「組織・風土改革2014」カテゴリーアーカイブ

“イクボス”って何のこと?

“イクボス”って言葉、聞いたことありますか?“イクメン”は、育児にも積極的に関わるパパ、“イクジィ”は、孫育てに積極的なおじいさん、そして“イクボス”は、育児・介護など、部下の私生活を応援しながら、業績もきっちりと上げるという、『理想のボス』だそうだ。6月16日のNHKクローズアップ現代で「人生多様化時代。変わる理想の上司像」とのテーマで”イクボス“を話題にした。番組の趣旨を下記する(NHKのインターネット記事より)。

育児や介護などを抱える社員、定年延長による高齢社員、そして若い男性社員の価値観の変化。働き方に制約のある社員が増加する中、彼らにどう接し、会社の業績に貢献させたらよいのか、現場の戸惑いが増している。カギとなるのが、管理職や経営層などの上司、いわゆる「ボス」の手腕だ。社員の個々の事情を配慮しつつも、重要な戦力として、その能力を発揮して活躍してもらうという、「優しく、そして厳しい管理職」の育成が企業の急務となっている。そうした理想の上司を「イクボス=部下のプライベートに理解と配慮のある上司」と名づけ、「イクボス養成塾」なるセミナーなどの取り組みも始まっている。人材が多様化する時代に求められるボスとはどんなボスなのか。その高度なマネジメント術は如何なるものか。「働きやすく働きがいのある」職場に必要なヒントを探る。

具体的にイクボスを育てる会社文化を作り成功している三つの事例を紹介している。三井物産ロジスティクス・パートナーズの代表取締役川島高之さん。33歳の時フルタイムで働く奥さんとの間に子どもが生まれ、働き方を変えた。その時から残業をやめるべく集中して働き、新しいボス像イメージを抱き続けた。そして社長になった今、「業績を上げることと、部下にも私生活があり、それを尊重することは部分的に相反する。でも両立は絶対出来るというか、両立したほうが仕事の成果も高まる。実感です、私の経験値。」とアニバーサリー休暇(家族の記念日休暇)、ボランティア休暇などの制度を充実させ、”イクボス“はほぼ定時に毎日退社する。それでも会社は成長を続けているそうだ。川島社長が心がけているのは”イクボスの成長“。どんな部下にも少し難しめの仕事を託し、成長を促す。

群馬県藤岡市の建設会社(高い技術力が評判のこの会社で、社員31人のうち3割が60歳以上。県から‘働きやすい企業’表彰も受けている)倭組専務取締役内田孝嗣さん。「安定した精神状態で日々を送ると、すべてにいい結果が出る。何よりも安全に仕事ができる。どこまで追求できるかという部分もあるが、頑張りたい。」と、社員の私生活上の問題をも把握するために部下との対話を心掛けている。ある社員は「孫育て休暇」で子ども夫婦共働きを支援する。急な休みが入った場合、社員同士でカバーしあうシフトの組み方を工夫している。

大日本印刷では、制度があっても、制度を利用した短時間勤務の社員には重要な仕事を任せられないとの風土があり、利用した社員のモラルダウンや離職を招いていた。その風土を変え、安心して子育てや介護が出来るよう、管理職の研修を充実させている。その成果は出始め、定期的に上司と部下との目標管理や、進捗上の課題などを話し合う場を持つと同時に、職場でお互いにカバーしあう環境が整いつつあるそうだ。そして子育て中の営業マンのパフォーマンスも向上した事例を紹介していた。

ゲスト佐藤博樹さん(東京大学社会科学研究所教授)は、「部下に意欲的に働いてもらう」のが管理職の仕事であると言う。今社員の3割が介護や、子育ての問題を抱えている状況にあるそうだが、今後その比率はますます増えること必至だ。労働人口が減る問題と相まって、社員の生産性、効率を如何に上げるかが今後ますます大きな課題となってくる。管理職の登用条件や評価基準の見直しなども行い、このような問題を全員で共有しながら会社の文化・風土を変えていくことが求められている。”イクメン“にかわって”イクボス“がこれからのキーワードだ。

「人間らしい組織づくり」を模索する米国ビジネス

「従業員の幸せが顧客と社会の幸せを生む~米国優良企業が実践する「コアバリュー経営」~」と題した日米間ビジネス・コンサルタントダイナ・サーチ、インク代表石塚しのぶ氏の投稿記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014/3・4月号」にあった。

記事のリード文に「・・・実は、効率重視のイメージがある米国企業の中に、従業員の満足を優先して業績を伸ばし、注目を集めているところがあるという。規模や業績の追求より、理念や価値観、企業文化を重視することで、従業員の満足や一体感が高まり、結果として業績につながっている。本稿では、30年以上にわたって日米間のコンサルティングで実績を上げる経営のプロが、米国で行われている“人間大事の経営”についてレポートする。」とある。そして、実例として紹介されているのがラスベガスを本拠とし、靴やアパレルを取り扱うネット通販の「ザッポス」とオースティンを本拠とし、北米や英国で335店舗を展開する世界最大のナチュラル・オーガニック・スーパー(自然派食品を扱うスーパー)だ。

ザッポスのコア・バリュー経営“お客様に幸せを届ける”

ザッポスは、当ブログでも紹介したことがある(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/entry/6170)が、1999年に設立し10年足らずで年商10億ドルを突破、その後3年間でさらに2倍にするなどめざましい成長を遂げている会社だ。その快進撃の源は、最高経営責任者のトニー・シェイクいわく「企業文化」だ。「人=貴重な財産」と考え、労働力だけではなく感性や、創造性、機転といった人間ならではの能力を発揮してもらうことを狙う。そこで、企業文化として規則や階層に基づく命令系統で個人の仕事を統制するのではなく、企業文化の基盤である「中核となる価値観(コア・バリュー)」を定め、規則や命令の代わりに「価値観」に基づく行動や発言を徹底して、従業員が自律する組織を志した。これを石塚氏は「コア・バリュー経営」と呼んでいる。「サービスを通してWOW(驚嘆)を届けよ」を第一条に掲げる「10のコア・バリュー」があり、コンタクトセンターのオペレーターにも「顧客を満足させるためなら、ほとんど何をしてもかまわない」ほどの裁量権限を与えている。“お客さまに幸せを届ける”それが、ザッポスの存在意義(コア・パーパス)だ。

ホール・フーズ・マーケット“会社はみなのもの”

年商129億ドルを誇り、比較的高い価格帯にもかかわらず、年率二ケタ台の勢いで成長し続けている優良企業だ。該社の「コア・バリュー」は「民主的な会社であること」で、従業員の「運命共同体」意識を高め、「全員参加型」を地で行く会社作りをしている。その一例としてユニークな「採用プロセス」が紹介されている。店舗で働く店員は、まず各店舗の管理者の面接を受けて仮採用となるが、本採用となるまでには、自分が希望するチームのメンバーによる面接と見習い期間(30日から90日間)をクリアすることを求められる。見習い期間の終わりにチームメンバーの討議と投票を経て本採用(全体の3分の2の賛同)となる。「仲間を選ぶ責任を個々の従業員に課すことによってチーム意識を育み、ひいては会社への所有者意識を育む」事を目的とし、チームを重んじ、自律性・自主性を重んじる経営を目指している。その成果は、様々なアイデアが各店舗で生まれ、いいアイデアは国を跨って拡がっていく。「自分達の会社は自分たちの手で作るんだ」との責任感と義務感、そして喜びと誇りを実感できる制度がいくつも存在し、実践されている。

大きくなるより偉大になろう「スモールジャイアンツ」

米国では「大きくなること(規模の追求)」よりも「偉大になること(意義の追求)」に重きを置く小・中規模企業が自らを「スモールジャイアンツ(小さな巨人)」と称してネットワーキング団体を組織し「最も働きたい会社」や「もっとも急速に成長している会社」などのリスト上位に登場して頭角を現しているそうだ。商品や価格では差別化が難しい時代の中で、「人」の力が最大の武器になったと言える。これに磨きをかけるのは莫大な資金力を要することではなく、小・中規模企業にも大企業より優位に立つチャンスがあるということと石塚氏は言う。ただし、莫大な資金力を要求しない代わりに、経営者をはじめ、関わる人達全員の覚悟と真心と辛抱強さを要する。「従業員の、従業員による、従業員のための会社」をめざすことが、未来の経営の姿であると締めくくる。

時を同じくして、ホール・フーズ・マーケットの創業者兼共同CEOジョン・マッキーが「世界でいちばん大切にしたい会社」(鈴木立哉訳、翔泳社、2014.4)を出版した。ホール・フーズ・マーケットはもちろん、イケア、コストコ、サウスウェスト航空、スタ―バックス、タタ・グループ、トヨタなどの企業を紹介している。今読み始めたところで、いずれ紹介したい。

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「怒らない経営」で成長した宅配寿司「銀のさら」

宅配寿司「銀のさら」や宅配釜飯「釜寅」を展開し、宅配寿司業界では44%のシェアを有するライドオン・エクスプレス。高校卒業後アメリカに渡り、寿司店での経験から飲食店を経営するとの目標をもって帰国。アメリカで人気だったサンドイッチ店を岐阜市に創業したのが1992年、しかし上手くいかず、寿司店経営に変わった。紆余曲折の中で見つけた経営手法は「感謝の心」と「怒らないこと」。「人間はみな平等だと分かっていることが、どんな経営手法を学ぶより大事」という江見朗社長の人間大事の経営に関する記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年3・4月号」に掲載されている。

サンドイッチ店が上手くいかず、にっちもさっちもいかなくなった時、仕入れ業者の納品の時ふと「ありがとう」の言葉が口をついて出た。背水の陣に追い込まれた時の気付き「自分には相手の気持ちを思いやる優しさがなかった。業者さんもきちんと納品してくれるが、自分は彼らに対して何ができているのだろう」と、その時心の底から感謝の気持ちが湧きあがってきたと言う。そこから経営状態が改善し始めたそうだ。松下幸之助氏、本田宗一郎氏、盛田昭夫氏など名経営者も著書の中で言っていることに共通点があった。それは、「周囲への感謝の気持ち」だった。それ以来、「私は半端な気持ちではなく、99.999%周囲のお陰と感謝の気持ちを持って生きている」と江見社長は言う。「感謝の心」はよい人との出会いを引き寄せ、人生の好循環を生みだす原点であるとも。

もう一つ「怒らない経営」は、宅配寿司を配達した時のお子さんも含めたお客さまの笑顔が忘れられず、宅配の役割は「お寿司を届けることではなく、家族の団欒を届けている」ことに気付く。「お客さまとの一瞬の接点が宅配ビジネスの要諦」と。そのためには、社員みんなが常に気分よく仕事ができ、常に笑顔でお客さまと接することが出来る雰囲気を作ることが経営者や店長の役割と考えた。人間の尊厳と言うはかりでは、経営者も従業員も同じ重さであり人間に上下の序列はなく、自分には一方的に怒り人を傷つける権利はないとの考え方でもある。しかし「叱る権利」はあると言う。それは例えば仕事をさぼったり、手を抜いたりする人が居れば、その人は評価が下がり、給料も下がる可能性がある。江見社長は「自社の利益と言うよりも相手(従業員)の利益を最大化するために叱る」と言う。しかし、自分は完璧な人間ではないため怒ることも有るが、その時は、自分がとても恥ずかしく、すぐに「怒っちゃってごめんね」と謝るようにしているそうだ。

「怒らない経営」を世間では「ぬるま湯」と批判する人もいる。しかし、江見社長は「怒らない経営が一番も儲かるからやっている。証拠は、ぬるま湯ではなかなか達成できないシェア一位がとれたこと」と言い切る。

最後に江見社長は「“よい人生”とは、夢をかなえたときに訪れるのではありません。いちばん大事なのは、今この瞬間。その積み重ねが、よい人生になるのだと思います。怒ることで「今」を不快にするのではなく、感謝をしながら生きて見ませんか」と言う。

今回の「松下幸之助塾」のテーマは「人間大事の経営」。名経営者の誰もが言う「社員こそ宝」との考え方をいろんな形で実行、具現化している企業は数多くある。この事例もヒントにはなると思われる。