感じる力が生きる力に!

前稿で、“共感力”について“コミュニケーションを良くし、対人関係をより良いものにするカギは「共感」にある”と言い、そして共感力を磨くために“考えるな、感じろ”と言う言葉も紹介した。

“感じる”と言うことに関して「致知2015.5」に共感できる言葉が掲載されている。会津出身で一昨年のNHK大河ドラマ主人公新島八重に関する著作や講演で有名なエッセイスト大石邦子氏と文筆家の石川真理子氏との対談記事「この人生を凛として生きる」の中の一節だ。対談を締める言葉としての石川氏の発言だ。

私も日々の暮らしの中で心掛けているのは、毎日小さな感動を積み重ねることです。毎日をただ何となく過ごしてしまうと、同じような日々が流れていくだけになってしまいますが、自分の目に映る世界を、心を以て眺めてみると、世の中は感動に溢れていることに気付きます。そうすると、生きていることそのものが感動だと思えるようになりますね。「平凡な人生」など、実はひとつもなくて、生きる上では誰もが苦しみ、悲しみを抱えているわけですが、感動する心がある限り「生きていることは喜び」だと思えるのではないでしょうか。

22歳で交通事故に遭われ半身不随となられた大石氏が壮絶な煩悶、苦悩の生活を乗り越えられ、「トイレに行けた、寝返りが打てるなんて、普通の人からすれば何でもない事だと思いますが、あがき続けた人間にとっては本当に嬉しい事なんです。そういう感動は今も続いていて、動きの鈍い左手で何かが持てたとか、今までできなかった事が出来るようになったりするんですよ。」との言葉の後の石川氏の言葉だ。大石氏は、心の制御ができず病院でも当り散らしながら自殺をも考えたことがあるほど心が荒れていた。変わられた直接のきっかけは看護婦の愛情だったそうだが、その後は両親、友人、とりわけ勤めていた出光石油の出光佐三氏から注がれる愛情に対する感謝の気持ちが生きる力を与えてくれたと言う。福島の震災事故にも思いを馳せながら「絶望は乗り越えれば力になる」と説得力を以て力強く話される。大石氏は

人間は生きてみなけりゃ分からない。苦しみはそれぞれで、みんなそれぞれ苦しみを喜びに変えて、生きる力に変えている。そういう風に人間は創られているのでしょうね。

と。死の淵を彷徨いながら、生きる力を得て70歳を超えられた大石氏の発言だけに迫力がある。

対人関係のカギは“共感力”!

過去にも“共感力”に関しては、何度か当ブログで紹介した。例えば、「選ばれる営業、捨てられる営業」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/299) とのタイトルで、その中の一文。

共感力:お客様の「よりよくありたい」との課題を共有し、相手の課題を自分のものとして感じ取ることが出来るようになることが、誰にも負けない熱意を生み出し、顧客を感動させる原動力となる。注文を逸しても、商品の問題にせず、お客様のニーズをしっかり理解できなかったことを反省し、次に活かすことも重要。

NHKのクローズアップ現代で取り上げられた話題にも触れた(http://okinaka.jasipa.jp/archives/450)。

かく言う私も、いろんなメディアに接し、何か共感できるものがあれば、皆さんのお役に立てればとの思いで当ブログにUPさせて頂いている。この1月に発刊された「プロカウンセラーの共感の技術」(杉原保史著、創元社)と言う本には、共感力について

コミュニケーションを良くし、対人関係をより良いものにするカギは”共感“にある

と言い、そして、

現代人は共感することが苦手で、共感を恐れている

とも。下手に共感するとへんに責任を負うことになり「生きづらさ」をもたらすからだろうと推測している。人と関わりを持たないで平和な生活を営むことが出来ると感じている。現代人は孤独であり、コミュニティが崩壊していると言われる所以だろう。しかし、それがほんとに幸せにつながっているのだろうか?人は本来集団生活の中で社会性が養われ、お互いに助け合いながら生きていくことで幸せを謳歌出来る動物だ。集団生活を形づくり、対人関係を円滑にするためには“共感力”が必須ではなかろうか。

お客さまとの信頼関係においても、“共感力”が重要だ。杉原氏の本では、共感力を磨くためのヒントやコツが書かれている。例えば

考えるな、感じろ

道を歩いている時、食事をしている時、誰かと話している時、何かを感じることなく、物思いに耽っている(何か別の事を考えている)ことはないだろうか?相手の思いを受け取るように聞く。自分の意見は脇に置いて。要は、相手から「この人なら話を聞いてくれる」「この人ならもう一度会いたい」「この人と話すと何かいいことがあるかも」「この人なら信用できる」と思ってもらうことに他ならない。

当ブログでは、“感動”についても何度か紹介させて頂いた。例えば「お客さまに“満足を超えた感動”をお届けする事」、そのために、感性と人間力双方を兼ね備えた「自律型感動人間」の育成を提唱し、その育成を推進しているスーパーホテル(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1489)や、高校球児に「感じること」の重要性を教え春夏制覇を果たした沖縄興南高校(http://okinaka.jasipa.jp/archives/13)など。“共感力”と“感動力”は切っても切れない関係とも言える。

キャリアの8割は偶然がもたらす!

4月6日日経夕刊9面の記事だ。多くの社会人は「自分は何をやりたいのか」「何が出来るのか」をしっかり検討し、実現に向けてプランを立て実行すべきだと信じている。だが、ビジネス界で成功した人を調べたところ、計画通りのキャリアを歩むケースは少数。8割は想定外の出来事がキャリアアップや成長の足掛かりになっていた。その結果を踏まえて、スタンフォード大学のクランボルツ教授は

キャリアの8割は偶然がもたらす

と言い、偶然のチャンスを待つだけの消極姿勢ではなく、想定外の出来事を糧とし、成長できるように行動の心得を提唱する。

  • ・新しいものに関心を持つ
  • ・めげずに努力する
  • ・臨機応変に考え方を変える
  • ・「出来る」と信じる
  • ・リスクを恐れない

事例として、オリックスリビングの森川社長と東京日動火災保険執行役員の吉田正子氏を取り上げている。共に想定外の経歴(自分の希望あるいは想定している仕事とは違う)を歩みながらも、その時々の仕事にまじめに挑戦していった結果、思っても見なかった現在のポジションにいる。

この季節、新入社員を迎え、人事異動も多い。配属された職場が希望に沿わないことも多いだろう。そんな場合でも、後ろ向きに考えず、与えられた仕事を、上記「行動の心得」にもあるように、精一杯やることによって、新たなキャリアアップに繋がっていく。未来を憂えず、過去を悔いず、今に集中する「いま、ここ」の考え方を全うすることが自らの幸せにもつながっていく(http://jasipa.jp/blog-entry/7593、http://jasipa.jp/blog-entry/7878など)。

かくいう私も、全く元の会社と資本関係もない企業に呼んでいただき、図らずも社長、会長を経験させて頂いた。こんなすばらしい人生が送れるとは、全く予期せぬことだったが、20数年前お付き合いが始まった該社との出会いがこんなチャンスに繋がった。ほんとに人生は分からないものだ。思い返せば、私の人生も「いま、ここ」、与えられた仕事を誠心誠意実行してきた、そのお蔭と思っている。

冲中一郎