理想の上司の条件とは(ドラッカー)

米国カリフォルニア州にあるドラッカー・スクールで生前のドラッカーやその思想を受け継ぐ教授陣から学び、現在はコンサルタントとして活躍する藤田勝利氏へのインタビュー記事がPRESIDENT Onlineに掲載されていた(http://president.jp/articles/-/13671)。題名は『ドラッカーが教える「理想の上司の条件」』。興味深かったので紹介する。企業はいつもイノベーションを必要としている。イノベーションを起こすべき「社員1人ひとり」がいきいき仕事をし、創造的であるためのマネージメントの条件とは?がテーマだ。

ドラッカーはたった一つの行動を求める。それは「問う」こと。自分の顧客は誰か?もっとも活を届けたい人は誰か?そして自分の強みは?仲間の強みは?等々。とかくマネージャーは部下の弱みに目を奪われて彼らの創造性を引き出せないでいる。第一の理想の上司の条件は

弱みより強みに注目する人

そして、第二の条件にあげるのは、

インテリジェンスより真摯さを大事にする人

記事では、知識豊富で頭の切れる女性(Mさん)と、普通の女性だが普段から誰とでも分け隔てなく朗らかにコミュニケーションできる女性(Sさん)を例えに、ミーティングでの失敗・成功事例を紹介している。Mさんは決められたプロセスに沿って理路整然とプロジェクトを進めようとしたが行きづまる。リーダーを交代した役員の右腕としてSさんが取り仕切った会議では、メンバーから建設的な意見が活発に出て、順調にプロジェクトは進んだ。Sさんは自社製品に惚れこみ、思い入れが強く、プロジェクトのメンバーをリスペクトしている。メンバーの発言に心から共鳴しながら議論を前に進めることが出来た。マネージャーの仕事は、

部下をいきいきと躍動させること。

Sさんの持つ「真摯さ」とは、「終始一貫、本気で、チームの目的を達成するために力を尽くす姿勢であり、人間性」、「本気で成功させたいと思っている」「本気でいいチームにしたい」との思いだと藤田氏は言う。

マネージャーは、細分化された業務やルール、煩雑な事務処理、人間関係などで疲弊しきっており、「本当の自分」を見失っているとも言う。ドラッカー・スクールでは、「自分自身をマネージメントできなければ、組織をマネージメントすることは出来ない」と教えられる。自分自身が何物で、何を大切に考えて生き、働いていて、何が強みなのかわかっていないと指摘する。日本人のプレゼンテーションを聞いても、資料は美しいが、内容には感動を覚えないことが多い。理路整然とプレゼンはしているが、自分自身の感情が閉じ込められ、強みが活かせていない。それでは組織全体を動かすエネルギーは生まれてこない。

部下は感動によってこそ、自発的に動く

と指摘する。

最後にイノベーションを喚起する文化にも関係して下記の警告を発している。

利益のみを目的化する企業は、短期的視点からのみマネージメントされるようになる。その結果、企業が持つ富の増殖機能は破壊されないまでも、大きく傷つく。結局は業績が悪化していく。しかもかなり早く悪化していく。

以前紹介した「コンシャスカンパニー」でも同じことを言っている。私も含めて多くの経営者にとっても耳の痛い警告と思うが、変化の激しい時代、真剣に耳を傾けるべき警告とも言える。

今年のノーベル平和賞に17歳のマララちゃんが!

日本時間の10日午後6時すぎ、ことしのノーベル平和賞にパキスタンの17歳の少女、マララ・ユスフザイさんと、インドで児童労働の撲滅を訴えている60歳の人権活動家、カイラシュ・サティヤルティさんの2人を選んだと発表した。17歳でノーベル賞に選ばれるのは史上最年少。ノーベル選考委員会はマララさんについては「その若さにもかかわらず、危険な環境のなかでも勇気をもって女性が教育を受ける権利を訴え続け、子どもでも変化をもたらすために何かできることを示した」と述べた。

今朝の朝日新聞に、マララさんのスピーチ全文が掲載されている。若すぎるとの意見もあったそうだが、17歳とは思えないスピーチで、さすが危険をも顧みず自らの意志を貫き通す姿勢がよく表れている。インドのサテヤルティさんと電話で、お互いに対立するパキスタンとインドの首相を表彰式に呼ぶことを約束したことも話している。

「肌の色や話す言語、信仰する宗教が問題なのではありません。お互いを人間として扱い、尊敬しあうべきなのです。そして、私たちが、子どもの権利、女性の権利、全ての人々の権利のために闘うべきです。」

2年前に頭部と首に銃弾を受け、奇跡的に助かり、今なお銃弾にも屈せず闘うマララさんの言葉ゆえに迫力がある。

「この賞によって、自分がより強く、より勇敢になったように感じました。(中略)私の歩みを前に進め、私に自信を持たせてくれる励みになりました。すべての子どもたちが良質な教育を受けられることを確実にしたいです。それだけに、この賞はわたくしにとって本当に素晴らしいものです。」「万国の子どもたちよ、権利のために立ち上がれ!私が頂くこの賞は、私だけにくれるわけではないはずです。この賞は、声なき声の持ち主であるすべての子供たちのためにあります。私は彼らのために語り、彼らとともに立ち上がり、自分達の声を届けようと言う彼らの運動に連帯します」

この賞をきっかけにして、活動をより活性化したいとの強い意志の表明だ。

タリバンの支配下にあるパキスタンのスワート渓谷に育ち、その環境でなぜ、自分の権利(教育を受ける権利)を主張するために立ち上がったか、その経緯についても話している。

「そこには二つの道しかありませんでした。声を上げずに殺されるのを待つか、声を上げて殺されるか。私は後者を選びました」

「勉強をして、自分の夢(医者)を実現したい」との純粋な思いが彼女を突き動かした。世界には教育を受けられない子供たちが5700万人いると言う。日本では教育を受けられるのは当たり前で、学校や恩師を自分の人生の拠り所としていつまでも敬い、なつかしむ風潮が薄くなってきていると嘆く人も多い。中村学園大学教授占部賢志氏は、「日本の教育を取り戻す」とは、何者にも代え難い本来の「学校」を蘇生する事として、教師や教育行政関係者に発破をかける(「致知2014.1」連載「日本の教育を取り戻す」より)。

部下を勇気づけるには「感謝」の気持ちを伝えること!

「自己啓発の父」とも呼ばれ、その心理学は「勇気づけの心理学」とも言われているアルフレッド・アドラーの名言をシリーズで伝えている日経ビジネスonlineの記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140905/270838/?n_cid=nbpnbo_leaf_bnlu&rt=nocnt)がある。筆者は組織人事コンサルタントの小倉広氏。第1回目は9月17日でタイトルは「“挑戦する部下”と”逃げ出す部下“」。人を大切にする「コンシャスカンパニー」(当ブログで2回にわたって掲載)の考え方に一部共通する点があり、とりあげる。

アドラーは、「挑戦」を選ぶ建設的な行動「逃避」を選ぶ非建設的な行動の違いは、「勇気」があるかどうかだと言う。そして「勇気」を下記のように定義する。

「勇気」=「困難」を克服する活力」

そして

「人は“自分が誰かの役に立つことが出来る”と思えるときにだけ勇気を持つことが出来る」

とも言う。つまり、自己肯定感を持てる時に勇気が出る。そこで、小倉氏は、「アドラーに学ぶ部下育成の心理学」{日経BP社、2014.8刊}において、アドラーの名言に基づいた部下育成術を伝授されているそうだ。それは「褒めて育てる」「叱って育てる」「教えて育てる」といった常識を的外れだと指摘し下記のような方法を提示している。小倉氏の経験からも、油に乗って果敢に挑戦意欲が湧くときは、「自分は出来る」「誰かの役に立てる」と信じることが出来ていたと言う。そこで、「勇気づけ」の基本は、相手が「自分は誰かの役に立てる」と思えるように声をかけ、見守ること。具体的にはアドラーの言うように

「“感謝”を伝えることが最も有効だ」

と言う。「あなたのお蔭でとても助かったよ」「ありがとう。ほんとに嬉しいよ」と。他にも「良い点をみつけ、注目する」などいくつかを提案している。「部下の間違っている点をただし、良い点を伸ばす」育て方は、「部下をコントロールすること」で、「相互信頼、相互尊敬」に基づく行為ではないと指摘する。

「コンシャスカンパニー」のコンシャス・カルチャーの章に、社内に愛と思いやりの雰囲気を作りだすためのホールフーズマーケットでの取り組みの紹介がある。それは

あらゆるミーティングを自発的な感謝の表明で終わらせる

こと。ミーティングの最後の時間を取って参加者のだれかが別の参加者に感謝する機会を与える。内容は、最近一緒に成し遂げた事、好意や親切を示してくれたこと、あるいはその人について自分が好きである点や尊敬できる点など、何でもよい。大抵は、一人一人だけでなく何人かに向けて感謝の意を述べる。

人はミーティングでは批判的にモノを考えがちになり、他の人々の発言に黙って耳を傾けながら、ついつい粗探しをはじめてしまう。感謝の言葉でミーティングを終えると、批判的な場が愛と思いやりの場に変わる。

同じ本に、ノーベル平和賞をもらったシュバイツアーの言葉が紹介されている。

「あなたの運命がどうなるかを私は知らない。しかし一つだけ私に分かっていることがある。それは皆さんの中で、ほんとに幸せな人と言うのは、いかにして他人に奉仕するかを探求し、それを発見した人だということである」

人の役に立つことで生れる“自己肯定感”と”勇気“、それを引き出すための感謝の気持ちの伝達、これが部下のエンパワーメント、ひいてはイノベーション力につながることをアドラーと実際にそのような文化を自社に作りあげてきたジョン・マッキーが言っている。行動するのはあなただ。