耳触りな話を聞けるか?

日頃余りしない資料の片づけをしていたら、表題の新聞の切り抜きが目に留まった。裏の記事がロンドンオリンピックなので、昨年8月中ごろの日経の記事だと思う。元アサヒビールの社長だった樋口廣太郎氏に関するエピソードだ。「樋口廣太郎の『感謝』の仕事学」の本の中の話で、日経特別編集委員の森一夫氏が書いたコラムだ(樋口氏はその1か月後に86歳で亡くなられた)。

「悪い情報ほど積極的に集める。それに耳をふさぎ、目をそらしていたら、気付いた時には取り返しのつかない事態を招きかねません。」という。だが、誰しも偉い人の機嫌を損ねたくない。そこで耳障りな話を持ってきた部下には「大切なことを教えてくれてありがとう」と感謝しなさいと戒める。

他の経営者も似た話をよくするが、実際には苦言を嫌うお偉いさんが多いようだと森氏は語る。住友銀行の頭取、会長を歴任した磯田一郎氏に森氏が取材に行くと「最近、うちの評判はどうかね」と行内では入らない情報を探っていた。

その磯田会長に副頭取だった樋口氏は、商社のイトマンへの野放図な融資をいさめた。気に障ったのだろう。「邪魔立てするな」と一蹴された(自著「樋口廣太郎 我が経営と人生」より)。ある同行元幹部によると、部屋を出ようとする樋口さんにガラスの灰皿が投げつけられたそうだ。樋口氏がアサヒに転出したのはこれが原因だったらしいと森氏は言う。名経営者とたたえられた磯田氏だったが、絶大な権力に毒されたのだろう。このイトマン事件で失脚し晩節を汚した。

森氏は最後に言う。「一般的に狭量な人物は、耳の痛い話を聞きたがらない。結局は人間としての器の大きさに帰する問題である」と。

稲盛氏が、日々「動機善なりや」と自らに問いかけながら、いろんな施策をうったと聞く。人間とは弱いもので、権力の座に長くいるとついつい傲慢になりやすい。信頼できる「ナンバー2」を必要とする理由とも言える。

助けて!組織風土改革にすがるIT業界

こんなタイトルの記事が、今日のITpro 日経情報ストラテジーに掲載されていた(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20130124/451669/?mle)。戸川尚樹記者の記事だ。組織風土改革の第一人者として、「会社を変える日本式最強の法則」(ダイヤモンド社、2002)など多数の著作本があるスコラ・コンサルトの柴田昌治氏は、昨年2012年6月号の日経情報ストラテジーで「組織風土改革の第一人者 柴田昌治氏と考える、いい会社の条件」を特集したが、「6月号の特集掲載と前後するように、IT業界の方から、うちの会社の組織風土改革もお手伝いいただけないでしょうか、とお声がけいただく機会が増えました」(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20120824/418022/?ST=cio)と言う。今回の記事は、「組織風土改革が待ったなしのIT業界」との問題認識のもと、今年の5月号で「組織風土改革の処方箋」を特集するため、職場の実態を知るアンケート回答依頼である。

昨日、あるJASIPA会員企業様から声をかけて頂き、該社が初めて「パートナー会」を開催するにあたって講演をする機会を頂いた。「お客様の価値を感じて働く企業へ」と題して約1時間50名ほど集まられたパートナー(ITベンダー)の方々を前にして話をさせて頂いた。JISA(情報サービス産業協会)でも大議論になっているように、今、日本のIT業界はこれまでにない、脅威に直面している。マーケットは縮小し、お客さまからの真の信頼が得られていない中で、パイの奪い合いになっている。こんな環境の中で、何をしなければならないか?これからは「サービス競争(付加価値競争)」になる。そのためには、お客様の期待を常に把握し、その期待に応えることを第一義とした「全員経営」の必要性を訴えた。と共に、「社員の成長」こそが企業の成長の価値源泉との話もさせて頂いた。先般紹介した坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」のご講演でも「人を大切にする会社が成長する」(http://jasipa.jp/blog-entry/8437)と言われたが、まさに私の思いと一緒だった。自らの強みを把握し、社員と思いを同じくして、その強みを伸ばしていく、そのため原動力は社員の高い意欲だ。

昨年来、JASIPA会員企業からお声を頂き、お話をさせて頂いている。サービス競争が激化する中で「お客様の価値を感じて働く企業」に脱皮して頂くために、私も何らかのお手伝いが出来ればと思っている。該社の方がFBに挙げていただいた写真です。

「ポジティブ心理学」とは(日経)

今朝の日経朝刊19面「今を読み解く」に日本赤十字豊田看護大学島井哲志教授の記事がある。「「ポジティブ思考」とは」とのタイトルに惹かれて読んだ。冒頭「人間はネガティブな情報に興味をひかれやすく、私たちは、気の滅入るようなニュースに囲まれている。」から始まる記事だ。「いじめ問題」に見るように、学問的にもネガティブな側面を重視する道を心理学では辿ってきており、それはそれで、多くの人の役に立ってきた。しかし、好奇心や、友情などポジティブな心的機能は少数の人たちによって研究されてきただけであったが、もっと広く研究されるべきと主張する。

ポジティブ心理学の研究テーマのひとつは幸福感だ。毎日1回以上誰かに親切にすると、自分自身の幸福感を高めることが示されている。一般的に美徳と認められている、人間性、勇気、節度、正義、知恵、超越性に大別される24種類の特性の尺度開発も行われている。強みや、生きがいという自分の資質を活かす研究も進められ、人事面でポジティブ心理学を活かす試みもある。それぞれの研究成果を表わす本の紹介が記事の中でされている。

ベネフィット・ファインディング

日経ビジネスなどの記事や本の出版も多い河合薫氏が、昨年末の日経ビジネスオンライン(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20121221/241411/?P=1)に「「現状を打破したい!」東北の被災者たちにもらった一歩踏み出す勇気」との記事を投稿している。島井氏も「東日本大震災によっていまだに多くの人が困難の中にいる。その支援活動に携わった心理学者は、災害経験をストレスとみる立場に基づき、強いストレスによって心の傷が深く残ることを主張するものであった。ポジティブ心理学では、私たちが強いストレスを契機として成長する可能性を示してきた。忘れられない出来事によって、生き方が変わるポジティブな側面である。」と言われている。一方、河合氏は、現地の人たちとの交流の中で、子供も含めて、「変わろう、変えよう、変わらなきゃ」と一歩踏み出す人たちが増えてきたのを実感したと言う。他人のせいにしていても仕方がない。自分達で現状を打破し、新しい街を作ろう」との活動だ。この変化を河合氏は「ベネフィット・ファインディング」と言う言葉で表現している。この言葉は、数年前から医学の世界で注目されている概念で、慢性疾患や不治の病に侵され、「病とともに生きる」ことを強いられた人々の中に、絶望感が生じながらも生きる力を逆に強め、普通の状況の中にさえも価値を見いだす人がいる。そうした現象を受けて生まれた概念だそうだ。ポジティブ心理学の1テーマでもある。

「ベネフィット・ファイディング」のためには、困難と言う真っ暗な世界に閉じ込められた中で、小さな一条の光に気付かねばならない。そのためには、まず自分が置かれている状況を素直に理解することが重要だ。決して他責に世界に陥らずに、自分が遭遇している困難を否定しないで、自分のありのままを受け入れる。「人は現実を否認しがちで、それが疵を深くする」(デドロー、http://jasipa.jp/blog-entry/6337)のが人間の本質とのブログを紹介したが、危機にじかに向き合うことが解決への第1歩とのポジティブ心理学はプロジェクト管理、企業経営でも参考になる。

冲中一郎