「企業理念」カテゴリーアーカイブ

‘クロネコヤマト’のDNA

「PHP Business Review 松下幸之助塾2012年9.10月号」の特集は「創業理念を継承する」である。そのトップにヤマトホールディングス会長の瀬戸薫氏の“生き続ける「ヤマトは我なり」のDNA-現場重視が自然な伝播・浸透を後押しする”の記事がある。

記事のリード文:昨年3月の大地震発生から数日間、各地の被災地には、無償で働くクロネコヤマトの社員たちの姿があった。気仙沼市や釜石市では、社員が市に申し出て救援物資の分類・管理や、避難所を回る配送ルートの作成を担い、社用車を使ったボランティア配送まで行っていた。情報が寸断されていたこの時期、これらの活動は、本社はもちろん支社にも上司にも相談されることなく現場の判断でなされていた。(中略)社員たちを自主的な活動へと動かしたのは、「ヤマトは我なり」のDNAだった。

「ヤマトは我なり」は1931年創業以来の歴史を持つ社訓3か条の一つとして掲げられている。一人で活動することの多いセールスドラーバーが、「自分自身=ヤマト」という意識を持って、常にお客様に喜んでもらえる行動を取れるようにするための哲学だ。宅急便を開発し、経営者としても高名な小倉昌男元会長は、現場での会議では利益のことは一度も口にした事はなく、「サービス第一」と「全員経営」の二つを言われた。「サービスが良ければ利益は結果としてついてくる」との論法だ。それを受けて瀬戸氏も「世のため人のため」を意思決定の基準とし、「エンドユーザーの立場にたって物事を考える」ということを口を酸っぱくして話していると言う。

約6万人いるセールスドライバーに、経営理念や方針を徹底するには、通達1本ではなく、経営者が現場に出て、現場第一線で働く人たちの悩みを聞き、あるいは6~8名の小集団活動を褒め、みんなと膝を突き合わせて議論することが必要だ。少子高齢化や過疎化が問題になる中で、一人暮らしの高齢者の安否確認をはじめ、多くのプロジェクトも地方で立ち上げている。セールスドライバー自ら考えて立ち上げたプロジェクトである。

論語の「子曰く、苟(いやしく)も仁に志せば、悪なきなり」の言葉にあるように、世のため人のために尽くそうと言う人であれば、心が悪に染まることはないとの確信のもとで、いろんな施策を打っている。「満足創造3か年計画」は、皆がお客様に対しても、社員同志でも、満足創造のために自主的に努力しようとすれば、社員たちのモラルも向上し、会社全体のレベルアップにつながるということで策定した。その中には「満足ポイント制度(社員同志)」や「ヤマトファン賞(お客から褒められた場合)」でポイントを貯め、ポイント数に応じてダイヤモンド、金、銀、銅の満足バッジが進呈され、上位者は表彰される。制度開始から1年以内に3万人以上がバッジを獲得したそうだ。「感動体験ムービー」を実際に経験した実話に基づいて作り、全社員対象に実施している「満足創造研修」で上映している。コールセンター宛に来たお客様からのお褒めの言葉は、すぐ登録され「ありがとうの見える化」も出来たそうだ。

瀬戸氏は最後に「日々の仕事の中で、こういうことが、実は「社訓」にマッチした行動なのだ」と社員が自然に納得してくれるような工夫が必要だと思う」と言う。これからのIT業界でも、マーケット規模が縮小する中で、顧客の信頼獲得競争がますます激しくなること必至である。「現場重視」「全員経営」に加えて、企業理念の現場への浸透のさせ方に学ぶべきことは多いのではないかと思う。

IKEAにとっての企業理念

第1回JASIPA経営者サロンで、参加者の企業の企業理念を精査し、企業理念の重要性を議論した。7月4日~6日の間、国際フォーラムで開かれている「ヒューマンキャピタル2012」の基調講演を聞いた。スウェーデンの田舎で起業し、日本にも進出してきたIKEA JAPANのミカエル・パルムクイスト社長の、IKEAの企業理念に関する話だ。

イケアのビジョンは「より快適な毎日を、より多くの方々に」。優れたデザインと機能性を兼ねそなえたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるよう出来る限り手ごろな価格でご提供するという、イケアのビジネス理念が、このビジョンを支えているとの話から入った。人にとって家庭が最も重要な場所との思いだ。

創業から60年超、今では世界44か国に進出し、日本には2006年千葉県船橋に1号店を開設、横浜、大阪、神戸、埼玉、福岡、仙台などに進出、横浜店だけでも600万人の来客数を記録したそうだ。ホームファニッシング業界でかくも短期間に世界一の企業に成長したその起爆剤が、上記ビジョンの元で設定された10か条の「IKEA Value」だ。その前提に、IKEAの人事理念がある。社員をCo-Workerと呼び、リーダーはCo-Workerを育てる責任を負う。Co-Workerの成長こそがIKEAを成長させるとの信念だ。

  • 連帯感と情熱
  • 率先垂範:子は親の背中を見て育つ、リーダーは自ら手本を示す
  • 簡潔(Simple):効率性を追求、常識を覆し、不作為を禁ず
  • 現実を直視する:聞いたもの、見たもの、経験したものを重視。事務職も最繁時の現場に立つ。
  • 常に走り続けること:目標達成してもとどまらない。留まることは死を意味する。
  • コスト意識を持つ:グループCEOも海外出張はエコノミー。
  • リソースを効率的に使う
  • 新しいものに対する情熱:常に変化を追い求める
  • 謙虚さと意志力:お互いを尊重する謙虚さと、従来のやりかたに満足せず人と違うことをやる意思力
  • 責任を担い、委任する勇気を:経験のないCo-Workerにも信頼して委任、責任は自分が負う。今の職務規定以上の責任意識。

各国の強み、弱みが良くわかるが、日本は「簡潔」「責任を負い、委任する勇気」が弱い。上記10か条をつねに意識しながら仕事にあたっている姿を、Co-Workerを登場させ話させることで見せていた。

どんな会社の規模でも、社員のモチベーションを喚起するために企業理念は必須と思う。そして作りっぱなしではなく、その企業理念をことあるごとに社員に説明しながら、その本気度を伝え、理念に基づく行動力そのものを企業カルチャーにする。そんな元気な会社が最近とみに目につくようになった。IKEAでは、すべてのCo-Workerが日々の仕事の根底に企業理念を持ち続け行動していると言う。リーダー、マネージャーは「自分は偉い」と上から目線になるとすぐ降格するそうだ。「利益より目的を持って会社を運営する」ことが徹底されている。利益は後からついてくる。

「利他の心」を経営指針として

主要格付け会社から国内銀行トップの評価を得ている「静岡銀行」。「利他の心」は、頭取を平成17年(当時52歳)から続けておられる中西勝則氏の信念でもある。製造業にしろ、サービス業にせよ、事業を営む者に共通する精神であると思うが、銀行はとかく「雨が降ると傘を取り上げる」と揶揄されがちな業界と言われていた。しかし、経済成長と共に企業の成長をサポートしておればいい時代はとっくに終わり、低成長時代を迎え産業構造が変化する中、淘汰されていく企業への対応が不可欠となってきた。そして雇用を確保し、地域の発展・繁栄に寄与することが一大使命になってきたとの認識である。就任当時「金融とは他を利することによってこそ成り立つ仕事である」と言っても腑に落ちず、怪訝な顔をする行員が多数だったと言う。しかし、粘り強く言い続けることによって、利他の心に基づく行動があちこちで表れているとのこと。

他にも自らの気持ちを律する際には「足るを知る」、行動を律する際には稲盛氏の「動機善なりや、私心なかりしか」なども心の拠り所にされている。倉田百三や中村天風などの読書体験から得たものを心の支えや経営指針にしておられる。しかし、何事も消極的な姿勢では目の前の困難に立ち向かう事はできない。積極的に臨めば打つ手は無限に存在するのだと中西氏は言う。中西氏がそのことを指し示してくれた詩として実業家の故滝口長太郎氏の残された詩を紹介されている。

すばらしい名画よりも/とてもすてきな宝石よりも/もっともっと大切なものを/私は持っている/どんな時でも/どんな苦しい場合でも/愚痴は言わない/参ったと泣き言を言わない/何か方法はないだろうか/何か方法はあるはずだ/周囲を見回してみよう/いろんな角度から眺めてみよう/人の知恵も借りてみよう/必ず何とかなるものである/なぜなら打つ手は常に/無限であるからだ

「サンクスカード」が普及しているそうだ。同僚・友人・家族からもそうだが、もっとも嬉しいのはお客様から頂く「ありがとう」の言葉だと思う。他人に感謝の心を、そして他人から感謝の心を!これが普遍的な幸せの原理、そして事業成功の原理でもある。(「致知2012.2号より」