中国暴動で破壊された平和堂

前稿(http://jasipa.jp/blog-entry/8529)に引き続いて、稲盛さんの教えが功を奏した事例を紹介する(PRESIDENT2013/3.18号より)。

昨年9月15日、中国湖南省に3つの百貨店を出店している「平和堂(本社滋賀県)」すべての店が暴徒によって略奪・破壊された(http://jasipa.jp/blog-entry/8076)。その被害額は35億円。その時、「危険すぎる」との周囲の反対を押し切って、収拾策を講じるために暴動8日後に夏原社長自ら現地に赴いた。30年前盛和塾が出来たときから稲盛氏の謦咳に接してきた夏原氏は、「こんなとき、稲盛氏ならどうするか」と考え、思わずその教えが口をついて出てきたと言う。

大きな危機や大きなトラブルが起きたときは、トップが先頭を切らないかん。トップが現場に急行して、問題解決に当たらないかんのや

建物が破壊されているので、建設担当の課長と二人だけで中国に赴いたが、空港では日本人と分かると別室で検査が行われたり、ホテルは中国人名で予約したり、緊張感一杯だった。当時は平和堂の社員も標的にされていたそうだ。「撤退」も頭をよぎったが、湖南省の幹部の「店舗と従業員は守る」との言葉を信用し、何とかこの苦境を乗り越えたいとの思いに変わった。そして幹部(30人、うち日本人は8人、他は現地採用の中国人)を集めての講話や、各店舗の従業員と対話を行ったが、中国出店の経緯、目的は、「利他の心」、「社員の幸せ」だとの話に、幹部、従業員が涙を流しながら再起を誓ってくれたと言う。

長沙市の栄誉市民賞を受賞した平和堂創始者の写真を見せながら「湖南省政府から、商品が豊富にあり、日本流の‘おもてなし’の心があり、楽しい買い物ができる、そんなお手本となる百貨店を作ってほしいとの湖南省の要請を受けて出店した。その功績で名誉市民賞を受賞した」と、金儲けではなく、湖南省の皆さんの事を考えて出店したとの話をした。事実、湖南省では最も信頼性が高く、サービスの良い百貨店として認知されている。加えて、地域診療所などに多額の寄付もしているとの事。

さらに「会社は社員を幸せにするためにある」との稲盛氏のフィロソフィーを実践してきたことに対しても理解を求めた。従業員の日本での研修制度など、報酬面以外でもいろんな施策をとってきた。お蔭で離職率が高い中国でも、定着率は高い。

女子社員に握手を求めると、中国語で「頑張ります」と言いながら泣き崩れる姿を見て、夏原社長は、盛和塾での教えの成果を実感できたと言う。

著名な経営者でも、先人や先哲の教えを素直に脳裏に刻みこみ、日々の経営に活かしている。日々勉強だ。

京セラのコンパ部屋

PRESIDENT2013.3.18号の特集は「直伝!‘人を育てる、人を動かす’バイブル 稲盛和夫の叱り方」だ。新聞でこのタイトルを見て買ってきた。JAL再生の過程において、官僚体質からの脱皮を進める稲盛氏周辺とJAL役員との確執を経ながら、意識改革が進むプロセスが書かれている。いろんな施策によって、稲盛氏の施策が浸透していくプロセスが面白い。それにしても、稲盛氏の指導を受けた著名な企業や経営者の多さに驚く。KDDI小野寺会長(何度も問われた「動機善なりや、私心なかりしか」)、ワタベウェディング渡部相談役(叱られ続けて40年、日本一になりました)、京セラ川村会長(減益決算時、迷いが消えた「理念を大切に」の一言)、平和堂夏原社長(暴動被害35億円!中国人に説いた「利他の心」)、中国ハイアール帳CEO(中国式アメーバ経営で、世界一の家電メーカーに)などなどの記事があり、稲盛氏の指導の重み、すごさを感じる。

その中で「無気力社員の8割をも戦力化するコンパ部屋」との京セラに関する記事がある。京セラでは、社員同士の飲み会を「コンパ」と言い、昔も今も変わらず重要視されている。京セラ本社(伏見区)ビルの12階に居酒屋の座敷のような100畳敷の和室がある。これがコンパルームだ。京セラのコンパはこの「和室」で鍋を囲むのが基本。食事の材料は社員食堂運営会社が割安で提供し、費用は全額個人負担。だいたい一人2000~3000円程度。幹部曰く「各組織が同じ目標に向かって、みんなの気持ちを一つにする行為がコンパです。普段の会議ではどうしても形式的な話に追われてしまう。お酒が入ると、人は本音で話しますから、腹を割って意見を交わす事が出来る」と。大半の工場にも畳敷きのンパルームがあり、八日市工場では昨年1年間に350回のコンパが実施されたそうだ。コンパでは圧倒的に仕事の話が多いが、病気や出張以外で欠席する社員はまずいない。上司と部下の意思疎通に使われたり、組織の壁を乗り越えるための交流、決起集会などに使われる。稲盛氏は「ただ面白おかしく、ただ酒をくらって己を忘れてしまうような、酒に飲まれるような酒は下の下」と言い、氏のフィロソフィーの中の「人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力」(http://jasipa.jp/blog-entry/6637)の「考え方」をプラスの方向に向かわせて、「熱意」を引き出す役割が「コンパ」だという。

JALの再生に向けた活動の中でも、稲盛氏と役員が酌み交わす「コンパ」を実施したそうだ。最初は反発があったそうだが、川崎の安いホテルで、部屋の椅子とテーブルをどかして借りてきた畳を敷き詰め、夜8時から明け方4時まで延々と「コンパ」を実施したとか(そのホテルはいまは倒産してないそうだ)。特に大企業で、社長含む役員と一般社員が親しく話をする機会はまずないのではないだろうか(私が最初に入社した会社ではそんな場は想像だにできない)。どんな規模の会社でもやろうと思えば出来ることを京セラが示しているのではないだろうか。

来客リピート率80%の栃木県サトーカメラの流儀は?

「PHP Business Review松下幸之助塾2013.3・4月号」特集‘商いの原点’の中の記事の紹介だ。記事のリード文「全国チェーンによる市場寡占が進みがちな業界にあって、独自の商売観に徹して、県内カメラ販売15年連続ナンバー1、カメラ専門店業界売上15年北関東ナンバー1、写真品質コンテスト15年連続優秀賞受賞と、実績を伸ばす栃木県のサトーカメラ。その成功は、一つにはアナログからデジタルへという大転換に適応し、地域に密着して顧客の心をとらえたこと、そして二つには、社員に商売の醍醐味を教え込んだところにある。鋭い感性を武器にこの20年、同店のマーケティングを牽引してきた佐藤勝人専務にその商売哲学を聞く」。利益率は40%と言う。

「モノを買う喜び」では、ネットが勝る世の中。サトーカメラは、何のためにカメラを買うかを追求した結果、企業理念は

地域のありとあらゆる人々に想い出を写真に撮る喜び、みんなで写真を見る幸せ、後世に写真を残す感動を提供します

マニア的に自分でカメラを使いこなしている人はせいぜい2,3割。残りの7,8割の人は何をどうしていいのか分からず悩んでいる。この人たちの手助けをしたいと考えた。メーカ主導型の展示・販売をやめ、店内はお客様の撮った写真や、お客様が知りたい情報を書いたPOPなどで壁は一杯。携帯電話のカメラで撮った高画質のプリントを、最適なペーパーと最高機種の焼き付けマシンで、Sサイズなんと1枚10円で提供。お客様がプリントする機械の前には、アソシエイト(スタッフ)が寄り添い話しかける。そのそばのソファにはカメラの手入れをするお客様が・・・。1店舗に1日平均約300人のお客様が来られる。1990年にクレジットカード付きのポイントカードを日本で最初に導入したが、「お客様に本当に還元すべきはサービスだ」と、カード会社の撤退に合わせて廃止。顧客管理が出来なくなると不安視する人もいたが、アソシエイト1人が300人位の名前を覚え、以前より積極的に会話をするようになり全く問題なし。お客さまとの行事も昔は、事前に準備し、お客様に事前にお知らせしてと言う風に準備にかなり時間をかけたが、SNSを活用して『こんなイベントをやります』と書き込むとすぐにその日のうちにお客様が来てくれる。

モノに満ち足りたお客様が何を求められているのか?店がリードしてお客様を巻き込むと言うより、お客様自らが主役になって情報交換しながらくつろぐ空間を用意する。サトーカメラの各店舗では夕方になると近所の常連さんたちが店にたまって、写真を見せあったり、アソシエイトとおしゃべりしながら何時間も平気で店にいる。

価格競争の「ネット販売」に対して、「店頭販売」の付加価値サービスとは?と言う問いの答えがサトーカメラの事例にあると思う。佐藤専務の頭にあるのは、生産性や効率追求の企業の論理ではなく、お客様のためとの強い思いだ。

冲中一郎