3月8日の日経朝刊1面のコラム「春秋」に、「近畿大学と吉本興業などが協力して、笑いが心身の健康にどんな影響を与えるかを調べる研究が始まった」と報じている。被験者にお笑い芸人の舞台を定期的に見てもらい、表情や心拍数といったデータを集めて病気の発症率との関係を調べるらしい。近く開設される大阪の病院でも、がん治療に笑いがどう役立つか研究するという。患者をお客に、病院の中で落語や漫才の会を開き、笑う前と後で免疫機能の働きや、ストレスの度合いを示す物質の変化を分析する。
これまで当ブログでも、笑いの効用に関する記事をいくつか紹介してきた。
「笑いと涙で健康ライフを!」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/24)、「人は笑うから楽しくなる!(臨床道化師塚原氏)」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/5364)など。
1月31日の朝日新聞24面にも、シリーズ「列島を歩く」で、「笑って病気を吹っ飛ばせ」のタイトルの記事があった。医師や看護師、学者など医療関係者でつくる「癒しの環境研究会」(2005年に医学博士の高柳和江氏が立ち上げ理事長を務める)が設けた「笑い療法士」の資格取得者が全国で850人となり、各地での「笑い療法士」の皆さんの活躍の様子が書かれている。宮城県岩沼市の南浜中央病院の看護師久保香織さん、岡山十字病院の石井史子医療事業部長は東日本大震災がきっかけで「笑い療法師」の資格をとり、患者に笑顔が戻るお手伝いをされている。
高柳氏は、以前「致知2009.6」で筑波大学名誉教授村上和雄氏と{人間における笑いの研究}のタイトルで対談されている。高柳氏が“笑いの効用”を意識されたのは10年間のクウェートでの勤務経験から。病院の環境の良さに加え、患者は信仰心から「自分の寿命は神様が決めてくれる」とどんな病気でも笑いながら受け止めている。一方日本人は告知されるとペシミスティックに死を考える。「生きてやる」との気概の差異に驚くとともに、その気概が病気の治癒力にも関係することが分かったという。世界的に有名なイギリスの医療雑誌によると「諦めて絶望的になるグループは経過年数4年で2割しか生存しないが、病気にも日常生活にも積極的な人たちの13年後生存率は8割を超えている」との記事もあるらしい。
高柳氏は、朝日新聞の記事で「笑いの効用には、がん細胞を攻撃する細胞を活性化したり、糖尿病患者の血糖値を下げたりという研究があり、現場で実例をいくつも体験した」という。「ブラックジョークやシニカカルな笑いではなく、相手の心に寄り添い、自然な笑顔を引き出すこと」が重要とも。
特に日本では、東京などの大都市で、諸外国と比べて、しかめっつらした人が多いとの話も聞く。学校では“いじめ“、会社では”パワハラ“、国会では”非難合戦“、未来に向けて”笑い“などできるはずがないと言われる方、「楽しいから笑うのではない、笑うから楽しい」との臨床道化師塚原成幸氏の活動を信じて、まずは笑ってみましょう。
信頼されない日本のCEO?!(日経)
表題のような衝撃的な記事が昨日(2月28日)の日経朝刊17面のコラム(一目均衡)に掲載されている。日経編集委員西條郁夫氏の記事だ。世界有数のPR会社(米エデルマン社)が世界28か国で毎年実施する調査結果らしい。
その最新の結果では、「CEOは信頼できる」と答えた回答者はわずか18%と国別で日本はなんと最下位だった。1位はインドの70%で、米マイクロソフトやグーグルの現CEOはインド出身者というからうなずける。先進国は成熟した経済環境の中で総じて低い評価になっているそうだが、ビリから2番目のフランスの23%に比しても低い。なぜこんなに低いのか?
西條氏は、東芝などの不祥事発生があるが、米国に比して悪質とは言えず、そればかりが原因とはいえないと言う。この疑問に対して、調査会社の社長の仮説はこうだ。
「日本の経営トップが何を考え、何をしているのか、一般の社員や社会が目のあたりにする機会が諸外国に比べて少ない。このvisibility(可視性)の低さが信頼の低さにつながっているのではないか」
「可視性」の高さで傑出するのは日産自動車のカルロス・ゴーン氏。米国ではユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOが有名で、愛嬌のある風貌で各地の空港を回り社員と交流し、その結果、現場のモラルが目に見えて向上し、定時就航率を大きく上昇させた。西條氏は言う。「政治への信頼も同じだが、CEOへの信頼が薄いと、経営陣がいくら改革の旗を振っても社員が呼応せず、停滞が長期化する恐れがある。今の日本企業はその落とし穴にはまってないだろうか」と問題提起している。
「社員ファースト」か、「顧客ファースト」か議論はあるが、多くのCEOが言う「社員が気持ちよく働けないようでは、顧客満足はない」ということは正しいと思っている。前職で、入社3年目の社員との昼食会を毎年開催した(30数回/年)が、社員から「社長は毎日会社では何をされているのですか」と何回か問われ、社員向け社長ブログを始め、社の方針、自分の考え方や、国内外のIR,講演会など諸行事を発信することにした。社長は雲の上の人で、日ごろ特別な事をしているのではとの思いだったのだろう。これではダメだと思い、各支社にも社員とのコミュニケーションのため出かけたが、もっとやり方があったのではと思う事しきりだ。経営陣と社員が気軽にコミュニケーションできる環境つくりは、明確な意思の元での粘り強い取り組みが必要ではなかろうか。当ブログでも、社員を大事にし、お客様を大事にする松下幸之助氏など有識者の考え方を紹介している。ぜひ参考にしていただきたい。
八芳園の危機を救った人
年間挙式披露宴組数がピーク時の3分の一にまで落ち込み経営危機に陥っていた八芳園に平成15年、ブライダル企業、婚礼システム販売会社を経て入社した井上義則氏(昭和45年生まれ、現八芳園取締役専務総支配人)。その後4年でⅤ字回復を成し遂げた、その軌跡と、困難を乗り越える要諦を語ったインタビュー記事が、「致知2017.3」に掲載されている。タイトルは「困難を乗り越えたとき、人は輝く」。
井上氏は、当時危機状態にあった八芳園から誘いの声がかかったとき、周囲の人百人中百人が「お前が行ったところで何も変わらない」と反対するなか、敢えて困難に飛び込んだ。しかも、生意気にも、オーナーに「肩書は要りません。2年で黒字化できなかったら切ってください」と宣言して入社したという。その頃、偶然日本ビクター社のVHSの開発をめぐる実話を基にした映画「日はまた昇る」を観たことで触発され、自分も自分の命を情熱的に燃やせるような仕事に取り組みたいと、一人で勝手に燃えたと笑う。
井上氏がやったことは、まさに「カスタマー・ファースト」。何もしなくてもそれなりにお客様は来てくれることで安心し、お客様の期待以上のものを提供できていない組織、いわゆる”大企業病“を克服するところから始めた。自分が率先してお客様と接する回数を増やし、やる気のある若手をサービスの責任者に抜擢しながら、多くの社員が同じボートに乗りはじめるように誘導した。お客様の要望を聞きながら、チームでお客様の願いを叶える”Team for Wedding”のスローガンが共有され実行されるようになった。「入院中のお父様にウェディング姿を見せたい」「生みの親にも見せたい」などに応えるために、部署を超えて組織が一つのチームになっていく。4年で挙式披露宴1000組を2000組にした後も、継続的に企業、社員の成長を期するために、ビジョン(日本人には心のふるさとを、海外の方には日本の文化を)やミッション(いつまでもあり続けること)も作り、それに向かってサービスを考え、組織を変革していく。
井上氏は言う。「リーダーとは、一隅を照らす人。火種や困難を見つけたら、そこに飛び込んで、変革して、皆を輝かせていく人」。自らも八芳園に身を投じたことでここまで自分の人生が変わるのかと納得感が強い。2020に向けて、八芳園のOMOTENASHIの精神、15000坪の日本庭園を武器に、観光事業への貢献、日本文化の発信に一層力を尽くしたいとも言う。「さらなる困難があるなら、僕はそこに飛び込んでいきたい」と意気込む井上氏の覚悟のほどに、自分の過去を振り返るとその足元にも及ばないことに気付かされる。「せめて、これからは」と思いつつ、と思いつつ、井上氏のその覚悟と実行力には頭が下がる。