「日本の課題2013」カテゴリーアーカイブ

「もやしのきずな」売り出し近し?(BOP事業)

8日の朝日新聞朝刊より。記事のタイトル「もやしの種、自立の芽に ビジネス通じ途上国支援、日本でも」で、発展途上国の貧困層(BOP=Base of the pyramid=低所得者層)をビジネスを通じて支える仕組みが日本企業の間で広まりつつある状況を説明している。一方的な援助ではなく、互いに利益のある形を模索し、息の長い支援を目指す。

今回の紹介は、キノコ生産で有名な「㈱雪国まいたけ(新潟県南魚沼市)」のバングラディシュとの間でのもやしビジネスの話だ。「雪国まいたけ」は自社で生産している「もやし」の種(緑豆)の大半を中国から輸入しているが、レアメタルの件もあり、仕入れ先を分散するためにバングラディシュを訪れた(2010年)。貧困層に無担保で少額融資することで有名な仕組みにも興味がった。そこで、グラミン銀行の創始者で、ノーベル平和賞受賞者のムハメド・ユヌスさんと対面し、その後押しを受け、事業化が一気に進んだ。

その事業化というのは、グラミングループとの合弁会社を作り、日本からは緑豆の栽培技術を、グラミンは農家指導や融資のノウハウを提供し、バングラディシュでの緑豆の生産に取り組むこと。今までは仲買人に買いたたかれ貧困に甘んじていた人たちからこれまでの10倍程度の価格で買い取る(肥料や農薬など決められた栽培方法を守った緑豆)。当初(2011年)は100人ほどで始まった栽培が、2013年には8000人が参加し、中国産より安く抑えられていると言う。

こうした活動は「BOPビジネス」と呼ばれ、欧米を中心に広がってきた。途上国の働き手を「安い労働力」と見るのではなく、労働環境を整えて正当な対価を支払い、企業の利益追求と現地の生活向上の両立を目指す取り組み。

「ユニクロ」もグラミングループと合弁会社を設立し、服の生産や販売事業を始めている。いち早く2006年に設立されたマザーハウス(山口絵理子社長)もバッグなどをバングラディシュで生産(幾多の困難を乗り越えて)し、今では日本や台湾に15店舗を構え年間5万個を販売していると言う(山口社長は、いろんなマスコミに取り上げられ本も出版されている)。ユニリーバ(インド:小袋に分けた洗剤、シャンプーで農村女性の自立支援)、住友化学(アフリカでマラリア予防の殺虫剤を練りこんだ蚊帳を供給)、ヤマハ発動機(アフリカ:農業用ポンプを使った農法を普及)など各企業でもBOPビジネスが始まっている。日本でも経済産業省が「BOPビジネス支援センターを2010年に設立し、後押しを始めたそうだ。

世界に目を向け、世界に貢献する事業としてBOPビジネスの成功を祈りたい。

国に頼らず景観守る独自防潮堤(浜松中田島砂丘)

浜松駅からバスで15分、ウミガメが産卵に訪れる日本三大砂丘中田島砂丘。南海トラフ巨大地震では高さ15メートルの津波が押し寄せると言うのが静岡県の想定だ。国の補助金を当てにして進められる気仙沼市では、高さ9.8メートル、幅45メートル、長さ約1キロのコンクリート製巨大防潮堤の建設を計画中だ。が、中田島砂丘でこんな巨大なコンクリート製の防潮堤を築けば、美しい砂浜が覆い尽くされてしまう。そこで、天竜川河口までの17.5kmを保安林に土を盛って高さ十数メートルにかさ上げし、防潮堤の役割を担わせることにした。(毎日新聞夕刊 2013.3.19 http://mainichi.jp/feature/news/20130319dde012040015000c.htmlより)

防潮堤は国から原則2分の一(災害復旧事業ならほぼ全額補助)の補助金が出るが、一昨年策定されたルールで縛られ、例えば高さも浜松の例では7メートルでコンクリート製、3年以内完成でないと補助は出ない。なぜ浜松市では国の基準に縛られずにこんな決断が出来たのだろうか?

昨年6月のニュースで『「防潮堤つくって」静岡県に300億円寄付、一条工務店』(http://www.asahi.com/national/update/0612/TKY201206120004.html)との情報があった。県の担当課長は言う。「民間企業から大口寄付をいただき、地元の要望に沿った独自の立案が可能になったためです」と。一条工務店の宮地社長は「“万里の長城”と言われた岩手県田老町の堤防が津波で破壊されたことにショックを受けた。限界を超えた力にはコンクリートは弱い。南海トラフ巨大地震に対応するには。コンクリートよりも盛り土構造が優れている」と言う。

一条工務店は、ブログでも過去2回紹介した。一度は「お客様よりお客様の家づくりに熱心であろう」(http://jasipa.jp/blog-entry/8125)とまさに「お客様視点での家つくり」を行い、地方都市においてグループで2400億円の売り上げを上げる成長企業になっていることを、2回目は、一般住宅に太陽光発電をコスト面で採用しやすくした「夢発電システム」で第9回エコプロダクツ大賞国土交通大臣賞を受賞した(http://jasipa.jp/blog-entry/8380)ことの紹介だ。メガソーラー建設にも触れた。今回の寄付に関しても、「ここまで大きくなれたのは地元の支援のたまもの。当社創業の地へ恩返ししたい」と言われる。静岡県の川勝知事は「地元へ恩返ししたいという気持ちに感じ入った。出来た堤防には“一条堤”と呼んで謝意を表したい」と言う。

一条工務店には感動する。が、毎日新聞の記者は言う。補助金をもらうために、住民の自主性を圧殺してまで工事を急ぐ被災地行政の悲しいゆがみを指摘する。どうして、「国は金を出すが、具体策は地方自治体に任せる」とならないのだろう。TPP論議で阿部総理は、「日本の農村風景は日本の心。絶対に残す」と明言している。日本のすばらしい四季を彩る山、川、海の景観を守るためには、民間に頼るしかないというのではあまりにも寂しい。

頑張れ!一条工務店!

要介護者対象の旅行業を運営する若者!

学生時代にキャンパスベンチャーグランプリ(CVG)全国大会経済産業大臣賞(’07年)を受賞し、ビジネスを始めた同志社大学学生だった佐野恵一氏(現たびらく社長で28歳)。

そもそものきっかけは、大学1年生の年末に要介護者の祖母を連れて家族旅行をした時、旅館などで、入浴の介助を頼んでも「出来ません」と言われ、お母さんが疲れを癒すどころかへとへとになってしまった事と言う。温泉旅館が概して入浴補助に消極的なら、需要はありそうだとの単純な発想での企業だったと言う。旅館で出来ないなら我々がやってやろうと気軽な気持ちでビジネスを始めた。右も左も分からない状態で、右往左往しながらもなんとか前に進めることが出来たそうだ。例えば、最初はボランティアで始めたが、責任の所在が不明確になったり、同行者の旅費コストもあり、ご本人がボランティアに気兼ねして我慢するようなことが分かり有償にしたそうだ。しかし有償と言っても、明朗会計を心がけ、お客様とは別の格安ホテルに宿泊したりして、コストの抑制に努めている。お客様の負担を減らすために出発地からの同行ではなく、現地まで来ていただき観光する形の着地型旅行にも力を入れているとか。

株式会社になってから4年、リピーターが83%との事だが、この事業をやってみて、ご本人が旅行を楽しむことを目的として始めたが、旅行を通して元気になられる事例が多く見られるそうだ。内にこもっていた行動様式が、旅をすることで今まであきらめていたことができるようになったり、実際、ほとんど歩けなかった人が歩けるようになったり、食事が十分とれなかった人が会席料理をペロッと平らげたり、3年くらい声が出なかった人が、帰り際に「ありがとう」と言ったりする。「旅は最高のリハビリ」であり、まさに「心が動くと体が動く」ということを実感すると佐野氏は言う。初めは、これが最後の旅行と思って申し込む人が、一度旅行を経験すると自信がついて「また行きたい」と言う思いが膨らむ。リピーターのほとんどがこのような方だと言う。そのためには、同行するスタッフには、第三者から見たら「立派な息子・娘」「礼儀正しい孫」といった感じでふるまえるようにとの躾を徹底しているそうだ。

佐野氏の理想は、「体の不自由な人が旅行に行きたいときに行けるような社会」で、「今の事業が不要になる社会」と言う。しかし、その道は険しく、東日本大震災で「助け合いの精神」が海外からも評価されたが、実際は温泉旅館や、街行く人などの心配り、理解、そしてバリアフリー化もまだまだ足りないと嘆く。佐野氏は、理想を求めて、ホテル、旅館、飲食店などに対して「バリアフリー社会」の啓もう活動もやっている。京都で、行政に先駆けて「バリアフリー観光案内所」を6年前から設けているが、最近行政の理解も進み、京都を車椅子の外国人でも安心して旅が出来るよう力を入れ始めていると言う。

こんな使命感に燃えた若者もいる。高齢化社会を迎えるにあたって、高齢者の旅を活性化することは「成長戦略」にもなるし、元気な高齢者を同行スタッフにして、生産力UPにもつなげる、これからの世界をよりよくする大きなヒントを与えてくれているのではなかろうか。頑張れ!佐野くん。