「組織・風土改革2012」カテゴリーアーカイブ

新幹線お掃除の天使たち

「清掃員の早技、スゴすぎ!」「新幹線に乗るたび思うけど、丁寧に車両内を清掃してテキパキ働く人たち。他の国ではここまでやらないよね」。このようなことが、ツイッターで数多く囁かれているそうだ。7年前、JR東日本東京支社の運輸車両担当部長だった矢部輝夫さん(現専務取締役)が新幹線の車両清掃を行う「鉄道整備株式会社(通商テッセイ)」に着任した頃は、普通の清掃会社だったそうだ。スタッフは非常にまじめで、与えられた仕事はきちんとやるが、それ以上の事はやろうとはしない。職場にも今一つ活気がない。「自分たちは所詮清掃員」との意識が蔓延していたそうだ。こんな会社を、今の姿にした軌跡を書いた本が出版されている。「新幹線お掃除の天使たち~‘世界一の現場力’はどう生まれたか?~」(遠藤功著、あさ出版、2012.8)だ。

日経ビジネスでは「最強のチーム」として紹介され、テレビ東京のWBSでも取り上げられ、話題を呼んでいる。1チーム22名の編成で1日約20本の車両清掃を行うハードワーク職場だ。それも決められた時間内(折り返し時間12分だと、降車に2分、乗車に3分かかると清掃には7分しかない)に、トイレ清掃からゴミだし、座席カバーの交換まで完璧に終え、降車のお客様への礼に始まり、乗車待ちのお客様への礼で終わる。まさに「お掃除の天使さま」と呼ばれる所以である。

矢部さんは、早速「トータルサービス」の会社にするとの目標を立て、それに向かっていろんな施策を実行していった。パート社員主体で、「トータルサービス」と言っても何をすればいいのか理解不可能な中で、ともかく「見えるモデル」を作り、さらには、意識を高めるために、現場スタッフの待機所にクーラーを設置するなどの職場の環境整備も合わせて実行した。経営陣と現場が共に議論する場も設け、小集団活動の活性化や、これまで高年齢しか正社員になれなかった人事制度を変え、年齢や勤務歴に関係なく、やる気と能力があれば正社員にするとの人事制度改革も行った。「トータルサービス」をより具体的なものにするため『みんなで創る「さわやか・あんしん・あったか」サービス』というフレーズを追加。そして今がある。

「おもてなしの会社」であることをお客様に伝えるために蝶ネクタイの着用をしたり、クリスマスにはサンタクロースの格好をしたり、春には桜の花を防止に飾ることで、お客様の反応も予想以上にあったそうだ。一人の人(矢部さん)が加わることで、こんなにも会社の風土・文化が変わる。それもパート社員主体の会社で「単なる清掃員が、お掃除の天使」に。企業理念で会社の方向性を示し、それに向かって真剣に取り組めば、必ず会社は変われることを「テッセイ」が示してくれている。

支えてくれた人がいたから今がある!(山中教授ノーベル賞)

致知2012.11号に「はやぶさ」の川口淳一郎氏と今まさに時の人となられた山中伸哉京大教授との対談記事がある。テーマは「人類の未来の扉をひらく~はやぶさXIPS細胞 世紀の偉業を成し得たもの~」である。今回の山中教授のノーベル賞受賞は、「人類の為」というのが非常に分かりやすく、開発から6年目という異例の速さでの表彰も分かる気がします。国、大学、研究室、家族に対する感謝の気持ちが前面に出ていて、山中教授の「人徳」を感じさせられました。ほんとにおめでとうございます。

山中氏の「(はやぶさが)あれだけの困難を乗り越えてちゃんと還ってきた、というのは、科学の世界でいつも壁にぶち当たっては折れそうになっている僕たちにとっては、もう本当に・・・、あんなに勇気づけられたことはありませんでした。」から対談は始まった。「誰にも譲れない信念」があるからこそ、今回の偉業が達成できたというのは当然だが、山中教授が今回のノーベル賞受賞でも、多くの人への感謝の気持ちを心から言っておられるように、お二人は、研究プロジェクトメンバーの中に「心からやり遂げよう」との気持ちが埋め込まれ、心から支えてくれる人がいなければ何事も達成できないと言われている。お二人の研究は、5年、10年と長期にわっており、メンバーの心意気を持続するのは非常に難しいが、これがないと思い通りの成果は出ない。山中教授は、「スポーツ選手でも、選手本人だけが金メダルを取るのだと言っても、一人では難しい。自分の事はさておいても、“こいつには金メダルを取らすんだ”という支える人たちの思いが不可欠」と言われる。確かに、フィギュアスケートの安藤美姫が、コーチ不在の為今季のグランプリシリーズには参加できないとのニュースが流れた。さらに山中教授は、アメリカで恩師から教わったという「VW」という言葉が成功の秘訣と言う。「V」はVision,「W」はWork Hard。長期的な展望としっかりした目標を持ち、懸命に努力すればその一念は必ず叶うということ。強いビジョンを持ち、「心」を一つにした「チーム山中」「チーム川口」だからこそ、この偉業があった。山中教授の「螺旋型の人生」というのも面白い表現だと思った。いろんな失敗を糧に、時々変化したテーマと共に視野を拡げ、IPS細胞に行きついた人生を言っておられる。同じテーマを継続的に行う「直線型人生」が必ずしも成功するとは限らない。

「チーム〇〇」の考え方は企業も同じだと思う。企業理念、経営方針の目標を社員全員が共有し、その達成に向けて皆で頑張る姿を追い求めるべきと考える。システムプロジェクトもしかりだ。プロジェクトメンバーはもちろん、経営者も「お客様のため」の視点を共有化しながら進めなければならない。しかし、いまだに失敗プロジェクトが後を絶たないIT業界は、「心」が一つになっていない現実を物語っているのではなかろうか。

WHYから始めよ!

人を感激させて、やる気を起こさせるリーダーは、WHY(理由)→HOW(手法)→WHAT(自社の製品やサービス、自分の職務など、自分のしていること)の順に考え、行動する。この行動パターンを「ゴールデンサイクル」という。

「WHYから始めよ!」(サイモン・シネック著、栗木さつき訳、日本経済新聞社)に関するTOPPOINT(2012.4)要約版の最初の文章だ。これを応用すれば、製品開発、営業、マーケティングを飛躍的に改善することも出来ると言う。

普通の会社は

「我々はすばらしいコンピュータを作っています(WHAT)。美しいデザイン、シンプルな操作法、取り扱いも簡単(HOW)。1台いかがですか?」と。

しかし、アップル社なら

「現状に挑戦し、他社と違う考え方をする。それが私たちの信条です(WHY)。製品を美しくデザインし、操作法をシンプルにし、取り扱いを簡単にすることで、私たちは現状に挑戦しています(HOW)。その結果、素晴らしいコンピュータが誕生しました(WHAT)。1台いかがですか?」

人は、企業の製品(WHAT)を買うわけではなく、その企業が製品を生み出す理由(WHY)-目的、大義、理念を買う。実際、アップル社のiPodを開発したのは、クリエイティブ・テクノロジー社で、該社の宣伝は「5GBのMP3プレーヤー」としたのに対し、アップル社は「1000曲をポケットに」。私たちにそれが必要なWHYであることを伝えた。

著者は「WHYなきところにイノベーションなし」と言う。企業も文化であり、一連の価値観や信条に共鳴する人の集合体でもある。社員や製品を束ねているのは製品やサービスではない。企業を強くしているのは、規模でもなく、文化である。採用においても、自社の理念に心から共鳴する人材、自社のWHYに情熱を持てる人を採ることが、企業をより強くする。

新しい商品を開発した場合、その発表、あるいは営業においても、WHATの説明に終始していないだろうか?お客様視点で考えた場合、他社に比して何が自社にとって魅力的なのかが分からないと、興味を示さないだろう。それが「WHY」では!人は、自分の努力の結果(WHAT)をどうしてもアピールしたい思いに駆られるがそれでは売れない!