小さな会社では迅速意思決定のためワンマンがいい?

前々回の当ブログで松下幸之助氏の「人の話を聞く姿はすさまじかった(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1929)を紹介した。その松下氏の「松下幸之助の経営問答」(PHP文庫)の中での1978年の記事「ワンマンと決断」が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年11・12月号」に紹介されている。

「経営問答」の問いは

現代のような競争時代、他社に先駆けてビジネスチャンスを得るには、迅速な意思決定がますます求められています。そのためには、経営者はある意味でワンマンにならないといけないと思うのですが、その際に心がけなければならないことは何だとお考えでしょうか。

前々回のブログで「幸之助氏は、人の話を聞くときは、何時間でも、どんな若造の話でも、1時間でも2時間でも、ひざの上に手を当てて頷いて聞いてくれた。」と書いたが、まさに上記問いに対する答えは、その話を聞く姿を彷彿とさせるものだ。問いに対する答えは

いろいろありますが、やっぱり衆知を集めると言うことですね。ワンマンでもいろいろあります。しかし、かたちはワンマンであっても、その人がいつも国民なら国民、社員なら社員の心、考えを絶えず吸収していればいいわけです。私も小さい会社ながら(当時)、社長をやってきましたが、決して自分の気ままにやりませんでした。創業者だし、一見ワンマンのようだけれど、常に社員の衆知を集めて、やってきたわけです。たとえ今日入った人(新人)の言葉でも耳に入るようにしていますから、みんなの心を持っている。私の場合はワンマンにしてワンマンにあらず、というようなことで、これまでやってきたわけです。

さらに、無理やり話を強要しても真の情報は入ってこない。衆知を集めると言う心持ちを持ちながら、自然体でやることの必要性を説く。その心を持っていると、天の声と言うか、地の声というか、そういうものを心の耳で聞くことが出来ると言う。だから、自分の独断は独断にあらず、全員の思いも一緒だと、こういう考えを持っている。だから、経営者はみんなの声を聞いて、初めて一流になれると私は考えていると。

社員にも松下幸之助のファンが多かったというが、社員との信頼関係があってこその衆知経営、全員経営が成立する。政治も企業も、トップの国民、社員の声を聞く姿勢が、そして国民、社員に対する思いやりの心がお互いに通じ合って、国や企業の活性化がある。松下幸之助氏の考え方を学び、成功した多くの経営者が今でも松下幸之助氏を信奉するのも頷ける。

ほんとに経済成長至上主義でいいのだろうか?

バズーカ砲と言われる金融緩和で、株高・円安が続いている。一方で、生活実感として「生活が楽になった」人は少数派である。あまねく地方まで、経済成長実感を普及させるために「地方創生」を政府は最重要テーマとして進めている。2050年には世界人口は現在70億人が90億人を超えるとの予想も出ている。日本でも少子化問題が経済成長のネックとなるとして1億人を是が非でもキープするための施策が議論になっている。一方で、地球温暖化、食糧危機で、将来的な地球の崩壊を警告する報告書が出されている。

アメリカでは、1981年レーガン大統領のレーガノミクス政策により、豊かな中流層が中核になっていた社会が、その後30年間で富裕層との格差拡大で消滅し、医療や福祉の後退を招くことになった(2005年の調査で上位1%の富裕層が国の総所得の17%以上を受け取っていたとのデータがある)。日本でも小泉政権時代の構造改革、規制緩和策で格差が拡大、そして今、安倍政権のアベノミクスでさらなる格差拡大が問題視されている。まさに株高、円安は大企業、富裕層にとっては恵まれた環境になっているが、中小企業や、大半の国民はその恩恵にあずかれていない実態がある。アベノミクスによる第一の矢「金融緩和」のみに頼らざるを得ないことの限界でもあるが、本来の「需要喚起→企業成長→賃金上昇→需要増」という好循環を生むための「第3の矢」が中々でてこないため、国民の大半の生活が楽になるどころか苦しくなっている。

以前紹介した「里山資本主義」の中で、藻谷浩介氏は『日本の食料自給率は39%、食料さえも諸外国に依存し、お金が無ければ生きていけない。戦争はエネルギー問題が発火点になることが多い(第二次世界大戦もそうだった)が、これからは食料問題も引き金になる恐れが出てくる。“経済成長”のみを追っかけることの怖さ、不安定さを考えれば、安全保障の前にやるべきことがあるのではとの提案が「里山資本主義」だと言える。安全保障環境が厳しくなるにつれ「食料も資源も自給できない国の繁栄など、しょせんは砂上の楼閣ではないか」との不安がますます募るhttp://okinaka.jasipa.jp/archives/560』と言う。

経済学者で、小渕、細川、小泉政権で経済諮問会議などを通じて施策の片棒を担いだことを反省し「資本主義はなぜ自壊したか」(2008.11集英社)を著した中谷巌氏。その中で、現下の格差社会をもたらしたことなどを「懺悔」している。『一時日本を風靡した「改革なくして成長なし」は、一部成果もあったが、この20年間における貧困率の急激な上昇は日本社会に大きなひずみをもたらした救急難民や異常犯罪の増加もその「負の効果」に入るかもしれない「改革」は必要だが、その改革は人間を幸せにできなければ意味がない』と言っている。さらに『利潤追求を至上命題とするグローバル資本主義においては、子孫のために自然環境を守り、資源を節約しようといった話は所詮副次的なテーマにすぎない。グローバル資本主義は地球環境問題について責任を負わないばかりか、むしろ、環境破壊を加速する側に加担しているのだ』とも言っている。

福島第一原発の事故の総括もせず、原発の輸出に血道を上げる、財界の意見に押されて地球温暖化ガス削減目標の策定にしり込みする、世界で最もひどい国の財政状況を、将来世代のために改善せねばとの強い意思が見られない、などなど、すべて経済成長を最優先する考え方に基づくものだ。IPCCの報告にもあるように、「地球温暖化を抑制する施策は地球崩壊を防ぐためにまったなしの状況」だ。「足るを知る」豊かで幸せな社会もあるのではないだろうか?消費をあおって地球資源の枯渇を招くことがいいのだろうか?

消費税増税問題が引き金の「衆院総選挙」が急浮上してきた。「なぜいま」とも思うが、なかなかいい選択肢がない中、投票先に思案してしまうが、「1強多弱」の世界を何とかして、国民の声が反映されるような政治にしないと将来が心配になるのではとも考えてしまう。

人の話を聞く姿はすさまじかった!

「幸之助さんが私の人生を変えた」と言う方は、松下幸之助氏の部下であった人はもちろん、パナソニック以外の方にも多い。「PHP Business Review松下幸之助塾2014年11月・12月号」には「生誕120年松下幸之助経営者としての凄み」とのテーマで特集が組まれている。冒頭エイチ・アイ・エスの澤田秀雄社長が、創業時代「人を活かす経営」の本で「如何に人を活かすか」「企業は人次第」との原点を学んだと言っている。社員1人ひとりがやる気を持って仕事に取り組んでいるかどうかで企業の業績は決まると。松下さんのすごいところは、仕事の出来る人も出来ない人も、やる気のある人もない人も、みんな抱え込むこと。誰の首も切らない。これも澤田氏は見習っているそうだ。

パナソニックの元社長や役員なども投稿されている。厳しい人との評判も多かったそうだが、心底「この人のためなら死んでもいい」と心から松下氏を信奉する社員が多かったと言う。それは「熱心に社員に語りかけ、ある時は叱り飛ばし、自ら手本を示して、地道に人づくりに徹した経営者」(河西辰男氏)だったから。元副社長で、現高知工科大学名誉教授の水野博之氏は「人の話を聞く姿はすさまじかった」と言う。印象に残るのは人の話を聞くときの姿勢。膝の上に手を当てて、姿勢を正して、じっと前を向いて頷きながら聞いてくれ、その姿勢を崩さない。少なくとも水野氏は、幸之助さんがあぐらをかいたり、足を組んで座ったりしたのを見たことがないそうだ。腕を組んだ姿も見たことがない。人の話を聞くときは、何時間でも、どんな若造の話でも、1時間でも2時間でも、ひざの上に手を当てて頷いて聞いてくれた。これだけでみんなファンになると言う。研修で幸之助氏の話を聞いた主任が、話に感動をし、営業所に帰り嬉々として仕事に取り組む姿を見て、上司や部下もどんな話があったか皆興味津々となる。それが営業所の活気につながり、空気ががらりと変わる。このことも幸之助氏に対する社員の評判の良さを物語っている。品質トラブルを起こして戦々恐々として幸之助氏に報告に行った人が「品質管理よりもっと大事なのは、人質管理やで」と。

「致知2014.11」の「致知随想」への投稿記事でも、現松下資料館顧問の川越森雄氏が「入社後の配属がPHP研究所だったのが不満だったが、新人研修で幸之助氏との懇談があり、雲の上のさらに雲の上の人が、頷きながら真剣に話を聞いてくれた時の感動を今でも忘れない。私たちが幸之助氏の虜になったことは言うまでもない。配属先に対する不満は吹っ飛び、この人の下で精一杯頑張ってみようと言う気になった」と。

人を大事に思う気持ち、その心からの気持ちがあれば、日頃の行動にも自然と現れるのだろう。言葉だけではなく、行動で示す。自らを省みて、自戒の念に捉われることしきり!