「個人通信」で自分を売り込む!

先週、日経の「ビジネス書ランキング」にランキングされていた「顧客と最高の信頼関係を作る営業ツール(蒲池崇著、フォレスト出版)」のタイトルに目を引かれ買って読んだ。著者は、船井総合研究所に入社後、社員教育会社を経て27歳で起業し、日本唯一の個人通信(個人版ニュースレター)の作成・コンサルティング会社の代表を務める。「お客さまはどこから買うかではなく、誰から買うかだ」を信条に、船井総合研究所時代から、教育会社を通じて、日々の出来事から自分の人となりを紙面にして、お客さまから選ばれる存在になる「個人通信メソッド」を確立し、トップセールスの地位を得たそうだ。そのメソッドのノウハウを開陳したのが本書だ。ちょっと期待した内容とは違ったが、読んでみて、お客さまとの関係創り、そして「自分を売り込む(Sell Yourself)」ためのツールとしては確かに面白いかもしれないと思った。

蒲池氏は、人間関係に関する心理学の法則「ザイアンスの法則」を示し、「個人通信」の意義を説明する。「ザイアンスの法則」とは、

  • 第1の法則:人は知らない相手には攻撃的、冷淡な対応をする。
  • 第2の法則:人は相手に会えば会うほど好意を持つようになる。
  • 第3の法則:人は相手の人間的側面を知った時に、より強く相手に好意を持つようになる。

特に、第3の法則の重要性を説く。商品ではなく、自分の“ひとがら”を知ってもらう。

個人通信は、タイトル(個人名で‘○○通信’)、メインコラム、サブコラム(編集後記)、発行者プロフィールの4部構成。メインコラムに何を書くか?書いてはならないのが、売り込み、うそ、ライバル他社、宗教・政治・下ネタなどを挙げる。蒲池氏の作成代行は1500を超えるというが、「メインコラム」のネタ探しの相談が多いと言う。確かに、読者の心に届き、人柄をアピールでき信頼してもらえるネタを意識せねばならないが、意識しすぎると、なかなか思いつかない。しかし、プライベートなこと、仕事上の事で、インタビューしていけば必ず見つかる。

私見だが、「お客様の視点でものを考える」「日常的に問題認識を持ってものを見る」「感動経験を増やす(春夏連覇の沖縄興南高校の「1分間スピーチ」http://jasipa.jp/blog-entry/6187」)など、ブログも同じ(ブログは読者が特定できない)だが、「個人通信」も1回/月発行とは言え、考える習慣付けや、自らの学習に必ず役に立つものと思う。全てのお客さま(潜在客も含めて)と対面で対話することは不可能と思うが、「個人通信」で接点を持ちながら、久しぶりにお会いする時の話題提供にもなり、たしかにやりよう(内容)次第では強力な営業ツールになるかもしれない。

「カスタマー・エクスペリエンス」を掲げる企業が・・・

「日経情報ストラテジー」の戸川尚樹記者の記事に目が止まった(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20130726/494505/?mle)。「カスタマー・エクスペリエンス」と言う言葉が注目を浴び、日本IBMや日本オラクルなど、この言葉を掲げたソリューションを提供しているIT企業も増えてきたと言う。私の記憶では数年前に、野村総研の藤沼氏(現会長)が何かの講演でこの言葉を使われ、目新しさを感じたが、今回「日経情報ストラテジー」9月号で特集を組むほどにまで注目されるようになってきたようだ。

戸川記者は、カスタマー・エクスペリエンスを「商品・サービスの選定、購入、利用、サポートまでの経験を通じて顧客が感じる価値。小売業であれば、店に行き、出るまでの全体験に満足を与える経営手法」と定義する。野村総研などは、カスタマーエクスペリエンスの必要性について、「機能や性能の優れた商品やサービでも、単一企業による独占的な事業展開は難しく、直ぐに類似サービスが市場でひしめく結果となりがち。とかく価格だけが競争軸になりがち」と言う。要は、商品やサービスを購入したり、使用したりする際に顧客が受ける「心理的・感情的な価値」が重要になってくる。

既に米国スターバックスや、アップルなど成長企業では、カスタマー・エクスペリエンスにとり組むところが多いそうだ。「ここまでやるか」と言うサービスが、ネスレグループ(ネスレネスプレッソの取り組み)やドミノ・ピザジャパン(注文から配達までボーカロイド「初音ミク」が熱唱するサービス提供)に加えて、本、ワイン、自動車教習所、ファッション通販サイト、旅行サイト、車修理・・・などの分野でもカスタマー・エクスペリエンスを高めるための工夫を凝らし始めている。

日本IBMのサイトを見ると、製品に「IBM Customer Experience Suit」があり、説明に「IBM Customer Experience Suiteは、多彩で魅力的なWebエクスペリエンスを多様なチャネルを通じて提供し、顧客関係の促進と顧客セルフサービスの向上を図ります。」とある。ORACLEも昨年7月に「Customer Experience」製品群を発表している。

顧客満足度向上の重要性が言われる中、その施策を実行する企業から「なかなか成果が出ない」との声も聞かれる。顧客は「満足」だけでは当たり前で、より大きな「感動」や「感激」「感謝」を覚えるサービスを期待している。商品の選定からサポートに至る全体験の中で、顧客がわくわくするようなサービスとは何か?「Customer Experience」を勉強する価値はありそうだ。