11月8日日経朝刊32面に焼鳥屋チェーン「鳥貴族」が全面広告を出したのには驚いた。かねてから日経では外食産業の中でも「鳥貴族」の業績の好調さは報じられていた。私はまだ行ったことはないが、現在は東名阪中心に500店舗を展開しており、3年後には1000店舗に拡大するという。ホームページを見ても、この11月、12月で15店舗オープンするようだ。ビールなどの飲料も含めてすべてのメニューが280円均一とか。それも27年間その価格を維持しているというから驚きだ。「焼鳥屋の大チェーンで世の中を明るくする」との思いで31年前、25歳で起業した大倉忠司代表取締役の経営哲学の一端を紹介する。
期せずして、私の愛読書「衆知(旧松下幸之助塾)」2016.9.10月号“ビジョンを実現する力”特集記事に「理念にうぬぼれお客様を感動させる~世の中を明るくする焼鳥チェーン・鳥貴族「280円均一」の経営哲学~」のタイトルで大倉社長に関する記事があった。そのリード文は
新鮮な国産鶏肉を使用した「メニュー全品280円均一」!注目の焼鳥チェーン「鳥貴族」は、美味しさと均一低価格で幅広い世代の顧客に支持され、店舗数を着実に伸ばし続けている。創業時から大チェーンを作ることを常にイメージしていたと語る大倉社長は、徹底したお客様目線で創意工夫を凝らし、味と価格と接客サービスを追求してきたという。掲げる究極の目的は「焼鳥で世の中を明るくすること」。そして、そのビジョン実現の過程には、「お客様にとって本当にいいか」「人として正しいか」という普遍的な問いの積み重ねがあった。
まず、顧客層を中高年の男性から女性や若者に拡大するために、赤提灯をなくしカウンタ席からボックス席主体に変えたり、従業員の制服も変えたりした。「鳥貴族」の名前は来客に貴族のような気分になっていただきたいとの思いからという。低価格「280円均一」のアイデアはダイエーの創始者中内功氏への共感故だった。しかし、経済の好不況で価格を動かす低価格競争ではなく「280円均一」に志とプライドをもち、コストをかけるべき部分は絶対に守りつつ、この路線を27年間守り続けてきた。国産の鶏肉を各店舗で一つひとつ串うちして提供し、他の食材も「国産国消」にこだわり、お客様に安心・安全と新鮮な料理を提供すると同時に日本の生産者を支援する姿勢を貫いている。今年東証一部上場を果たしたが、これを契機に社員の意識改革にも以前にもまして力を入れている。週休2日制や労働時間短縮をはじめ、善悪の判断に重きを置き「正しい会社として永遠に存続する会社にしよう」と言い続けているそうだ。
大倉社長は必ずしも評判の良くない外食産業の社会的地位向上のためにも活躍されている。「世の中を明るくする」「外食産業を人に感動と笑顔をもたらす素晴らしい業界にする」という目標を「うぬぼれ」と称し、「営業中」の看板の代わりに自署の「うぬぼれ中」の看板を掲げながら今日も営業されている。
まさに「ビジョンを実現する力」は、トップのリーダーシップと、トップの意思を理解して行動する社員の組み合わせで達成できるもの。一度「鳥貴族」に行ってみたい。
「企業理念」カテゴリーアーカイブ
社員の成長なくして会社の成長なし(システムエグゼ)
愛読雑誌PHP「衆知」(旧松下幸之助塾)の最新号(2016.7-8)に中堅IT企業「システムエグゼ」の若い(43歳)新社長酒井博文氏の記事が掲載されている。1998年創業以来18年間黒字経営の社員約500名の企業だ。今年1月に創業者の佐藤勝康氏(現会長)から経営を引き継いだのが酒井さんだ。日本オラクルや日本IBMを経て今から9年前に佐藤氏の理念に共感を覚え転職したそうだ。記事のタイトルは「社員の成長なくして会社の成長なし」。
システムエグゼの企業理念を下記する。
・公平、公正を旨とし、明るくやりがいのある会社(社員満足度向上=社員自身の成長)
・さわやかに、キビキビと礼儀をまもりお客様に信頼される会社(顧客満足度向上=お客様の役に立つ)
・ソフトウェア技術に磨きをかけ、他に勝る技術を持ち、社会に貢献する会社(社会に役立つ技術満足度向上=社会への貢献)
私たちは、社員・お客様・社会の「三方よし」を軸に行動し、たくさんの「ありがとう」を頂ける会社を実現します。
社員の成長、会社の成長の最大のポイントは顧客と直接契約を結ぶプライム受注だとの考え方にこだわりを持って推進している。現在では売り上げの8割近くがプライム受注で、20億円を超える大型案件を無事に本番稼働させたこともあるという。プライム受注を拡大するためには、「システムエグゼにしかできない」という技術を磨くこととし、業種を絞り(生損保)、技術はデータベースを得意分野とするなど、種々の施策を取り続けている社員。そして現場のニーズを感ずるために今でも社長自らプロジェクトマネージャーとして現場を回っている。
「会社は社員の成長の場」と位置づけるだけあって、社員への教育は徹底している。約500名の社員に対し年間5000万円を超える費用を当てている。組織別のキャリアプランにもとづき、社員一人一人のキャリアパスを設定、それに沿って細かな育成計画、目標を設定している。研修の内容は多彩だ。外部研修に加えて役員も先頭に立って引っ張る経営塾、ビジネス創造を目指すプロデュース塾、コンペに勝つためのプレゼン塾などを役員が月1回のペースで主催し、社員が参加している。
自社製品の品揃えにも注力し、新規顧客開拓の武器にしている。酒井新社長は、社員に対して終身雇用の約束もしているそうだ。創業者佐藤氏時代からリストラをしたことはなかったが、あらためて「業績に浮き沈みがあっても絶対リストラはしない。逆に業績を下げないために最大限やりきる」と社内宣言をした。浮き沈みの激しいIT業界で大きな覚悟といえる。
「社員の成長の先に会社の成長がある」と社員を大事にする方針を掲げている企業は多いが、企業としてシステムエグゼのように具体的な行動で社員に具体的に示している企業は少ないのではないだろうか。会社を信頼している社員の割合が日本は50%以下で他の先進国に比しても低いとのデータがメディアで紹介されていたが、「社員が価値源泉」との企業の原点を今一度見直してみてはどうだろうか。
社会派「B企業」の逆襲(日経)
当ブログでも、リーマンショック後、企業の利益一辺倒の経営から、社会的責任を全うする企業への変革が起こりつつある事象を紹介してきた(CSV経http://okinaka.jasipa.jp/archives/4857、社会的インパクト投資http://okinaka.jasipa.jp/archives/4496)。6月27日日経朝刊7面記事「核心」にも同じ趣旨の「社会派“B企業”の逆襲~渋沢栄一に学ぶ新興国~」が掲載された。翌28日にも日経6面の「GLOVAL EYE」に「”慈善“組み込む新経営モデル~米セールスフォースが主導~」との記事があった。
“B企業”のBとは“benefit(恩恵)”の意味だ。リーマンショックを契機に、株式市場の求めに応じて短期的な利益を極大化する企業に対し、米国でも社会を良くする企業(B企業)が評価され始めたと言う。株主から「研究費を配当に回せ」と迫られても「うちはB企業だ」と一蹴できるようになった。2010年以降米国の30以上の州がB企業の法的な枠組みを整え、2000社以上がその地位を得た。民間でも米国NPOがB企業の認証を進めており、米国含め世界で2000社近くを認証したそうだ。ウォール街でも、当時の金融機関に対する規制強化が収益を圧迫し、社会を敵に回した代償を払っており、存在感を増しているのはかって「理想先行」と軽んじられ、文字通りB級扱いされていた社会企業派の方と言う。筆者(論説委員梶原誠氏)は、「社会に役立つ経営が主流になれば、社会的な問題が多く企業が活躍する余地の大きい新興国から世界的な企業が出てくる」と予測する。そして、インドのバンガロールで糖尿病の治療機器を開発する「ジャイナケア」を紹介する。インドの糖尿病患者は世界2位の6900万人に達し、半数は所得の低さから受診すらしていない。該社は自宅で手軽に治療できる機器を開発し、1回の検査費用を1㌦以下に抑えた。インドで成功すれば、インドに次ぐ糖尿病大国米国に逆上陸することも視野に入れている。そんな企業に米国とカナダの投資家は昨年400万㌦出資した。投資は「業績」ではなく、「社会」の看板だった。
そんな新興国が日本の企業風土に学ぼうとしていると言う。5月トルコと日本の経営学者が東京に集い、渋沢栄一の理念をトルコ企業にどう応用できるか討論した。8月には世界の経営史学者を集めてノルウェーで開く会合でも渋沢経営の新興国への応用を取り上げるそうだ。「社会あっての会社」との渋沢の発想がB企業と重なるのだ。筆者は、英国のEU離脱で世界経済が一気に不透明になった今、戦略の練り直しを迫られる企業の経営者は「社会」を軸に据えなければならないと主張する。
セールスフォースの”慈善“経営モデルは有名だ。マークペニオフCEOは「”慈善“を経営戦略に組み込んだ企業文化が最高の人材を獲得し、離職を防ぐことに繋がっている」と言う。該社は、CRMをNPOに無料か、割引価格で2万8千以上のNPOに提供し、また社員には年7日有給で慈善活動に当たらせている。現在シリコンバレーを中心に700社以上が同様の取り組みを採用しているそうだ。
経済成長(GDP)、利益を第一義の目的とする経営戦略は見直しを迫られている。