キャリアの8割は偶然がもたらす!

4月6日日経夕刊9面の記事だ。多くの社会人は「自分は何をやりたいのか」「何が出来るのか」をしっかり検討し、実現に向けてプランを立て実行すべきだと信じている。だが、ビジネス界で成功した人を調べたところ、計画通りのキャリアを歩むケースは少数。8割は想定外の出来事がキャリアアップや成長の足掛かりになっていた。その結果を踏まえて、スタンフォード大学のクランボルツ教授は

キャリアの8割は偶然がもたらす

と言い、偶然のチャンスを待つだけの消極姿勢ではなく、想定外の出来事を糧とし、成長できるように行動の心得を提唱する。

  • ・新しいものに関心を持つ
  • ・めげずに努力する
  • ・臨機応変に考え方を変える
  • ・「出来る」と信じる
  • ・リスクを恐れない

事例として、オリックスリビングの森川社長と東京日動火災保険執行役員の吉田正子氏を取り上げている。共に想定外の経歴(自分の希望あるいは想定している仕事とは違う)を歩みながらも、その時々の仕事にまじめに挑戦していった結果、思っても見なかった現在のポジションにいる。

この季節、新入社員を迎え、人事異動も多い。配属された職場が希望に沿わないことも多いだろう。そんな場合でも、後ろ向きに考えず、与えられた仕事を、上記「行動の心得」にもあるように、精一杯やることによって、新たなキャリアアップに繋がっていく。未来を憂えず、過去を悔いず、今に集中する「いま、ここ」の考え方を全うすることが自らの幸せにもつながっていく(http://jasipa.jp/blog-entry/7593、http://jasipa.jp/blog-entry/7878など)。

かくいう私も、全く元の会社と資本関係もない企業に呼んでいただき、図らずも社長、会長を経験させて頂いた。こんなすばらしい人生が送れるとは、全く予期せぬことだったが、20数年前お付き合いが始まった該社との出会いがこんなチャンスに繋がった。ほんとに人生は分からないものだ。思い返せば、私の人生も「いま、ここ」、与えられた仕事を誠心誠意実行してきた、そのお蔭と思っている。

人を成長させるためには弱みより強みに注目せよ!

これまで何回かにわたって、部下を育てるには「弱みより強みを育てること」が重要だと言ってきた。そして、人の長所を見抜く達人“吉田松陰”(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2547、http://okinaka.jasipa.jp/archives/2531)、「弱みより強みを磨こう」と言うコマツの坂根氏(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1917)、「組織として結果を出せないマネジャーの多くは、部下の弱みに目を奪われて、彼らの創造性を引き出せないでいます。」と言うドラッカー(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2515)などを紹介してきた。

「致知2015.4」にも複数の方が、同じことを言っている。まず、「鉄のパイオニア」と謳われ、先進的な取り組みで日本の高度経済成長を牽引した立役者の一人川崎製鉄(現JFEスチール)の初代社長・西山弥太郎に関する作家黒木亮氏の記事。多くの人の反対を押し切って千葉に一貫製鉄所を作った西山氏だが、社員や工員からも慕われ、誰もが一緒に仕事が出来た事を誇りに思う社長でもあったと言う。その西山氏の最期の言葉、

あなたがいつか人を使う立場になるだろう。いろんな人がいるが、その人のいい所だけをみて使ってゆきなさい。

7mしか泳げなかった子が1000m以上泳げるように、マット運動が出来なかった子が体操で九州4位になったなど、福岡県春日市立春日東中学校体育教師下野六太先生の指導を受けた生徒たちが、次々と苦手な体育を克服し、大きな成長を果たしている。その下野先生の考え方、

生徒たちは、本来“宝”です。もう本当に“宝”に見えます。我々教育者は、いかにして生徒たちの中に眠っている“宝”を引っ張り出すことが出来るか。

最近の子どもたちは自尊感情が薄い。そのため、子供たちに「自分にも価値があるんだ」と言うことを実感させる。そのためには、如何に達成感を味わわせるか?そのための指導法を常に考え抜く。水泳では自分の過去の経験に基づいて「リラックス」「毎回息継ぎ」「バタ足ではなくパタ足」の三つを徹底的に指導すると思わぬ成果が出た。これを「ビフォーアフタービデオ」にとって子供たちに見せる。ますます、やる気を出して見る見る距離は伸びていく。

本田宗一郎氏も松下幸之助氏も、社員は”宝“と考え慕われた。そして人は育った。下野先生の「生徒たちは宝」との発想での行動が、学校、会社などに普及すれば素晴らしい世の中になるのではなかろうか。人の弱みを責めるだけでは人は育たない。

“おもてなし”の哲学が組織を強くする(リッツカールトン)

世界最高峰のホスピタリティでお客さまを迎える「ザ・リッツ・カールトン・ホテル」元日本支社長高野登氏の講演会の内容が「PHP松下幸之助塾2015.3-4」に掲載されている。高野氏は「ものがあふれる現代社会では、“おもてなし”による人と人のつながりが企業を変革し、業績を生み出している。この言葉は今やサービス業だけのものではない。あらゆる企業にとって、社員が生きがいと働き甲斐を持ち、組織全体が成長するためのキーワードになっている」と言う。トップは社員の生きがいと働き甲斐を考え、社員は現場で成長し、組織に貢献する、こういう循環を「善の循環」と呼び、こんな理想的な会社が実在し、そんな会社をいくつも知っていると。高野氏が紹介する企業がすべて私のブログで紹介した企業であることが嬉しい。

まず、長野県の中央タクシーhttp://okinaka.jasipa.jp/archives/39)。お客様へのサービスを徹底的に差別化し、日本でもっとも「ありがとう」が飛び交う会社(お客様に対しても、お客様からも、そして社員同士でも)とも言えるそうだ。高野氏が言うには、普通はタクシーの運転手に「あなたの使命は?」と問うと、「お客さまを安全に、迅速に、目的地まで届けること」と答えるが、中央タクシーの運転手は「お客様の人生に命がけで向き合う事」と言うらしい。

次は、やはり長野県の伊那食品工業http://okinaka.jasipa.jp/archives/350)。50年近く増収増益を続けている驚異的な会社。トイレを含む職場環境の維持改善を通じて、経営者の哲学を隅々まで行きわたらせ、社員の自信や誇りを生み出している。何よりもすごいのは、採用十数名に対し8000人以上の応募があり、不採用になった人全員に手書きの手紙を送ると言う。こうして伊那食品工業ファンが増えていく。「PHP松下幸之助塾2015.1-2」にはトヨタ自動車社長と伊那食品工業社長の対談がある。お互いに尊敬しあう間柄で、経営に関する哲学について議論を交わされている。

最後はネッツトヨタ南国http://okinaka.jasipa.jp/archives/2557)。「あなただから買いたい」との人とのつながりが、幾多の危機を救い増収増益を継続している。

高野氏が言う“おもてなし”の原点は、聖徳太子の17条憲法の第一条「和を以て貴しと為す」にあると言う。”和“とは、馴れ合いではなく、一人一人が尊重し合い、相手を慈しみ、支え合うと言う精神。「何を以て何を為すか」、その原点をリッツカールトンの哲学とし、「人との出会いへの感謝を以て、その人の心に活き活きわくわくした思いを届けることを為す」と定めたそうだ。そしてドアマンや、ウェイターまで、この哲学を徹底し、行動につなげてきたと言う。組織の変革は、まずトップダウンで始まり(哲学・企業理念)、ボトムアップで完成する。トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも成し得ない。「社員が生きがいと働き甲斐を持つ会社とは何か?」真剣に考えて見たい。

冲中一郎