「企業理念」カテゴリーアーカイブ

体で理解する「経営理念」研修

いつも愛読している「PHP Business Review松下幸之助塾2014年7・8月号」のテーマは「理念をきわめる」。その中に「体で理解する経営理念」との体験レポート記事があった。その記事のリード文は下記の通り。

高尚な文言が壁に掲げられながら文字どおり、「絵に描いた餅」になっていたり、毎日会社で唱和しているもののただの呪文になっていたりする経営理念に、なんとかして命を吹き込みたいと願う経営者は多い筈だ。そんな社長必見の、全く新しい研修が開発された。

「運動のできる服装で来てください」との言葉に半信半疑で参加した記者は、終わってみると経営理念と運動と言う異質のものが見事に融合していることに小さな感動を覚えたとある。

兵庫県一円の中小企業に向けて経営コンサルティングをしている㈱クリエイションと、企業・学校向けに体験学習や野外研修を実施している㈲アウトドア・エデュケーショセンターが実施した「体験から学ぶ“経営理念を実現する人材”育成研修」(1日コース)だ。目的は、社員1人ひとりが「わが社に必要な人材(会社の目的・目標を達成する人材)になるために、”自分“がどう行動すべきか、どう振舞うべきなのかを”体験“から学びながら考え抜く」ことだ。

研修スケジュールは3部構成だ。

1.自社の経営理念の理解を深め、とるべき望ましい行動や態度を考える(グループ分けし、それぞれのグループに会長や社長、取締役などが会社の歴史や理念、経営環境などの説明を受け、その後グループをシャッフルして、それぞれの話を各人が説明し、取るべき行動や態度を議論しその結果を発表する)

2.野外活動を通じて、自分自身の現在の基本姿勢や基本能力を把握し、”私“が日常意識すべき課題を見つける

3.最後に「わが社の社員」として必要な人材になるためにどう行動すべきか、南緯が課題なのかを明確にする

特に興味があるのが、2番目の野外研修だ。縦に蜘蛛の巣のように張り巡らされたロープとロープの隙間をロープに触らぬように制限時間内にグループ全員が通り抜ける問題(一度誰かが通った隙間は通れない。上の方の隙間は皆で抱え上げなければ通れない)や、直径5メートルの円の中心に置かれた水の入ったバケツを、長さの異なる3本のロープを使って円の中に入ることなく安全に(水をこぼさずに)円の外に移動させる、島に見立てた箱の間を長さの異なる二枚の板を使って全員が地面に足をつけることなく移動するなどの問題をグループごとに実行する。このような問題を皆で考えるとき、「自分は率先して知恵を出したか?」「声をかけたか?」「仲間の体を支えたか?」、「みんながやってくれるから、自分はやらなくても」と他人任せにしていないか?など、自主性、協調性などがいやというほど思い知らされると言う。もう一つのポイントは、野外研修に入る前に「ふだんあなたはどれだけ本気で物事に取り組んでいますか?」「どれだけ本音で物事を言い合っていますか?」などの行動様式を自己評価し、自らの課題を発表してから野外研修に取り組む。そして後で振り返る時、現実の課題を目前にすると、最初の課題と違った自分に気付く。本気度が足りない、思っていた以上に進んで課題に取り組む、最初に無理だとあきらめてしまう、などなど。

総じて参加者には好評だと言う。会社の進むべき方向を認識し、自分の問題として捉え率先して周囲を巻き込んで行動できる人材を育成する。経営者の悩みの一助となる研修として野外研修が見直されているようだ。

「Orchestration」(ともに響きあう)

この言葉心に響きませんか?ギリシア・ローマ考古学者で、全国美術館会議会長、国立西洋美術館館長などを歴任し、平成25年から文化庁長官に就任された青柳正規氏の座右の銘だ(「致知2014.7」‘私の座右の銘’の記事への投稿文より)。

27歳のころボンベイの発掘調査を任され、発掘計画から、人員確保、資金集め、現場の指揮などあらゆる業務を自らの判断で行うことになった。その時、自分は寝食を忘れて働いているのに他のメンバーは契約時間しか働かなかったり、自分の専門知識以外で難渋し思うように調査が進まない時期が続くことになった。その時「仕事と言うのは自分一人の力だけでできるものではない」と心の底から思い至った。そこで、気付いたのが、上からの命令や自分の意見を押し付けるのではなく、今携わっている仕事の意義や醍醐味、何を解明すればどういう成果が得られるかなどを根気よくメンバーに伝え、全員が同じ目標を共有して自発的に仕事に打ち込める環境つくりの重要性だった。このような試行錯誤の中からOrchestrationと言う言葉を意識し始め、「メンバー全員が‘やらされている’のではなく、’自分でやろう‘と思って努力しない限りクオリティの高い仕事は出来ない」と言うことの実感を得たと言う。発掘調査では、何が出てくるか分からないため、人骨が出てくれば文化人類学者、家屋を発見すれば建築士に、稙物が出てくれば植物学者にと多様な専門家が力を合わせて初めて大きな成果につながる。

システムプロジェクトも全く同じだ。プロジェクトメンバーが顧客企業がどんな企業かも知らずせっせとプラグラムを書いていると言うこともあった。役割分担は当然あるが、個々のメンバーが、常にそのプロジェクトの意義や全体感を把握しながら、お互いに連携しながら進めていかなければ成功しない。プロジェクト発足時に作るプロジェクト計画書を充実させ、プロジェクトメンバー(パートナーも含めて)に徹底する。プロジェクトを通して個々のメンバーが何を目標として成長するかも記述することが必要だ。

プロジェクトのスローガンなどにも、場合によっては企業理念にも「Orchestration」は使える。お客さまとの間にも使え、お客さまに何か新鮮な心地よい響きを与え、感じてもらえ、それだけでもプロジェクトあるいは企業間の一体感向上に効果があるように思えるがいかが?

日本で一番視察が多いスーパーの経営哲学(ハローディ)

期せずして「PHP Business Review 松下幸之助塾2014年1・2月号」と「致知2014/5号」に北九州市のスーパー「ハローディ」が紹介されている。松下幸之助塾のリード文は「かって60億円の借入金を抱えて倒産寸前だった北九州の地域スーパー。ここに跡継ぎとして入社した三代目が当初見たのは雨漏りのする店舗、我がちに逃げ出していく取引先と従業員、そして押し寄せる借金取りと言うまさに地獄絵図だった。それから25年。今や業種を問わず見学者が引きも切らない「日本一見学の多いスーパー」として、そして20期連続増収を続けた企業として注目を集める。それは「縁ある人達を幸せにする」という目標に向かって全社員が知恵を集め挑戦を続けてきた結果である。」と。

ハローディ社長の加治敬通氏は、二つの事を徹底的に追及し、パートを含む全社員に徹底している。

「より多くのお客様に感謝する会社」
「日本一働きたい会社」

最初は、倒産寸前の会社を引き受けて、社員や取引先などにも文句ばかり言っていた。その頃先輩経営者から、「相手が悪い時どういう風に指を指す?」と問われて実際に指を指すと「加治君よく見てごらん。人差し指は相手に向いているけど、三本の指は自分を指していないか」と。そして「相手も悪いかもしれないが、自分自身も悪いところが三つあるから考えてごらん」「潰れそうな会社でも商品を卸してくれる人や働いてくれる人、そういう人たちが目の前にたくさんいるのに、目の前の悪いものばかりしか見ていないだろう貴様は!」と怒鳴られた。これで大きな「気付き」を得て、心の中に「感謝」と言う二文字の柱がドンと打ち立てられたと言う。

その後は、「口だけの感謝」から「心からの感謝」とするために徹底的に社員(嘱託社員、エリア社員含む1400名対象)研修を実施している。例えば「お元気様研修(月1回、講師社長・幹部13人、生徒12人)」、2日間かけて感謝や感動といった“人として本当に大切なこと”を学ぶ。実は研修名の「お元気様」は、同社での挨拶言葉として「お疲れ様」の変わりに使われている言葉だ。同社では「暗くて、病的で、反抗的な」“暗病反(あんびょうたん)言葉の使用を固く禁じ、代わりに「明るく、元気で、素直な」”明元素“言葉を使うことを奨励している(”ありがとう“発信を普及させる活動を展開しているヒューマンウェア研究所の清水英雄先生の教え?)。その他にも、各店が如何に客を喜ばせ、感動させられるかを競う、パートが主役の「ハロリンピック(3ヵ月に1回)」や年1回の「全体感動フォーラム」などもある。店舗視察者が最も驚くのはパート社員のモチベーションの高さとか。

加治社長は言う。「私は何のために生きているかというと、それは縁のある人たちと一緒に感動するためなんです。この研修ひとつにしても私は感動の涙を流さなかったことは一度たりともありません。参加者からも毎回、ほんとにたくさんの感動をもらっています。」と。

研修で覚える言葉に「ピンチはチャンスだ、ありがとう」というのがある。例えば私に怒られて落ち込んでいる人に「よかったなおまえ、おめでとう。チャンスじゃないか」と言って励ますのだそうだ。それは店舗火災事件で大打撃を受けた時、加治社長が何度も万度も唱えた清水英雄先生の詩のお蔭で立ち直れた経験を活かしての事だ。

素直に人の言葉に感動・感謝し、自分を変えた加治社長。事業も人生も多くの人に支えられているとの「気付き」と「感謝の気持ち」が日本一視察が多いスーパーを創りだした。その「気付き」を25年間継続して全社員に徹底するという行動にしたのも凄いことだ