そっと明日へ背中を押す「居酒屋」

昨夜(10日)のNHK「ザ・プロフェッショナル~仕事の流儀~」で、大阪の居酒屋「ながほり」を経営する中村重男氏が登場した。居酒屋として世界で初めてミシュランガイドに名を刻んだ人だ。普通の居酒屋(10個ほどのカウンター席と6席のボックス)だが、IPS細胞の山中教授など文化人や各界有名人に加えて、海外のシェフなども顔を見せる。

「料理」と「酒」の組み合わせにこだわり、

単においしかったという“満足”ではなく、その先にある“感動”を生み出す

ため、店が休みの日には、全国の農家や酒蔵へ足を運ぶ。新メニューを作るため、旬の食材や酒の出来を確かめる為だ。仕入れの際には、必ず生産者と直接会い、食材への思いを聞く。北海道から沖縄まで、およそ100件の農家や酒蔵との縁を大切にされており、「縁で仕事をする」ことを信念として持つ。

料理と酒の組み合わせにこだわり、店内の客の様子に目を配りながら、その組み合わせを出すタイミングをお客様毎に推し量る。「おいしい」と言ってくれるお客の言葉を聞きながら、お客様が明日への活力を料理を通じて得てくれることを願う。そして言う。

そっと明日への背中を押す

実は、最愛の奥様をJR福知山線事故で亡くされ、息子と二人だけ残されることになった時、店を畳むことも考えたが、お客様などからの強い後押しで続けることにした。その時中学生の息子の弁当を、近くの主婦の方3人が交代で作ってくれた。その3人が、店に顔を見せてくれることになった。その感謝の気持ちを表すために、新作の料理を何度も何度もやり直しながら挑戦する姿には感動を覚えた。3人は、主人が板前と言うことを知らず、弁当作りを申し出たが、「今考えると何と無謀なことをしたのか恥ずかしい」と笑いながら話す。主人とお客の関係の神髄を見た気がした。

まさに客が、料理と酒に酔いしれ、「極上の居心地」を感じている姿に、究極の「お客さま第一」の精神を見た。

最後に中村さんは、こう語った。

愚直なまでにやり続けることが、
プロフェッショナルではないかとおもうんですけど、
やっぱり、こつこつとお客様のことを考えながらやり続けることが、
プロじゃないかと思います

リーダーはストーリーを語りなさい!

企業理念や方針を社員に浸透させるために、「リーダーはストーリーを語りなさい」(日本経済新聞社刊、ポール・スミス著、栗木さつき訳、2013.3.22)と呼びかける本が出た。話をストーリーにして話すことで社員を魅了し、説得し、鼓舞できると言う。逆に精神論を何度唱えても心に響かないと。以前紹介したTEDプレゼン(http://jasipa.jp/blog-entry/7708) は自分のテーマを18分以内でプレゼンし、終了時、聴収がスタンディングオベーションで賛辞を送る様子が印象的だが、このプレゼンも、自分の経験談(神経解剖学者のジル博士が語る脳機能不全時の体験談など)や先哲、友人の話などを織り交ぜながら見事に聴衆を引き付けている。

戦略的な目標を説明する場合の事例として、レンガ職人の「今何をしている?」と聞いた場合の答として「ただレンガを積んでいるだけ」と、「立派な大聖堂を建てている」との違いを指摘している。企業の一員として、組織の目標と、自分の仕事の関わり合いを把握していれば仕事の質も上げられ、同僚や部下に対する適切な指導も可能となる。システムプロジェクトでも、プログラマーが、今どんな企業のどんな業務をどんな目的でやっているのかを知らず、ただ黙々と指示されたコーディングをしているだけということも有りうることだ。

ノキアの成長事例も面白い。自社の成長戦略などの話に使える。ノキアは1865年製紙会社としてスタート。途中電力供給もやり、1920年代に電話サービス事業としてケーブル事業に参入、成長を遂げた。コアビジネスはコミュニケーション関連(製紙業も、新聞・書籍に見るようにコミュニケーション業)だ。企業の成長ビジョンを描く際参考になる話だ。

「顧客第一」を標榜する会社で、一遍に社員の心を打ったCEOの事例が紹介されている。大型スーパーマーケットが新たなCEOを迎えた。このCEOは「顧客第一」主義を信奉しており、この理念の普及に心を砕いていた。スーパーを訪ねたときの駐車場所が階層別に決められ、管理職は店の正面に近い場所、平社員は遠いところとなっていたが、近くは客の為にあけておき、管理職も遠いところに止めることにルールを変更した。ある時CEOが訪問した時、ひどい土砂降りだった。そのCEOは傘も持たなかったが、ルール通り遠いところにとめ、ずぶぬれになりながら店に入り、台無しになった背広を、量販店向けの低価格紳士服を買って着替えた。この話は、従業員全体に瞬く間に広がり、CEOが「顧客第一」を貫き通した事実を見て取った。この話も使える。

このブログでも、新商品などの売り文句にストーリーが必要だと、アップルの「iPod」の「1000曲をポケットに」の文言の有用性を説いた(http://jasipa.jp/blog-entry/8416)。リーダーとして部下に対して、方針・考え方を部下に納得させ、浸透させるためにストーリーで語ることを考えて見てはどうか?ストーリーは、自分の経験談(成功談、失敗談)、身近に起こった事例、人に聞いた事例、本などで知った事例など、その気になれば、あちこちに散らばっている。当ブログでも、そのような事例をこれまでにもUPしてきたつもりだが、これからも皆さんの参考になる話を挙げていきたいと思う。

「富山の薬売り」今も全国で続くそのノウハウ

私のまだ小学生になった頃、富山から来た薬売りが玄関の上がり框に腰を掛けながら、母が持ってきた薬箱をチェックしながら、和やかに話をしている光景が目に浮かぶ。同じビジネスモデルの「富山の薬売り」が、今でも全国で2万2千人ほどいるとの事だ。「致知2013.7」に「富山の薬売りに学んだ仕事の哲学」とのタイトルで、「富山の薬売り」森田裕一氏のインタビュー記事があった。

冨山の薬売りとは、「家々を訪問してまず薬箱を置かせてもらう。そして半年に1回定期的に訪問して薬箱の中身をチェックし、使った分だけのお代を頂き、使った薬を補充し、期限が近づいている薬を新しいものと入れ替える」というビジネスモデルで、300年続いていると言う。森田氏は富山県出身の父上と一緒に東京、埼玉、千葉を中心に約1800軒の得意先を回っているそうだ。

昔と比べて薬を買うにも格段に便利になった今のご時世において、東京近辺でも1800軒の方が利用されているのには驚く。富山の薬売りの哲学「先用後利」(せんようこうり)。まずはこちらからものを提供させていただいて、利は後から頂くというのが根本にある教え。それもただ薬代を頂くだけではなく、お客様に喜んで頂ける精一杯の事をして差し上げる。「相手を親戚のように慮る(おもんばかる)」「人の心に入り込むことによって道は開ける」「売る努力よりも、人が何を必要としているのか、話を聞くことに徹する」など、お父さんの後ろ姿を見ながら、接客哲学を学んでいった。得意先を訪ねると、「同じ薬でも森田さんから渡されると効き目が違うね」とか、父を褒める言葉に、最初は「こん畜生」と思うことがあったが、ある時からは父を超えるために、いろんな講習会に参加したり、医学や薬の知識を得るために富山大学に通ったりして、得意先の方がたの期待に沿えるよう頑張ったと言う。得意先では介護などいろんな悩みを打ち明けられることも多い。そんな時、ご家族の苦労に心を寄り添わせることで、胸襟を開いてくれる。

富山大学に北海道から受講に来ていた80歳の売薬さんが「お得意様が待ってくれているから、お得意様の役に立つ話が出来ないんじゃ話にならない」と。いつもお客様のために勉強にも励んでいる姿に森田氏も元気づけられたそうだ。

まさに「Sell Yourself」。薬を売るよりお客様のために如何に自分を磨くか、そしてお客様が自分を買ってくれる(待っていてくれる)ことで商売が成り立つ。究極の営業ノウハウ、「お客さま第一」の精神が300年続く「富山の薬売り」の秘訣だ。

冲中一郎