潜在能力を活性化する方策(林成之脳科学者)

スポーツ脳科学者として、女子サッカーや水泳の北島康介、卓球の石川佳純などを指導し。五輪や世界大会などで数多くの成績をあげるのに貢献された林成之氏が「致知8月号」に寄稿されている。潜在能力を引き出すための方策をダイナミックセンターコアと称する脳の働きをもとに解説されている。タイトルは「さらに前進する人の思考はどこが違うのか。脳が求める生き方」だ。

林先生に関してはこれまでも2回当ブログで紹介している。投稿記事は下記で見られますので参考にしてください。

アジア大会:韓国選手がやってしまった! | 冲中ブログ (jasipa.jp)

脳に悪い七つの習慣(創造力、思考力を磨くために) | 冲中ブログ (jasipa.jp)

脳はいくつかの“本能”を持っている。中でも強い影響力を持っているのが「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」「伝えたい」「自分を守りたい」の5つだそうだ。この5個の美しい本能を生かせば人はすばらしい力を発揮できる。ただし、5つめの「自分を守りたい」の自己保存の本能が悪さをするという。嘘をつく、言い訳をする、失敗を隠す。現在メディアを騒がせている政治家たち大人の保身は目に余るが、小さい子供でも目標を小さくし潜在能力を発揮する機会を奪う最も危険な本能だと言う。

脳の回路は4段階で、前進か、後退か決まるという。第一段階(後頭・頭頂葉の空間認知中枢)で目から入った情報を認識し、第2段階(A10神経群)で、「面白そう・つまらなさそう」「好き。嫌い」の感情が生まれる。この感情が第3段階(前頭葉)で分別され、つまらない・嫌いとレッテルを貼られた情報は十分働かなくなる。マイナスの感情は、連動、深い思考を阻んでしまう。第4段階(報酬神経群)は、自分への報酬を認識すると働く。すなわち、興味をもって取り組むなら、第4段階に到達し、潜在能力である発想が大きく進化し、記憶に深く刻まれ、独自の思考、そして”心“が生ずる。脳が挑戦することで得られる報酬よりも失敗への恐怖などに支配されると、文字通り「現状維持は衰退の始まり」の状態に陥ると言う。

林先生は「スポーツ科学者」として、いろんなスポーツで指導され、成果を上げておられる。カーリング女子日本代表が使って流行語にもなった「そうだね」を、2011年のサッカー女子W杯で優勝したなでしこジャパンに教えたそうだ。脳には「生きたい」「知りたい」「仲間になりたい」との本能がある。後から何を言うかに関係なく「そうだね」と同調して会話を進める。すると話す側は否定されることへの恐怖がなくなり、聞く側も相手の言うことに興味を持ち、受け止めるようになり、チームの信頼関係が高まり成績につながる。

陸上競技や水泳でも、ゴール近くになって、「ゴールだ」と思うと、終わりを意識した瞬間、それまで脳と運動系の神経回路をフル稼働していた能力が引っ込み、潜在能力のある選手も普通の選手になってしまう。水泳の寺川綾選手も一度は引退を考えたが、林先生の指導を受け、引退を翻し、ロンドン五輪で銅メダルを取った。

ともかく“勝ちたい”、“悔しい”の言葉は相手を辱める意味があり、自らの潜在能力を消す。ともかく負けを意識すると自己保存の法則から潜在能力が消える。仕事でも同じだが、競争相手は打倒すべき存在ではなく、自分を高めてくれる大事な”ツール”と考える。負けた時は”悔しい“ではなく、”自分を負かしてくれてありがとう。これで自分は成長できる“ととらえることが潜在能力を生かすコツだと。ともかく否定的な言葉、”苦しい”“辛い”“もう無理かも”のような言葉は脳をマイナスに機能させる。

潜在能力の発揮は、脳の原理を考え、その原理に従って全力投球すること。林先生が好例として出しているのは、記憶にも新しい2023年のWBCでの大谷選手の言葉だ。米国との決勝戦の前に「憧れるのをやめましょう。憧れてしまったら、超えられないので、今日は勝つことだけを考えましょう」。

林先生は、記事の最後に下記言葉で締めておられる。

脳は前進を求めている。そのためには心を鍛えないといけない。心とは、脳に入った情報に気持ちが動き、感情が加わってから生まれてくる。先に紹介した5つの本能を引き出し、ダイナミックセンターコアを絶えずプラスに機能させる。それが心を鍛える、心を磨くということ。これからますます少子化が進むとともにAIが格段に発達し、イノベーション時代が来る。次世代を担う子供たちへの期待が大きい。頭がよく素晴らしい子に育てることは急務。そのためにも潜在能力を引き出す育脳がますます重要に泣てくる。

年を取った人も、「いい歳だからできない」「年を取った」のような潜在能力を消す禁句は控え、次世代の人の育脳に気を使ってもらいたい。

世界の誇る偉人の生涯:二宮尊徳(金次郎)

標題にある二宮尊徳の連載が「致知4月号」から始まった。著者は白洲次郎、稲盛和夫などの書籍を出版されてきた作家 北康利氏だ。

冒頭に武者小路実篤の言葉がある。

二宮尊徳はどんな人か。かう聞かれて、尊徳のことをまるで知らない人が日本人にあったら日本人の恥だと思う。それ以上、世界の人が二宮尊徳の名をまだ十分に知らないのは、われらの恥だと思ふ。

小学校時代、私の通った小学校にも二宮尊徳の像があった。しかし、伝記を読んだこともなく、漠然と、“歩きながらも勉学に励むすごい人”との印象があるだけだった。この像も最近では歩きスマホを誘発するものとして全国の小学校から撤去されているらしい。

これからも続く北氏の連載と関連して「致知5月号」には、二宮総本家当主二宮康裕氏と北氏の「二宮尊徳の歩いた道」と題した対談もあり、改めて二宮尊徳の歩んだ道に感動を覚えた。

北氏曰く「それほどまでに彼の人生は悲劇的なものであった。権力を握ろうとしたわけでも富豪を願ったわけでもない、ひたすらに世の安寧を願う無私の人生であったにも関わらず、生前には報われることもなかった」とし、彼の死に際して小田原藩からは葬儀も許されず、墓所は日光の報国二宮神社社殿の裏にあるそうだ。

“それほどまでに彼の人生は悲劇的”とあるように、14歳で父を、16歳で母を失い、弟たちとも別れ叔父に預けられる。金次郎の生きた時代は、自然災害の頻発、大飢饉による人口の減少、田畑の荒廃と農業の衰退、貨幣経済の浸透による富の偏在、財政破綻などいろんな問題が起きていた。金次郎の生まれる少し前には富士山の大爆発があり、近くの酒匂川の川底が浅くなり、頻繁に洪水や飢饉を起こしていた。そのため、叔父の家に預けられた金次郎は学問を続けるために、叔父に迷惑をかけないよう、友人から一握りの菜種をもらい、近くの川の土手にうえ、取れた菜種を油に換えて夜の読書を続け、また近所の人が田植えの時に残した捨て苗を近くの水たまりに植え、一俵あまりのコメを収穫していたという。このように幼い頃から苦難ばかりが続く中、人一倍苦労し、考え抜いた結果、卓越した知恵を身につけ、前人未到の境地に到達し、その叡智を惜しみなく社会のために還元した。そして、報徳仕法という独自理論を打ち立て、農業問題でも財政問題でも、彼にかかれば解決できない問題などなかった。直接、間接に再興を請け負った村は600を超え、孫尊親が手掛けたものも含めればその範囲は10道県に及ぶ。幕府にも名声は届き、最後は幕臣にも取り上げられたが、生活は質素なまま、恐るべき意志の力で自らを律し、多くの弟子を育て、ひたすらに「興国安民」を願った。しかし、故郷の小田原藩には、藩士の痛みを伴う肝心の報徳仕法は採用されず、“農民上がりの分際で小憎らしい相手”とみなされ墓所は日光となった。

しかし、死後の明治維新で評価は一転し、富国強兵殖産興業の大号令がかかり、農商務大臣井上薫の尊徳への絶大な評価もあり、急にもてはやされた。井上の盟友だった渋沢栄一がことのほか尊徳を尊敬していたこともあり、教科書にも登場し、全国に銅像が建てられ多くの人からの尊敬を集めた。他にも安田善次郎(みずほ銀行の祖)、伊庭貞剛(スミトモグループの祖)、豊田佐吉(トヨタの祖)、荘田平五郎(三菱地所の祖)、御木本幸吉、最近だと松下幸之助、土光敏夫、稲盛和夫といったそうそうたる経営者が、報徳思想を自らの生きる指針とした。

北氏と二宮総本家との対談の一部は下記で見られる。

二宮康裕 北 康利による特集記事 二宮尊徳の歩いた道|致知出版社 (chichi.co.jp)

今まさに国会議員の裏金問題が世間を騒がせている。最後は幕臣に取り上げられたが、生活は質素なまま、恐るべき意思の力で自らを律し、多くの弟子を育て、ひたすらに“興国安民”を願った二宮尊徳の生きざまを、今こそ国会議員にも勉強してもらいたい。

裏金問題に想う

これまで当ブログでは、政治には極力触れない”ことで通してきたが、今の政治の状況には一言触れざるを得ない。日本の将来を担う議員の人間としてのモラルの問題だから。

4月28日衆院補選(自民党議員不祥事件や逝去に伴う)があり、自民党は不戦敗を含めて3連敗となった。特に自民王国(これまで自民は負けたことがない)の島根1区で唯一の自民候補が負け、政権与党として大きなショックを受けたと思われる。

昔から代議士を“選良(選挙で選ばれたエリート)”と呼んでいたらしいが、インターネットで調べると、あまりにも不祥事が多く、悲しいかな、今では死語になっていると言う。今話題の裏金事件では、国会でも驚く議論が交わされ、ますます国民はあきれているのではないかと思う。

「国民から集めた税金は、ほんとに日本のために使われているのか?選挙のため、個人のため(まさか不倫とか、パパ活には使ってないとは思うが)に使っていないのか?今の議員の言葉だけでは信じられない。私事で使っているとなると税金を払ってくれないと!」という当たり前の疑問に、今の政治はまともに答えてくれないことに国民は不満を抱いている。

総理も「政治には使途を明らかにできない機密事項があるから支出明細は明らかにできない」というが、それを理由にチェック機構もなく、全額機密事項に使っているとだれが信じることができるのか?

ともかく議員への信頼がなくなった今、第三者(機密保持責任を負う)による使途のチェック機能が必須であると考える。ともかく国会でのやりとりなどを聞いて、責任問題など一般企業の社員も、政治の世界のいい加減さにあきれているのではなかろうか。

4月15日の官邸でのニュースに目がとまった。二本松藩が藩士への戒めとした「戒石銘碑」の教えにならってほしい――。自民党派閥の裏金事件で政治不信が高まるなか、福島県の二本松商工会議所会頭らが15日、首相官邸を訪れ、岸田文雄首相に拓本を贈呈した。首相は執務室に飾り、「しっかりと襟を正して、原点に返って仕事をすることを戒めとする」と語ったという。戒石銘碑には16文字の漢字が刻まれ、「お前の俸給は、民があぶらして働いたたまものより得ているのである。お前は民に感謝し、いたわらねばならない。この気持ちを忘れて弱い民たちを虐げたりすると、きっと天罰があろうぞ」と解釈されている。拓本と文言が彫られた石盤を持参した商工会議所の菅野京一会頭は首相と面会後、「もう一度原点に返って頂きたい」と話した。拓本は、今後与野党の全国会議員に贈る予定だという。

この拓本は、総理官邸に飾られていると言うが、岸田総理はこの拓本を見て何を考えているのだろう。是非とも日本をまともな国にするため、火の玉になって本気の改革に取り組んで欲しい。この拓本は自民党だけではなく、野党含む全議員にも問いかけている。特に政権を握った党の、特権意識(直近では、某議員への北海道からの呼び出し出張などにもみられる)が世間の常識から大きくかけ離れている。国民の期待に応え得る立派な議員も数多くいるとは思うが、国民の期待を欺く議員をいかに排除するか、真剣に考えねばならない。ただでさえ下り坂の日本をなんとかしないといけない時に、情けない状況ではあるが、若い人たちにも真剣に考えて欲しい。

「武士道」「新渡戸稲造著、斎藤孝訳・責任編集、2010年発行、イースト・プレス)を読みなおした。本の帯には「あのエジソンやルーズベルト大統領も読んで感動、発奮した“精神と行動”力の原典」とあり、さらには「今日本が抱えている様々な問題の解決のカギが、この名著”武士道“にすべて書き尽くされている(斎藤孝)」ともある。さらに、「武士道」を一言で言えば「責任を取ること」と答える。国や主に対する責任、家族・同胞に対する責任、そして”自分自身“に対する責任である。それは、「人間であること」にし責任を取ること、ともいえる。その「責任を取る」ために武士が行った心身の修業は、まさに「知行合一」そのものであった、とある。

詳細は本に譲るが、新渡戸氏は、西洋人が見る日本は「ハラキリ」「フジヤマ」だった時代に、世界に向けて日本人の普遍性を紹介し、世界に日本に対する理解を深めた書として有名である。

是非、国会議員にもこの本を勧めたい。

冲中一郎