1月15日の日経朝刊5面のコラム「経営の視点」の記事に目が留まった。編集委員塩田宏之氏の記事だ。タイトルは「現場の共感、不正防ぐ~稲盛氏が誉めた”2000円節約“」。
最近の品質データ不正などの問題が、経営者(社長など)と社員との意思疎通、信頼関係不足にも大きな原因があるとの懸念を指摘する。
事例として、京セラ、クボタ、積水ハウスの経営トップの施策を紹介しながら、「経営者への共感があれば社員も発奮し、飛躍や革新をもたらすかもしれない」とし、「面従腹背は、飛躍や革新どころか、不正や隠ぺいが起きかねない」と警告する。
京セラの稲盛氏は、工場など現場に赴く、社員に感謝する、コンパを開いて杯を交わす、など、「全従業員の物心両面の幸福を追求する」との経営理念を自ら実践するためにも社員とのコミュニケーションに注力した。再建を任された日本航空でも同じで、エピソードとして下記のようなことを紹介している。「伊丹空港視察時、カウンター勤務の若い女性社員が月2千円のコスト削減を説明した。金額の少なさに周囲は困惑したが、稲盛氏は“そういう努力が一番重要なんだ”と大いに誉めた。この件はメールで部署を超えて広まった。」(京セラのコンパ部屋に関しては、私のブログでも紹介している。HTTP://OKINAKA.JASIPA.JP/ARCHIVES/382)
クボタでは、社員約1万1千人の自宅に毎年、バースデーカードが届く。それには木俣社長の顔写真と手書きのメッセージが印刷されている。課長時代、事故やけがの多さに悩み、「ケガするなよ」と誕生日を迎えた社員一人一人に声をかけていたらピタッと止まったという。海外含めて、現場にも頻繁に出向き、その際は「ゆっくり暇そうに歩く」ことがコツだとか。社員が話しかけやすいように。
積水ハウスの和田会長は月1回、店長など次世代を担う現場のリーダーら約80人を集めて「希望塾」を開いている。3時間ほど経営ビジョンや体験談を語り、その後社員が感想や意見を述べる。和田会長曰く「インターネットの時代になっても、顔を突き合わせて心を通わせる人間関係が重要」と。
一般企業では、一般社員から見れば、「社長は雲の上の人」で、“話しかける”、あるいは“話しかけてもらえる”なんてことは想像できない存在であることが多い。社員からは社長を遠い人と見て、社長は社員を(希望も交えて)近い存在であると信じたい。そのような関係の中で、実際、社長は近い存在であり、我々のことを考えてくれていると一般社員に思ってもらえることが、信頼関係構築への第一歩とも言えるのではないだろうか。社員が熱意をもって仕事にあたることが出来る環境つくりが、「人づくり革命」の基本と心得たい。
「組織・風土改革」カテゴリーアーカイブ
耳触りな話を聞けるか?
日頃余りしない資料の片づけをしていたら、表題の新聞の切り抜きが目に留まった。裏の記事がロンドンオリンピックなので、昨年8月中ごろの日経の記事だと思う。元アサヒビールの社長だった樋口廣太郎氏に関するエピソードだ。「樋口廣太郎の『感謝』の仕事学」の本の中の話で、日経特別編集委員の森一夫氏が書いたコラムだ(樋口氏はその1か月後に86歳で亡くなられた)。
「悪い情報ほど積極的に集める。それに耳をふさぎ、目をそらしていたら、気付いた時には取り返しのつかない事態を招きかねません。」という。だが、誰しも偉い人の機嫌を損ねたくない。そこで耳障りな話を持ってきた部下には「大切なことを教えてくれてありがとう」と感謝しなさいと戒める。
他の経営者も似た話をよくするが、実際には苦言を嫌うお偉いさんが多いようだと森氏は語る。住友銀行の頭取、会長を歴任した磯田一郎氏に森氏が取材に行くと「最近、うちの評判はどうかね」と行内では入らない情報を探っていた。
その磯田会長に副頭取だった樋口氏は、商社のイトマンへの野放図な融資をいさめた。気に障ったのだろう。「邪魔立てするな」と一蹴された(自著「樋口廣太郎 我が経営と人生」より)。ある同行元幹部によると、部屋を出ようとする樋口さんにガラスの灰皿が投げつけられたそうだ。樋口氏がアサヒに転出したのはこれが原因だったらしいと森氏は言う。名経営者とたたえられた磯田氏だったが、絶大な権力に毒されたのだろう。このイトマン事件で失脚し晩節を汚した。
森氏は最後に言う。「一般的に狭量な人物は、耳の痛い話を聞きたがらない。結局は人間としての器の大きさに帰する問題である」と。
稲盛氏が、日々「動機善なりや」と自らに問いかけながら、いろんな施策をうったと聞く。人間とは弱いもので、権力の座に長くいるとついつい傲慢になりやすい。信頼できる「ナンバー2」を必要とする理由とも言える。
「日本でいちばん大切にしたい会社」著者講演会
1月30日アルカディア市ヶ谷でNN構想首都圏地域会 LLP、東京経営塾共催の講演会が開かれた。ベストセラーになった「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズの著者坂本光司法政大学大学院教授の話が勉強になった。一度聞きたいと思っていたら、JASIPA定期交流会(23日)で東京経営塾の田中渉代表取締役にお会いし、たまたま坂本氏の講演があることを教えて頂き、招待して頂き喜んでお邪魔させて頂いた。主催者が開催しておられる「後継者育成塾」の第3回目開設記念大会だった。
坂本教授は、研究室の学生などと、全国の企業調査をされ、これまで7000社に及ぶ企業を訪問調査されていると言う。その成果を学生と一緒に本として出版されている。年に3冊以上は出されている。今年も「なぜ、この会社には人材が殺到するのか(仮名)」(2月下旬)、「さらば下請け企業(仮名)」(4月)、日本でいちばん大切にした会社№4」(6月)、「さらば、価格競争(仮名)」(6月)の出版予定が有るそうだ。3人採用なのに1万人の応募があったり、50数人の会社なのに6割以上が東大院出身の会社などもある。万年筆やメガネ製造販売会社で、高価と思われる商品を扱っているが、ファンが多く利益を継続的に(何十年も)挙げている企業も地方含めて数多くある。坂本教授曰く、「好況・不況に関わらず元気な会社」、「好況時はいいが不況になると利益が出ない会社」、「好況でも不況でも利益が出ない会社」を比率で表すと、以前は2:6:2だったが、最近は2:2:6の比率に変わってきていると言う。最初の2割の元気な会社は、なかなか表には出てこない。農業界でも農協に入っていない会社が元気で、このような人たちは行政に物申すパワーも、必要性もなく、政治に反映されるのは最後の6割の意見(TPPが典型的)が多いと言われる。坂本教授は最初の2割の企業を本や講演会で紹介することによって、他の企業の活性化、ひいては日本の底上げにつなげたいとの思いを持たれている。
総じて、元気のない会社は言い訳が多い。景気・業種・規模・ロケーションなどを言い訳に使うが、その反証事例は数多くあるとして具体的な事例を挙げて説明される。東北の木材会社ではごみ箱が5000~10000円で売れている。豊岡(兵庫)のハンガーメーカーでは1個最低3000円で経営している。元気な会社の共通項として、下記のようなことを挙げられる。
- 1.正しい経営・人本経営:人を大切にする経営、目の前にいるお客を幸せにする経営
- 2.非価格競争経営:社員のしつけを大切にする、下請けを大事にする、障害者を大事にする、エコに配慮する・・・。メーカーズシャツ鎌倉、豊橋のスーパー、羽村市のスーパー福島屋・・・。
- 3.製販一体経営:農業は、自給率が危険領域だから未来のある産業。青森の無農薬リンゴで有名な木村氏は1個250円のリンゴが瞬く間に売り切れる。千葉県香取市の農家では、月4000万円輸出。いずれも農協とは独立。
以下、感動経営、業種分類不可能経営、製販一体経営、社会貢献経営、人財重視経営などを挙げられるが、詳細は坂本教授の本を一度読んで欲しい。「この会社に学べ」といくつかの企業の紹介があったが、香川県さぬき市のシューズメーカー徳武産業、札幌の富士メガネや、当ブログでも紹介した伊奈食品http://jasipa.jp/blog-entry/8368、長野中央タクシーhttp://jasipa.jp/blog-entry/6343、でんかのヤマグチhttp://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/2/22も出された。坂本教授のお話は、理論先行ではなく、実際に訪問されて調査された実績がベースになっているので、迫力もあり、経営者にとっても非常に参考になる話だ。