選ばれる営業、捨てられる営業

各種業界のバイヤー(購買部門)の声を基に現代の営業マンに求められる「営業力」を解説した「選ばれる営業、捨てられる営業」(勝見明著・日本経済新聞社)の本が8月に出版されている(TOPPOINT10月号より)。この本で言う「バイヤー」は、我々の言う「お客様」、それも「受注判断の出来るお客様」ととらえることが出来る。

勝見氏は次の5つの能力が求められていると言う。

  • ①顧客シミュレーション力:激変する事業環境の中で、バイヤーは複雑で高度な課題に直面している。そんな中で、バイヤーの立場となって考える「顧客シミュレーション力」がまず求められる。バイヤーの立場の人に力を貸すことが出来れば、バイヤーはお客の中で地位を高めることが出来、業者とより親密な関係に発展できる可能性が拓ける。バイヤーは顧客選択の責任を負っており、例えば業者が納期遅れを起こした時、社内で先頭に立って弁明をしなければならない立場にある。営業マンに対して、バイヤーは自社での立場を考え、その思いを共有してほしいと言う。「マニュアル通りに商品をただ紹介する営業マンが多い中、バイヤーの思いを知ろうとして、ストーリー立てして説明しようとする営業マンには、いろいろな内部事情もついつい話してしまう。」と打ち明ける。つまりは、相手に対する「思いやり」と「気配り」があれば顧客シミュレーション力も高まり、顧客シミュレーション力の高い営業マンに対しては心を開き、貴重な本音ベースの情報を提供してくれる。
  • ②社内調整力:営業マンは売るだけが仕事ではなく、売ったものをお客様の期待に添うように実行に移すことが重要だ。その実行に対する自信は、実行のための最善の体制を作るための社内調整力がベースとなる。バイヤーは商品を決める際に、この力も見ていると言う。この力は、営業マンの自分が背負っている商品に対する強い思い入れでわかるそうだ。
  • ③共感力:お客様の「よりよくありたい」との課題を共有し、相手の課題を自分のものとして感じ取ることが出来るようになることが、誰にも負けない熱意を生み出し、顧客を感動させる原動力となる。注文を逸しても、商品の問題にせず、お客様のニーズをしっかり理解できなかったことを反省し、次に活かすことも重要。
  • ④基本力:約束した時間を守る、相手の興味を引くプレゼンをする、など基本中の基本を確実に実行できる力。
  • ⑤情報力:市場の情報を収集し、それに付加価値をつけて発信する力。「お客様の役に立ちたい」との思いを仕事の中心に据えることによって、視野が広がり、感度の高い情報力が身に着く。

我々IT業界にも通用する話、特にIT業界の構造的問題とも言われる「顧客従属型(顧客から言われるままに仕事をする)」から脱皮し、「顧客パートナー型(顧客と一体となって提案・実行できる)」となるための考え方として大いに参考になるもと思う。

儲かる会社のすごい仕掛け

小林製薬やサイバーエージェントのような儲かる会社には「社員が寝る間も惜しんでアイデアを考える仕組みがある」と言う。「NEWプロジェクトの作り方」(伊庭正康著、フォレスト出版)の要旨がTOPPOINT10月号に紹介されていた。

例えば小林製薬では年間40万件を超えるアイデアが社員から寄せられる。仮にその年のヒット製品が10個だとすると、99.9%は無駄なアイデアになる計算だ。99.9%のアイデアが捨て案になる現実の中で、社員たちが喜んでアイデアを出し続けているところがすごい。社員たちが喜んで知恵を出し合う、そんな「すごい仕掛け」があると言う。

最に紹介する仕掛けは、社内に「コミューン(共同体)」を作ること。人材スカウト業のレイスが行った仕掛けは、里親制度。入社3年目の社員を「里親」に認定し、その下に入社2年目の社員を「里兄、里姉」として置き、そして新人を「里子」としたバーチャルな家族をつくる。1:1のメンター制度ではなくコミューンにし、毎月1回は「里家家族会」を開く。費用は会社負担。「見守ってくれている感じがありがたい」と評判で、離職率が30%から2.7%に下がったそうだ。昔と違って、上司がしばしば変わる中で、だれが自分を見てくれているのか、だれに相談していいのか分からないような状況下に置かれることで元気を無くする社員も多いのではなかろうか。

儲かる会社は、新規顧客を増やし、既存客のリピート率を高めながらも安売りはしない、そんな「三律背反」するシナリオを実現させている。ある結婚式場では「お客様の希望をかなえたい」という気持ちを社員全員が持ち、「入院中のお母さんに病院で晴れ姿を見せるために病院で結婚式を挙げる」という判断は社員が行っても構わない制度にして、10年弱で挙式数を倍以上に増やした。リッツカールトンやサウスウェスト航空も同じく事前承認は必要ない。お客様が最も感動するサービスは、社員の自律的な行動から生まれる。お客様の感動が「三律背反」のシナリオを実現させる原動力となる。

他にも「危機感」は事実を見せて伝えよ、プロジェクトには本気のメンバーを選択せよ、コンテスト方式で全員を巻き込め、など成功企業の実例を紹介している。

企業理念や、経営方針が社員に行きわたると、儲かる仕掛け(顧客に喜んで貰える仕掛け?)はいろんなバリエーションを持って展開でき、成長スパイラルを現実のものと出来る。

京大野球「あるもの」磨き進化?

今朝の日経スポーツ欄の「選球眼」というコラムにスポーツライターの浜田昭八氏が珍しく京都大学の野球部のことを書いている。出だしが「今、京大の野球が面白い」。しかし、今年の春季リーグで連敗記録をどこまで伸ばすかと言われた弱体野球部が日経に取り上げられているので驚いた次第。早速インターネットで調べると、この5月に関西大学に1:0で完封勝利し、連敗記録が60でストップしたとの記事があった。22期連続最下位との記事もある。しかし、浜田氏のコラムでは、今年は負けても僅差の敗戦で、昔の敗戦とは違い期待できると言う。確かに9月から始まった秋季リーグでは、再度関学に4:1で勝ち、立命には2試合0:1の僅差で負け、同大とは1:1の引き分け。確かに昔の京大とは違う!

浜田氏の目で見ても、ピッチャー田中(兵庫・白陵)や捕手内外野の守備は安定し、牽制も絶品という。なぜこうも変わったのか?3年前から、元阪神の仲田幸司投手を育て、沖縄興南高校を甲子園の常連校に育て上げた比屋根吉信氏が監督に就任しているそうだ。2010年春夏連覇をした興南高校の我喜屋監督を当ブログで紹介した(http://jasipa.jp/blog-entry/6187) が、比屋根氏は1976~1986年、沖縄県の高校として初めて興南高校を準決勝に進めた監督として評判をとった。

何をやったか?高校球児を積極的にスカウトできる5私大に対して、京大の部員は少ないが「ないものねだりはしない。“あるもの探し”です」と、少ない部員の中で見つけた原石を磨く。そして「年功序列では勝てない」と1-2年生を積極的に抜擢した。改革には痛みが伴う。上級生になると出場の機会が巡ってくる空気が一変し、当然のように競争が激化し、退部を考える4年生も出たそうだ。しかしここからが比屋根氏の素晴らしいところ。2日間、延べ10時間に及ぶ4年生同士の話し合いで思い止まらせた。秋季リーグ前に就任した主将は「下級生がのびのびプレーできるのは、4年生のおかげ」というまでにチームの雰囲気は変わったそうだ。「善戦を褒められるぐらいで、京大勢はもう満足しない」でコラムを締めている。

成果はこれからだが、アメリカンフットボールの水野監督といい(http://jasipa.jp/blog-entry/7277) 指導者によってこれほどまでに違ってくるのに驚く。私が在学中、高校の同窓生が野球部の捕手をやっていたが、東大との定期戦でも、コテンパンにやられる姿しかみられなかった(東京6大学で最下位が定位置の東大でも強い!)。企業も、指導者次第で大きく成果が左右されるのは同じだと思われる。人が唯一の価値源泉のIT業界も、技術だけではなく、社員のマインドを如何に持たせるかが、会社の帰趨を握ると言えるのではなかろうか?まさに白鵬の言う「心8割、技・体2割」(http://jasipa.jp/blog-entry/7998)に通じる話だ。

冲中一郎