「繁盛創り、人創り」理念で60年続く町の酒屋さん(泉谷酒販)


かつてはどこの街角にも見られた「町の酒屋さん」も1990年以降の規制緩和でスーパーや大型量販店に押され廃業を余儀なくされ次々と姿を消した。私の故郷でも以前何軒かあった町の酒屋さんが今は全くなくなっている。そんな状況の中で、創業60年を経た今も、年商35億円、利益率はコンスタントに3%以上挙げている町の酒屋さんが福岡県久留米市にある。「泉屋酒販」だ。理念を掲げ、その理念を徹底的に追及し、具現化していったその知恵と行動が、今につながっている(「PHP松下幸之助塾2015.1-2」の「酒文化の創造と伝承で人と地域を幸せにする」記事より)。

泉屋酒販は、飲食店や外食産業にお酒を納める業務用酒販店で、自らの事業を「酒文化価値創造業」と位置付け、お酒を販売するだけでなく、それを通じて酒の文化的価値を伝え、お客さまである店の繁盛や人の幸せを創造していくことを目指した。そして「繁盛創り、人創り」の経営理念を掲げた。「繁盛創り」とは、お客さまである飲食店の繁栄を実現する事。業務用に絞って営業展開してきたことで、飲食店が繁盛するためのノウハウを50年以上にわたって蓄積してきた。その蓄積を活用して、久留米随一の歓楽街「新世界」(1960年代)や「文化街」(1970年代後半)の基盤を作ったのは泉屋酒販だ。

そして、このようなお客様の繁栄に貢献できる社員を育成することが「人創り」だ。酒の文化を伝えていくには、社員自身がその知識に精通している必要がある。そのため、ソムリエや唎酒師(ききざけし)、焼酎アドバイザーなどの資格取得を奨励し、多くの社員が何らかの資格を持つ「お酒のプロ集団」となっている。

1955年(昭和30年)に4坪の店舗からスタートした土師軍太現会長の理念を、息子の現社長(康博氏)と専務(正記氏)が受け継ぎ、現在も博多や北九州、熊本の八代などまで取引先を拡げている。泉屋酒販が扱っているのはお酒と言う「モノ」ではなく、お酒と言う「文化」であり、社員やお客さまと共に、お酒の夢やロマンを語れ、人の幸せにつながるお酒の飲み方、売り方を今後も提案していくと息子たちも言う。

東京町田市にある「でんかのヤマグチ」を何度かこのブログでも紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/180)。「町の電気屋」も酒屋さんと同じく多くの店が廃業に追い込まれる中、地域のお客さまに対するサービスを徹底することで安売り競争に巻き込まれることなく、今なお高い利益率(粗利率35%)を挙げられている。日本の課題「地方創生」の大きなヒントになるのではなかろうか。

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