「人的資本」を数字で見せる企業が増えている!

ちょっと古い記事になるが、4月12日の日経朝刊記事Inside Out(13面)に「社員のやる気、数字で見せる」のタイトルに目が止まった。リード文を下記する。

企業会計では資産とみなされない社員のスキル、やる気などを数字で開示する動きが広がっている。デジタル時代の競争力の源泉は工場や店舗ではなく、革新的ビジネスを創造する「人的資本」という考え方からだ。有望銘柄を先回り買いしたい株式投資家は、社員が幸福かどうか内面まで推し量る。かっての勢いを失った日本企業の再生につながるか。

記事で紹介されている“「人的資本」を数字で開示する企業”を紹介する。

まずは“オムロン”だ。この3月、中期経営計画に「人的創造性を高める」という異色の目標を掲げている。同社は、人的創造性を、1年間に生み出した付加価値を総人件費で割って算出する。いわゆる”労働委生産性“と同じ計算式だが、”労働生産性“には人をコストとみて人件費を削るイメージがあるが、そうではなく人に投資して付加価値を伸ばしていく意味を込めて言い換えの意義を説いている。

味の素も「人財」への投資を積み増してきている。職をめぐる知識を深めたり、次世代リーダーを育成したりする費用を「人財投資額」として開示。2020年度から3年間で社員一人当たり88万円を投ずる。

総合商社の双日は、社員の新分野への挑戦を上司の評価によって「チャレンジ指数」に換算し、重要な経営指標の一つと位置付ける。

政府も新しい資本主義実現会議で「費用としての人件費から、資産としての人的投資へ」、形には残らない人への投資を評価する方法論を探っている。米国でもこの動きが加速している。米証券取引委員会(SEC)は一足早く企業に人的資本にかかわる情報を開示する仕組みを整えた。日本も今夏に開示の指針をまとめる方向だ(昨年6月にコーポレートガバナンスの改定が行われ“人的資本の開示”の項目が追加されたが具体的な指針はなかった)。も”人財“アピールに対し、投資家は早くも企業の選別に動いているそうだ。

米ギャラップの20年度調査によると、志気が高く熱意のある社員の割合はGAFAMを生んだ米国が34%と世界で突出している。“失われた30年”で確たる成長の針路を見失った日本は世界最低レベルの5%に沈んでいる。信用評価会社クレジット・プライシング・コーポレーションは日本企業のクチコミサイト「オープンワーク」に寄せられる社員の匿名投稿をAIで分析し、個々の企業の働きがいのスコアを投資家に売っているそうだ。

「こうした人的資本評価によって経営者の意識が変われば、社員のやる気にも火がつくかもしれない」と当記事は締める。

日本の上場企業は、アベノミクス以降、株主にもたらす利益を最大化すべく“ROE(自己資本利益率)”を上げることに集中してきた。2019年にアメリカの大手企業経営者で作る最大の経済団体「ビジネス・ラウンドテーブル(BRT)が脱株主第一主義の声明を発表した。顧客、従業員。サプライヤー、地域社会、株主の5つのステークホルダーに利益をもたらすのが企業の目的との声明だ。社員が熱意をもって革新的な仕事に取り組める環境つくり、人的資本に焦点を当てた施策の推進に真剣に取り組むことが、“日本の失われた30年”を克服する鍵となり日本の未来を拓くことになるのではなかろうか。

企業の社風改革は待ったなし!損保ジャパンなどに学ぶ!

2月26日の日経朝刊8面”Deep Insight“の「社風改革、覚悟の”踊り場“」と題した上杉素直氏(本社コメンテーター)の記事に目が留まった。

時代の変化が激しい中で、社員一人一人が自主的に考えて行動できる社風を如何に作るかとの問題提起だ。上杉氏は。これまでの日本の濃い企業文化の弊害を“だまし絵”(添付図参照)を例えに説明している。アヒルとウサギのだまし絵だ。

     

視線の送り方によって、左を向いてくちばしを突き出すアヒルにも見えるし、右を向いて後頭部に2つの耳をもつウサギにも見える。双方を同時に認識するのは難しく、どちらか一方しか見えない。あるカルチャーに染まった集団は同じように絵を眺め、例えば全員がアヒルの絵だと認識し、だれもウサギに気づかない。ウサギが外部の環境変化だとしたら、その企業のだれも社会の変化に気づかない事態を招くことになる。上杉氏はみずほ銀行の不祥事は、「いうべきことを言わない、言われたことだけしかしない」という金融庁の指摘が正しいと思うが、そこに悪意はない」と言う。善悪で割り切れないからむしろややこしく、不祥事にまみれてカルチャーの刷新を誓うが、結局変革がかなわず失敗を繰り返すケースはみずほに限らず、こびりついたカルチャーの「解凍」が困難な事例も多い。カルチャーを解かすチャレンジをしている企業として損保ジャパンの取り組みを紹介している。

5社との合併を繰り返して今の損保ジャパンとなった経緯はあるが、現状人口減や自然災害の増加で厳しい環境になってきている。もともと上意下達のノルマ主義で、市場シェア日本一が社員の誇りだったが、2018年将来に向けて危機感を抱いた西沢敬二社長の始めた行動がユニークだ。従来の流儀をひっくり返して、未来に向けて目指すカルチャーを追い求め、実現させる活動だ。簡単に言えば従来のトップダウン型からお客を起点としたボトムアップ型への転換だ。2019年に32ページの冊子「Spirit-未来への指針」にまとめ、バイブルとして社員に配布。「企業文化を変える」と章題にうたい「創造性・独創性」「スピード」という目指すカルチャーを明文化した。すごいのは、「これから2年間は市場シェアを考慮しなくていいとした西沢社長の社風改革に対する執念と言うか社長の覚悟を社員たちが感じたことだ。最初はとまどいもあった活動だったが、社員が支店をリードする形は、人材育成や品質に関するプロジェクトチームを作る中で徐々に見えてきたと言う。「職員一人一人が当事者意識を持ってゴールを設定し、チームワークで到達する」新しい企業文化でシェアも回復しつつあるそうだ。

トヨタ自動車も、10年半ば「意志ある踊り場」というフレーズで、将来の成長への足固めの期間を敢えて作ったそうだ。シェアを一時的に放棄した損保ジャパンに通底するものがある。

2月28日日経朝刊28面“Women@Work”の「“多様性” 担当役員日本でも」との記事も気になった。多様な人材を集め、その人材を許容し、多様なスキル、能力、アイディア、経験、価値を生かすために、その旗振り役となる役員を任命する企業が出始めている。この役割を「CDIO」(Chief Diversity&Inclusion Officer)と呼ぶ。日立製作所CDIOのロレーナ・デッラジョヴァンナさんと東京海上ホールディングスCDIO鍋嶋美佳さんが紹介されている。D&Iとは多様な人材をただ採用するだけではなく、違いを尊重し、能力や個性が生かされている状態だ。デッラジョヴァンニさんは日立のD&1を「世界的にみるとまだまだ」と指摘する。一例としてあげるのが「意見を言うことをためらう文化」。自由闊達に意見を言い合える環境がなければ、イノベーションは生まれず、製造業にとって致命的。デッラさんはこうした風土を変えることが喫緊の課題と言う。日本ではCDIOを置くのは少数だが、伊藤忠商事では元厚生省の事務次官の村木厚子さんがその職に就く。全日空では執行役員がその責に就いているそうだ。

未来に向けての企業の挑戦が始まっている! | 冲中ブログ (jasipa.jp)でも、社員が意欲をもって働ける環境つくり、優秀な人材が集められる環境つくりに挑戦する企業を紹介した。3月1日の朝日新聞12面のコラム“経済気象局”でも「問われる企業の存在意義」では、ソニーグループのパーパス経営が紹介されている。

いい人材を集め、その人材を育て、活かす経営のための社風改革に向けて、今後の厳しい競争を勝ち抜くための各企業の挑戦が始まっている。パーパス「クリエイティビティとテクノロジーで世界に感動で満たす」に沿った社員の自主的行動が企業文化として定着してきたというソニーグループに続く企業が今後続々と出てくることを期待している。

ロシア、ウクライナへ侵攻開始!

「24日朝(現地時間)、ロシアがウクライナへの侵攻を開始した」との情報があった。24日夜から25日にかけての日本のニュースは、この話で持ち切りだ。フェイク情報が飛び交う中で、バイデン米国大統領が、「必ず侵攻はある」と言い続けてきたが、それが現実のものとなった。一方、ロシアは、「侵攻はしない」「親ロシア住民の平和のための行動だ」「演習が終わったので部隊は撤収している」と、煙に巻く言い訳をしながら、侵攻に踏み切った。今回の侵攻にしても「ウクライナを非軍事化するために、軍施設を攻撃」「ウクライナをロシアの領土化はしない」などと言っているが、果たして信用できるのか自民党の元防衛大臣小野寺氏も「信用できない」と言う。本格的戦争になった場合、戦車や銃器などの装備品は、ウクライナに比してロシアは近代化されており、圧倒的にロシア有利となる。ウクライナはNATOに未加盟のため、表立って欧米はこの戦争に介入できない。もし介入すれば核戦争にも発展しかねないため米国はまず介入しない。ウクライナとしてはどうしようもない状況であり、国連はじめ欧米の外交努力しか解決方法はないようだ。

24日の日経朝刊に「ロシア、自作自演の跡」との記事があった。リード文を紹介する。

ウクライナ情勢をめぐり情報戦が激しさを増している。SNSで流れた「ウクライナによるロシア、親ロシア派支配地域への侵入」とされる複数の映像は、フェイク動画の可能性があることが、日経新聞や英調査機関ベリングキャットなどの分析で分かった。米欧はロシア側への攻撃を自作自演する「偽情報」とみている。

「ロシア領内に侵入したウクライナ軍車両をロシア軍が破壊し、5人のウクライナ人を殺害(ロシアタス通信)」との報道に関して、映像の装甲車はウクライナでは使用していないものであり、破壊場所もグーグルマップなどで確認したところ報道の場所とは違い、ウクライナ領地だった可能性ありとの調査結果だ。他にも、ウクライナ内親ロシア派をウクライナ軍が攻撃したとの映像も、その映像制作日が、報道の10日前に作られたものと判明。

ともかくいかなる理由があっても戦争は絶対ダメだ。特に情報技術が進歩した中での、情報合戦は、何が事実か益々分からなくなっている。自国民や世界に向けていかなる情報を発信しても事実関係は分からない。8年前のクリミア併合の際、プーチン大統領の国民支持率が大きくあがったことを考えると、ほんとに情報操作の怖さを覚える。

翻って、日本の昭和史を考えてみても、その怖さは分かる。半藤一利氏著作の「昭和史(2004年刊、平凡社)」を読むと、明治の末期の日清戦争、日露戦争の勝利を契機に、昭和の太平洋戦争開戦に至る日本のメディアを含めた情報合戦はすごいものがある。満州、中国での偽装事件(張作霖爆殺事件、柳条湖事件など)、日中戦争勃発に至る経緯などを見ると、統帥権を持つ天皇陛下にさえ事実を隠し、軍は内閣を制し、反対者は総理大臣と言えども征伐する(5・15事件、2・26事件など)、国民には当時の朝日新聞、日々新聞(現毎日新聞)を使って、軍部の思うように情報操作をしながら、戦争にまい進する雰囲気つくりをする。この流れの中で、冷静に判断しようとする人たちを制しながら太平洋戦争に突入する。

戦争体験者の高齢化に伴う減少傾向に対して、私も含めて未体験の人たちが、如何に戦争をさせない行動をとるかが問われている。難しい問題だが、今回のウクライナ問題を契機に、考えてみたい。

冲中一郎