「論語」が幼児教育に効果発揮?!

「論語を教育に使うと効果的」との記事が最近目立っている。局所麻酔での脳手術、覚醒下手術の第一人者である駒込病院外科部長篠原伸禎氏の対談記事(筑波大学村上和雄教授との)が「致知2015.7」に掲載されている(「脳を知れば人間の可能性が見えてくる」)。覚醒下手術では患者の反応を確認しながら手術を進められる。その手術中に、側頭葉の中にある右の扁桃体に近づくと普段おとなしい女性でも怒鳴りだし、左の扁桃体に近づくと逃避的になり、大人しくなるのに気づく。それを見て、どうも人間の精神と言うのは脳の一つの法則性に基づいているのではと思われたそうだ。さらに最近分かったのは、脳の真ん中にある帯状回というのが扁桃体をコントロールし、突然キレたり、パニックになったりする動物的な本能を司る大脳辺縁系が暴走するのを防いで、人間的な大脳新皮質とのバランスを取るようにしている。そのバランスを取るために「論語」を学ぶことの有効性を主張されている。動物的な脳(扁桃体)は、食欲や性欲など生存に必要な基本的欲求を司っているが、それに巻き込まれると歯止めが利かなくなり、無差別殺人などの悲劇を起こすことになる。その扁桃体をコントロールする学問が「論語」であり、「仁・義・礼・智・信」を修めることと言う。

同じ「致知2015.7」に、神奈川県横須賀市にあるオンリーワン幼稚舎園長の志道不二子氏の「我が国の伝統を継承する真の国際人を育てる」とのインタビュー記事と、「出会いの縁で育ちの種は開花する」との福岡県久留米市の荘島幼稚園園長堤孝雄氏の投稿記事、さらには「PHP松下幸之助塾2015.7-8」の連載「朝倉千恵子の社会を変えたい人列伝」の6回目のゲスト箕面・学問の道「時習堂」館長/平成こども論語塾講師の北山顕一氏の「10畳の空間だから伝えられることがある」で、子どもたちの教育に「論語」を使い、人気を博しているとの話が掲載されている。

共通するのは、「論語」などの古典を読むことによって、人間として大切な思いやり、仁の精神を学ぶことを目的としていること。意味は分からなくても、言葉や文章のリズムが、知らず知らずのうちに園児たちのこころの奥底に刻み込まれ、長い人生の中で逆境や危機を乗り越える力になる。親を思う「孝」を覚え、思いやりの行動で親をも変えると言う。

北山氏の塾では小学生10人ほどが半年に12回10畳の空間で学ぶ。論語をベースに、何が悪いか良いか、自信を持って自分で判断できる人間になること。最初は論語の何か全く知らなかった子が、2回目からは、親に無理やり連れてこられるのではなく、親を引っ張って塾に来ると言う。

企業においても政治においても「己の欲望にために他人を犠牲にする」ことで起こる事件が頻繁に起こる。これからの日本を担う子供たちの教育、育成に全精力を注ぐ人達が全国で活躍されている。応援したい。

“お客さま満足”を行動理念として持ち続けた経営者福地さん(元アサヒビール)

アサヒビール、NHK、新国立劇場、東京芸術劇場のトップを歴任された福地茂雄氏がこの度本を出版された。「お客さま満足を求めて」(毎日新聞社刊、2015.3)だ。新聞で本の出版を知り、私のテーマとも言える「お客さま満足」の言葉に惹かれて購入した。

アサヒグループの経営理念

「アサヒビールは、最高の品質と心のこもった行動を通じて、お客様の満足を追求し、世界の人々の健康で豊かな社会の実現に貢献します」

この経営理念の柱は「お客さま満足」。アサヒの会長・社長の他にNHK会長など全く違う業種も経験されたが、常に経営判断の拠り所は「お客さま満足」で、業界は違っても、この信念に従って行動すれば自ずと道は開かれると福地氏は言う。

アサヒビールが、プロダクトアウトからマーケットインに軌道修正を始めたのは、アサヒビールのシェアがどん底で、「夕日ビール」と揶揄されていた1984年頃。当時の村井社長が米国視察でジョンソン・エンド・ジョンソンを訪問した際、「Our Credo(我が信条)」に触れ、優れた企業には優れた企業理念があることに感銘を受け、「お客さま満足」の考えが初めて経営理念となって謳われた。これが契機となって、5000人の消費者の試飲調査が始まり、お客様の声が「アサヒ生ビール(コクキレビール)」の開発を生み、各部門・全社員の努力の結晶「アサヒスーパードライ」(樋口社長時代の1987年発売)を生んだ。味はメーカーが決める(工場ごとに味が違っていたそうだ)考え方を、「味はお客さまがきめる」と言う、今では当たり前の考え方に変わっただけだが、アサヒビールがそれで蘇った

福地氏が社長時代の2001年には発泡酒への参入を決断した。アサヒスーパードライのシェアを奪いかねないビールまがいのものを出すのに、社内もマスコミも否定的だった。が改良を重ねるにつれ味も良くなり、お客さまに自信を持って出せる商品は出すべし、むしろ出さないことは「お客さま満足」の追求にもとると参入決断されたそうだ。これが「アサヒ本生」で、大ヒット商品になった。

NHK会長時代、最も記憶に残っているのは、2010年の大相撲野球賭博事件で、相撲中継を継続するか中止するかの判断を迫られた時。この時の判断基準も「お客さま満足」。放送中止を求める声が16000件、継続は8000件だった。大相撲のLIVE中継は中止し、相撲を見たいと言う視聴者の声も考慮し、夕方6時台にダイジェスト版を放映した。

東京芸術劇場経営では、2011年3月末に開催予定のコンサートの切符2000枚が完売されていた時、東日本大震災が発生。日本国中がすべてのイベント自粛の大きなうねりの中、チケットの販売後でコンサートを自粛しても得られるのは自己満足だけで、お客さま満足ではないとの結論で予定通り実施した。そしてチケット料金は全額東北の被災地に寄付をすることを、コンサートは始まる前にお客さまに説明し、顧客からは大きな拍手を頂いた。

福地氏は、アサヒにおいても、NHKにおいても「3現主義(現場で、現物を、現実に)」を徹底し、部門間の連携や、適材適所の人事政策など、いろんな改革をしつつ、「お客さま満足」を基軸に決断をしていかれた。アサヒ時代には、環境問題にも力を入れ、全工場「廃棄物ゼロ」を達成し、広島県には「アサヒの森」を作られた。

独善、独断ではなく、確信を持って決断するための方策を講じながら、「お客さま満足」を軸に歩まれている福地氏に共感できることが多い。

「真の口コミ営業」=アンバサダー・マーケティング

「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司法政大学大学院教授)としてメーカーズ・シャツ鎌倉を以前紹介した(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/entry/8437)。そのメーカーズ・シャツ鎌倉の貞永良雄社長が「PHP松下幸之助塾2015-6号」に登場している。その記事の中で、創業時[1993年]の苦労談を語りつつ、自分がものづくりに関わり、人付きあいの好きな奥様が販売を担当するスタイルを作ったことが成功の源だったと言われている。そして、社長曰く、妻に「きょうは5万円売ってよ」と頼むより、「いらっしゃるお客さんに親切にして、全員リピーターにしてほしい」とお願いする方が長い目で見れば効果的だ、と。最初は友人や知人ばかりだったのが、一度来店された方がお友達を連れてこられることが多く、徐々に売り上げが伸びていったそうだ。

アンバサダー・マーケティング=熱きファンを戦力に変える新戦略~」(ロブ・フュジェック著、土方奈美訳、日経BP社。2013・10)では、「アンバサダー」とは、ある会社を熱烈に応援し、見返りを求めずに、商品の魅力を広めてくれる人の事と定義している。値引きや特典を受け取ることを動機とする「ファン」や「フォロワー」と違って、「素晴らしい体験を伝えたい、他の人達を助けたい」との純粋な動機で推奨してくれる人だ。アメリカでは、靴のネット販売ザッポス、アマゾン・ドット・コム、レッドブル、ボディショップ、グーグル、スターバックスなどは広告に頼らず有力ブランドに育ったが、まさにこうした企業においては、アンバサダーこそがマーケティング戦略だったと言う。メーカーズ・シャツ鎌倉もアンバサダーによって成長を遂げたとも言える。

私も講演を時々頼まれることがある(テーマは「お客さま第一、既存客を大事に」)が、その際に、顧客を分類して、各分類ごとに対策を講じることの重要性を訴えている。顧客は、「潜在客」から、一度買ってくれると「顧客」、繰り返し買ってくれる「得意客」、さらに「支持客」、他の人に推奨してくれる「代弁者」、客を連れて来てくれる「パートナー」と進化する。恐らく「代弁者」「パートナー」レベルがアンバサダーと言える。

友人や同僚に、ある商品を勧めるのは責任が伴うため、よほど慎重になるものだ。アンバサダーを発掘する際の究極の質問は「当社を友人に強く薦めようと思いますか?」で、答えを0~10(強く薦める)の数字で答える、9もしくは10と答える客はアンバサダーと見ていいと著者は言う。

お客さまに真に喜んで頂ける商品を提供することが基本であることには変わりはない。顧客を固定客化するには、商品の価値と、売る人の人間性、会社の社会性などがモノを言い、「あの会社の商品なら友人、知人に安心して推奨できる」と思ってもらう事だ。「コンシャスカンパニー」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1718)そのものでもある。

冲中一郎