北里柴三郎がテルモの創業者!コロナ対策に日本は世界を主導せよ!

「細菌学の父」と言われ、ノーベル賞の候補にもなった北里柴三郎(1853~1931)が、医療機器大手のテルモの起業家の一人だと知って驚いた。4月4日の日経8面「Deep Insight」「起業家北里柴三郎に学ぶ」のタイトルの記事(日経コメンテーター梶原誠氏)だ。北里はペストの流行で崖っぷちにあった香港に1894年に乗り込んで菌を発見、対処法を割りだした。14世紀に欧州で大流行し、世界人口の2割が死亡し、それ以降も致死率30%~60%の年率で流行を繰り返していたが、北里の発見が功を奏し、今では(今もペスト流行はつづいているそうだ)世界では8%程度に抑え込まれていると言う。この経験から北里は、「社会に役立ってこそ研究の意味はある」と確信し、その理念実現のために創業を手伝ったのがテルモだそうだ。
同じ時期に三共を創設した高峰譲吉(1854-1922)がいた。高峰は米国在住中に当時日本人への反発が強い米国要人との関係つくりに奔走し、「無冠の大使」とも言われた。さらにこの時代に、北里と高峰の活動を支えた実業家で{資本主義の父」と言われた、渋沢栄一(1840-1931)がいた。妻をコレラで亡くした渋沢は、結核を予防する北里の事業のトップに就いて資金を集めた。高峰にも呼応し、日米企業が合弁や人材交流で共に成長することを米国に提案、緊張の緩和を目指した。

今、コロナ危機で「健康の危機」「グローバル化後退の危機」「資本主義の危機」に遭遇している。梶原氏は、今3人がいれば、今の状況をどう立て直すだろうかと問いかける。北里が感染の現場に飛び、ウィルスへの対処法を見つけて事業化の道を探るのは想像に難くない。高峰も治療薬の開発を急ぐだろう。そのためにも、世界の感染症の専門家が反グローバル化の壁を乗り越えて情報を共有できる仕組みを作ろうと奔走するに違いない。そして「会社は社会の公器」との持論を持つ渋沢は、資本を集めて企業に流す「キャピタリスト」として、二人やそれに続く社会的な企業を支えるだろう。医療や医薬のビジネスには莫大な投資が欠かせない。ましてや数年に一度の未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい。こんな状況下でも渋沢は資金集めに奔走するだろうと言う。

4月12日の日経朝刊2面「コロナ危機―私の提言」にビル・ゲイツ氏が「G20首脳世界的視野をーワクチン投資惜しむな」との提言をしている。多くの低・中所得国をいま支援しなければ、感染者数と死亡者数が現在の水準を超える可能性は高い。このままでは数百万人が命を落とす危険性がある。先進諸国が今後数ヵ月で抑え込みに成功しても、このパンデミックがどこかで猛威を振るう限り、新型コロナが再び襲ってくることはある。この点こそ、この感染症との闘いにグローバルに取り組むべき理由であると指摘する。ビル・ゲイツ氏は3年前から多くの政府と共に感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)を立ち上げ既に少なくとも8種類の新型コロナ用のワクチン開発に取り組み、研究者らは18か月以内に少なくとも1種類は用意できると確信していると言う。CFPIには少なくとも20億ドルの資金が必要で、G20首脳に直ちに意義ある拠出を要求する。

1年延期された東京オリンピック・パラリンピックを実現するには、日本だけが克服できても成立しない。全世界が克服できて初めて実現できる。「新型コロナに打ち勝った証として開催」と唱えるだけではなく、この際日本がリーダーシップを発揮して、北里、高峰、渋沢の役割を果たす人材ネットワークを世界的に作り出し、ワクチンの一刻も早い開発を実現させなければならない。紛争が続くイスラエルとパレスチナでは、コロナ対策においては、医師の相互派遣などで協調しているとの情報も12日の日経には掲載されている。コロナ禍での米国と中国との争い、トランプ大統領のWHOに対する攻撃など、黙ってみていると、ますます来年のオリンピック・パラリンピックの開催が遠のくのではと危惧する。世界の北里、高峰、渋沢を見つけ、オリンピック・パラリンピックを安心して開催できるよう、今が日本の出番ではなかろうか。ビル・ゲイツも大きな力になってくれるだろう。

コロナ緊急事態宣言発出(4月7日)-若者への訴え方

2月末にイベントの休止や、小・中・高校の全国一斉休校要請が突然出され、国全体に緊張感が高まった。そして3月の3連休前に、春休み明けの学校再開が報じられ、3連休は外出規制の動きが緩み、その結果現在の感染者急増につながったと言われている。
如何に政府や自治体の自粛要請を実効あるものにするか、そのための方策とは?

遅ればせながら政府が今日「異常事態宣言」を発出することになった。経済への影響を考えて政府は躊躇していたが、一部の都府県の感染者急増に伴う世間からの要求に抗せず、発出に至ったとも言われる。これで国民の外出規制などの意識改革がなされ、オーバーシュートを回避できることを期待したい。

昨夜、東京都の小池知事が国の「異常事態宣言」発出を前に都としての取組を記者会見で発表した。その中に下記のような発言があった。
今回の法律に基づく徹底した外出の自粛の要請でありますけれども、皆様ご自身を守るためです。そして家族を守るため、大切な人を守るため、そして私たちが生活するこの社会を守るためです。

昨日(4月6日)の日経朝刊の連載記事「核心」に掲載の「社会の免疫力を高めよう~“利他性”が行動変化促す」の記事に注目した。今回のコロナウィルスの目に見えない脅威に対する対処策として、耐性の強い社会を作るための市民一人ひとりの行動変容に関して興味ある提言をしている。
事例として、広島県での水害を取り上げている。2014年夏の豪雨で土砂災害が起こり77人を亡くした。その教訓を受けて県民ぐるみの防災運動を展開、非常品の持ち出し品の準備や避難場所を事前に確認した県民の割合は大幅に増えた。ところが4年後の2018年の夏の豪雨で149人が犠牲に。知識や備えはあっても、いざと言う時に行動に踏み出せる人は少数で、避難観光や指示が出た地域で避難所に逃げた人は0.74%にとどまった。「自分は関係ない」「今すぐ避難しなくても大丈夫」というバイアスが妨げになって、危険な場所に多くの人が居続けたのだ。このように自分に都合の悪い情報を過少に評価するバイアスを社会心理学では「正常性バイアス」と呼ぶそうだ。
広島県では行動経済学専門の大阪大学の大竹教授の力を借り、行動変容を促すキーワードが「利他性」であることを突き止めた。県民に下記3つの呼びかけに対して避難するかどうかを問うた。

A. これまで豪雨で避難した人は周りの人が避難していたからという人がほとんどです。貴方の非難は周りの人の命を救います。
B. これまで豪雨で避難した人は周りの人が避難していたからという人がほとんどです。貴方が避難しないと人の命を危険にさらします。
C. 広島県では夏場に土佐崩れが発生しています。危険が迫ったときに正しく判断できる力をつけ、災害から命を守りましょう。

結果はA,Bの呼びかけで避難すると答えた人は40%近く。Cで避難すると答えた人は20%強だった。つまり、自分だけではなく他人のためにもなると言う「利他性」を軸にしたメッセージのほうがはるかに効き目があった。

小池知事の記者会見を挙げたのは、「家族や、周囲の人を助けるために外出を控えてほしい」とのメッセージの意味合いは大きいとの意思を込めてのことだ。前述の大竹教授はコロナに関する政府の専門家会議のメンバーでもある。感染しても症状が軽く済むことの多い若者に対して「あなたが“3密”の状態を避けることが周囲の人の命を助けます」、「あなたの軽率な行動が周りのひとの命を危険にさらします」のようなメッセージが必要かもしれないとする。

当ブログでも、(日本人の誇り「利他的遺伝子」)https://jasipa.jp/okinaka/archives/9339を紹介した。日本では海外のような都市封鎖(ロックダウン)は出来ないと言う。この際、「異常事態宣言」を契機に、日本人の特質“利他性”に訴え、感染者急増を抑制し早い時期に終息できるよう、皆さん、不要不急の外出抑制を心掛けましょう!周囲の人を救うため!

働き方改革で“働きがい改革”を!

今、コロナ禍が吹き荒れる中で、テレワークが拡大している。これを契機に、多様な働き方改革を推進することは、日本の経済にとっても意味あることと思える。しかし、慣れない環境の中、今まで以上の成果を出せるかどうか、克服すべき課題も多いと思われる。
4月2日の日経社説で「離れても信頼高める働き方に」のタイトルの記事が目に留まった。
一つは「コミュニケーションの問題」。以心伝心で空気を読む日本的な手法は通用しない。簡潔な言葉で明確に伝える技術をみんなが身につけなければならない。在宅で一人で働く孤独感も克服せねばならない。会社で働くとき以上にチームとしての一体感をもって効率的に働ける環境つくりが必要となる。
顔を合わせる時間が減り、働きぶりを見ての人事評価は無理となる、在宅で働く人達の役割分担を明確にし、目標をはっきり設定する。そのための組織のリーダーのマネージメント能力も問われる。実績を重視し、結果をきちっと評価することで、チームみんなの納得性が得られモチベーションの向上につながる。このような課題を克服するためにデジタル技術の出番も多くなると思われる。記事では「テレワークを続けると無駄な会議や作業があぶりだされてくる。新型コロナ禍を業務の効率化や働き方改革の好機としたい」と締める。

3月24日の日経朝刊では「次は働きがい改革」とのタイトルで紙面半分以上を使った記事があった。当ブログでも、日本のエンゲージメント度(仕事に対する熱意)の低さに関する問題を提起した記事を何度か紹介した(例えば、”心の資本”を増強せよ! HTTPS://JASIPA.JP/OKINAKA/ARCHIVES/9256)。日経記事のリード文は
働きがいを意味する「エンゲージメント」を重視する日本企業が増えている。組織の「健康診断」を実施して職場風土を改善し、生産性アップや離職防止につなげる狙いだ。単なる働き方改革だけでは高めにくい。経団連が旗を振り三井住友銀行が全行で意識調査を始める。働きがい改革は、日本企業が競争力を取り戻す妙薬になるか。
三井住友銀行は今春にも国内約2万8千人の従業員を対象に職場への満足度や人間関係を毎月実名で調査し、分析する。各拠点ごとに「アンパサダー」と名付けた旗振り役の管理職を配置するなど、組織風土改革にかける思いは切実だ。ツールとしてはこれまで試行段階から使っているアトラエの「WEBOX」を使う。日本ユニシスも2013年からグループ約8000人の意識調査を始め、結果をもとにコミュニケーション改善に取り組んでいる。「エンゲージメント」に火をつけたのは経団連中西会長。1月下旬のフォーラムで「エンゲージメントがもっとも重要なテーマ」と位置付けた。従業員やそのチームのエンゲージメントを測定する手法は様々だ。過去に紹介した「日立製作所のハピネス計測技術の活用」や、ユニボスが提供する職場の仲間が互いに評価して報酬ポイントを送りあうピアボーナスなどもあるが、今回の記事では前出の「webox」と組織・人事コンサルティングのリンクアンドモチベーションが手掛ける「モチベーションクラウド」を使う企業も多いと言う。3月時点で両サービスを導入した企業・団体は1900に迫り18年比で6割増えたそうだ。両社によると大企業からの関心が高まっていると言う。
2017年のギャラップ調査で「熱意溢れる社員」の割合が日本は6%で世界139か国中132位という「やる気のなさ」が経営層に火をつけた。今年2月の調査でも、世界60か国の大規模調査「働きがいのある会社ランキング」でも、7000を超える企業の調査結果の中で日本企業の問題が提起された。低下傾向が42.5%、改善傾向が15.9%と取り組みが効果を出していないともいえる。記事では、長時間労働の是正などを進めた一方で、効率を重視するあまり、職場のコミュニケーションが減ったことなどが背景ではないかと指摘している。エンゲージメントの向上は、日本企業にとっては大きな課題であり、2020年代は「働き方改革」より「働きがい改革」が企業の競争力を左右しそうだと記事を締めている。

コロナ禍で大変な時期ではあるが、働き方改革と同時に”働きがい改革“にもトライしてみては如何だろうか?

冲中一郎