今、滋賀県大津市の中2の自殺事件が、マスコミを賑わしている中、学生の不登校や発達障害の増加などの問題がテレビ・雑誌でもよく取り扱われている。13年前にNHKテレビの特集で取り上げられ「学級崩壊」という言葉が普及したことがある。最近ではこの傾向がさらに激化し、「新型学級崩壊」と言われているそうだ。すなわち、これまでは新米先生の教室において生徒が言うことを聞かず、勝手放題の行動を取るケースが多かったが、最近は学校でも一目置くベテランの先生の教室でも荒れているとか。
埼玉県の教育委員長、自治省委員会座長などを歴任され、現在も教育関係の社団法人やNPO法人を通じて教育現場の改革に取り組んでおられる明星大学教育学部の高橋史朗教授の「親学の普及徹底なくんば国は浮上せず」という教育現場からの提言を読んだ(致知8月号)。この記事によると、今の授業風景をビデオで見た人は、これは休憩時間ではないかと一様に驚かれるそうだ(授業中に机を離れて動き回っている)。このような現象は、その数が1クラスに1割以上いると言われる軽度発達障害に似た症状を持つ子供が増えたためと言われる。このような状況を生み出す原因の一つは、近年増加の一途を辿る児童虐待で、親から虐待を受けた子供たちは傷や打撲などの外傷にとどまらず、脳にも悪い影響を受け、それが子供たちの異常な行動となって現れるという。あるレポートによると、クラスで昔は「親に殴られたことのある人」と問うと2-3人が手を挙げたが、今は逆に「殴られたことがない人」が2~3人という状況らしい。教師が精神疾患にかかる比率も急上昇しているそうだが、もう一つ問題視されているのは、子供たちによる万引き増加だそうだ。警察庁によると平成21年度被害総額4615億円、万引きが主な原因で閉店に追い込まれた書店が年間で1000軒を超えているそうだ。ユニセフの「子供の幸福度調査」によると「孤独を感ずる」との回答が日本は30%、2位以下はいずれも10%未満とのこと。高橋氏は、この問題の根っこは、家庭教育に問題があり、昔に比して親の子どもに対する関わり方が変化してきたのではないかとの思いから「親学(おやがく)」を提言されている。
「親学」とは、親が親として学んでいくこと、つまり親になるための学びを言う。ある母親が保育士に言い放った。「私たちは生むのが役割、あなたたちは育てるのが役割」と。3世代同居から核家族化になって、子育ての伝統が継承されず揺らいでいる。今こそ、家庭での子育てを取り戻したい。母性的な慈愛に基づく愛着形成があって、「ならぬことはならぬ」父性的義愛(子供の我がままと対決する形での躾)が成立する。母親の8割がテレビやビデオを見ながらの「ながら授乳」とか。しかし、授乳中のアイコンタクトこそ子供に安心感を与え、親との一体感が生まれる。子供たちの恥や罪悪感、共感性といった感性が育つ臨界期は2歳の終わりころだとの説がある。この知見によれば、2歳の終わりころまでに親がどう子供に関わるかが決定的に重要ということになる。そして「教育の道は、家庭の教えで芽をだし、学校の教えで花が咲き、世間の教えで実がなる」(埼玉県のある高校で親たちに配られた文章)を噛みしめ、みんなで未来をしょってたつ子供たちの育成に努めなければならない。
学校がいまだに荒れているとは知らなかった。少子化に加えて、子供たちの成長が期待通りに進んでいないとすると、日本にとっては大きな問題である。これからも、大きな関心を持って見つめていきたい。