ツタンカーメン展に行って来ました

12月4日上野の森美術館で開催中のツタンカーメン展に家内と行ってきた。日本では47年前、かの有名なツタンカーメン王の「黄金のマスク」で日本を熱狂させて以来のことだ。日本の美術展史上、最多入場者数約295万人の記録はまだ破られていないとか。今回は大阪合わせて11月25日段階で173万人を達成し、史上2位の記録となったそうだ。なぜここまで、日本を熱狂させるのか?

会場に着く(11時頃)と、いきなり「30分待ち」との表示が目についた(「ホームページで混雑状況のお知らせをしています」との張り紙もあった)。4日は朝の内は雨模様で、平日でもあり、すんなり入れると思っていったら、2百人ほどの待ち行列だ。係員に尋ねたら、これから増えてくると思うので今が一番いいと言われ仕方なく並んだ。中に入って見て驚いた。ツタンカーメンの王墓から見つかった副葬品約50点など、日本未公開の展示品を含むエジプト考古学博物館(カイロ博物館)所蔵の122点が展示されている。黄金のカノポス(ツタンカーメンの内臓が保管されていた器)や、ツタンカーメンのミイラが身にまとっていた黄金の襟飾りや短剣など、ツタンカーメン王墓をはじめ王家の谷などから考古学調査によって発見された、美術的にも考古学的にも大変貴重な品々だそうだ。今回は「黄金のマスク」はなかったが、今から3400年前のものとは思えない鮮やかな色合いや、金箔細工など、日本で言うと縄文時代後期に当たる時期の、エジプト文明のすごさに驚かされた。会場内もすごい人だったが、すべての展示品を見ることが出来、1時間強で会場を出た。

上野の森は、丁度紅葉が見ごろの時であり、天気も良くなってきたこともあって、少し散歩をした。昼飯は寛永寺の鐘楼に隣接する明治8年創業、一時横山大観がオーナーの時もあったという「韻松亭(いんしょうてい)」に行った。丁度昼飯時とぶつかり、ここも待ち行列で20分程度待たされたが、老舗の雰囲気も味わえ、料理も堪能できた。

「韻松亭」の入り口にあったバラの花と、東京文化会館と競技場の間のイチョウ並木の紅葉の写真を掲載しておく。

主人は無理を言うものと知れ(豊臣秀吉)

以前当ブログでも紹介(http://jasipa.jp/blog-entry/7389#t)した元トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長吉越浩一郎氏が、また本を出版された。“必ず「頭角を現す社員」45のルール”(三笠書房)だ。「残業ゼロ」や、「がんばるタイム(毎日2時間は私語やオフィス内立ち歩き禁止)」、「毎日早朝会議(課題をもち寄り、即断即決)」などの施策を社内で徹底され、19年間増収増益を達成された実績が吉越氏の主張に大きな重みを付けている。社長退任後も、講演などで大活躍中だ(ご本人は講演依頼があまり来ないように1講演100万円強の値をつけたが効果なしとも云われていた)。

興味ある話として、例えば「毎日早朝会議」の徹底に関する苦労話があった。「早朝会議」の導入を決めたとする。しかし、定時の9時ではなく8時に出勤してくださいと言っても、社員が素直に従うわけがないと言う。課長以上で実施するにしても不満タラタラ。トリンプで早朝会議を軌道に乗せるのに丸1年かかったそうだ。大抵の場合そこに至る前にやめてしまう。トリンプの早朝会議を見習いたいと1000人以上に方が見学に来られたが、実際に導入された例はほんの数えるほど。やり遂げられなかった数々の会社は、おそらくどこかの段階で一息つき、羽根を休めていたところで抵抗勢力に押し切られたのだろうと言う。仕事も、もちろん会社風土の改革も、とどまることがなく、絶え間なく続くもので、一息つけるものではないと吉越氏は言う。トップの強い意志と信念に基づく継続的な行動が無ければ風土は変わらない。

「プロの誇り」より「プロの自覚」を持てとも言う。プロは結果を出すこと。結果がでなければ何もしなかったのと同じ。「自分はこんなに努力したが結果が出なかった」と努力を誇示する人もいるが、これは言い訳に過ぎない。

「がんばるタイム」など、仕事に集中できる環境つくりに精を出された吉越氏は、「問答無用で朝型人間になれ」と言う。そして「残業は、三流の社員がやること」とバッサリ斬り捨てる。

「いい上司の条件」として、‘部下に好かれようとしない’、‘部下に無理難題を押し付ける’、‘常に挑戦し、成功して結果を出す’を挙げる。上司は無化に無理を言う。部下を育てようとするからだ。部下は其の無理を何とかやり遂げて見せ、その先に成功がついてくるから、努力が報われ、上司を尊敬する。結果として「好かれる上司」になる。織田信長に無理難題を言い渡され、それに見事に応えてきた秀吉が、時を経て無理難題をいう立場になった時「主人は無理を言うものと知れ」といったそうだ。

上司と部下の関係において、規律のある、緊張感ある関係を作り上げ、「部下は上司の命令を完全にやりきる」ことで、自分も成長でき、上司との信頼関係も深まる。そして、このような関係の元、継続的な取り組みによって、組織風土改革も可能となるということだろう。

「人の心に棲んでみる」(本田宗一郎)

本田宗一郎氏のメッセージには、いつも感銘を受けている。「人間の達人 本田宗一郎」(伊丹敬之著、PHP研究所)の本の中に、宗一郎氏の言葉として「人の心に棲んでみる」というのがあり、深い言葉として印象に残った。

宗一郎は、他人の心理を読み分ける能力が優れていた。その心理を読むコツを「人の心に棲んでみる」と表現した。単に他人の心理を外部者として考えるのではなく、相手の心に棲む。すなわち、自分をその立場に置き、一瞬の話ではなくどっぷりとつかる。「人の心に棲むことによって、人もこう思うだろう、そうすればこういうものをつくれば喜んでくれるだろうし、売れるだろうと言うことが出てくる。それを作るために技術が要る。すべて人間が優先している」と。研究所の仕事は人間を研究することだとも言ったそうだ。

宗一郎の有名なモットーに「造って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」というのがある。「技術者がその独自のアイデアによって文化社会に貢献する製品を作り出すことは何物にも替えがたい喜びである。然もその製品が優れたもので社会に歓迎されるとき、技術者の喜びは絶対無上である」と言う。

マーケッティング、イノベーションと言っても、原点は人が、社会が、何を求めているかを如何に読むかである。顧客満足度を追求するにしても、顧客の期待度を知ることが原点であり、そのためには、宗一郎氏の言う「人の心に棲んでみる」との強い思いがなければ、人や社会の求めていることの真の把握は無理かも知れない。

宗一郎氏は、「ワイガヤ」に見るように、社員との対話を通じて、「人の心に棲む」訓練をされたのかも知れない。ともかく社員に対する思いは深く、社長退任時、1年半かかって全国700か所の事業所のほぼすべてを回り、「全員」にお礼を言われたそうだ。

背広を着たサラリーマン風の人が、電車の改札口の前で定期を捜して、後続の人の邪魔になっている姿を見ると寂しくなる。他人に対する日頃からの配慮がなくて、顧客満足度を論ずることは出来ない。難しいことだが、常に「人の心に棲んでみる」ことを意識しながら行動してみたい。

冲中一郎