AI時代に読書立国を目指せ!?

愛読書の人間学を学ぶ月刊誌「致知6月号」のテーマは“”読書立国”。スマホが読書習慣を阻害し、町の本屋が減り続ける社会に対して警告を発している。

最近、当ブログで「致知」の記事の紹介が増えているが、専門家の方々の、日本国の将来に対する懸念事項に深く同意することが多いため、皆さんにも是非とも知っていただきたいとの思いからだ。

今回注目したのは、建築家安藤忠雄氏と、iPS細胞でノーベル賞受賞の山中伸弥氏の「読書は国の未来を開く」と、お茶の水大学名誉教授内田伸子氏と脳トレで有名な東北大学川島隆太氏の「AI時代に負けない生きる力を育む子育て」の記事だ。

活字離れが進む中で、子供たちに本を読む楽しさや豊かさを知ってもらい、無限の創造力や好奇心を育んで欲しいとの思いで、安藤氏が大阪市中の島に「こども本の森」館を建設(令和2年)し、館長を山中氏が務めておられる。「建物の構造も展示の仕方も素晴らしい」と山中氏は言い、様々な分野の本2万冊を備えているそうだ。当日枠もあるそうだが、2週間前から予約がすぐ満員になるほどの盛況らしい。神戸、遠野、熊本にも広がり、松山、北海道大学にも新たに開館予定という。さらには台湾、建国、バングラデシュ、ネパールなどへの展開も予定されている。安藤氏は中学2年の時、自宅の改築にあたった大工の姿勢(仕事が終わってから深夜まで勉強しながら)に刺激を受け、経済的に大学に行けなかったが、働きながら独学で勉強し、建築学科の学生が4年で学ぶ専門書を19歳の時1年で睡眠時間も惜しみながら読破された由。山中先生も、お父さんが肝硬変で若くして亡くなられたことが医者を目指すきっかけになったが、アメリカ留学後帰国した際、日本の研究環境にとまどい鬱的な状態にもなったが、その際出会った本2冊に救われた経験が、IPS細胞につながったと言われる。(記事の一部はhttps://www.chichi.co.jp/info/chichi/pickup_article/2025/202506_anndou_yamanaka/をご覧ください)

もう一方の記事は、発達心理学と脳科学の専門家、お茶の水女子大学名誉教授内田信子氏と東北大学加齢医学研究所教授川島隆太氏の対談記事で、テーマは「AI時代に負けない生きる力を育む子育て」だ。スマートフォンやタブレットなどデジタル端末の球速な普及は、私たちの生活を便利にする一方、人と人、親と子の繋がりの希薄化や学力低下、読書離れなど数々の問題を発生させているとの問題提起だ。調査データも用いながら、例えば2019年に文科省が掲げた「GIGAスクール構想」により小学1年生から中学3年生まで一人に一台のデジタル端末が貸与され、家庭学習のため自宅に持ちかえらせる動きも出てきたことを問題視されている。川島氏や内田氏などの調査では、デジタル機器を使いこなす子供たちの成績が芳しいとの結果は得られていないそうだ。最近文科省の調査でも学力に関してポジティブな影響はなかったと結論付けしているそうだ。なぜデジタル端末が学力を低下させるか?インターネットで検索すれば答えが簡単に得られるから、自分で本などを調べ、自分で行間を読む力、自分の頭で深く考える力が身につかないからと内田さんは言う。様々な論文で、スマホなどを利用する子供ほど脳の発達が阻害されたり、自尊心、自己肯定感、共感性が低い、感情の抑制ができなくなるとの症状が出ていることも分かったと言う。親と子供の触れ合いが薄れてきているとの指摘もある。親も子供もスマホに熱中して対話がない家庭で育った子供は、落ち着きがなく、周囲とのコミュニケーションも取れなくなるとの指摘もある。両親ともに三つのH“褒める、励ます、(視野を)広げる”ことの重要性を説く。デジタル先進国の北欧では、紙の教科書の使用や紙のノートへの記入など、アナログ教育に戻り始めていると言う。(記事の一部はhttps://www.chichi.co.jp/info/chichi/pickup_article/2025/202506_uchida_kawashima/

をご覧ください)

今の若者が将来の日本を担うことを考えると、今一度国としても考える時期に来ていると強く思う。

「掃除の神様」鍵山氏のすごさ!

「トイレ掃除で業績を上げる」とトイレ掃除を世界的な社会運動にまで高めたイエローハット創業者の鍵山秀三郎氏が今年1月2日91歳で亡くなられた。人間学を学ぶ月刊誌「致知5月号」に鍵山さんのご子息鍵山幸一郎氏と、鍵山氏と親交の深かった東海神栄電子工業会長の田中義人氏、松下政経塾の塾長もやられた上申晃氏の対談記事があり、あらためて鍵山氏のすごさを認識できた。

上申氏の話として、松下幸之助は松下政経塾の塾生に「立派な指導者になるための第1歩は、身の回りの掃除をしっかりやることや」と諭したが、塾生は納得するどころか、反発し、やればやるほど塾生との関係が悪くなったと言う。そんな時に鍵山さんを紹介され、話を聞きに行ったそうだ。鍵山さんの苦労話を聞き、松下幸之助が言いたかったのは、「知識や技術は道具にしか過ぎず、それを使う人が立派な人間にならない限りどんなに優れた知識、技術を身に着けても本当の意味で生きてこないと言うこと」と気づくことになったと言う。鍵山さんが始めたカー用品業界は、社員も荒んでおり、いくら注意しても言うことを聞かない。その時職場環境をきれいにすれば社員も落ち着くのではと掃除を始めたそうだ。鍵山氏自ら早朝に出社し、一人で黙々と10年黙ってやり続けた結果、手伝う社員も増え、20年経って全社的な活動になると共に業績も上昇したそうだ。

田中氏も、バブル崩壊の頃、このまま経済一辺倒の生き方を続けていてはダメだとの危機感から、素晴らしい生き方をされている方の話を聞く場「20世紀クラブ」を地元恵那で立ち上げ、その場に鍵山氏をお呼びし話を聞かれたそうだ。その時「私は30年間トイレ掃除を続けてきました。そのお陰で人生も会社も大きく変わりました」と当時年商500億円を超える大社長の話に共感を覚え、近くの神社のトイレ掃除をはじめたところ、その神社が地元の人による社殿立て直しにつながり、参拝者の増加にもつながったそうだ。会社でも取り入れたところ、業績も黒字転換したそうだ。この縁で、「日本を楽しくする会」を立ち上げた所、掃除の運動が全国に広がり、さらにブラジル、台湾、中国、ルーマニア、イタリア、ハンガリーと世界へも展開されたという。田中氏曰く鍵山氏は「とにかく人が喜ぶこと、相手に負荷をかけないことに人一倍気を遣われた凡事徹底の人」と言う。

ご子息が言うには、「タクシーに乗ればチップを必ず渡す、チップを渡せば運転手は喜んでお客さんを大切にし、安全運転をしてくれる」、また生涯8万5千枚のはがきを出会った人に出されていたとか、10万枚を目標にされていたそうだが、脳梗塞で達成できなかったことを後悔されていたそうだ。

鍵山氏の薫陶を受けられた上申氏は、塾生やご縁をもった方に感動をお裾分けをするために「デイリーメッセージ」の発信をほぼ32年間1日も欠かさず続けられている。ご子息もイエローハット社長退任後、父の教えを広めるために、山口県で「朴(ほう)の森 鍵山記念館」を運営され、勉強に来る方と共にトイレ掃除もやっておられるとの事。今幼稚園を創る準備もされており、活動を通じて誰にでもできる良いことを躊躇なくできる人を増やしたいと意気込んでおられる。上申氏によると、松下政経塾卒の国会議員が党派を超えて「国会掃除の会」を立ち上げ国会のトイレ掃除をやっているとの事。各人の「凡事徹底」が日本を創る、このことが、生前鍵山氏の薫陶を受けた多くの方々により、ますます広がっていくことを期待したい。最後に鍵山氏が初めて会った田中氏にコースターの裏に書かれた言葉を紹介する。

「人間としてもっとも意義のあることは、人の人生を善(よ)くしてあげること」。

世界で盛り上がるデジタルノマドとは?

3月10日朝日新聞夕刊の記事(3面)に目が留まった。「盛り上がる誘客 旅する”デジタルノマド“の思いは~地方の魅力探訪」とのタイトルだ。リード文;

世界中を旅しながら各地のコワーキングスペースやITを活用してリモートワークで生計を立てる「デジタルノマド」と呼ばれる人たち。一般的な訪日旅行者に比べて長期滞在可能で、地域への経済効果も見込めるとして、日本を含めて各国でビザ制度を整備するなどして誘致に乗り出しています。

高度IT人材やコンサルタントなど、デジタル技術を駆使してリモートワークをしながら国境にとらわれずにまるで遊牧民(ノマド)のように世界を旅する人たち。今世界に3500万人以上いて、その市場規模は推計約122兆円に上る。日本政府も2024年、「新しい資本主義」実行計画改定版にデジタルノマドを念頭にした在留資格も創設したそうだ。在留資格は、申請者個人の年収1000万円以上、医療保険加入済等、結構厳しい条件を課されているが、家族帯同はOKのような特典もある。ただし、国内公私企業・個人との雇用関係は不可、海外企業や団体との雇用関係は必須との条件もある。この制約は、日本で海外の仕事をするためのノマドということのようだ。滞在は最長6か月、延長不可となっており、これに対してはさまざま意見も出ているとのことだ。

日本でも、昨年から福岡や下田でノマド誘致の活動が始まっているとの具体的な紹介記事も掲載されている。下田で参加した韓国のデジタルノマドのコミュニティービルダーのチョンさんの話として、日本のノマド誘致の課題として、十分な長期滞在施設があること、仲間・友達造りの容易性、地域住民との親和性、そしてノマド自身が成長できる哲学的、文化的、地域ならではの学びの機会造りをあげている。

海外のITプロを誘致して、地方創世への寄与、地方の空き家活用、地方の若手への刺激・視野の拡大、あるいは日本企業のテレワーク者との交流も考えられ、非常に面白い趣向と思える。ポルトガル、タイ、スペインなどが人気トップ3となっているが、日本でも制度の拡充含めて、早急に検討、推進すべき課題と思う。

冲中一郎