「組織・風土改革」カテゴリーアーカイブ

ハーバードでも「心理的安全性」に注目!

「ハーバードで一番人気の国・日本」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/4478)などの著書で、米国有名大学で日本のことが取り上げられることが多いことを紹介されている佐藤智恵氏が、6月に「ハーバードはなぜ日本の”基本“を大事にするのか」(日経BP)を出版されている。

“前作の続編”との位置づけで、ハーバード大学経営大学院で取り上げられている日本企業をさらに掘り下げ、ラーメンの国際化を果たした安藤百福氏、AKB48のアジア進出、亀田製菓の“柿の種”の米国進出、世界初”宇宙のごみ掃除“に挑むアストロスケール、革新的人事システムのリクルート、高収益と社員の幸せを両立させているディスコ、50年かけて製品化したホンダジェットを未来へ羽ばたく日本のイノベーションとして詳述している。

その中で、前作の中でも紹介した東日本大震災時の福島第二原子力発電所の事例を再度紹介し、その成功の要因をチーム増田の「心理的安全性」として紹介している。「心理的安全性」に関しては、「心の資本を増強せよ」のタイトルのブログ(https://jasipa.jp/okinaka/archives/9256

米グーグルが大掛かりな社内調査を経てたどり着いたキーワードが「心理的安全性」だとして紹介した。チームにおける心理的安全性と生産性の関係を初めて実証したのは、1999年ハーバードのエドモンドソン教授で、「チームメンバーがお互いに“このチームでは対人リスクを取っても大丈夫だ”と信じている状態」と定義した。「失敗を報告したら罰せられる雰囲気」は社員を委縮させる。エドモンドソン教授が著書の中でグーグルやトヨタ自動車と並んで「心理的安全性」を創出した事例として紹介されているのが、東京電力福島第2原発を救った「チーム増田」の事例だ。

福島第1原発の大事故は周知の事実となっているが、10km離れた福島第2原発はあまり報道されていないが、第一原発と同じくらいのメルトダウン寸前の深刻な被害を受けていた。

刻々と変化する現実に、所長と作業員が一体となって作業の優先順位を確認し、皆の知恵と不眠不休の努力でメルトダウン直前(2時間前)にすべての原子炉での冷温停止を達成することが出来た。なぜ福島第二原発で見事に大惨事を回避できたのか?エドモンドソン教授は著書の中で「心理的安全性を高めるためのリーダーの正しい行動」として次の8点を挙げている。

  • 直接話をしやすい雰囲気をつくる。
  • 自分が今もっている知識の限界を認める。
  • 自分も良く間違うことを積極的に話す。
  • メンバーの意見を尊重する。
  • 失敗を罰せずに学習する機会であることを強調する。
  • 具体的ですぐに行動に移せる言葉を使う。
  • 「やっていいこと」と「やってはいけないこと」の境界線をはっきりさせる。
  • 「やってはいけないこと」をやってしまったメンバーには公正に対処する。

著者佐藤氏は増田所長に、上記8点を軸に震災前から震災後に至る行動を振り返っていただき、その結果を報告している。詳細は省略するが、基本は社員に忌憚のない意見を求め、結果責任は自分が持つ。そしてその行動を態度で示し社員の信頼を得る、しかし、やってはいけないことはしっかり注意することは必要との姿勢だ。

トヨタの「アンドン」を心理的安全性の観点からエドモンドソン教授は説明している。「トヨタは失敗や問題をすぐに報告する文化があります。これは心理的安全性があるからこそできるのです。トヨタの企業文化には、心理的安全性があり、それがカイゼン活動を推進し、高品質の車を作ることにつながっている。」と。

ハーバードでも教材になっている半導体製造装置メーカーのディスコを独自の組織の構築に成功した学びの多い会社として紹介し、「現代においては”既存の組織の維持“よりも”新しい組織形態の構築“が人事のますます重要な仕事になりつつある」とバーンスタイン準教授

は言っている。

働きかた改革が進められているが、「心理的安全性」の観点で、現状組織を見直し、社員全員がアイディアを自由に出し合える新たな組織に作り直し、これからの厳しいグローバル競争社会に対処していくことも必要ではないだろうか。

アンコンシャス・バイアスって?

昨年来、テレビで「アンコンシャス・バイアス」に関するニュースを何度か見た。気にはなっていたが、企業の人事関係者の多くがその研修に参加していると言うので、インターネットで調べてみた。
「女性活躍や外国人社員の増加など多様化した職場の壁となっているのが“アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)”です。“無意識の偏見”による間違った理解や思い込みを取り除く事が、職場でのダイバーシティ(多様性)を推進する鍵となります。」とある。さらには「学歴や年齢、性別、役職など力を持つ側が、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)にアンテナを立て、意識的に多様な人に向き合うことで、尊重され受容されている、と感じることができるのです。組織内でアンコンシャス・バイアスに意識を向けることは、職場の心理的安全性 を高め、組織と個人のパフォーマンスの向上に役立ちます。」とも。期待通り進んでいない女性活躍の推進、そして4月よりの外国人受け入れ拡大など労働力確保策を進めるうえでも、”無意識の偏見“の壁を克服することが重要課題だと思える。
グーグルでも、2013年から社内で「アンコンシャス・バイアスに関する研修」を実施しているそうだ。米国では、女性は労働力の半分を構成し,科学・技術・工学・数学(STEM)分野の職の約30%を担っているが、映画などで描かれる女性のSTEM従事者の比率は低すぎると言う問題提起がされているようだ。“Me Too”運動も同じ問題認識と思われる。島国でもある日本は、欧米に比しても”無意識の偏見“問題は立ち遅れている中、この対策は急がれるのではなかろうか。

NHKで紹介されたある企業での研修課題。部下に緊急の残業を依頼する際、誰に声をかけるかがテーマだ。選択肢は
①仕事のあとスポーツクラブに通う、独身男性、田中さん
②共働きで、保育園に通う子供がいる男性、鈴木さん
③育児休暇明けで、時短勤務の女性、山田さん
受講者の多くは①を選んだ。しかし田中さんは大事な試合に向けた最後の練習、鈴木さんは奥さんが海外出張中、山田さんは育児に協力的な両親と同居中。このような事実が分かるとだれを選ぶか、選択は違ってくる。無意識の偏見(先入観)が判断を左右することで、本人の意欲をそぐことにもなりかねない。

翻ってみると、私自身も”無意識の偏見“とは無関係ではないように思う。学歴とか、風貌とか、ちょっとした発言だけで人を判断することは避けるべしとの意思は持っていたものの、ほんとに出来たかどうかは自信がない。女性に対する対応も、優しさと勘違いしながら”無意識の偏見“に陥っていたのではないか。常に対話を心がけながら、本人の意向を正しくとらえながら判断することを心掛けておれば、もっと働く意欲に満ちた職場にすることが出来たのではと遅まきながら反省している。アンコンシャス・バイアスの気付きは、働き方改革にとっても大きな意味を持つものと思う。

涙活(るいかつ)って?

5月1日の日経記事ではじめて“涙活(るいかつ)”の言葉を知りました。インターネットで調べると1月にもNHKの朝番組「おはよう日本」でも取り上げられ、3月31日にはNHKの「生活情報ブログ」でも下記のように紹介されています。
映画などを見て泣いてしまったけれど、その後、何となくすっきりしたという経験、ありませんか?すっきりしたい、日頃のストレスを解消したいという人たちが集まり、映画や音楽などを鑑賞して涙を流そうという活動、略して「涙活」が、今、注目されています。
別のインターネット情報では、”涙活“とは、能動的に泣くことでストレス解消を図る活動とある。離婚式プランナーの寺井広樹氏の提唱と言うのも面白い。人間の自律神経は涙を流すことにより、緊張や興奮を促す交感神経が優位な状態から、リラックスや安静を促す副交感神経が優位な状態に変化する。よって、たくさん涙を流すほど、ストレスが解消し、心の混乱や怒り、敵意も改善されるという。ただし、ストレス解消に効果があるのは、感動などによる涙だ。
5月1日の日経の記事のタイトルは「”涙活“で連帯感、自由に働き育児と両立」だ。記事によると、寺井氏が2015年に企業に涙活の講師を派遣するサービス「イケメソ宅泣便「を始めてから年3、4割のペースで受注が増えているそうだ。このサービスを使ったIT企業が紹介されている。ネット事業のアジャストでは感動を共有することで連帯感が高まったという。参加者(女性)からは「以前より同僚とお互いに助け合うようになった」との声が聞かれる。

以前「暗闇体験でつながろう」とのタイトルで「非営利活動法人ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」の活動を紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/460)。世界的に人気を博している研修だそうだが、「参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験」とある。これもコミュニケーションの改善を図る試みだ。

スマートフォンなどの普及で、コミュニケーション危機や、相手を思いやる気持ちの薄れなど時代の変化とはいえ、懸念する人は多い。「働き方改革」が叫ばれているが、残業を減らすことだけではなく、チームとして働きやすい職場つくり、信頼しあえる仲間つくりも重要な課題だ。そのための世の中のいろんな取り組みを評価し、積極的にチャレンジしていくことも必要ではないだろうか。