「組織・風土改革2013(2)」カテゴリーアーカイブ

“自立した個”が強いチームを作る(広島・安芸南高校)

「PHP Business Review松下幸之助塾2013年9/10月号№13」の特集テーマは~「打てば響く組織」への挑戦~だ。小笹芳央氏の記事は後程紹介するにして、今回はスポーツエリートでもない普通の高校サッカー部を強豪校に育て上げた公立高校の監督の記事を紹介する。

記事のリード文は「組織を強くする方法―それは「優秀な人材」を集めて、トップダウンで徹底的に鍛え上げることだろうか。近年高校サッカー界で、従来の方法に捉われない画期的な指導法で成果を挙げ、注目を集める指導者がいる。プレー自体の指導よりむしろ「人間力」向上の指導に力を注ぎ、メンバーひとりひとりに“みずから考えさせる”指導を徹底して続けることによって、弱小チームをスポーツエリート集団に勝利するチームに育て上げている。徹底したボトムアップでインターハイ優勝、と言う事実がその指導法の正しさを証明する。その教諭は、順天堂大学時代、U-20日本代表に、そしてソウルオリンピック代表候補になったが、腰椎ヘルニアを発症し代表辞退した往年の名選手畑喜美夫氏だ。畑氏のサッカー選手としての原点は、広島の「大河FC(木村和司、森島寛晃など往年の名選手を数多く生んだクラブ)」の指導者(浜本敏勝)の指導方針だ。「勝利至上主義」からは程遠く、ピッチ上で「さまざまな状況を感じること」「味方選手を思いやること」「相手選手を敬う事」だけを徹底し、子供たちの人間的成長に力を注いだ。畑氏はここで、上から指示命令されることのない自由な雰囲気の中で「自主性を持ってプレーすること」を学び、「自立した個」としてチームに貢献する姿勢を身に付けたと語る。

畑氏はサッカー界で名もない観音高校をインターハイで優勝するまでに育て上げた後、安芸南高校に赴任した。安芸南高校では弱体のサッカー部に対する期待は皆無だったが、観音高校の経験から、部室の整理から着手した。強制的にやらせはせず、前任校との練習試合の際に部室を見せたりしながら、部室を綺麗にすることの気持ちの良さを自分で感じるように指導していった。畑が叱るのは「怠けること」「人の心と体を傷つけること」「嘘をつくこと」の三つだけ。この時は心を鬼にして怒る。全体練習は週2回、1時間半か2時間しか行わない。練習メニューも自分達で決める。練習の合間に「PDCAサイクル」を回し、良かった点、悪かった点、改善すべき課題などを話し合う。試合に出場する選手もキャブテンを中心に生徒たちで決める。選手を選ぶ優先順位は①社会性、②賢さ、③うまさ、④強さ、⑤速さというのがユニークな点だ。サッカーに直接関係する③~⑤より人間力を表わす①、②が優先される。技術は低くてもムードメーカー的存在の選手を選ぶことも有る。ピッチ上で「観て感じる」、状況に応じて瞬時に判断する能力の重要性を教える。「一人一人の選手が自主的に考え、責任を持って行動する。さらに周囲の選手たちを「観て」、的確に「感じ」ながら、自分の行うべきことを行い、味方からもより良いプレーを引き出していく。これこそ理想の「打てば響く組織」と言えよう。やはり「自立した個」が基本単位であり、そうした個が集まってチームを組むことで強い組織が作られる。

このような指導者と選手の間の信頼関係を創り上げるベースは、「“信頼”と“絆”を結ぶ2冊のノート」だ。1冊は休日の試合で気付いた点や反省点を書きとめる「サッカーノート」、もう1冊は、試合外の日の一日のスケジュールや個人のトレーニング内容、日記や報告、感想などを細かく書き込む「トレーニングノート」。「大河FC」の時、浜本監督のコメントに感動した経験を生徒にも与えたいとの思いで始めたノートだ。「付き合っている彼女のことを書けるようになったら心が通じ合った証拠」と畑氏は言う。

「全員リーダー制」などいろんな施策の組み合わせで、「個の自立」を仕上げている。近年全国の教育期間や企業、団体などから講演依頼が殺到していると言う。高校野球も人間力育成指導を行う高校が強くなってきている。夏の高校野球で好成績を収めた東北勢は、これまでのように、全国からスポーツエリートをスカウトすることなく、地元の生徒で構成するチームだったと聞く。名もない選手でも指導方法によって輝く。企業人にも大いに参考にしてほしい指導方法だ。

前橋育英高校と延岡学園の美しき決勝

FBでも話題沸騰のNumberWeb氏原英明氏の記事のタイトルだ(http://number.bunshun.jp/articles/-/655334?fb_action_ids=388238684635402&fb_action_types=og.likes&fb_source=other_multiline&action_object_map=%7B%22388238684635402%22%3A202701419896769%7D&action_type_map=%7B%22388238684635402%22%3A%22og.likes%22%7D&action_ref_map=%5B%5D)。副題に「両校が見せたクリーンファイトの爽快」とある。

その記事の中に「勝つことよりも、人間性を誉められる方が嬉しい」とのサブタイトルで、「前橋育英は“凡事徹底”という言葉を掲げ、小さなことを積み重ねて強くなってきたチームだった。全力疾走やカバーリング。日常生活においては、挨拶や時間厳守、掃除を重んじ、人間性を高めてきた。荒井直樹監督は言う。野球以外の面で重視しているのは、服装と時間、清掃などです。服装が乱れたら、社会では生きていけません。時間はただ、集合時間に間に合えばいいということではなく、提出物をきっちり守るとか、『間に合う』ということが大切。掃除については、片づける人間か片づけられない人間なのかどうか。野球の試合の中には、『試合を片づける』という部分がありますし、そこにつなげて話をします」とある。たしか、優勝した翌日の新聞記事にも「前橋育英の選手は甲子園に来てからも毎日朝10~15分の散歩を全員に課し、ごみ拾いなどをした。このような人間力育成に力を入れている」とあった。延岡学園も日々の積み重ねを重視、野球の練習だけではなく、日常生活・学校生活で自身を律する。挨拶やゴミ拾いなどの当たり前のことを当たり前に繰り返してきたと重本浩司監督は言う。今回の決勝戦でも、「対戦相手の捕手に駆け寄って、手当をした前橋育英一塁コーチャー」や、「キャッチャーマスクを打者がわざわざ拾う行為も普通のこと」という数々の事例に、「凡事徹底」の教育が徹底されているのを見ることが出来る。

「凡事徹底」というキーワードは著名な経営者からも良く聴く。「私の経歴書(日経)」でダイワハウス工業樋口会長(http://jasipa.jp/blog-entry/7362)の言葉としても紹介した。また「掃除道」を説く鍵山秀三郎氏(http://jasipa.jp/blog-entry/8812)は「凡事徹底」と言うタイトルを出版されている。まさに小さなことの積み上げが、会社の風土を変え、相手を慮る自立人間育成に役立つとの主張だ。以前ブログの「高校球児に教えられること(http://jasipa.jp/blog-entry/6187)」でも、創志学園(岡山)や興南高校(沖縄)の人間力を育む指導を紹介した。今回春夏連覇がかかっていた浦和学院も、「自分が自分を高める責任」「後輩を育てる責任」「組織全体を高める責任」の三つのモットーを掲げチームづくりをしていると言う(「致知2013.9」森士監督「人生のメンバー外になるな」の記事より)。

「凡事徹底」を今一度噛みしめたい。

クロネコヤマトの「個を生かす」仕事論

標記題名の本(副題“伸び続ける集団”の「発想・行動・信念」)(瀬戸薫著、三笠書房、2013.4)がある。著者はヤマトホールディングの元社長で現会長。これまでも、クロネコヤマトに関しては、その経営手法に興味があり、当ブログでも何度か取り上げた(例.「‘クロネコヤマト‘のDNA」(http://jasipa.jp/blog-entry/7953)。単なる運送業者から宅急便を基盤とするサービス業へと生まれ変わらせたのは小倉昌男氏だ。その小倉氏が会長を退いたのは1995年(亡くなられたのが2005年)。だが、その後も、小倉氏の理念を引き継ぎながらヤマトは進化を続け、新しい商品を出しながら成長を続けている。時代の変化にも柔軟に対応できる強い「組織の力」「集団の力」はどうやって作られたのか?

瀬戸氏は「サービスの質を向上させる。新しいサービスを生み出す。より広くご利用いただくための方法を考える。当社では、これを全員が行っている」と。こうした集団を維持しているからこそ”今”に繋がる成長があると言う。なぜ維持できているのか?

「 普通の社員が最高の仕事をする」会社

理念を明確にし、それを掲げるだけではなく、個々の社員に浸透させる事ができて初めて社員の気持ちを結びつける要となる。ヤマトの理念は「世のため人のためになることをする」ということ。小倉昌男氏の言う「サービスが先、利益は後」との原則に則った理念だ。「お客さまのため、社会のため」で意思統一できる会社組織ほど強固なものはない。自分自身の存在価値、「やっていてよかった」という究極の満足感が味わえることが、究極の仕事の目的であり、企業が成長する原動力と瀬戸氏は主張する。そして「普通の社員が最高の仕事をする」会社を目指す。

「お客さまだけではなく社員も満足する」仕組み

理念に沿って「お客様のため」に行動している人を抽出するための制度が「満足バンク」。「いいことをした」人を見つけたらそれを社員が申告する。評価は点数に換算され(褒めた人にもポイント付与)、ポイント数に応じて、「ダイヤモンド」~「銅」の4段階で評価し、その結果を公表する。

「感動ムービー」で常に理念を思い起こさせる

社員の感動体験をムービー化して、社員が何度も見れる社員研修用の映像を準備。例えば「雪深いおばあさんの所に送られた荷物を、必死になって届けたとき、涙をためながら三つ指をついてお礼を言われた感動体験。このような事例を脳裏にしっかりと焼き付け、仕事の先に「喜んでくれるお客様がいる」と言う事実を繰り返し認識させる。

すべての人間がそれぞれの個性で「考える文化」作り

ヤマトの求める人材は、実務能力でも、人間的魅力でもなく「お客様のため」「世のため、人のため」を真っ先に考えているかどうかだと言う。そして人の上に立つ人間ほど「考える事」を何よりも要求される。ヤマトでは、社員が自由に提案できる場として「次世代リーダー塾」や、本社の経営陣が各地域の拠点に出向き新事業の提案を受ける「グループエリア戦略ミーティング」など様々な会議、ミーティングを設けている。年間150回程度開催しているそうだ。すべての会議・ミーティングでは、社員と経営トップが直接意見を交わせる。この場でも、トップダウンの指示ではなく、自ら考えるように指導するのが原則だ。優秀な人材がいなくなっても、すぐ新しい人材が飛躍する。ほんとうに強い集団とは、臨機応変に変化が出来る組織だと瀬戸氏は主張する。

トルストイも言ったという「人間の最高の幸福は、人のために働くことである」は、私も真実だと思う。昨年来、JASIPA会員企業や、古巣から声をかけて頂き「お客様の価値を感じて働く企業へ」とのタイトルで何度かお話しさせて頂いているが、「お客様第一」といいながら、会社の風土・文化として根づいている企業は数少ない。根づかせるためには、経営トップの強い信念のもと、社員目線で常日頃からの継続的な努力を行うことが必要と思うが、如何だろうか?これからの厳しい競争社会で「お客様のため」との精神風土の根づき具合が、大きな差別化要因となること必至と思うが・・・。