失敗を認める難しさ

震災、原発対策への菅総理に対する不満は極致にあるように思われる。私も最初は、批判・非難する人たちに対して、「批判は何も生み出さない、だからみんなの力で前を向いてこの国難に当たるべき」と思っていたが、今は「何をやっているんだ」との怒りに満ちている。こんなに多くの人が非難してしているのに、「自分のやっている事はすべて正しい」との姿勢を崩さないのには驚くばかりである。

政治家というのは、「なぜ、反省しないんだろう」、「なぜヤバいと思っても素直に軌道修正が出来ないのだろう」と思っていたのですが、我々に身近なシステムプロジェクトにおいてもリーダーがまさに同じ過ちをおかし、泥沼にハマってしまう現実を見ると、「ヤバいなと思っても、見ないふりをする」というのは人間の本質的な特性なのか?と・・・。

それならばリーダーとして、何を教訓として頭に刻み込まねばならないか、デドローの【なぜリーダーは「失敗」を認められないか】を紹介する。

「人は現実を否認しがちで、それが疵を深くする」人間本質機能として世界的にこのような事象はあちこちで起こっていると説くのは【なぜリーダーは「失敗」を認められないのか】の本の著者テドローである。

「否認」とは、ある不愉快な現実に対し「本当ならひどすぎる。だから本当ではない」と考える無意識の心の働きを言う。米国ニューヨーク州知事がホテルに高級娼婦を連れ込んだところを目撃され辞任に追い込まれた事件があった。記者に「あんなことをしたらいずれ明るみに出ると、なぜ思わなかった?」と聞かれて『確かに見つかったら・・・ということは頭をよぎりました。でも明白な事実に向きあいたくないがために、それを無視してしまうことも、人生ではよくありませんか?』と答えたそうだ。否認の本質が明確な事実として述べられている。

現実に目をそむけて、倒産した会社も数多くある。創業100年を経た小売チェーンの大手A&P社、1950年代は市場のリーダーであり、増収増益で最高益も出していた。その時代米国はどんどん豊かになり中産階級の人たちは郊外に住むようになった。A&Pも郊外進出で物件を確保しようとしたが、長期リースを求める貸手に対しA&Pは過去からの伝統で短期リースを譲らず、あっという間に落ち込み、結局ドイツの企業に買収されてしまった。経営者は「これが現実とは信じられなかった」と反省したが時すでに遅し。

経営もそうだが、まさにプロジェクトリーダー(あるいは部門管理者も)にもこの教訓を常に意識してもらいたい。(多少文言は私なりに加工しています)

  • ① 危機を感じたら、先延ばしをせず直ちに対策を打つ。
  • ② 事実は正確にデータで把握し、事実を直視すること。矮小化したり、捻じ曲げたりしない。
  • ③ 管理者は、事実を自らの手で、目で確認すること。報告だけに頼らないこと。
  • ④ 管理者は悪い報告を聞く耳を持つこと。聞いたら行動すること。
  • ⑤ 長期的な視野で、危機を予測すること。
  • ⑥ 言葉遣いに気をつけること。リーダーの言葉の影響力を考えること。
  • ⑦ 上司・部下には隠すことなく真実を語ること。
  • ⑧ 過去の常識に囚われないこと。「過去の常識にしがみついて楽観視する傾向あり」

リーダーの危機検知能力の弱さが、社員、ひいては会社を不幸にする。ニューヨーク州知事でも出来なかったこと。相当上記教訓を頭に叩き込んで事に当たらねば、同じことが何度も繰り返されることになる。トラブルプロジェクトは終わってみれば、皆さん、途中段階でヤバいと感じていた、あるいは分かっていたと言う。心したい。

再度「人脈作りの重要性について」

「一生モノの人脈作り」を先月UPしましたが、今回はジョンソン・エンド・ジョンソンなどグローバルエクサレントカンパニー6社の社長・副社長職などを経験された新将命(あたらしまさみ)氏の「経営の教科書」から人脈の重要性を説く一文を紹介する。

「人間とは、その人が今までの人生の中で会った、すべての人の総和である」

A man is a sum total of all the People he has met in his life.

本の中では、「最近見つけた面白い言葉」としか書かれていませんので、誰の言葉か不明ですが、自分の人生を豊かにするための行動指針として頭に刻み込みたい名言と思います。経営者に求められる最も重要な資質が「情熱」であるとした上で、その情熱を燃やし続ける方策の一つに「情熱の火を分けてくれる人とつきあう」とあり、そのために「知識や情報だけではなく、上質な人脈や刺激を求めて勉強会に行くべし」と続けています。

人は下記に分類される(%は存在比率)。

  • 「自燃型(5~10%)」
  • 「可燃型(80%)」自分では燃えないが誰かがマッチを擦ってくれれば燃えるタイプ
  • 「不燃型」
  • 『消化型(1~2%)」せっかくついた火を消しまわる人
  • 「点火型(5%)」

経営者自ら「自燃型」が如何に継続できるかであるが、そのために「自燃型」「点火型」の人との付き合いを奨励している。経営者のみではなく、若い人たちにとっても、意味深長な言葉だと思います。いい友、いい人脈を作って下さい。間違っても「消火型」にならないように。

韓国「サムスン電子」躍進のなぞ

先週土曜日夜の古館一郎の「報道ステーション」で財部誠一氏が、韓国LG,サムスンなどに圧倒されているパナソニックのインドでの巻き返しを特集していた。インドでの売上がLG2400憶円、サムスン1800億円に対してパナソニックは400億円。これを今年1000億円、来年2000億円にする目標を立て大坪社長が先頭にたって、策を講じており、かなり目標達成の確度は高いとの事であった。

パナソニックインドのインド人従業員が、各家庭に入り込み、生活様式から細部にわたって調査し、リモコン不要(つけっぱなし)、風流の変化不要(天井に大きな扇風機あり)で、2万円台のリモコンを作りヒットさせているそうだ。液晶テレビも売れ出したとか。これも既にサムスンが地域専門家制度を作り、家庭に入り込んでマーケット調査をし製品開発に生かしたやり方と同じだ。

日本のモノマネを脱し、自らの路線を歩むことを決断し、実行に拍車をかけた1997年韓国通貨危機に時代を挟んでサムスンの役員を経験された吉川東大特任研究員の著作「危機の経営」から、サムスンの成功物語の一部を紹介する。

 1993年当時のサムスン電子は、当時のイゴンヒ会長が会社の将来を危惧してフランクフルト宣言を発した年です。その頃は、すべての製品が日本のモノマネで、品質が著しく劣っており、価格を安くしないと売れない状態で、このままいくとつぶれるしかないとの危機意識から、有名な「家内と子供以外はすべて取り替える」との宣言を出されたのです。

まさに日本の後塵を追っかけているのではなく、競争できる力を備えなければ将来はないとの危機意識です。「安かろう、悪かろう」の三流企業からの脱皮です。しかし、優秀故に兵役免除となっている者も多数いる集団でも、会長の言う危機宣言を肌で感ずことが出来ず遅々として改革派進まなかったそうです。優秀ゆえに驕りがあり、「変わらなければサムスンがなくなるなんて何をオーバーなことを」くらいにしか受けとめていなかったとの事。

それが一変したのが1997年のアジア通貨危機です。外貨準備高が低い韓国で、ウォン安が進み、国の経済が停滞し、国が破綻寸前まで行ったのです。IMF支援で何とかなったのですが、サムスンも大幅なリストラに加え2~3割の給与カットをせざるを得なくなりました。これで会長の言っている改革に火が付きました。もともと優秀な集団ですから分かれば早いのです。3PI活動(パーソナル、プロセス、プロダクトイノベーション)の推進が一気に進みました。その中でも特記せねば成らないのは地域専門制度です。これまで日本追随の時は日本語研修が主体だったのですが、マーケットを後進国に照準をあて、立派な教育施設を作り、3ヶ月間のカンズメ教育の中で、それぞれの言語に加えて文化も学び、その後、それぞれの国へ半年から1年行って実地研修でさらに現地の人と生活しながら文化、生活習慣、人の好みなどを覚えるのです。日本など先進国は、「いいものを作れば売れる」との発想ですが、サムスンは「それぞれの国の好みに合った製品作り」に徹したのです。従って日本の製品を凌ぐ品質ではなく、部品もデザインもほどほどにそれぞれの国の事情にあわせた価格設定で売り込みをかけたのです。これで世界を制覇したのです。

このような状況下、1994年からの激動の10年間経営に携わられた吉川さん(現東大特任研究員:日立→日本鋼管→サムスン)の講演ならびに書籍から得た情報です。吉川さん曰く「卵の殻を自ら破ると命ある鳥が生まれるが、他人に割られると目玉焼きにしかならない」。「危機の経営 吉川良三、畑村洋太郎 講談社」より

冲中一郎