倒産の危機にあった「はとバス」を短期間で急回復させた宮端清次氏(平成10年社長就任)。宮端氏は、大学卒業後東京都庁に入庁し、交通局に配属されたが、配属はバスの営業所。同期入局した十数名の3分の一が辞めてしまう交代勤務の地味な仕事を4年間こなすなど、現場の様々な仕事や人に接し、もまれた経験がかけがいのない経験になったと言われる。この時の経験が、はとバスの社長になった時「社長も社員も一緒くたになって、地べたを共にはい回ることが大切」との信念になり、社長室の撤廃や、社長車の共有化、朝一番のバスに乗り込んでお客さまに挨拶をするなどの行動につながった。このような行動により社員が一体となって業績回復に邁進したことが今のはとバスを作りあげたのだろう「致知2011.2」の「20代をどう生きるか」の記事より)。
その宮端社長が、30数年前(都庁勤務時管理職になった頃)、ソニー創業者井深大氏の講演を聞いた時の話が「致知2008.2」「リーダーはろうそくになれ」の記事に掲載されている。宮端氏がリーダーシップのあり方について強い印象を受けた話だ。
1時間ほどの講演だったが宮端氏はよくわからなかったと言う。その時、ある女性が質問した。「失礼ですが、いまのお話はよく分かりませんでした。私のような主婦にでも分かるように話をしてくれませんか」。司会者は慌てたが、さすが井深氏、ニコッと笑ってされた話が宮端氏のリーダーシップのあり方として胸に刻み込まれた。
ソニーの社長時代、最新鋭の設備を備えた厚木工場ができ、世界中から大勢の見学者が来られました。しかし一番の問題だったのが便所の落書きです。会社の恥だからと工場長にやめさせるよう指示を出し、工場長も徹底して通知を出した。それでも一向になくならない。そのうちに『落書きをするな』という落書きまで出て、私もしょうがないかなと諦めていた。するとしばらくして工場長から電話があり『落書きがなくなりました』と言うんです。『どうしたんだ?』と尋ねると、『実はパートで来てもらっている便所掃除のおばさんが、蒲鉾(かまぼこ)の板2、3枚に、「落書きをしないでください。ここは私の神聖な職場です」と書いて便所に張ったんです。それでピタッとなくなりました』と言いました。
井深さんは続けて「この落書きの件について、私も工場長もリーダーシップをとれなかった。パートのおばさんに負けました。その時に、リーダーシップとは上から下への指導力、統率力だと考えていましたが、誤りだと分かったんです。以来私はリーダーシップを『影響力』と言うようにしました」と言われたんです。さらに続けて
「リーダーシップとは上から下への指導力、統率力が基本にある、それは否定しません。けれども自分を中心として、上司、部下、同僚、関係団体……その矢印の向きは常に上下左右なんです。だから上司を動かせない人に部下を動かすことはできません。上司を動かせる人であって、初めて部下を動かすことができ、同僚や関係団体を動かせる人であって、初めて物事を動かすことができるんです。よきリーダーとはよきコミュニケーターであり、人を動かす影響力を持った人を言うのではないでしょうか。」と。
私はすごく共感できました。皆さん、如何でしょうか?