部下を勇気づけるには「感謝」の気持ちを伝えること!

「自己啓発の父」とも呼ばれ、その心理学は「勇気づけの心理学」とも言われているアルフレッド・アドラーの名言をシリーズで伝えている日経ビジネスonlineの記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140905/270838/?n_cid=nbpnbo_leaf_bnlu&rt=nocnt)がある。筆者は組織人事コンサルタントの小倉広氏。第1回目は9月17日でタイトルは「“挑戦する部下”と”逃げ出す部下“」。人を大切にする「コンシャスカンパニー」(当ブログで2回にわたって掲載)の考え方に一部共通する点があり、とりあげる。

アドラーは、「挑戦」を選ぶ建設的な行動「逃避」を選ぶ非建設的な行動の違いは、「勇気」があるかどうかだと言う。そして「勇気」を下記のように定義する。

「勇気」=「困難」を克服する活力」

そして

「人は“自分が誰かの役に立つことが出来る”と思えるときにだけ勇気を持つことが出来る」

とも言う。つまり、自己肯定感を持てる時に勇気が出る。そこで、小倉氏は、「アドラーに学ぶ部下育成の心理学」{日経BP社、2014.8刊}において、アドラーの名言に基づいた部下育成術を伝授されているそうだ。それは「褒めて育てる」「叱って育てる」「教えて育てる」といった常識を的外れだと指摘し下記のような方法を提示している。小倉氏の経験からも、油に乗って果敢に挑戦意欲が湧くときは、「自分は出来る」「誰かの役に立てる」と信じることが出来ていたと言う。そこで、「勇気づけ」の基本は、相手が「自分は誰かの役に立てる」と思えるように声をかけ、見守ること。具体的にはアドラーの言うように

「“感謝”を伝えることが最も有効だ」

と言う。「あなたのお蔭でとても助かったよ」「ありがとう。ほんとに嬉しいよ」と。他にも「良い点をみつけ、注目する」などいくつかを提案している。「部下の間違っている点をただし、良い点を伸ばす」育て方は、「部下をコントロールすること」で、「相互信頼、相互尊敬」に基づく行為ではないと指摘する。

「コンシャスカンパニー」のコンシャス・カルチャーの章に、社内に愛と思いやりの雰囲気を作りだすためのホールフーズマーケットでの取り組みの紹介がある。それは

あらゆるミーティングを自発的な感謝の表明で終わらせる

こと。ミーティングの最後の時間を取って参加者のだれかが別の参加者に感謝する機会を与える。内容は、最近一緒に成し遂げた事、好意や親切を示してくれたこと、あるいはその人について自分が好きである点や尊敬できる点など、何でもよい。大抵は、一人一人だけでなく何人かに向けて感謝の意を述べる。

人はミーティングでは批判的にモノを考えがちになり、他の人々の発言に黙って耳を傾けながら、ついつい粗探しをはじめてしまう。感謝の言葉でミーティングを終えると、批判的な場が愛と思いやりの場に変わる。

同じ本に、ノーベル平和賞をもらったシュバイツアーの言葉が紹介されている。

「あなたの運命がどうなるかを私は知らない。しかし一つだけ私に分かっていることがある。それは皆さんの中で、ほんとに幸せな人と言うのは、いかにして他人に奉仕するかを探求し、それを発見した人だということである」

人の役に立つことで生れる“自己肯定感”と”勇気“、それを引き出すための感謝の気持ちの伝達、これが部下のエンパワーメント、ひいてはイノベーション力につながることをアドラーと実際にそのような文化を自社に作りあげてきたジョン・マッキーが言っている。行動するのはあなただ。

日本はマーケティング後進国?

今朝の朝日新聞5面「波聞風問」に編集委員の加賀谷克彦氏が「マーケティング後進国~日本企業、より顧客目線で~」とのタイトルで記事を掲載されている。先週都内で開かれたマーケティングの世界大会で、マーケティングの権威である、米ノースウェスタン大学のフィリップ・コトラー教授による日本企業批評の厳しさを伝え、警告を発している。

「日本の企業は、消費者ニーズより自らの技術を重視しているようだ」とか「何かにとりつかれてように、いつも製品の改良に追われている。そこからイノベーションは生まれない」とのコトラー氏の発言だ。

大会のテーマは「21世紀型マーケティング」だったが、「日本はマーケティング後進国なのか?」という話題がたびたびなされたとの事だ。コトラー氏の定義は

企業の業績向上と顧客の満足の創造によって、人びとの生活の改善を目指す学問

と間口は広く、奥行きもある。日本では多くの企業が広告・宣伝・販売促進などの業務を言っているが、それでは十分ではない。専門家は

「日本の技術は優秀だ。だから1990年くらいまでは高機能、高性能だけで売れた。マーケティングは軽視され、その成功体験から抜け出せていない」「もう機能や性能だけで差別化するのは難しい。顧客が何を望んでいるかを踏まえ、新しい生活様式、感動も提案しなければいけない。でも顧客視点が欠けていたから出来なかった。」

と分析する。

大会では、顧客目線の成果例として、P&Gの紙おむつ「パンパース」とネスレ日本の「コーヒーマシンの企業への無償貸与」を挙げている。「パンパース」は最初「高い吸水性」を強調する宣伝を売ったが効果なく、そこで親のニーズを探った結果、「紙おむつをつけると赤ちゃんの眠りが深くなり、夜泣きが減る」と宣伝すると売り上げが増えた。ネスレ日本は、無償提供によってコーヒーを定期的に購入してもらうビジネスで成果を挙げた。マシン周りでのコミュニケーションの拡がり効果も評価を得たそうで、オフィス環境の変化を読み取ったマーケティングの成果と言う。

記事の最後に、一橋大学の神岡太郎教授の言葉を紹介している。

日本企業は、まず経営陣から、そして全社的に顧客ニーズを重く見る方向性を確認すべきだ」

前回、前々回に紹介した「コンシャスカンパニー」の一つ、ドッグフードのぺディグリーの事例も参考になる。最初は「水分を含んだ食品を缶に詰め、乾いた食品をバッグに入れて利益を出していただけ」のぺディグリーは世界でトップクラスのドッグフード企業だったが2004年頃業績は急降下、倒産も視野に入る位低迷していた。そこで自己分析を行い、自社の存在目的を見直した。2005年に「犬を愛する、犬のために存在する会社」と宣言し、犬や犬の幸福をすべての活動の中心に置いた。その後、強力なブランド力と安定した業績はもちろん、社員のモラルと愛社精神も大いに盛り上がり2009年には史上最高の利益を計上した。同社の犬に対する愛情の深さを犬の愛好家が認めた結果と言う。これも顧客視点の考え方で、自社の存在目的を見直した成果と言える。会社も社員も、今一度自らを見つめ直し、「顧客視点」の真の意味を見つけ出してほしい。

コンシャスカンパニーとは?(その2:顧客との信頼関係作り)

前回の続きとして、ステークホルダーの顧客に対する価値提供に関する印象的な話題を抜き出すことにする。

ジョン・マッキーの言う「ステークホルダー」とは、一般的に言う社員、顧客、投資家、パートナーに加え、コミュニティ、環境を加えている。これらすべてがコンシャスカンパニーでは「WINの6乗」になることを目指す。存在目的とコアバリューをベースにして、ステークホルダーがすべて相互に依存しながら結びつく。経営者の責任は、会社に合った人々を採用して十分に教育し、社員が豊かになり、生き生きと働ける環境を整備する事。社員の仕事はお客様を満足させ、喜ばせることだ。お客さまが満足すれば、ビジネスは成功し投資家は幸せになれる。そして投資家はそこで得た利益の一部を投資して会社が成長するという好循環を創りだす。

大半のコンシャスカンパニーは、自社の顧客または自社の社員のいずれかを最も重要なステークホルダーとみなしている。「顧客と社員は鳥の翼のようなもので両方ないと空を飛べない。二つは両立する」。しかし、時に社内では顧客を忘れ去る議論が多い。アマゾンのジェフ・ペゾスは次のように指摘する。「たいていの企業のミーティングには、もしかしたら重要かもしれない関係者が出席していない。それはお客さまだ。だから、私たちは会社の中にいるとついお客様の事を忘れてしまう」と。そこでペゾスは、会議を開催する場合には、だれも座っていない椅子を必ず用意し、参加者に顧客の存在を意識させるようにしたと言う。顧客を利益を得るための単なる手段と考えている企業は、顧客への共感も、サービスへの取り組みも、顧客ニーズの理解も、顧客の幸福を目的とする企業ほどに高くない。顧客は、だれかが自分の事を心から気遣ってくれていると、それに気付く

「顧客への価値の提供」とは、自社に都合の良い商業主義ではなく、顧客のニーズや欲求に歩調を合わせ、顧客が自分にとって良いものを欲しがるように仕向けること。顧客の本当のニーズ(それを顧客が明確には説明できなかったとしても)に結びついた販売は、高潔(heroic)と言っても良いほど価値の高いサービスになるかもしれない。時に顧客から頼まれたものだけを提供し、付加価値を高めるための今一歩の方法をとかく探そうとしない。この教訓を物語るものがある(ザ・コンテナ・ストアの創業者兼CEOキップ・ティンドルによる)。

この物語の主人公はもう何日も砂漠の中をさまよい歩き、ほとんど死にそうな状態になりながらも這うようにして何とかオアシスまで辿りつこうとしている。あなたはオアシスに住んでいて、この男を見つける。あなたならどうする?

たいていのビジネスマンはその男に駆けより1杯の水を差しだすだろう。そして「よく頑張ったね」と軽く背中を叩きながら、ああ、今日はよいことをした満足する。しかし、この男のためにもっと多くの事が出来る筈だ。熱中症か日射病にかかっている可能性があるかもしれない。防止と日焼け止めがいる。そして水分をもっと補給すべきだろう。その男の妻や家族に連絡し、無事を伝えたいのかも知れない。あなたが今していることは、砂漠で遭遇したこの見知らぬ男の多くのニーズを直感で知ろうとしている。当社の人間であれば、「砂漠にいたその男は数時間後にはマルガリータを飲みながらプールの中で泳ぐくらいでないと」と言うだろう。それだけ徹知的に面倒を見る。砂漠にいた男は、自分に施されたあらゆるもののお蔭でずっと幸せな気分になっている。これがいわゆる「高潔な販売」なのだ。

大抵の企業では「お客さま第一」とか「お客様のために」と理念や方針に掲げている。しかし、コンシャスカンパニーのように、全社員にそのマインドが徹底できておらず、行動に繋がっていないのではなかろうか?「リーマンショック」で「マネー資本主義」と揶揄されたアメリカにおいて、コンシャスカンパニーを謳う企業が出てきていることに驚く。日本企業もこのような動向を真剣に受け止め、国民にも信頼される意識の高い(コンシャスな)企業像を追い求めていくことが求められているのではなかろうか?経済優先で、地球温暖化問題などの地球的課題の先送りなどは決してあってはならない。

冲中一郎