「組織・風土改革2013」カテゴリーアーカイブ

「幸せの創造」をビジネスの使命として経営する会社

長野県伊那市に、寒天商材でシェア約80%を誇る企業がある。伊那食品工業だ。従業員400数十名の企業で、年間1万通ものファンレターが届き、新卒の就職希望者は毎年2000名を超えると言う。寒天製造と言う成熟産業にありながら、新技術を開発し、新市場を開拓し続け、48年にわたり増収増益を続けている奇跡に近い会社だ。(「BEソーシャル!社員と顧客に愛される5つのシフト(斉藤徹著、日本経済新聞社)」より)

早速ホームページを調べてみた。堀越会長の挨拶に「”社員1人ひとりのハピネス(幸)の総和こそ、企業価値であると確信する今日この頃です。」とある。企業理念は5ページにわてって、二宮尊徳の考え方なども含めて詳しく書かれている。社是は「いい会社をつくりましょう~たくましく、そしてやさしく」。続いて「いい会社」とはとの説明文がある。

単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で 「 いい会社だね 」 と言ってくださるような会社の事です。「 いい会社 」 は自分たちを含め、すべての人々をハッピーにします。そこに 「 いい会社 」 を作る真の意味があるのです。そして二宮尊徳の言葉を紹介している。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である

そして「凡事継続」のタイトルで

  • ■当社の一日は毎朝の庭掃除から始まります。
  • ■その前の通勤時は、道路を右折して会社には入ってこないようにしています。会社の前の道は片側 1車線の道路で、右折で待っていると、後続車が詰まってしまい、渋滞の元になってしまうからです。 そのため、一度通り過ぎてから、大廻して左折で入るよう心がけています。また、たとえばスーパーの駐車場に車を止めるときはなるべく離れたところに止めるようにしています。そうすれば、近い場所には妊婦やお年寄りの方の駐車スペースができるのです。

とあります。

カンブリア宮殿やクローズアップ現代などテレビ番組や、各種新聞、ラジオなどにも頻繁に取り上げられ、見学者もひっきりなしだと言う。

斉藤徹氏は、「ソーシャルメディアの時代」に生き残るのは、社員にも、顧客にも、あらゆる生活者に共感と信頼を持たれる企業のみだろうと言う。昨年フェースブックのユーザ数が10億人を超え、利用者一人あたりの投稿量は年2倍のペースで増加している。そして生活者のオープンな投稿が社会を、企業を透明にする源になり、霧が晴れるように開かれていくと予言する。考えさせられるテーマだ。

‘クロネコヤマト’のDNA

「PHP Business Review 松下幸之助塾2012年9.10月号」の特集は「創業理念を継承する」である。そのトップにヤマトホールディングス会長の瀬戸薫氏の“生き続ける「ヤマトは我なり」のDNA-現場重視が自然な伝播・浸透を後押しする”の記事がある。

記事のリード文:昨年3月の大地震発生から数日間、各地の被災地には、無償で働くクロネコヤマトの社員たちの姿があった。気仙沼市や釜石市では、社員が市に申し出て救援物資の分類・管理や、避難所を回る配送ルートの作成を担い、社用車を使ったボランティア配送まで行っていた。情報が寸断されていたこの時期、これらの活動は、本社はもちろん支社にも上司にも相談されることなく現場の判断でなされていた。(中略)社員たちを自主的な活動へと動かしたのは、「ヤマトは我なり」のDNAだった。

「ヤマトは我なり」は1931年創業以来の歴史を持つ社訓3か条の一つとして掲げられている。一人で活動することの多いセールスドラーバーが、「自分自身=ヤマト」という意識を持って、常にお客様に喜んでもらえる行動を取れるようにするための哲学だ。宅急便を開発し、経営者としても高名な小倉昌男元会長は、現場での会議では利益のことは一度も口にした事はなく、「サービス第一」と「全員経営」の二つを言われた。「サービスが良ければ利益は結果としてついてくる」との論法だ。それを受けて瀬戸氏も「世のため人のため」を意思決定の基準とし、「エンドユーザーの立場にたって物事を考える」ということを口を酸っぱくして話していると言う。

約6万人いるセールスドライバーに、経営理念や方針を徹底するには、通達1本ではなく、経営者が現場に出て、現場第一線で働く人たちの悩みを聞き、あるいは6~8名の小集団活動を褒め、みんなと膝を突き合わせて議論することが必要だ。少子高齢化や過疎化が問題になる中で、一人暮らしの高齢者の安否確認をはじめ、多くのプロジェクトも地方で立ち上げている。セールスドライバー自ら考えて立ち上げたプロジェクトである。

論語の「子曰く、苟(いやしく)も仁に志せば、悪なきなり」の言葉にあるように、世のため人のために尽くそうと言う人であれば、心が悪に染まることはないとの確信のもとで、いろんな施策を打っている。「満足創造3か年計画」は、皆がお客様に対しても、社員同志でも、満足創造のために自主的に努力しようとすれば、社員たちのモラルも向上し、会社全体のレベルアップにつながるということで策定した。その中には「満足ポイント制度(社員同志)」や「ヤマトファン賞(お客から褒められた場合)」でポイントを貯め、ポイント数に応じてダイヤモンド、金、銀、銅の満足バッジが進呈され、上位者は表彰される。制度開始から1年以内に3万人以上がバッジを獲得したそうだ。「感動体験ムービー」を実際に経験した実話に基づいて作り、全社員対象に実施している「満足創造研修」で上映している。コールセンター宛に来たお客様からのお褒めの言葉は、すぐ登録され「ありがとうの見える化」も出来たそうだ。

瀬戸氏は最後に「日々の仕事の中で、こういうことが、実は「社訓」にマッチした行動なのだ」と社員が自然に納得してくれるような工夫が必要だと思う」と言う。これからのIT業界でも、マーケット規模が縮小する中で、顧客の信頼獲得競争がますます激しくなること必至である。「現場重視」「全員経営」に加えて、企業理念の現場への浸透のさせ方に学ぶべきことは多いのではないかと思う。

凡事徹底

3月13日日経朝刊掲載中の「私の履歴書(大和ハウス工業樋口会長)」で、「凡事徹底」の言葉に惹かれた。業績を立て直した山口支店長から、赤字の福岡支店を立て直すために福岡支店長に異動した際の話だ。

沈滞ムードの事務所を歩き回った。電話の対応が気にくわない。ベルが何度も鳴ってから電話をとり、たらい回しする。明朗活発な女性社員3人を選び、社外からの電話を集中的に受けるように改めた。ベルが鳴ると一度でとり、「はい、大和ハウス工業福岡支店でございます」と答え、すぐ担当者につなぐ。不在なら代理の者が必ず要件を聞き、「私でよろしければ用件を承ります」と言う。これだけで「気持ちがいい」「元気が出る」と社外の評判がぐっと上がった。私はこれを「凡事徹底」と呼ぶ。こうした普段の積み重ねが信用につながる。

「支店がよくなるも悪くなるも、長の一念で決まる」と、スパルタ的運営を常とした樋口会長がこんなこともやっていたのだ。今後、IT業界はお客様に対するサービス競争は激化必至である。この「凡事徹底」の発想は、既存のお客様からの信頼を失わないためにも、新しいお客様からの信頼を得るためにも、凡事といえども重要だとの戒めと受け止めたい。

ヤマダ電機で、「一人のお客様を失うことは10人のお客様を失うことに等しい」との張り紙を見た。SNSなどのネットワークの進展で、一人のお客様の不評を買うことは、10人どころではない数のお客様を失うことにもなりかねない。「凡事徹底」の視点で、周辺を見直してみてはいかが・・・。