お客様の心をつかむ(「PHP松下幸之助塾」特集記事)

雑誌「PHP松下幸之助塾2015.11-12月号」の特集テーマが「お客様の心をつかむ」だ。そして、このテーマで登場されるのが下記4氏だ。

  • “携わる人々の「気」を集め感動を生み出す~日本初のクルーズトレーン「ななつ星in九州」がもたらした奇跡”(JR九州会長 唐池恒二氏)
  • “地域密着型の徹底が着実な成長に~半世紀を超えて地元住民に愛されるスーパー”平和堂社長夏原平和氏)
  • “商売とは長く愛され続けること~小さな電器店の脱「安売り」経営”(でんかの山口社長山口勉氏)
  • “「感動分岐点」が人と業績を動かす”(浜松フラワーパーク理事長塚本こなみ氏)

この方がたすべて、私が過去に感動し当ブログで紹介した方々だったので、驚くと同時に喜びを感じた。

タイトルにある「気」とは、“ななつ星”のすみずみまで染み込んでいるもので、そのエネルギーが感動に変換され見る人の心を揺さぶるものだと唐池氏は言う。その気を染み込ませるために、この車両つくりに関わった数千人の社員や職員さんが「お客様を喜ばせるためにやるんだ」という気持ちを込め、想像以上の手間をかけて作り上げたものだ。例えば、乗り込むクルー(乗務員)は一般から公募したが、JAL国際線に17年間乗っていたサービスのプロ、超一流ホテルのコンシェルジュなどを外部から13名、そして社員13名を加えて、徹底的にサービス研修をしたという。最高峰のプロ集団が、湯布院の旅館で布団の上げ下ろしを練習し、東京ディズニーランドで「サービスとは何ぞや」を学び、ななつ星らしいオリジナルなサービスを創りだすと言う研修だ。まさに人を含めて「世界一の豪華列車」を創り上げている(JR九州が元気だ!(http://okinaka.jasipa.jp/archives/284))。

近江商人の「三方よし」の精神も踏襲し、「買い手よし」、つまりお客さまにどうすれば喜んで貰えるか、ずっと工夫を重ねてきた「平和堂」。昭和36年に今のポイントカードの先駆け「ハトの謝恩券」や、「芸能ショー」などの当時では画期的なイベントも実施した。お客さまに喜んで貰えるサービス追求姿勢は生半可なものではない。心のこもった挨拶(なじみの客には名前で呼ぶなど)、また来たくなるサービス(レジ掛にトレーナーを配置して教育)、そして従業員自らの発想での手書きPOPや、行事の飾りつけで「はずむ心のお買いもの」を目指す。最近は。これまで支えてくれた高齢者の方々に対して恩返しをするために「平和堂ホーム・サポートサービス」(日常生活の困りごとサポート)を始めている。そして創業時からのこのような理念を従業員に徹底して百年起業を目指して「平和堂経営者育成塾」を開始した(中国暴動で破壊された平和堂(http://okinaka.jasipa.jp/archives/383))。

今年創業50周年を迎えた「でんかのヤマグチ」。20年前、町田市に押し寄せた家電量販店が契機になり「脱安売り」経営に脱皮した。それも社員を守るため、それまでのお客様の数を3分の一に減らし、絞ったお客さまへのサービスを3倍にする。その結果、お客様の幸せが社員の幸せになったと言う。店の規模もこれ以上増やすつもりはないとのこと。それは現在のお客さまへのサービスレベルを落とさないため(「さらば安売り」でんかのヤマグチ山口社長の連載記事始まる(http://okinaka.jasipa.jp/archives/387))。

「足利フラワーパーク」の藤の移植を成功させ、浜松フラワーパークに「ここしかなくて、何処にも負けないもの」として数十万球のチューリップと1300本の桜を組み合わせた世界一美しい「桜とチューリップの園」を作り、入園者を飛躍的に増やすことに成功した塚本氏。お客さまに「わぁーきれい」と言ってもらえるパーク。そのためには「そこそこ美しい」ではダメ。圧倒的に美しくなければいけない。経営に損益分岐点があるように、人の心には「感動の分岐点」があるそれを超えたら涙するくらいの感動を覚える(感動分岐点を超えた時人も経営も変わる!(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1583))。

共通するのは、「お客様視点でものを考えること」、そして「それを実現するためのプロセスに妥協がない」ということ。さらに、「その理念を関係者全員が共有できること」。参考にしてほしい。

“響働経営”を掲げて保育園初の「ハイ・サービス300選」受賞

お母さんを日本一元気にして、お子さんを日本一可愛がる」との思いで21年前に愛媛でゼロから立ち上げた「マミーズファミリー」。今では250名のスタッフを抱え。全国29か所で保育所経営をするほか、ベビーシッターや保育士の派遣、保育商品の開発など保育全般にかかわる事業を展開している。私の近所にも2か所の保育所が開設されている。その代表増田かおり氏の投稿記事が「致知2015.11」の致知随想に掲載されている。

増田氏は、次女の育児でノイローゼになったことが起業の原点と言う。子供と一緒に自殺を考えるほどひどい状況の中で、ある時友人が子供を預かってくれ自由な時間のありがたさを感じた時、「自分と同じように困っている人がいるはず」との思いが募り、全く起業に関する知識ゼロの中、誰かのためにとの思いが自分を突き動かし起業に至った。その後も、幾多の困難にも遭遇したが、お客様のニーズに直面しながら、ベビーシッター、24時間保育と範囲を拡げ、お客様の要望に応えてきたそうだ。特に24時間保育の時には、友人はもちろんご主人からも猛反対を受け、離婚届を突きつけられるほど激しい議論を2週間続けたと言う。しかし、自分を頼ってくれるお客さまを放っておけないと言う責任感と使命感でやることを決めた。ほとんど休みなしに働く自分を見て、ご主人は会社に辞表を提出し仕事を手伝ってくれるようになったとか。

該社の経営理念は「私たちは人が好きです」、そして人の対象は最初のころは「子ども」だけだったが、今では、親御さんや一緒に働く仲間、取引先、地域の方々、そして「自分」にまで概念が広がってきたと言う。今期からは、「響働経営で、一人ひとりの素晴らしさを尊重し、心が響きあう保育所にする」とのビジョンを掲げた。

今年、マミーズファミリーは「ハイ・サービス300」に保育所としてははじめて選ばれた。「困っている人達を助けたい」との純粋で熱き心が、周囲の人を巻き込み、まだまだ成長しようとしている。多くの苦難に遭遇しながらも、めげずに最初の思いを貫き通し続ける増田氏に頭が下がる。

世界で一番貧しい大統領(ウルグアイのムヒカ氏)

10月11日の「フジテレビMr.サンデー(22時~)」をたまたま見たらその内容に釘付けになってしまった。「世界で一番貧しい大統領」へのインタビューだった。今年2月に5年の任期を全うし大統領職を辞したが、いまだに国民の人気は絶大らしい。2012年のブラジルリオデジャネイロでの「環境の未来を決める会議」でのスピーチが人気で、昨年日本でも、このスピーチを題材にした絵本「世界で一番貧しい大統領のスピーチ」(汐文社刊)が発刊されている。実際、立派な公邸ではなく、田舎の農場で花や野菜を栽培しながら生活し、公務には古いマイカー(1987年型VW)で駆けつける。大統領報酬の9割近くを社会福祉基金に寄付し、1割(約10万円)で生活をしている。ネクタイは、欧米の価値観一色に塗りつぶされてしまった世界の象徴だと、どんな場でもネクタイは絶対締めない。そんなムヒカ氏の名言の一部を紹介する。

“貧乏な人”とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ

大統領(政治家)は、多数派に選ばれたものだから、生活水準も多数派の平均の生活をしなければならない

そしてリオ会議では、経済成長至上主義の世界の限界を指摘している。

息するための酸素がどれくらい残るのでしょうか?西洋の富裕社会が持つ傲慢な消費を世界の70億~80億人が出来るほどの資源がこの地球にあるのでしょうか?

ドイツ人が1世帯で持つ車と同じ数の車をインド人が持てばこの惑星はどうなるのでしょうか?

発展は幸福を阻害するものであってはいけないのです。発展は人類に幸福をもたらすものでなくてはなりません。愛情や人間関係、子どもを育てること、友達を持つこと、そして必要最低限のものを持つこと。これらをもたらすべきなのです。

お金があまりに好きな人たちには、政治の世界から出て行ってもらう必要があるのです。彼らは政治の世界では危険です。お金が大好きな人は、ビジネスや商売のために身を捧げ、富を増やそうとするものです。しかし政治とは、すべての人の幸福を求める闘いなのです

ムヒカ氏は、大の日本ファンだ。移民日本人から花の栽培などを教わり、今も続けている。そのムヒカ氏が、「今の日本人はほんとに幸せなのか」と疑問を呈する。江戸末期の開国前の日本の心に思いを馳せて、開国以降、西欧文明に追いつけ追いこせでGDP至上主義を掲げ続け、「足るを知る」心を忘れた日本を心配している。私も当ブログで、人口減社会において「経済至上主義」でいいのか疑問を呈した(「ほんとに経済成長至上主義でいいのだろうか?http://okinaka.jasipa.jp/archives/1946」、「日本の豊かさは世界一!?http://okinaka.jasipa.jp/archives/2120」など)。政府が掲げたGDP600兆円を目指す「1億総活躍社会」がほんとに国民の幸せをもたらすのか、今一度みんなで考えるべきではなかろうか。

冲中一郎