スロベニア・クロアチア旅行~その1~スロベニア編

ヨーロッパの火薬庫とも呼ばれたバルカン半島のスロベニア・クロアチアへ2日~9日の日程で行ってきた。旅の主体はクロアチアだったが、そのクロアチアでは、1991年独立宣言以降1995年まで続いたセルビア人との戦争の跡がいまだに残る光景も見られる(破壊された家の残骸など)。何世紀も続いてきた戦争が20数年前まで続いていたとの事にも驚くが、有名なドヴロクニクの旧市街なども世界からの支援を得ながら市民の手で忠実に修復・再建された姿だと知ると、景色を見る目も違ってくる。
成田からウィーン経由でクラーゲンフルト(オーストリア)へ。そしてバスでスロベニアの目的地ブレッドへ向かう。成田を13時35分発で到着が23時過ぎ。時差が7時間で、16時間以上かかったことになる。

最初は、スロベニアのブレッド湖へ(ブレッド湖の湖畔のホテルに宿泊)。スロベニアも旧ユーゴスラビアから1991年に独立した人口200万人強の小国だ。ブレッド湖は北に2000m級の山々が連なるユリアン・アルプスを望む宝石のように美しいと形容されるスロベニア屈指の保養地だ。旧ユーゴスラビアのチトー大統領もこの地をこよなく愛し、現在はホテルとなっている別荘もある(写真の後方がユリアン・アルプス、崖の上の建物がブレッド城)。


湖の小島に立つ“聖マリア教会”には手漕ぎボートで行く。手漕ぎボートは“プレトナ・ボート”と呼ばれ昔から受け継がれてきた伝統を守り続けているそうだ。”聖マリア教会“はスロベニアで最も人気の結婚式をあげる教会らしいが、99段ある階段を新郎が新婦を抱っこして上がるという試練が待っているらしい。教会の内部で人が集まっているのは、ぶら下がるロープを3回引っ張り、鐘を鳴らせば願いが叶うとのことで、皆さん必死にロープを引っ張っている人たちだ。

次に訪れたのが世界遺産の“ポストイナ鍾乳洞”。圧巻の鍾乳洞だ。その幻想的な空間と壮大さに圧倒されるのは間違いない。もともとスロベニアの大地はカルスト台地で、土地の半分が石灰岩で、スロベニアには1万個以上の洞窟があるという。この洞窟はピフカ川の地下水流が200万年とも言われる間に徐々に侵食してできたものと言われ、最大深度は114m。総延長20km強もあるが、見学できるのは5kmほど。まずはトロッコ電車で行き、徒歩で2km弱を歩いて見学(昇り降りが結構きつい)し、再度トロッコ電車で帰る1時間の工程だ。第一次世界大戦時にロシア捕虜が作った橋もある高い天井に深い谷の大きな空間に広がる光景は初めて見る光景だが、発光禁止の撮影では、なかなか全貌は紹介することは困難だ。茶色から白色に至る鍾乳石群、石筍群、石柱群次々に目の前に広がる。


以下は上から下に伸びる鍾乳石だ。


次は下から上に伸びる石筍。


最後は鍾乳石と石筍がつながった石柱だ。


鍾乳洞内には150種類の動物が住むと言われている。中でも、人の肌色をした”類人魚”と言われる大変珍しい「ホライモリ」が生息しており、水槽で飼われているものが見られるそうだが、残念ながら見ることが出来なかった。徒歩見学の最後にたどり着くのが1万人収容の“コンサートホール”だ。誰かが突然歌を歌い始めたが、大きく響き、すごい拍手をもらっていた。

ヒルトップを知らずして中小企業を論ずるな!

前稿で予告しました京都の鉄工所ヒルトップの副社長が出された本のタイトル「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」(ダイヤモンド社、2018,7発行、山本昌作著)の紹介です。帯封には「非常識な経営手法で、売上、社員数、取引者数すべて右肩上がり!日本最強のクリエイティブ集団が京都の町工場にあった」「人が育つ、“アメが8割、ムチが2割”の原理」とある。

ともかくすごい!徹底して「人は成長するもの」「単調な仕事(同じことを毎日やらせる)は本来人の仕事ではない」「クリエイティブな仕事で働き甲斐を覚えれば、人は成長する」などなどの信念の実現を目指し、薄汚い鉄工所イメージをガラッと刷新(24時間無人加工の夢工場)し、大量注文の取引先から少量注文の取引先に変え(毎年100社入れ替わる)、人も変え、本社も変えた。

日経夕刊2018.9,13の「目利きが選ぶ3冊」で兵庫県立大学の中沢孝夫客員教授の選定理由は「この会社を知らずに中小企業を論ずる人はモグリである。単品物を中心とした少量受注、加工方法の徹底したデータ化、多大な利益率(20%以上)、多様な取引先、多彩な採用と優れた従業員教育。親の代からの辛すぎた町工場時代の工場労働を克服し、豊富なアイディアの湧き出る職場、従業員が活き活きと働く職場への転換・脱皮には、無論、たくさんの困難があった。」とある。年間2000人を超える見学者があり、テレビなどでも取り上げられているそうだ。

山本副社長は40年前入社直後、自動車用部品加工の取引先に研修に出され、孫請けの自社とは違う規模の装置を使って、来る日も来る日も、同じ作業を繰り返すことに幻滅を感じ、「こんな事、人のやることではないだろ」「楽しくなければ仕事ではないだろ」と感じたのが改革の原点だと言う。そして「社員が誇りに思えるような”夢の工場”を作ろう」「油まみれの工場を”白衣を着て働く工場にしてみる」との夢を一貫して追求してきた結果が今の姿だ。鉄工所でありながら、「量産物はやらない(注文は受けない)」「ルーティン作業はやらない」「職人は作らない(経験や勘に頼り自分の技術を論理的に説明できない職人)」。社員は、昼間は注文に応じた装置のプログラム作り、物つくりは昼夜、機械に働いてもらう。

“このような環境では人が育つ”ことの証明になるのが、開発部長、営業部長、東京オフィス支社長など要職についているのは、元ヤンキー・暴走族で、それもその筋からスカウトされたこともある”レベルの高い“人もいるという驚きの事実だ。
なぜ、敢えて儲かる仕事を捨ててでも苦難の道を歩み、”夢工場“を実現させることが出来たか?徹底的に社員を信じ、社員との真剣な対話を通じて、最初は怪訝な顔をしていた社員が、いつしか真剣に一緒に夢を追いかけるようになってくれた、筆者のぶれない信念と行動力がなければ、出来なかった。14年前の工場火事で死にかけた筆者は、4か月の入院期間も”夢工場の建設“が頭から離れなかったそうだ。その執念が見事に開花している。見事だ!

社員を躍動させる”ホラクラシー”組織とは???

9月11日日経朝刊に大々的に“「ホラクラシー」組織躍動”との記事が掲載された。サブタイトルに「上司も部下もなし」、「アトラエ 社員の熱意引き出す」とあり、関心をもって読んだ。記事のリード文を紹介する。

社長の下には役員・管理職がいて、その他多くの平社員―――・日本に限らずヒエラルキー型の組織は企業の一般的な姿だ。ところが6月、上司や部下も命令もない企業が東証1部に登場した。「ホラクラシー」などと呼ばれ、指示を受けず自分で考え自分で動く自律型スタイルだ。そんな「性善説」経営で本当にビジネスが回っているのか。

6月に上場したのは求人サイト運営の「アトラエ」(“アトラエ”とはスペイン語で“魅了する”との意)。約50人の会社で8期連続増収増益を達成している。会社法で取締役、CEO,CFOは置くが、それ以外の肩書は基本的になし。全社員が情報共有し、自ら考え自ら行動するための施策が豊富だ。ホラクラシーの弱点ともいえる公平な評価制度に関しては、「360度評価」と独自アルゴリズムを活用する。まず自分の働きを理解していると思うメンバー5人を選ぶ、5人の評価も、周囲からの評価の高い人、低い人で重み付けをし、公平性を保つ。新卒の面接は5回行い、中でも不満を外部の理由にし、できない理由を見つけようとする人は外す。

米調査会社のギャラップが17年に公表した仕事への熱意についての国際比較によると、日本で「仕事に熱意をもって積極的に取り組んでいる」従業員の比率は全体のわずか6%。調査した139か国の中で132位と最下位級に沈む(日本人の低エンゲージメントに関してはhttps://jasipa.jp/okinaka/archives/7809)。埼玉大学の宇田川元一教授は「“ヒエラルキー型“は決まったことをきちんと実行するにはいいが、イノベーションは生まれない」と言う。
以前、JASIPAの定期交流会で講演頂いたソニックガーデン(https://jasipa.jp/okinaka/archives/2399)もホラクラシー型の企業として挙げられている。“社員にとって働き甲斐のある企業”を求めて、社会は動き始めている。社員の意欲をかきたて、社員の能力を最大限発揮できる環境を作ることで、成長をし続けている企業も数多い。日経9月13日の夕刊「目利きが選ぶ3冊」で「この会社を知らずに中小企業を論じる人はもぐりだ(兵庫県立大学中沢孝孝夫員教授)」と評された「遊ぶ鉄工所」(ダイヤモンド社、2018,7刊)もすごい挑戦をして会社をクリエイティブ集団にし、増収増益を継続している。京都にある「ヒルトップ㈱」だ。いずれ紹介したい。

事業継続の活路は、“社員の自主的なやる気”であり、“人はその気になればすごい力を発揮する”ということを実証している。

冲中一郎