二宮尊徳(金次郎)に学ぶ

我々の時代、どこの小学校にも二宮尊徳の銅像があった。勤勉、勤労、倹約の人として、家では本を読むことも許されない尊徳が、薪を背負って歩きながら本を読んでいる像である。「歩きながら本を読むことは危険だ」とか、子供の教育に害があるとの事で壊され、現在の小学校で見かけることは少ないと言う(戦時中の「金属など召集令」により銅像も壊され石像に変わったと言う話もあるが)。

兵庫県の報徳学園の校名は、金次郎の説いた「報徳」が由来だそうです。明治の事業家・大江市松が金次郎に感銘を受けて創立した学校です。今でも、「二宮金次郎の人生」(三戸岡道夫著)を全校生に配り、生徒の感想文を冊子にしている。高校野球での活躍でも有名だが、この学校は野球特待生制度はなく普通に入学してきた生徒を鍛えて強いチームつくりをしている。そのチームつくりも金次郎の精神が生かされている。例えば「積少為大(せきしょういだい)」、小さな練習も疎かにせず、毎日毎日積み重ねていくことが強くなる秘訣であると言う。

二宮尊徳の思想は、日本だけはなく世界に広がりつつあるそうだ。中国でも北京大学の提唱によって、日中で「国際二宮尊徳思想学会」と言うのが立ち上がっている。また、バングラディシュでグラミン銀行を創設し、貧困層への小口融資(マイクロファイナンス)を実行したムハマド・ユネス氏(ノーベル平和賞受賞)。その精神は、二宮尊徳の「五常講」と同じだ。

かけがえのない美しい日本語を環境を守る世界共通語「MOTTAINAI」として広めることを提唱した「マータイさん」も、「報徳」「積小為大」の「報徳仕法」の実践者だ(http://jasipa.jp/blog-entry/6826)。

幼少期に両親を失い、叔父に世話になったが、百姓に学問は不要と本を読むことさえ許されず、隠れて勉強を続けた苦労の人だ。しかし、世の中や、両親を恨む心はひとかけらもなく、両親への感謝の気持ち胸に懸命に働き家の復興を果たした。その後、小田原藩の再建や、栃木県の小田原藩桜町領の復興事業に携わった。が復興事業は、武士の反発(百姓に何が出来る?)や、農民の人心荒廃もあり、簡単な事業ではなかった。しかし、頼まれたことは自腹を切ってでも達成するとの強い意志で、すべての事にあたった。桜町の復興事業で挫折しかかった時、成田不動での21日間の断食修業をし、ある悟りを得た。自分のやり方こそ善であり、これを通しぬこうとした「我」が、挫折の原因との悟りだ。いかなる反対者に対しても怒らず、憎まず、恨まず、許し包容し、一切を自己の責任とする高い悟りの境地だ。そして「一円融合」「心田を耕す」などの言葉と合わせて次のような句を残している。

見渡せば敵も味方もなかりけり、おのれおのれが心にぞある
打つ心あれば打たるる世の中よ、打たぬ心の打たるるはなし
己は身をうちすててみよ、そのあとは一つのほかにあるものはなし

生涯に600もの農村を復興した農村指導者であると同時に、経世家、政治家、財政課、経営者、事業家、土木技術者だった二宮尊徳。「二宮尊徳こそ世界の人が知っていい人・知らねばならぬ人」「至誠と実行の人・二宮尊徳の生涯と思想に学ぶ」をテーマに毎年10か国が集まって大会を開いているそうだ。(致知2010.12先哲の遺訓「いま、二宮尊徳から何を学ぶか」、致知2012.10号二宮金次郎に学ぶ生き方「心田を耕すことからすべては始まる」とインターネット記事より)

製造業を変える!個人のものづくり

12月9日(日)の日経朝刊23面に「ロングテール」や「フリー」などネット時代の経営トレンドを的確に指摘してきたクリス・アンダーソン著作の「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」の本の紹介が掲載されている(関美和訳、NHK出版)。最近発売の日経ビジネス編集の「徹底予測2013」の中でもアンダーソン氏が紹介されている。

「誰でもが設計者となり、自分の机の上でものづくりをしたり、製造専門会社に委託してメーカーになったりできる時代が到来することを説いている。背景にあるのは、デジタル技術による設計と製造の分離、そしてデジタル工作機械によるデスクトップ製造の実現や、受託生産大成の可能性拡大である。」とある。

これは、3次元データを使い、プラスチックの樹脂を何層にも重ねて立体構造物に再現する3Dプリンター技術を言っていると思われる。日経電子版11月7日に「3Dプリンター進化 どこでも工場になる予感(藤元健太郎D4DR社長)」(http://www.nikkei.com/article/DGXNASGF02008_S2A101C1H49A00/)との記事もある。この記事の主張は(1) 3Dプリンターの進化はものづくりを一変させる。(2) 誰もがデザイナーになれる時代も夢物語ではなくなる。(3) 生産・販売コストの節約に縛られないビジネスモデルの構築も可能。というものである。3Dプリンターは以前は数百万円していたが、最近では性能の良いものでも10万円台で購入できると言う。これが本格利用されるとプラモデル業界のビジネスモデルは大きく変わるだろうことが、直ぐ予測できる(図面をすべてデジタルデータ化して販売)。キャメルなどのおまけや指輪、ペンダントなどにも応用できる。

「MAKERS」では、「個人がベンチャー的にモノづくりに入れる余地が大きくなっており、デザインデータを広く公開しながら、ネットワーク的に育てて製品化していくような手法も広がる。それを支える支援サービス(個人向けEMS?)などが拡大して製造業の在り方が根本から変わる」としている。日経記事の評者国領二郎氏(慶應義塾大学教授)は、慶大湘南藤沢キャンパスでは、このトレンドに気付き、数年前から教育研究にデジタルモノづくりを取り入れていると言う。課題も多いが、この大きな流れは無視できない。国領氏は「日本の製造業パラダイムを否定する面があって、受け入れにくいかも知れないが、トレンドの一端は既に日本に到達している。電子機器受託製造サービス(EMS)が登場した時には、設計と製造の一貫性を重視する日本の電子工業は疑いの目を向けていた。ところが米国アップルなどの設計を重視し、製造は外部委託する企業に押される一方である。」と警告を発している。

IT業界としても、要ウォッチである。

「不易流行」を考えてみよう

「致知2013.1号」のテーマは“不易流行”だ。総リード文からその意味を考えてみる。

「不易」とは時代がいくら変わっても不変なもの、「流行」とは時と共に移り変わっていくもの。ちなみに日本には200年以上続く会社が3000社あるそうだ。韓国はゼロ、中国は9社と言う。当号にも室町時代、京都の地で発祥し、5百年近い歴史を刻んできた「裏千家」前家元と「虎屋」社長の対談記事がある。リード文では、「何百年も続く老舗には共通のものがあるように思える。一つは「創業の理念」を大事にしていること。その時代その時代のトップが常に理念に命を吹き込み、その理念を核に時代の変化を先取りしている。二つは情熱である。永続企業は社長から社員の末端までが目標に向け、情熱を共有している。三つは謙虚。慢心、傲慢こそ企業発展の妨げになることを熟知し、きつく戒めている。四つは誠実。誠のない企業が発展したためしはない。いずれも不易の基を成すものである。その不易を順守していくところに生命の維持発展がある。」

さらに、「ローマは質実剛健の風や信仰心、勇気、礼節、婦徳といったローマたらしめているものを守ろうとする意識が薄れて滅びたと言う。日本はどうか。日本を日本たらしめている不易を守ろうとしているだろうか」と問題提起をする。

日本を日本たらしめている「日本の誇り」「日本人の誇り」とは何か?東日本大震災で世界から評価された日本人の美質もさることながら、近現代史における日本人の活躍など、もっと教育に取り入れていくべきではないだろうか。当ブログでも、今後とも「日本人の誇り」と言える話題は積極的に掲載していきたいと思う。

企業においても、なんでも流行に飛びつくのではなく、「不易」と「流行」を切り分け、「不易」なもの(企業理念・文化・風土)を情熱を持って守り抜くことが、グローバル時代に生き続ける鍵になるものと思う。

冲中一郎