、宗教団体、政治団体、スポーツや余暇の団体など、社会参加している人の割合が低いことを指摘する。仕事関係以外に、社会と関りを持つ活動の場が少ない実態があるのかもしれない。東京のような都会と地域社会では、人間関係の深さは違うと思われるが、今回の記事は「他人を大事にしない国」という不名誉な評判が諸外国にあるとすれば、何とかせねばならない。「心はやさしいが、行動が伴っていない」解決策として田中氏は「他人と社会参加をする場がもっと生まれれば、“社会的に役立ちたい”という気持ちを生かす場も増えるのではないか」と指摘する。趣味の場などを利用して社会との接点を増やすのも効果的と言う。