2012年の調査では、1位がディズニー、2位が国連、3位に非営利団体のTFA(Teach for America)、4位がGoogle,6位がApple、7位に途上国でボランティア活動を行う、日本の青年海外協力隊に似たPeace Corpsが入っている。日本では業界最大手の総合商社や金融機関ばかりが上位を占めているのに対し、非営利団体が上位を占めるというのは日本では考えられないことだ。この違いから日米の教育の差異に注目し、問題提起を行っているのが九州にある中村学園大学教授の占部賢志氏だ(「致知2014.3」)。占部氏は当ブログでも何度か紹介しているが、「日本のこども大使育成塾」で子どもを東アジアに派遣したり、「語り継ぎたい美しい日本人の物語」などの本を出版され、幅広く教育問題に取り組まれている方だ(http://jasipa.jp/blog-entry/8971、http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2011/10/13)。
「日本の教育を取り戻す」とのテーマで連載されているが、今回は第10回目で「行動に移してこその惻隠の情~一歩前に出る意志と行動力を育てよ~」とのタイトルだ。上記TFAの創設者はウェンディ・コップと言う米国女性で、大学時代に低所得地域など、何処で生まれるかで、受ける教育の中身がまるで違ってしまうとの教育界に潜む根深い問題に気付き、その問題解決にあたる決意をした(1988)。そして「全米の名門大学から優秀な学生を集めて、卒業後の2年間、低所得地域の公立学校に教師として派遣する」との企画を立案。しかし現実は、資金集めはともかく、名門校の優秀な学生をどうやって集めるか難題が次々と現れる。コップ氏は彼ら若手の志に賭けるしかなく、各地の大学に出向いて切ないほどのアピールを繰り返し、ついに若者の志に火をつけた。全米の名門大学から2500名の応募があり、その中から500名を選び、講師としてのトレーニングを施して各地の学校へ送り込み、画期的な成果を収めた。今では、この救国運動に、日本円で30億円近い寄付が寄せられ、応募者も2006年は1万9000人、現在はその倍以上を数えているという。気高き志に打てば響いて参画した大学生、志や良しと見て寄付を惜しまなかった企業や財団の度量も見上げたもの。これが米国の懐の深さと占部氏は言う。
国際的にも日本の学力が落ちているとの問題認識から、学力向上が叫ばれているが、米国に比して“国や社会のために自分を賭ける若者が乏しい”のではないかと占部氏は問題提起する。それを物語るデータとして、平成17年度国立教育研究所が全国の小中学校約2850校の校長と約9000人の保護者に実施したアンケートの結果として「他者 の立場に立って物事を考える」教育はほぼできているが、「社会や他人のために尽くすこと」の教育は出来ていないとの結果が出ている。即ち、他者の立場に立つことで芽生えた惻隠の情はあるが、行動には移せないのではないかと言うのである。別のデータ(平成22年日本青少年研究所日米中韓の高校生対象)では、「私の参加で変えてほしい社会現象が変えられるかもしれない」と思う高校生が日本は30%台に対し、米中韓は60%台だったそうだ(選挙の投票率が他国に比して低いのもこのせい?)。
ではどうするか?平成10年度文部省が実施した小中学生約11000人対象のアンケート結果では、よく家などでお手伝いをする子供の60%は道徳心や正義感が身に付き、「電車で席を譲る」「友達が悪い事をしていたらやめさせる」といった行動を示すのだそうだ。お手伝いをしない子は4%程度しか身についていないらしい。従って、今話題の道徳教育は、学校での学習だけではなく家庭などで身を持ってする奉仕体験が欠かせないと占部氏は言う。東京大学が提唱した秋入学が実現すれば、高校卒業後半年間公共の奉仕活動を義務付ける制度の導入を提言している。オーストリアでは、すべての男子に6カ月の兵役が義務付けられているが、兵役拒否者には州知事の承認を受けた病院や福祉施設などで9か月の代替役務を果たすシステムが採用されている。イギリスでは、50万以上のボランティア団体が存在し、成人人口の二人に一人にあたる2500万人近くが活動に従事していると言う。「ノーブレス・オブリージ」の国でもあり、公けのために生涯を捧げる意志を養う教育をイギリスでは「エリート教育」と言うとの事だ。
今「教育再生」が叫ばれている。災害時のボランティアは阪神大震災以降、大きなうねりを見せている。が実際に行動に移している若者はほんの一部だ。企業でも、一部の時間を社会貢献活動に割くことを方針に掲げている所も出始めた。「道徳」教科の必修化が話題になっているが、家庭、社会全体が、問題認識を共有化して占部氏の提案にある公共の奉仕活動を活性化することが、日本人を甦らせるとの占部氏の提言に賛意を表したい。