お客様の為と言いながら自分のためにやっている?!

多くの営業の猛者たちがしのぎを削る生保業界。トップの生保営業が集う世界的組織MDRT(Million Dollar Round Table)会員となることは一つのステータスと言われる。世界の生保業界のトップ数%のメンバーで構成されているMDRT会員を、ある外資系生保会社で育成している早川勝氏(「致知2013.7」インタビュー記事「人生に失敗はない、あるのは学びと成功だけ」より)。36歳の時支社長になり、100名中35名のMDRTを輩出し、支社をプロセールス集団に成長させた。

早川氏は大学卒業後、ある大手飲料メーカーに入り、営業の仕事で数々の新人記録を塗り替えるほどの成果を出した。が不公平な評価が気に入らず、退路を断ってフルコミッション(成果=評価)の外資系の保険会社に飛び込んだ。そこで、前職と同じようにガムシャラに働き、そこそこの成果を出したが、「そこそこの」域を脱することが出来ず行き詰った。自己流の営業スタイルやテクニックだけでやっていると限界が来る。「お客様のためにお勧めしています」なんて言っても、本当は「もっと評価されたい」、「もっと収入を得たい」といった自分の成績のための自己中心的な営業になっているから限界が来た。

「お客様のためと言いながら、実は自分のためにやっている」、人間は多くの仮面をかぶっている。その仮面(お客さまや自分に対するうしろめたさ)がいつも邪魔をして自分がやりたいようにはさせてくれない。そのひとつずつを剥がしていったら「そこそこ」を抜け出し、超売れるようになったと早川氏は言う。「保険の仕事は聖職で、究極の感動セールス」と。正直さ、高潔さをもって、お客さまにはデメリットも正直に説明する、無理に入ってもらおうとせず、自分を律して生きる。お客様の前に出ても恥ずかしくない自分であることが大切だと言う。これこそ「顧客サービスの神髄」と言えるのではなかろうか。

外資系生保では、マネージャーになるとチームは自分で作る。そのために人材を自分でスカウトする。採用の際、絶対媚びず、自らフルミッションの世界に飛び込みたい、挑戦したいと思う人を採用する。その見極めに全力を挙げる。チームとしての成果を挙げるために。

早川氏は、「人生には失敗はない。あるのは学びと成功のみ。人生のどんな局面も自分を成長させ、成功させる道場であると思って、まだまだ前進し続けていきたい」と語る。今は、国内大手生命保険会社にて機関長研修などに携わり、組織変革に尽力されているとのことだ。

「掃除道」を説く鍵山秀三郎氏

イエローハット創業者であると共に、「社会の荒み(すさみ)を無くしたい」との思いで、全国に「掃除を学ぶ会」を作り、「鍵山塾」を通して経営者や教育者の教育を80歳の今も続けられている鍵山氏。「致知2013.7」に野村証券常務をやられ、その後退職して三洋証券の経営立て直しをされた後、公文教育研究所に入社、翌年社長になって世界中に「KUMON」ブランドを広められた杏中保夫氏と鍵山氏の対談記事がある。杏中氏は野村常務時代に部下の紹介で鍵山氏に会われ、鍵山氏の話に体が痺れたと言う。その対談の中での、印象的な言葉をいくつか紹介する。

大きな努力で小さな成果

「お客様第一」は名ばかりで、小さな努力で大きな成果を求められ、まさに生き馬の目を抜く社内で生きてきた杏中氏は、鍵山氏のこの言葉に体が痺れ、まるで神様に出会ったかのような感覚を覚えたと言う。鍵山氏も、証券業界にいる人が自分の考え方に共鳴してくれたことで驚き、以降お二人のご縁が続くことになる。杏中氏は、この時鍵山氏から頂いた「人間学言志録」(越川春樹)を読んで、陽明学に傾注することになったそうだ。これが三洋証券で、不安と恐怖、諦め、怒り、絶望の淵にいる社員を奮起させ、立て直しに成功することにつながる。

「やっておけばよかった」ではなく「やっておいてよかった」の道を歩む

20歳でカー用品業界に入ったとき、なんとあくどい、質の悪い業界かと驚かれたそうだ。接客が乱暴、雪が降ればタイヤチェーンの価格を10倍、20倍にする、手形商売で支払いが遅いなど、自分の会社の収益はともかく、この業界の体質を変えることが第一義と、怖い目に何度も会いながら施策を実行された。その経験に基づいた言葉で、「言っておいてよかった」「会っておいてよかった」など含めて悔いを残さない人生を説かれている。同じような意味で“”ゼロから一への距離は、一から千までの距離より遠い(ユダヤ格言)

誰にでも出来る簡単なことを、誰にもできないほど続ける
自分に与えられた権限、権利、それを使い尽くしてはならない

前者は、「継続は力なり」と同じことで、何事も継続することの大事さを言われている。まさに掃除道を50年以上説かれている方の言葉だ。後者は、何でも自分の権利を精一杯使おうということが往々にして世の中を悪くしているとの主張だ。

トイレ掃除で世の中を変える運動は着実に企業や学校で広まっている。中国にも指導に行かれているそうだ。「世の中のために」粉骨砕身頑張っておられる方の言葉は心に響く。

そっと明日へ背中を押す「居酒屋」

昨夜(10日)のNHK「ザ・プロフェッショナル~仕事の流儀~」で、大阪の居酒屋「ながほり」を経営する中村重男氏が登場した。居酒屋として世界で初めてミシュランガイドに名を刻んだ人だ。普通の居酒屋(10個ほどのカウンター席と6席のボックス)だが、IPS細胞の山中教授など文化人や各界有名人に加えて、海外のシェフなども顔を見せる。

「料理」と「酒」の組み合わせにこだわり、

単においしかったという“満足”ではなく、その先にある“感動”を生み出す

ため、店が休みの日には、全国の農家や酒蔵へ足を運ぶ。新メニューを作るため、旬の食材や酒の出来を確かめる為だ。仕入れの際には、必ず生産者と直接会い、食材への思いを聞く。北海道から沖縄まで、およそ100件の農家や酒蔵との縁を大切にされており、「縁で仕事をする」ことを信念として持つ。

料理と酒の組み合わせにこだわり、店内の客の様子に目を配りながら、その組み合わせを出すタイミングをお客様毎に推し量る。「おいしい」と言ってくれるお客の言葉を聞きながら、お客様が明日への活力を料理を通じて得てくれることを願う。そして言う。

そっと明日への背中を押す

実は、最愛の奥様をJR福知山線事故で亡くされ、息子と二人だけ残されることになった時、店を畳むことも考えたが、お客様などからの強い後押しで続けることにした。その時中学生の息子の弁当を、近くの主婦の方3人が交代で作ってくれた。その3人が、店に顔を見せてくれることになった。その感謝の気持ちを表すために、新作の料理を何度も何度もやり直しながら挑戦する姿には感動を覚えた。3人は、主人が板前と言うことを知らず、弁当作りを申し出たが、「今考えると何と無謀なことをしたのか恥ずかしい」と笑いながら話す。主人とお客の関係の神髄を見た気がした。

まさに客が、料理と酒に酔いしれ、「極上の居心地」を感じている姿に、究極の「お客さま第一」の精神を見た。

最後に中村さんは、こう語った。

愚直なまでにやり続けることが、
プロフェッショナルではないかとおもうんですけど、
やっぱり、こつこつとお客様のことを考えながらやり続けることが、
プロじゃないかと思います

冲中一郎