売れるか売れないかは二の次(夜市のやっさんの言葉)

4月27日(?)頃の夕刻、NHKの番組「シブ5時」を何となく聞いていたが、ちょっとした言葉が耳にひっかかった。「売れるか売れないかは二の次。お客さんがいっぱい来てくれることが一番」という岐阜柳ケ瀬近くの夜市でその日にとれた野菜を売っている老人の言葉だ。インターネットで調べると3月のNHKの「日本紀行」でも放映されていたようだ。その時の説明文に、

織田信長が奨励した楽市楽座が始まりとされる岐阜の夜間市場。かつては大勢の買い物客でにぎわったが、繁華街・柳ケ瀬の衰退や郊外にできた大型ショッピングセンターの影響で客足は激減。店を出す農家の高齢化も進み、存続が危ぶまれている。それでも、毎日のように通い続ける常連客がいる。とりとめのない会話、採算度外視の値引き…そこでしか味わえないふれあいを求めて。今夜もひっそりと営まれる、“夜市”の物語。

と記されていた。

腰も曲がっている老人が、20歳代の時から50年以上続けてきた夜市。“やっさん(安田さん)”の店の商品は自ら育てた野菜だ。特にその中でも大人の足ほどもある大根が“やっさんの大根”と有名らしい。飲食店の使いできた坊やや、家族連れで来た坊やには、「勉強しろよ」とその大根をタダであげる。病気療養で久しぶりに来たお客さんにも「体をだいじにしろよ」と大根をあげ、さらには少し先に止めている自転車の荷台に積みこんでやる。昔はもっと出店は多かったそうだが、今は卵屋と花屋とやっさんの店の3店だけとなってしまったが、店を続けられるのはなじみ客(リピート客)のお蔭と言う。店が開く前から何人も待っている姿が映し出されていた。期待以上のサービスを受け、感動が、感激、感謝へと昇華すれば必ずリピート客になる。

松下幸之助氏もサービスを重視し、幸之助氏自身もお客さまと接する時の細かい配慮(座布団の置き方など)が有名だ。「世の中は有り難いもので、サービスをすれば必ずそのサービス以上の報酬が返ってくるはず」との信念だ。赤字企業は世の中に奉仕できていないからと言い切る。「PHP松下幸之助塾」最新号に、PHP研究所に50年近く勤め、幸之助氏の薫陶を受けられた谷口全平氏の「“サービス”とは相手が喜ぶすべてのこと」との記事がある。まさに“やっさん”の考え方そのものだ。谷口氏の記事は別途紹介することとしたい。

“問いかける”ことこそコミュニケーションの基本

人の話を聞く姿はすさまじかった」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1929)松下幸之助のことをHISの澤田社長が述べた記事だ。松下幸之助は、「相手に問いかけて」「相手の答えを真剣に聞く」姿勢で社員に対した。それが社員との絆を深めることになり、幸之助信奉者やファンを増やすことにつながったとも言われている。

問いかける技術~確かな人間関係と優れた組織をつくる~」(エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監訳、原賀真紀子訳、英治出版、2014/12)をつまみ読みした。コミュニケーションで大事なのは「話す」ことより「問いかける」ことと言う。人間関係を築く3つのポイントとして下記を挙げる。

  • 自分から一方的に話すのを控える
  • 「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
  • 傾聴し、相手を認める努力をする

とかく自分がしゃべることに一生懸命になりやすい。相手に質問するのも上手ではない。ましてや、謙虚な姿勢で聞くとなるとさらに難しい。コミュニケーション・アナリスト上野 陽子氏の「説得の効果増! 聞き上手になる5つのトレーニング」の記事がPRESIDENT Onlineに掲載されていた(http://president.jp/articles/-/15094)。「プレゼンでも営業でも、あらゆる場面で“話を聞く”ことが、説得の切り札の一枚となるもの。しかし、本当に相手の話を理解しようとすることは、かなりの神経と体力すらも消耗する作業かもしれない。だから、努力が必要」と言う。相手が話しやすくなるように聞く作業として、下記のような動作をあげる。

  1. うなずく:相手に同意を示すことで、相手は話を進めやすくなる。
  2. 相づちを打つ:相手の意見を受け入れ、話を促す。
  3. 相手を見る:話を聞いている姿勢を示す。
  4. 質問をする:真剣に理解する姿勢を示し、さらに話を掘り下げる。
  5. メモを取る:相手の意見を真剣に受け止める姿勢を見せる。

そして、「さらに踏み込むなら、わからない点を確認したり、「こういうことですね。なるほど」と話を要約したりするといい。話はさらに広がるし、真剣に話を聞く姿勢が示せるようになる。そして、相手の話の腰を折らずに、関連する内容やエピソードを提示することで、相手もさらに話を展開しやすくなる。」とも。「問いかける技術」にも通じる話だ。

「聞き上手」がコミュニケーション成立の必須条件で、信頼関係を作るためにも、一方的にしゃべることをまずは控えることから始めてはいかがだろうか?

がん患者の駆け込み寺「がん哲学外来」って知っていますか?

22日の各新聞朝刊に元ワイルドワンズ加瀬邦彦氏の訃報が報じられた。グループサンウンズ華やかなりし時代の我々団塊世代の青春の歌「想い出の渚」をYouTubeで聞きながら加瀬氏を偲んだ。加瀬氏は喉頭がんで声が出なくなったそうだが、悲しいことに自殺の可能性が報じられている。「つんく」も喉頭がんで声が出なくなったが、生きる為に声を失う決断(がん切除手術)をしたと言う。この年になると、同僚や同級生ががんで亡くなることが目立つ。ガンの告知を受けた時の気持ちを思うと惨憺たる気持ちに襲われる。さぞかし、声を生きがいにしてきた加瀬氏とつんく氏も多いに悩まれたことと思うが、生きることへの決断は二人で違った。

「致知2015.5」に「“がん哲学”が日本の医療を変える」とのタイトルで一般社団法人がん哲学外来理事長(順天堂大学医学部教授)樋野興夫氏のインタビュー記事がある。そのリード文は

いまや国民の二人に一人が罹るといわれるがん。突然の宣告に直面した患者の多くは、生きる意義を見失い、悩み苦しんでいるという。そんな患者たちの駆け込み寺となっているのが、樋野興夫教授が提唱する「がん哲学外来」だ。

とある。「がん哲学外来」は2008年に開設し、今では全国に70か所の拠点がある。

患者の多くはがんと宣告されたことで鬱的になる人が多く、自殺未遂を起こす人が3人に一人はいるそうだ。樋野教授は、「日本の医療は医療者中心で患者視点からは遠い」との問題意識から、がんを宣告されることで、生きることの根源的な意味を考えようとしている患者さんが最も必要としていることは何かと考え、患者さんとの対話の必要性に思い当たり、「がん哲学外来」の創設に至ったそうだ。樋野教授は個人面談の形で患者に対しておられるが、他の拠点では、患者が中心となってお茶を飲みながら語り合う自主的な運営となっているとの事。

樋野教授は、大学浪人時代に出合った尊敬する人から、「自分の専門外の本を、寝る前に30分読む習慣を身に付けよ」と教わり、薦められた東京大学初代総長南原繁や新渡戸稲造、内村鑑三などの書物を読み漁った。そして彼らが説く「人間いかに生きるべきか」という思索の中に入っていったことが、自分自身を形成したと言う。「人生における邂逅の三大法則は、よい先生、良い友、そしてよい読書」とも。そして、患者の心を読みながら、これらの著名な方々の発する言葉を“言葉の処方箋”として薬の代わりに出されている。例えば、ガン治療後職場復帰したが、もとの重要な仕事に戻れず辛さを吐露する患者に、内村鑑三の「人生の目的は品性を完成するにあり」の言葉に基づいて

人生の目的は仕事の成功でも世間の賞賛、ましてやお金持ちになることでもない。それよりも今自分の目の前にあることに一所懸命取り組むこと、そして人に喜んでもらうことによって品性が磨かれていく。だから耐えることで品性が生れ、品性を磨くことによって本当の希望が生れる

と患者に伝えている。そんな言葉が100程度あるそうだ。家族ともどもほとんどの方が涙を流されるという。

「がん哲学外来」の各拠点には、1日70名くらいの方が来られると言う。がんに罹り、心身ともに疲れ切った時には、「がん哲学外来」を活用して自分を見つめ直し、これからの生き方に思いを馳せることにしては如何だろうか?加瀬邦彦氏に合掌!

冲中一郎