“サービス”とは?相手が喜ぶすべてのこと!

前項で予告した「PHP松下幸之助塾2015.5-6」に掲載の谷口全平氏の記事のタイトルだ。谷口氏は1964年松下電器に入社半年後に「創業者の傍で3,4年勉強してこい」と言われてPHP研究所への出向を命じられ50年近くPHP研究に携わることになった方だ。PHP研究拠点は京都の「真々庵」のため、お客様対応や、所員との議論や研究活動、そして自らの思索のために幸之助氏は週3-4回の頻度で来られていたため、近くで接することも多く、松下幸之助の薫陶を十二分に受けられたと言われる。その谷口氏の記事から、松下幸之助のサービスに対する金言を紹介する。

125ヶ国以上の経営者が集う世界大会で講演した際の外国経営者からの質問、

  • Q:「ビジネスマンの最も重要な責務は?
  • A:みんなに愛されることやな

「あの人からなら商品を買いたいな」とそう思ってもらうことが、ビジネスマンの責務だと。そして愛されるためには”奉仕の精神“が一番大事であり、製品、価格での奉仕に加えて、最も大事な奉仕は”サービス“だと。そして、”サービス“を「相手に喜んでいただけるすべてのこと」と定義する。谷口氏は幸之助氏のやってきた”サービス“は仏教の経典「雑宝蔵経」の「無財の七施」の考え方に近いと言う。すなわち

  • ・眼施(慈しみのまなざしを向ける)  ・和顔施(笑顔で接する)
  • ・愛語施(優しい言葉を使う)    ・身施(身体的な手助けをする)
  • ・心施(思いやりの心を持つ)     ・床座施(席を譲る)
  • ・房舎施(宿を貸す)

という七つで、「お金が無くても出来るサービス」と考えられる。実際、「真々庵」で接客する際、庭の掃除から始まり、「見えないところまでやらんとあかん」「苔は濡れすぎても、乾きすぎてもあかんで。程よい具合に湿らせなさい」のような指示が出る。座布団を並べるときは、裏表と前後を揃える。会議の資料では、資料の並べ方や席の配列など、参加されるかたの立場に立った配慮をされる。そして、お客さまが帰られるときは、新人であろうと必ず玄関までお見送りをされる。

そして幸之助氏の信念である

世の中は有り難いもので、サービスをすれば必ずそのサービス以上の報酬が返ってくるはずである

との言葉を紹介されている。返ってこないサービスは、真のサービスになっていないとも聞こえる。礼儀、道徳、思いやりは必ず実利に繋がる。交通道徳が高まれば事故が減るように、上司、同僚、お客様の関係が良くなれば生産性があがるとの主張だ。

さらに加えて、“商人”の条件の一つに「相手より頭が下がる人」というのがある。幸之助氏は人を使う立場にあっても謙虚さを心掛けていたと言う。先般、当ブログで「“問いかける”ことこそコミュニケーションの基本」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2955)との記事をUPしたが、幸之助氏は「従いつつ導く」との人使いの基本にあるように、部下との対話の中で下記のような問いかけを行う。

  • 「きみ、どう思う?わしはな、こう思う」
  • 「こうしようと思うんやけど、きみはどう思う?」
  • 「きみの方が専門だから、分かりやすく説明してくれんやろか」

相手の自主性に従いつつ、自分の思う方へ導いていく。部下の自立を促す手法として、この「問いかける」手法は、幸之助氏の大きな特徴だったそうだ。“サービス”に対する考え方、部下をその気にさせる手法など参考にすべきことは多い。

売れるか売れないかは二の次(夜市のやっさんの言葉)

4月27日(?)頃の夕刻、NHKの番組「シブ5時」を何となく聞いていたが、ちょっとした言葉が耳にひっかかった。「売れるか売れないかは二の次。お客さんがいっぱい来てくれることが一番」という岐阜柳ケ瀬近くの夜市でその日にとれた野菜を売っている老人の言葉だ。インターネットで調べると3月のNHKの「日本紀行」でも放映されていたようだ。その時の説明文に、

織田信長が奨励した楽市楽座が始まりとされる岐阜の夜間市場。かつては大勢の買い物客でにぎわったが、繁華街・柳ケ瀬の衰退や郊外にできた大型ショッピングセンターの影響で客足は激減。店を出す農家の高齢化も進み、存続が危ぶまれている。それでも、毎日のように通い続ける常連客がいる。とりとめのない会話、採算度外視の値引き…そこでしか味わえないふれあいを求めて。今夜もひっそりと営まれる、“夜市”の物語。

と記されていた。

腰も曲がっている老人が、20歳代の時から50年以上続けてきた夜市。“やっさん(安田さん)”の店の商品は自ら育てた野菜だ。特にその中でも大人の足ほどもある大根が“やっさんの大根”と有名らしい。飲食店の使いできた坊やや、家族連れで来た坊やには、「勉強しろよ」とその大根をタダであげる。病気療養で久しぶりに来たお客さんにも「体をだいじにしろよ」と大根をあげ、さらには少し先に止めている自転車の荷台に積みこんでやる。昔はもっと出店は多かったそうだが、今は卵屋と花屋とやっさんの店の3店だけとなってしまったが、店を続けられるのはなじみ客(リピート客)のお蔭と言う。店が開く前から何人も待っている姿が映し出されていた。期待以上のサービスを受け、感動が、感激、感謝へと昇華すれば必ずリピート客になる。

松下幸之助氏もサービスを重視し、幸之助氏自身もお客さまと接する時の細かい配慮(座布団の置き方など)が有名だ。「世の中は有り難いもので、サービスをすれば必ずそのサービス以上の報酬が返ってくるはず」との信念だ。赤字企業は世の中に奉仕できていないからと言い切る。「PHP松下幸之助塾」最新号に、PHP研究所に50年近く勤め、幸之助氏の薫陶を受けられた谷口全平氏の「“サービス”とは相手が喜ぶすべてのこと」との記事がある。まさに“やっさん”の考え方そのものだ。谷口氏の記事は別途紹介することとしたい。

“問いかける”ことこそコミュニケーションの基本

人の話を聞く姿はすさまじかった」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1929)松下幸之助のことをHISの澤田社長が述べた記事だ。松下幸之助は、「相手に問いかけて」「相手の答えを真剣に聞く」姿勢で社員に対した。それが社員との絆を深めることになり、幸之助信奉者やファンを増やすことにつながったとも言われている。

問いかける技術~確かな人間関係と優れた組織をつくる~」(エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監訳、原賀真紀子訳、英治出版、2014/12)をつまみ読みした。コミュニケーションで大事なのは「話す」ことより「問いかける」ことと言う。人間関係を築く3つのポイントとして下記を挙げる。

  • 自分から一方的に話すのを控える
  • 「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
  • 傾聴し、相手を認める努力をする

とかく自分がしゃべることに一生懸命になりやすい。相手に質問するのも上手ではない。ましてや、謙虚な姿勢で聞くとなるとさらに難しい。コミュニケーション・アナリスト上野 陽子氏の「説得の効果増! 聞き上手になる5つのトレーニング」の記事がPRESIDENT Onlineに掲載されていた(http://president.jp/articles/-/15094)。「プレゼンでも営業でも、あらゆる場面で“話を聞く”ことが、説得の切り札の一枚となるもの。しかし、本当に相手の話を理解しようとすることは、かなりの神経と体力すらも消耗する作業かもしれない。だから、努力が必要」と言う。相手が話しやすくなるように聞く作業として、下記のような動作をあげる。

  1. うなずく:相手に同意を示すことで、相手は話を進めやすくなる。
  2. 相づちを打つ:相手の意見を受け入れ、話を促す。
  3. 相手を見る:話を聞いている姿勢を示す。
  4. 質問をする:真剣に理解する姿勢を示し、さらに話を掘り下げる。
  5. メモを取る:相手の意見を真剣に受け止める姿勢を見せる。

そして、「さらに踏み込むなら、わからない点を確認したり、「こういうことですね。なるほど」と話を要約したりするといい。話はさらに広がるし、真剣に話を聞く姿勢が示せるようになる。そして、相手の話の腰を折らずに、関連する内容やエピソードを提示することで、相手もさらに話を展開しやすくなる。」とも。「問いかける技術」にも通じる話だ。

「聞き上手」がコミュニケーション成立の必須条件で、信頼関係を作るためにも、一方的にしゃべることをまずは控えることから始めてはいかがだろうか?

冲中一郎