前向き3K(感動、感謝、感激)職場への改革

JUAS(日本情報システムユーザー協会)主催のセミナーが2月3日にあった。このタイトルのセミナーは昨年11月に引き続き2回目だ。IT業界は3K(きつい、きたない、苦しい)職場と云われ続け、学生の情報工学系志望者も激減している憂慮すべき事態が続いている。そんな中、危機感を持って、人材育成や社員のモチベーションUPや職場改善に努め、前向きな3K(感動、感謝、感激)の職場へ改革している企業も数多くある。その企業事例を紹介し、さらに多くの企業での取り組みを加速させることを狙ったセミナーである。

第1回はDICインフォメーションサービス、住友電工情報システム、東京海上日動システムズの事例紹介があった(私は参加できなかった)。第2回目の今回は、ベネッセグループのシンフォーム、ワークスアプリケーションズ、コベルコシステムの3社からの事例紹介があった。

どの会社も、事例を発表される方(リーダー)の熱い思い、信念と行動力が伝わり、このような職場改革は、経営者とタッグを組む強いリーダーがいたから改革が出来たのだとの感を強くした。シンフォームさんでは、社長の思いを受けて、トヨタ自動織機から転職された取締役が強いリーダーシップを発揮し、属人的になりがちな仕事の見える化を徹底的に図ってチームでの仕事に改革、各人のスキルを見える化した。さらにはコミュニケーションの活性化、創造性の発揮を目指したいろんなスペースを設けるなどの職場環境の改善を実施してきた(コクヨの支援を得ながら)。

ワークスさんは、急激に規模を増やしている(連結で2500名弱)中で、「働きがいのある会社(Great Place to Workが主催)」5年連続受賞、しかもここ3年は1位か2位と言う企業である。ワークスの最大の特徴は「採用」にある。経験・知識以上に、自分で考え、自分で解決出来る人を重視しているが、これは筆記試験や短時間の面接では不可能と判断。「問題解決能力発掘インターンシップ」を宝が眠っている第2新卒対象に6カ月単位で実施。課題を付与し、最終ゴール到達者を採用(第2新卒市場に各企業が注目し始めたので、2003年から新卒採用開始。その際は1カ月インターンシップとした)。ブランド力がないときだったので、目玉として採用内定者には「入社パス」(3~5年他社に勤めても採用を確約)を発行する制度を実施したところ、現在300人採用に対し、3000名が応募してくるとか。失敗を許容、成果よりもプロセスを重視する風土を徹底、退職しても3年以内なら復職可能な「カムバックパス」の交付(講演者もこの権利を活用した方)など、いろんな取り組みをされている。

コベルコシステムさんは、IBM出身の社長のもとで、経営・人財企画部のベテラン女性グループ長(講演者)がきめ細かい活動を推進。各分野でのプロフェッショナル認定制度、スキルの共有化、新人アドバイザー制度など社内報を最大限活用して人を紹介しつつ、動機付けを行っている。CS経営、人財経営に関して、そのスローガンを毎年社員応募で決定、「ありがとう数珠つなぎ」も2010.2以降32名の「ありがとう」を社内報に紹介している。(ちなみに2012CSスローガンは「感じよう!お客さまの声 超えよう!お客さまの期待」、人財は「技術・人間力・情熱あふれる人財で埋め尽くす」)

「働きやすい会社」ではなく、「働きがいのある会社」は、「企業の最大の資産は社員」との強い認識に基づき、日々社員の成長を期する施策を打っている。そして強力なリーダーがいる。このような事例を参考に魅力あるIT業界を目指して欲しい。

デンマークはなぜ福祉国家?

「政治不信2.0」(http://jasipa.jp/blog-entry/7233)でデンマークについて少し触れた。中・高校生が積極的に政治に関心を示し、国会議員選挙の投票率が1953年憲法制定以来80%を切ったことがないということに、日本の現状を考えると驚かざるを得ない。「なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか、どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか(ケンジ・ステファン・スズキ著、合同出版)」という長いタイトルの本の要約が「TOPPOINT(一読の価値ある新刊書紹介)」に掲載されている。著者は、青山学院大学中退後の1967年にデンマークに渡り、日本大使館に勤務、その後農場経営などをし、デンマーク国籍も習得された方である。

デンマークでは、出産費用に始まって葬儀代まで国家が負担する、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉政策がとられている。教育も、「教育とは国家を支える人材を育成する国家的事業「と考え、原則無料である。教育の成果は個人に恩恵をもたらすばかりではなく、社会を豊かにすると考えられているからだ。

デンマークでは80%以上が自分の国を愛していると答える。単に答えるだけではなく、自ら行動している。自国を愛するがゆえに高額な納税をし、徴兵制度を導入し、中・高校生から政党活動・政治活動に参加している。さらには食料の自給率、エネルギーの自給率向上も政府の支援ではなく自らの活動で高めている。今話題のエネルギーも2005年には欧州諸国では最高位の156%になり輸出もしている。1973年のオイルショック時までは外国の石油に100%依存していたのを市民が先駆けて風力発電を導入し、2000年ごろには風力発電を一大産業に育て上げた。現在電力の20%が風力発電で賄われ、その8割が個人か市民の共同所有という。日本では「国を愛している」と言っても「国を愛するがゆえに行動する」とまでは行かないところにデンマークと大きな隔たりがある。

もともと半島や島で構成されている国のせいもあり、中央集権国家体制が発展しなかったこともあるが、産業界と政治・行政との関係は薄く、談合や汚職も少なく、税金の使途も明確なことから、高額の納税でありながら、国と国民の信頼関係の構築につながっていると言える。

日本の現状を改革するためには、著者は国民全体の国政への関心を高めることから始めよという。そのためには、小学校から日本史や世界史の普遍的な歴史教育の強化を図り、特に中学・高校では近代史の歴史教育に力を入れる。そして政治家の政治運動は高校や大学でも行い、政党代表による政策討論会を行う。討論のテーマは国の現状を踏まえた改善策に重点を置く。他にも、地方分権の強化、公務員制度の改革、エネルギー事業の公共事業化などを提案している。これらを総合して、「あるべき国家の理念」を創るべし、国家を自分の利益のために利用して憚らない政治家、税金の無駄使いを何とも思わない官僚を許容している社会状況を変えるべしと主張する。

昨日、野田総理が慶應義塾大学で講演したというニュースが流れ、「社会保障と税の一体改革」に関して、学生からも質問を受けたと言う。学生から「我々も真剣に考えねばならないことを痛感した」との意見もでていたが、いいことだ。「政治不信」真っ只中の現状を放置せず、孫の時代につけを絶対廻さないことを念頭に、何をせねばならないか考え、行動せねば、日本は世界から取り残されることになる。

ソーシャルネットワークは世界を変える!?

先週27日日経ホールにて「NIKKEI安全づくりプロジェクト」シンポジウムがあった。基調講演として、早稲田大学大学院非常勤講師、一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事の津田大介氏が「ソーシャルネットワークはあなたの安全・安心をどう変えていくか」をテーマに語られた。私は津田氏をはじめて知ったが、SNS界では著名人で、皆さんもよく御存じの方だと思う。

著書に「Twitter社会論」や「情報の呼吸法」(共に朝日出版社)があり、今回の講演で興味がわいたため、帰りに後者の本を買って読んだ。東日本大震災では、24時間「情報ハブ」の必要性を感じ、いろんな情報を必要な人に即時性を持って届ける役割をボランティアで果たされたそうだ。この時痛感したのは、現在のマスメディアが如何に役立たないかという事。「○○では、水がなくて困っている」「水を届けた、次は△△がない」や「放射能レベルのデータが欲しい」など常に変化する必要情報を如何にタイミング良く必要な人に届けるかが、非常時には必須になる。非常時に得たい情報を呼び掛けると、即座に多くの情報が寄せられ、今回の地震でもソーシャルメディアで助けられた人が多くいると言う。東京直下型地震が4~5年以内に来るとの観測が広まっているが、このような手段になじんでおくことが必須かも知れない。

津田氏は、人が何か行動したいとき、後ろを押してくれるのがソーシャルメディアと言う。Twitter以前を「出る杭」に例え、ソーシャルメディアを「納豆」に例えた。すなわち、以前はやる気があって主体的に行動できる人達しか行動に移せなかったが、今は、誰か飛び出す人がいると、追いかける人たちが出てきて大きなムーブメントに成長すると言うのだ。従来つながらなかった人たちが自然につながり、ムーブメントが起きる。モルドバ、中国、タイ、チュニジアなどの革命をソーシャルメディア革命と呼んでいるが、彼は革命を起こしたのがソーシャルメディアではなく、人を動かし動員したのがソーシャルメディアと言う。津田氏は、自著『Twitter社会論』が出たときのことを話した記事がインターネットで紹介されている。発売前日に紀伊国屋のTwitterアカウントのツイートで入荷を知り、「買いに行く」とツイートしたところ、ブックファーストのTwitterアカウントも入荷したと反応。さらに、まわりのみんなが反応して買った。さらに、みんなで感想文をTwitterに書いてRTも飛び交い、今でいうソーシャル読書会状態となったという。

斉藤徹氏著作の「ソーシャルシフト」(日本経済新聞社)が出版されている。ソーシャルメディアが誘起するマーケティング、リーダーシップ、組織構造までおよぶパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」と呼んでいる。「マーケティング」は説得ではなく共感をめざし、「リーダーシップ」はオープンリーダーシップ(メンバーから献身と責任感を引き出す能力を持つ新しいリーダーシップ)へ、「組織構造」は営業やサービス部門だけではなくすべての部門で顧客との接点を持つものへと変化し、企業も顧客から「信頼できる友人」になるべきと言う。

私もFACE BOOKに参加しているが、具体的なメッセージのやり取りにより、以前に比ししっかりとした交友関係が広がり、また使い方次第では、多くの人と即時につながる中で何かのお役に立てるチャンスが広がることを予感している。ソーシャルネットワークを注視し、その効用についてさらに勉強したい。

冲中一郎