愛読雑誌PHP「衆知」(旧松下幸之助塾)の最新号(2016.7-8)に中堅IT企業「システムエグゼ」の若い(43歳)新社長酒井博文氏の記事が掲載されている。1998年創業以来18年間黒字経営の社員約500名の企業だ。今年1月に創業者の佐藤勝康氏(現会長)から経営を引き継いだのが酒井さんだ。日本オラクルや日本IBMを経て今から9年前に佐藤氏の理念に共感を覚え転職したそうだ。記事のタイトルは「社員の成長なくして会社の成長なし」。
システムエグゼの企業理念を下記する。
・公平、公正を旨とし、明るくやりがいのある会社(社員満足度向上=社員自身の成長)
・さわやかに、キビキビと礼儀をまもりお客様に信頼される会社(顧客満足度向上=お客様の役に立つ)
・ソフトウェア技術に磨きをかけ、他に勝る技術を持ち、社会に貢献する会社(社会に役立つ技術満足度向上=社会への貢献)
私たちは、社員・お客様・社会の「三方よし」を軸に行動し、たくさんの「ありがとう」を頂ける会社を実現します。
社員の成長、会社の成長の最大のポイントは顧客と直接契約を結ぶプライム受注だとの考え方にこだわりを持って推進している。現在では売り上げの8割近くがプライム受注で、20億円を超える大型案件を無事に本番稼働させたこともあるという。プライム受注を拡大するためには、「システムエグゼにしかできない」という技術を磨くこととし、業種を絞り(生損保)、技術はデータベースを得意分野とするなど、種々の施策を取り続けている社員。そして現場のニーズを感ずるために今でも社長自らプロジェクトマネージャーとして現場を回っている。
「会社は社員の成長の場」と位置づけるだけあって、社員への教育は徹底している。約500名の社員に対し年間5000万円を超える費用を当てている。組織別のキャリアプランにもとづき、社員一人一人のキャリアパスを設定、それに沿って細かな育成計画、目標を設定している。研修の内容は多彩だ。外部研修に加えて役員も先頭に立って引っ張る経営塾、ビジネス創造を目指すプロデュース塾、コンペに勝つためのプレゼン塾などを役員が月1回のペースで主催し、社員が参加している。
自社製品の品揃えにも注力し、新規顧客開拓の武器にしている。酒井新社長は、社員に対して終身雇用の約束もしているそうだ。創業者佐藤氏時代からリストラをしたことはなかったが、あらためて「業績に浮き沈みがあっても絶対リストラはしない。逆に業績を下げないために最大限やりきる」と社内宣言をした。浮き沈みの激しいIT業界で大きな覚悟といえる。
「社員の成長の先に会社の成長がある」と社員を大事にする方針を掲げている企業は多いが、企業としてシステムエグゼのように具体的な行動で社員に具体的に示している企業は少ないのではないだろうか。会社を信頼している社員の割合が日本は50%以下で他の先進国に比しても低いとのデータがメディアで紹介されていたが、「社員が価値源泉」との企業の原点を今一度見直してみてはどうだろうか。
将来世代を考える国のリーダーは?
参院選が近づいてきた。選挙年齢が18歳に引き下げられ、若い人たちに投票を呼びかける活動も活発に行われている。以前当ブログで、“問題「先送り」で日本の破局は不可避?”(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1257)との記事で、将来世代につけを残さない政治ができないものか、問題提起をした。7月4日の日経夕刊1面の「あすへの話題」のコラムに新日鉄住金宗岡正二会長が寄稿している。タイトルは「将来世代を考える」。
宗岡氏は、日本の喫緊の課題として財政赤字を取り上げ、社会保障と税の一体改革で国際的信認を取り戻すはずの消費税をまたしても先送りにしたことを取り上げている。我々世代がこの負の遺産にメスを入れず、将来世代に先送りしてよいものだろうかと問題提起をしている。企業経営では許されないことであり、年度決算ごとに負の処置を怠れば、いずれ経営破たんに陥ることは歴史が教えてくれるという。さらに、国民は国のリーダーたるものには、国民目線よりはるかに高い視点で百年先を考え抜いて、将来世代が不安なく生活できる日本の将来像を指示してほしいと願っているはず。そのために必要な政策は何か。そして、我々世代が負うべき義務は何かを示してほしい。我々世代も、自分達だけが自分の利益を享受する政策ばかり求めるのではなく、将来世代の利益や負担にも思いをいたす気構えを持ちたいものだ。日本が成長路線に回帰するためには、痛みを伴ってでも大胆な規制緩和、構造改革に踏み込まざるを得まい。「国家が皆さんのために何をなしうるかを問うのではなく、皆さんが国家に何をなしうるかを考えようではありませんか」とのケネディ大統領就任あいさつを紹介し、ケネディ大統領のような志の高い政治家を育て、受け入れる国民でありたい、と締めくくっている。
私も退職して時間ができ、新聞、テレビなどでニュースを聞く時間が圧倒的に増えた。今回の参議院選挙に関しても様々な情報が耳に入る。宗岡氏の提案に賛同できるが、この趣旨でどの党に、誰に投票すればいいのか選択肢がない。安倍総理は遊説に注力しているが、「アベノミクスがなぜ思ったように成果が出ていないのか」、その反省を生かして「今後このように取り組むか」と論理立てて説明してほしいと願うのは私だけだろうか。遊説では、経済政策については、これまでの衆議院選挙や、参議院選挙での演説の繰り返しで、法政大学の杉田教授は「“果実が見えないのは、まだアベノミクスが足りないからエンジンをふかすしかない”との論法だが、これはギャンブルに勝てるまで掛け金を積み続けばいいという論理に似ている。期限を切って“こういう数字を出す”と約束しなければ国民として評価できない」という。金融緩和の出口戦略に関しても全く言及せず紙幣を増刷している現状に国民も大いなる不安を持っているのではないだろうか。失業率や求人倍率の改善を言うなら、消費の低迷の理由も説明しなければ理解不能だ。公約違反を「新しい判断」と言ったり、野党を批判することで「野党よりまし」との論理でごまかさず、若い世代が納得できるような説明が欲しい。野党も、将来の不安をなくすための具体的な施策を今こそ展開すべきではなかろうか?
選挙年齢引き下げを契機に、若い人たちの声も反映したあるべき政治の姿へと変革せねばと強く思う。まずは正常な民主主義を実現するために、「1強多弱」を改善し、与野党協調・牽制体制で日本の将来を議論する環境つくりか?
社会派「B企業」の逆襲(日経)
当ブログでも、リーマンショック後、企業の利益一辺倒の経営から、社会的責任を全うする企業への変革が起こりつつある事象を紹介してきた(CSV経http://okinaka.jasipa.jp/archives/4857、社会的インパクト投資http://okinaka.jasipa.jp/archives/4496)。6月27日日経朝刊7面記事「核心」にも同じ趣旨の「社会派“B企業”の逆襲~渋沢栄一に学ぶ新興国~」が掲載された。翌28日にも日経6面の「GLOVAL EYE」に「”慈善“組み込む新経営モデル~米セールスフォースが主導~」との記事があった。
“B企業”のBとは“benefit(恩恵)”の意味だ。リーマンショックを契機に、株式市場の求めに応じて短期的な利益を極大化する企業に対し、米国でも社会を良くする企業(B企業)が評価され始めたと言う。株主から「研究費を配当に回せ」と迫られても「うちはB企業だ」と一蹴できるようになった。2010年以降米国の30以上の州がB企業の法的な枠組みを整え、2000社以上がその地位を得た。民間でも米国NPOがB企業の認証を進めており、米国含め世界で2000社近くを認証したそうだ。ウォール街でも、当時の金融機関に対する規制強化が収益を圧迫し、社会を敵に回した代償を払っており、存在感を増しているのはかって「理想先行」と軽んじられ、文字通りB級扱いされていた社会企業派の方と言う。筆者(論説委員梶原誠氏)は、「社会に役立つ経営が主流になれば、社会的な問題が多く企業が活躍する余地の大きい新興国から世界的な企業が出てくる」と予測する。そして、インドのバンガロールで糖尿病の治療機器を開発する「ジャイナケア」を紹介する。インドの糖尿病患者は世界2位の6900万人に達し、半数は所得の低さから受診すらしていない。該社は自宅で手軽に治療できる機器を開発し、1回の検査費用を1㌦以下に抑えた。インドで成功すれば、インドに次ぐ糖尿病大国米国に逆上陸することも視野に入れている。そんな企業に米国とカナダの投資家は昨年400万㌦出資した。投資は「業績」ではなく、「社会」の看板だった。
そんな新興国が日本の企業風土に学ぼうとしていると言う。5月トルコと日本の経営学者が東京に集い、渋沢栄一の理念をトルコ企業にどう応用できるか討論した。8月には世界の経営史学者を集めてノルウェーで開く会合でも渋沢経営の新興国への応用を取り上げるそうだ。「社会あっての会社」との渋沢の発想がB企業と重なるのだ。筆者は、英国のEU離脱で世界経済が一気に不透明になった今、戦略の練り直しを迫られる企業の経営者は「社会」を軸に据えなければならないと主張する。
セールスフォースの”慈善“経営モデルは有名だ。マークペニオフCEOは「”慈善“を経営戦略に組み込んだ企業文化が最高の人材を獲得し、離職を防ぐことに繋がっている」と言う。該社は、CRMをNPOに無料か、割引価格で2万8千以上のNPOに提供し、また社員には年7日有給で慈善活動に当たらせている。現在シリコンバレーを中心に700社以上が同様の取り組みを採用しているそうだ。
経済成長(GDP)、利益を第一義の目的とする経営戦略は見直しを迫られている。