それでも人生にYesという

標題は、ナチスの強制収容所で生き抜いた精神科医V・E・フランクル博士の書かれた書名です。そして、生の体験記「夜と霧」なども合わせて、東日本大震災後、以前にもまして読まれているそうだ(フランクルコーナーが設けられている書店もあると聞く)。

「致知2011.11号」の特集「人生は心ひとつの置きどころ(中村天風)」にテレビでもおなじみの諏訪中央病院鎌田實名誉院長と、フランクル博士と親交があり、その学問をがん患者などの治療に役立てておられる財団法人国際全人医療研究所理事長永田勝太郎氏との対談記事がある。

想像を絶する極限状況―毎日のように周囲の人がガス室に送られ(家族も既にいなく)、リーダー(被収容者)から訳もなく殴られ罵倒される日々(体験記「夜と霧」)―を生き抜き、それを学問領域にまで昇華させたフランクル博士。人間の実存性、すなわち生きる意味を持ち、楽観的な精神を持って生き抜いたのです。ぶん殴られてメガネが吹っ飛び割れてしまった。助かったら「精神医学者の収容所体験」と言う本を書き、その表紙にこの割れた眼鏡を使おう、そしてそれが世界的ベストセラーになってカーネギーホールに呼ばれ、聴衆から大喝采を受けている自分の姿を想像したそうだ。これが生きる意味。

がん治療に何を応用している?永田先生は、心の作用によって免疫力が高まることを科学的に実証されているそうだ。考え方を前向きにしたり、笑う回数を増やしたりすれば脳が反応して免疫機能を亢進するホルモンを分泌するとの事。誰かのために何かをしているとやがて自分に生きる意味が見えてくる。癌の宣告で絶望的な気持ちではなく、その宿命に抵抗し、何か至高体験(運命的な出会いでもいい、本でもいい、自然でもいい)を掴む事が出来れば、癌が自然退縮する。

どれだけ辛いことの連続でも、こんなに辛い体験は誰もしていないだろうと面白がって見る。そうやって自分の心の置きどころをちょっと変えて見ると、つまらないと思っていたものが面白いなと思えたり、嫌だなと感じていたことが素晴らしいなと思えてきたり(鎌田先生)。フランクル博士の生きざまの基本には、人生を肯定的に見ると言う姿勢がある。そう考えると、どんな人生に対しても必ずイエスと言えるはず。

フランクル博士の奥さまが、瀕死の大病にかかった永田先生に言われた言葉、「人間誰しもアウシュビッツ(苦悩)を持っている。しかし、あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望していない。あなたを待っている誰かや何かがある限りあなたは生き延びる事が出来るし、自己実現できる」と。

人生楽しく生きましょう!

致知出版社長講演「出逢いの人間学」

前掲の致知出版社主催の社内木鶏全国大会で講演された藤尾社長は「先哲に学び、人間力を磨き、日本を変える」情熱に燃えたぎっている方である。その情熱で「致知」を33年続けて来られたのであろう。初めて藤尾社長の講演を聞かせて頂いたが、迫力十分、説得力十分、知識満杯で、勉強になり、「人生の道しるべ」を得る貴重なものであった。その内容を十分伝えきるのは困難だが、一部エッセンスを書きとめておく。

  • 「人生の成功者」は、自分に与えられた縁に価値を見出す。「成功できない人」は、常にもっといい縁を求め続ける。
  • 米長将棋名人が、羽生さんなど若い人たちが台頭し、負けが込んできた。その時、負けた若い人たちの家庭を見て見たら、すべて「奥さんが主人を尊敬している」家庭であった。
  • 脳性マヒの山田康文君の「ごめんなさい、お母さん」(略)。究極の感謝。深謝の言葉で、お互いが感謝する気持ちを表せばそこに「真の心の交わり」が開けてくる。
  • もうひとつ、脳性マヒの木村ひろ子さんの話。父母を若くしてなくし、わずかに動く左足で米を研ぎ、墨をすって絵を描く。その絵を売って生計を立てていた。自分のためにだけ生きるなら芋虫も同じと、絵の収入から毎月身体の不自由な人のために寄付をした。そして言う「脳性マヒのお陰で生きると言うことの素晴らししさを知った」と。
  • 松下村塾〔吉田松陰〕:「感謝・感激・感動するという資質」がない人は成長できない。
  • 森信三(教育家):人間には現状維持はない。進歩か退歩しかない。
  • 平澤興(元京大総長):人生はにこにこ顔で生命(いのち)がけ。教育とは自ら火をつけること。生きるとは燃えること。
  • 平澤興:人の悪口しか言えぬ人は成長能力のない人であり、また人の短所しか見えない人は成長がとまった人。名人とは、どんな人でも長所を見つけられる人。

「成人の学」は二つの事からなる。一つは特性を養う「人間学」。もう一つは知識・技能を養う「時務学」。前者の人間学を日本の教育は疎かにしてきた。若い幕末の志士を育て、日本を変えるために、命がけで取り組んでおられる藤尾社長。「土手の桜」より「深山の桜」を目ざして、「深山の桜」(雑誌致知)をより魅力的なものにして多くの人がその獣道を踏みしめ立派な道に出来るよう頑張るとの決意も表明された。

感動の渦!社内木鶏大会

昨日ホテルニューオータニで、1200名の参加のもと、2回目の社内木鶏全国大会が開かれた。これは、人間学を学ぶ月刊誌を発行している「致知出版社」が昨年から開催している大会である。致知を教材にして、社長と社員が一体となって社員の人間力を高める活動を展開している企業の発表会である。この活動とは、社内で月1回、全員が致知のある記事に関して事前に書いてきた感想文を小グループに分かれて発表しあい、お互いに評価しあう1時間程度の場を言う。これを「社内木鶏会」と呼んでいる(「木鶏」の意味はhttp://jasipa.jp/blog-entry/6893を参照)。この会のポイントは「美点凝視」。すなわち、感想文を聞いて、発表者のいいところを見つけ褒めることだそうだ。

今回は、南は宮崎県から北は岩手県から、5社の発表があった。ある会社では、社長に権限が集中し、社員は社長の指示待ちとなり、結果的に仕事の効率が落ち業績悪化。これでは将来がないと悟った社長が一念発起、社員を信頼し社員に任せるために、社員の自立化をめざし「社内木鶏会」を始めた。しかし、社員の最初の反応は、今まで読んだこともない雑誌を読まされ、拒否反応が多数を占めたそうだ。社長の指示なので仕方なくやっているうちに、社長の意図も分かり、自らの人間的成長に気付き、目の色が変わっていったとか。他の会社も、同じような経緯で、社長の強い思いで実施し、成功をおさめられている。

社員代表の後に社長も発表し、最後は参加社員全員で決意表明をして終わるが、「社内木鶏会の」の効果(いずれも昨年始めた会社ばかりで2年もたっていない)として言われたことを列記する。

  • 社長が社員の才能に気付く(誰にでもいい所はある!)
  • 発表ないしはコメントしているうちにその質の向上に誰もが目を見張り、多面的な見方ができるようになることに驚く。
  • 管理職の人は、部下の良いところに気付き、謙虚な気持ちで部下と接触するようになる。
  • お客様に接する態度が変わり、お客様の心を早い段階でつかめるようになる。
  • 自分を支えてくれたすべての人、モノに感謝の気持ちが持てる。
  • 他人を慮るようになる。
  • 社長の思いが社員に伝わりやすくなる。

結果として、どの会社も業績が急回復したそうだ。まさに「企業は人なり」を実感した。現在では、急速に広がり、現時点全国で600社、19000人が取り組んでいるそうだ。

このような活動は、稲盛和夫氏、牛尾治朗氏、北尾吉孝氏、渡部昇一氏など著名な経営者、学者、思想家に加えて岡田武史氏、松岡修三氏、米長将棋名人など各界の方々からの支援を受けながら、「社員が変わる、企業が変わる、日本が変わる」との高邁な目標を持って33年間続けられている。5社の発表のあと、致知出版社の藤尾社長のほとばしる情熱とご見識のご披露があったが、またの機会に報告したい。会場は感動の渦だった。

冲中一郎