素読のすすめ(前稿つづき)

前稿(http://okinaka.jasipa.jp/archives/5712)で主に若者(子供含めて)に対する「素読のすすめ」を書きました。が、私のような高齢者に対する重要な情報を書き忘れていました。
最近もアクセルとブレーキを間違えて事故を起こす高齢者のニュースが毎日のように報じられ、認知症とともに大きな社会的問題となっています。この認知症にも「素読」は極めて大きな効果があることが、同じ記事に書かれているのです。
川島氏は「学習療法」と称して高齢者に対して美しい日本語を声を出して読ませるトレーニングを実施されている。その結果、認知症の進行が止まるだけではなく改善していくとの実証が得られているそうだ。普通は認知症の薬を処方されるが、それは進行速度を遅らせるだけ。「素読」をすることによって記憶容量が大きくなり、脳が可塑的変化を遂げるという劇的な変化を生む。高齢になるにつれ、一般的にゆっくりしゃべるようになるが、例えば1から120まで順番に数えさせると大学生であれば30秒を切るくらいだが、60代の人は50秒以上かかる。脳が衰えることで言葉のスピードも遅くなるのだ。脳の回転速度が遅くなれば判断も遅れ、次の行動も遅れることになる。オレオレ詐欺で相手のペースについていけず騙されるのもこのことが原因ともいえる。このことも、中身のある古典や名文をある程度の速さで素読し続けることで改善でき、お年寄りの脳にとっても効果が大きいと川島氏は言う。
70歳にもなると痴呆症は怖く、常に気になる病気だ。自覚症状がなく、他人に迷惑をかけることが、ガンなどの他の病気と違う。健康、とりわけ認知症に効果があると言われるもので出来ることは早速実行に移していきたい。

素読のすすめ

スマホ中毒の弊害と読書離れの悪影響に警鐘を鳴らし、素読の必要性を訴える脳科学者で、脳トレの先駆者川島隆太氏(東北大学加齢医学研究所所長)とテレビのコメンテータとしても有名な明治大学文学部教授斎藤孝氏との対談記事が「致知2016.12」に掲載されている。斎藤孝氏も数多くの素読の実践をベースに、その意義を伝え続けておられる(声に出して読みたい日本語)などの著書多数)。
川島氏はかねてから、きわめてプアなセンテンスでやり取りしているSNSに警鐘を鳴らされている。仙台市の7万人の子供たちの脳を7年間調べ続けているそうだが、スマホやSNSの利用と学力との関係が明らかになってきたという。すなわち、これらを使えば使うほど学力は低下するという。脳の中の学習した記憶が消え、例えばSNSを1時間やると、百点満点の5教科のテストで30点下がるとのこと。
一方で、読書は作者の脳みそ、すなわち考え方との対話と考えることができるが、目で追うだけではなく声に出す、手で書くということで、視覚、聴覚、運動情報を多く使うことになりより記憶に刻まれることになる。さらには、人間の前頭葉の中心、ちょうど眉間の上あたりに背内側前頭前野という高度なコミュニケーションを司る部分があり、お互いの気持ちが通じ合っている時には、その脳の揺らぎが同期することが今年初めて分かったそうだ。このことは、江戸時代の寺子屋での論語などの素読をベースにした教育法が、生徒たちの脳の同期を促し、一体感を生むものだったことにつながる。斎藤氏はNHKの「にほんごであそぼ」に携わったとき、幼児も含め、子供たちには難しい言葉の意味が分からなくても面白がって次々に覚える、敢えてこちらが説明を加えなくても言葉の奥行に自然と興味を持ってくれることにとても関心を抱いたという。
イギリスやフランスでも文豪の著書を学校教育で暗唱する教育がなされているが、明治維新の原動力にもなった日本の暗唱文化が失われていることに両氏は警鐘を鳴らす。さらには家庭でも親が本を読まず、子供と食事をするときも親がスマホをいじったり、テレビを見たりしている現状を嘆く。幼少時代、母親からの読み聞かせで童話を全部暗誦できるまでになった川島氏は「それが自分の読書の原点」といいつつ、家庭と学校双方が、再度読書と素読の重要性を認識し、若い人たちのスマホ中毒の蔓延を双方が力を合わせて防ぐことが重要と訴える。ちなみに斎藤氏は著書「親子で読もう実語教」、「子供と声に出して読みたい童子教」(共に致知出版社刊)などを出版されている。これらは江戸時代の子供たちが使っていた素読の教科書で、企業から市町村や学校への寄贈も相次いでいるそうだ。

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“鳥貴族、うぬぼれて30周年”(日経全面広告)

11月8日日経朝刊32面に焼鳥屋チェーン「鳥貴族」が全面広告を出したのには驚いた。かねてから日経では外食産業の中でも「鳥貴族」の業績の好調さは報じられていた。私はまだ行ったことはないが、現在は東名阪中心に500店舗を展開しており、3年後には1000店舗に拡大するという。ホームページを見ても、この11月、12月で15店舗オープンするようだ。ビールなどの飲料も含めてすべてのメニューが280円均一とか。それも27年間その価格を維持しているというから驚きだ。「焼鳥屋の大チェーンで世の中を明るくする」との思いで31年前、25歳で起業した大倉忠司代表取締役の経営哲学の一端を紹介する。
期せずして、私の愛読書「衆知(旧松下幸之助塾)」2016.9.10月号“ビジョンを実現する力”特集記事に「理念にうぬぼれお客様を感動させる~世の中を明るくする焼鳥チェーン・鳥貴族「280円均一」の経営哲学~」のタイトルで大倉社長に関する記事があった。そのリード文は
新鮮な国産鶏肉を使用した「メニュー全品280円均一」!注目の焼鳥チェーン「鳥貴族」は、美味しさと均一低価格で幅広い世代の顧客に支持され、店舗数を着実に伸ばし続けている。創業時から大チェーンを作ることを常にイメージしていたと語る大倉社長は、徹底したお客様目線で創意工夫を凝らし、味と価格と接客サービスを追求してきたという。掲げる究極の目的は「焼鳥で世の中を明るくすること」。そして、そのビジョン実現の過程には、「お客様にとって本当にいいか」「人として正しいか」という普遍的な問いの積み重ねがあった。
まず、顧客層を中高年の男性から女性や若者に拡大するために、赤提灯をなくしカウンタ席からボックス席主体に変えたり、従業員の制服も変えたりした。「鳥貴族」の名前は来客に貴族のような気分になっていただきたいとの思いからという。低価格「280円均一」のアイデアはダイエーの創始者中内功氏への共感故だった。しかし、経済の好不況で価格を動かす低価格競争ではなく「280円均一」に志とプライドをもち、コストをかけるべき部分は絶対に守りつつ、この路線を27年間守り続けてきた。国産の鶏肉を各店舗で一つひとつ串うちして提供し、他の食材も「国産国消」にこだわり、お客様に安心・安全と新鮮な料理を提供すると同時に日本の生産者を支援する姿勢を貫いている。今年東証一部上場を果たしたが、これを契機に社員の意識改革にも以前にもまして力を入れている。週休2日制や労働時間短縮をはじめ、善悪の判断に重きを置き「正しい会社として永遠に存続する会社にしよう」と言い続けているそうだ。
大倉社長は必ずしも評判の良くない外食産業の社会的地位向上のためにも活躍されている。「世の中を明るくする」「外食産業を人に感動と笑顔をもたらす素晴らしい業界にする」という目標を「うぬぼれ」と称し、「営業中」の看板の代わりに自署の「うぬぼれ中」の看板を掲げながら今日も営業されている。
まさに「ビジョンを実現する力」は、トップのリーダーシップと、トップの意思を理解して行動する社員の組み合わせで達成できるもの。一度「鳥貴族」に行ってみたい。

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冲中一郎