「組織・風土改革2014」カテゴリーアーカイブ

スーパーホテルの進める「自立感動型人材の育成」とは

ブログで何度も取り上げている、スーパーホテルの山本梁介社長の推進する「自律型感動人間」の育成に関して、山本社長自身が語られている記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年7・8月号」にあった。「自律型感動人間がお客さまを引き寄せる」とのタイトルだ。そのリード文、

「安全・清潔・ぐっすり眠れる」をモットーに、一泊朝食付き5120円からという低価格にもかかわらず質の高い宿泊サービスで人気を博するスーパーホテル。平均稼働率が90%以上、リピート率に至っては、ホテル業界では非常に高い70%、平日ではなんと90%を超えると言う。「お客様第一主義」の方針のもと、顧客に対し、満足にとどまらず感動までもあたえるべく、従業員が自ら考え、感謝の気持ちを持って行動できる「自律型感動人間」の育成を提唱している。

今や国内ホテル数は100を超え、海外にも展開中のスーパーホテル。めざすは「お客さまに“満足を超えた感動”をお届けする事」。そのために、感性と人間力双方を兼ね備えた「自律型感動人間」の育成を提唱し、その育成を推進している。船場の繊維商社から始まり、不動産賃貸業、シングルマンションからホテル経営と、多難な道を歩んできた山本社長。その過程で経営のコツを実体験の中から学び、サラリーマンが出張費の中から出張先で一杯飲める金額「5000円程度でゆっくり休めるホテル」と言うことで誕生したのがスーパーホテルだそうだ。ITを駆使して、チェックインを自動化してチェックアウトを無くす。そのために部屋の電話や冷蔵庫など部屋の有料サービスをなくす。部屋のキーも暗証番号制のオートロックを取り入れなくした。経営理念に「安全・清潔・ぐっすり眠れる」ことを謳い、この点に不備があれば宿泊料金を返金することにしているが、かっては年100万円近く返金していたが、今は数万円程度だとか。お客さまからのクレームを「ラッキーコール」と呼び、枕が原因でぐっすり眠れないとのクレームで、枕を選べるシステムを採用。暑い日には「お帰りなさいませ」の言葉と同時に冷たいタオルを出す。

「自律型感動人間」とは、「自分で考え、行動でき」、「相手の立場に立って考え、感謝できる人」を言う。「人に対する感謝の気持ちが強い人ほど、お客様を喜ばせることに積極的で、感動を与える人でもある」と山本社長は言う。この理念を書いた「Faith」を皆が持ち歩き、毎朝唱和し、一人一人の取り組みを紹介し、経営陣がコメントすることを繰り返す。週に一度の上司と部下の対話の中で「自分に自信を持たせる」ことも「自律型感動人間」のためには必要だと言う。環境に優しいロハスにも力を入れ、「スーパーホテルlohas東京八重洲中央口」をオープン、女性に人気でお客様の半数が女性だそうだ(全体でも30%が女性)。

理念に基づく人材育成」、そして「自律型感動人材の育成」、容易いことではないとは思うが、会社の成長と社員の幸せのためにも考えるべきテーマではないだろうか。

イケアが日本の人事制度に一石!

8月3日の日経朝刊10面「日曜に考える」(中外時評)の「週12時間の正社員~日本社会にイケアが一石」(論説副委員長水野裕司)に目が止まった。イケアは当ブログでも、企業理念「より快適な毎日を、より多くの方々に」やその理念に基づく10か条の「IKEA Value」を紹介しCo-Partnerの育成に注力している姿に感銘を受けた事を述べた(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/entry/7728)。「世界でいちばん大切にしたい会社」(翔泳社)にもイケアは登場している(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1152)。

大学で心理学を勉強したイケア・ジャパンのピーター・リスト社長は、いろんな仕事を通じ学んだのは「人のモチベーションを如何にして高め、上手に成長させるか」ということ。その方向に沿って「どんな会社にすればいいか」を考え、「性別、年齢、国籍などを問わず、そして正規社員、非正規社員の区別もなく、自分の力を発揮出来たり新しいスキルを習得出来たりする、誰にでも成長できる機会の平等があること」、「子育て、介護などに時間を割くことになっても、安心して長く働き続けられる環境が必要」との結論を得た。そしてこの9月から、その理念に沿っての下記新制度を実施することにしたそうだ。

  1. パート社員全員に正社員の人事制度を適用する

・職位や担当業務ごとに正社員の賃金を時給に換算して、ポストや    仕事の業務が同じならパート社員にも正社員と同じ賃金を支払う。

・正社員と同じようにポストや報酬が上がる

・パート社員と正社員の区分けを廃止するため、呼称を「コワーカー(共に働く人)に統一する

2.柔軟な労働時間制度を新設する

・1週間の勤務時間を12~24時間、25~38時間、39時間(フルタイム)の3つから選べる。結果として今週は12時間、来週は20時間などと働く時間を調節できる。育児・介護や資格取得などで労働時間を短縮したい場合に利用可能となる。(現在正社員は40時間のフルタイム勤務。)

3.パート社員も含めて、各人の生産性向上のため、全員と上司が面談し職務遂行能力の確認や、新しいスキル習得の目標設定などを進めている。

イケヤ・ジャパンでは、約3400人が働き、その7割がパート社員。「誰にでも、そして人生のどんな局面でも、働くことを通じて成長と自己実現の機会がある。人が育てば組織も強くなる。」そんな会社を目指す。

「パート社員にとって正社員と同じ成長機会を得るにはハードルもあるが、それを乗り越えてこそ新しい風景が開ける。イケア・ジャパンの改革は、正社員と非正規社員の二極化が進み、正社員の長時間労働が女性の活躍を阻む中で示唆に富む。」と編集子水野氏は言う。

イケア・ジャパンの改革は、政府の成長戦略の目玉である「女性の活躍促進」と「非正規社員問題」「労働生産性向上」など日本の課題に対する一つの提案でもある。果敢な挑戦とも言えるが、その成果を期待したい。

「Orchestration」(ともに響きあう)

この言葉心に響きませんか?ギリシア・ローマ考古学者で、全国美術館会議会長、国立西洋美術館館長などを歴任し、平成25年から文化庁長官に就任された青柳正規氏の座右の銘だ(「致知2014.7」‘私の座右の銘’の記事への投稿文より)。

27歳のころボンベイの発掘調査を任され、発掘計画から、人員確保、資金集め、現場の指揮などあらゆる業務を自らの判断で行うことになった。その時、自分は寝食を忘れて働いているのに他のメンバーは契約時間しか働かなかったり、自分の専門知識以外で難渋し思うように調査が進まない時期が続くことになった。その時「仕事と言うのは自分一人の力だけでできるものではない」と心の底から思い至った。そこで、気付いたのが、上からの命令や自分の意見を押し付けるのではなく、今携わっている仕事の意義や醍醐味、何を解明すればどういう成果が得られるかなどを根気よくメンバーに伝え、全員が同じ目標を共有して自発的に仕事に打ち込める環境つくりの重要性だった。このような試行錯誤の中からOrchestrationと言う言葉を意識し始め、「メンバー全員が‘やらされている’のではなく、’自分でやろう‘と思って努力しない限りクオリティの高い仕事は出来ない」と言うことの実感を得たと言う。発掘調査では、何が出てくるか分からないため、人骨が出てくれば文化人類学者、家屋を発見すれば建築士に、稙物が出てくれば植物学者にと多様な専門家が力を合わせて初めて大きな成果につながる。

システムプロジェクトも全く同じだ。プロジェクトメンバーが顧客企業がどんな企業かも知らずせっせとプラグラムを書いていると言うこともあった。役割分担は当然あるが、個々のメンバーが、常にそのプロジェクトの意義や全体感を把握しながら、お互いに連携しながら進めていかなければ成功しない。プロジェクト発足時に作るプロジェクト計画書を充実させ、プロジェクトメンバー(パートナーも含めて)に徹底する。プロジェクトを通して個々のメンバーが何を目標として成長するかも記述することが必要だ。

プロジェクトのスローガンなどにも、場合によっては企業理念にも「Orchestration」は使える。お客さまとの間にも使え、お客さまに何か新鮮な心地よい響きを与え、感じてもらえ、それだけでもプロジェクトあるいは企業間の一体感向上に効果があるように思えるがいかが?