主人は無理を言うものと知れ(豊臣秀吉)

以前当ブログでも紹介(http://jasipa.jp/blog-entry/7389#t)した元トリンプ・インターナショナル・ジャパンの社長吉越浩一郎氏が、また本を出版された。“必ず「頭角を現す社員」45のルール”(三笠書房)だ。「残業ゼロ」や、「がんばるタイム(毎日2時間は私語やオフィス内立ち歩き禁止)」、「毎日早朝会議(課題をもち寄り、即断即決)」などの施策を社内で徹底され、19年間増収増益を達成された実績が吉越氏の主張に大きな重みを付けている。社長退任後も、講演などで大活躍中だ(ご本人は講演依頼があまり来ないように1講演100万円強の値をつけたが効果なしとも云われていた)。

興味ある話として、例えば「毎日早朝会議」の徹底に関する苦労話があった。「早朝会議」の導入を決めたとする。しかし、定時の9時ではなく8時に出勤してくださいと言っても、社員が素直に従うわけがないと言う。課長以上で実施するにしても不満タラタラ。トリンプで早朝会議を軌道に乗せるのに丸1年かかったそうだ。大抵の場合そこに至る前にやめてしまう。トリンプの早朝会議を見習いたいと1000人以上に方が見学に来られたが、実際に導入された例はほんの数えるほど。やり遂げられなかった数々の会社は、おそらくどこかの段階で一息つき、羽根を休めていたところで抵抗勢力に押し切られたのだろうと言う。仕事も、もちろん会社風土の改革も、とどまることがなく、絶え間なく続くもので、一息つけるものではないと吉越氏は言う。トップの強い意志と信念に基づく継続的な行動が無ければ風土は変わらない。

「プロの誇り」より「プロの自覚」を持てとも言う。プロは結果を出すこと。結果がでなければ何もしなかったのと同じ。「自分はこんなに努力したが結果が出なかった」と努力を誇示する人もいるが、これは言い訳に過ぎない。

「がんばるタイム」など、仕事に集中できる環境つくりに精を出された吉越氏は、「問答無用で朝型人間になれ」と言う。そして「残業は、三流の社員がやること」とバッサリ斬り捨てる。

「いい上司の条件」として、‘部下に好かれようとしない’、‘部下に無理難題を押し付ける’、‘常に挑戦し、成功して結果を出す’を挙げる。上司は無化に無理を言う。部下を育てようとするからだ。部下は其の無理を何とかやり遂げて見せ、その先に成功がついてくるから、努力が報われ、上司を尊敬する。結果として「好かれる上司」になる。織田信長に無理難題を言い渡され、それに見事に応えてきた秀吉が、時を経て無理難題をいう立場になった時「主人は無理を言うものと知れ」といったそうだ。

上司と部下の関係において、規律のある、緊張感ある関係を作り上げ、「部下は上司の命令を完全にやりきる」ことで、自分も成長でき、上司との信頼関係も深まる。そして、このような関係の元、継続的な取り組みによって、組織風土改革も可能となるということだろう。

「人の心に棲んでみる」(本田宗一郎)

本田宗一郎氏のメッセージには、いつも感銘を受けている。「人間の達人 本田宗一郎」(伊丹敬之著、PHP研究所)の本の中に、宗一郎氏の言葉として「人の心に棲んでみる」というのがあり、深い言葉として印象に残った。

宗一郎は、他人の心理を読み分ける能力が優れていた。その心理を読むコツを「人の心に棲んでみる」と表現した。単に他人の心理を外部者として考えるのではなく、相手の心に棲む。すなわち、自分をその立場に置き、一瞬の話ではなくどっぷりとつかる。「人の心に棲むことによって、人もこう思うだろう、そうすればこういうものをつくれば喜んでくれるだろうし、売れるだろうと言うことが出てくる。それを作るために技術が要る。すべて人間が優先している」と。研究所の仕事は人間を研究することだとも言ったそうだ。

宗一郎の有名なモットーに「造って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」というのがある。「技術者がその独自のアイデアによって文化社会に貢献する製品を作り出すことは何物にも替えがたい喜びである。然もその製品が優れたもので社会に歓迎されるとき、技術者の喜びは絶対無上である」と言う。

マーケッティング、イノベーションと言っても、原点は人が、社会が、何を求めているかを如何に読むかである。顧客満足度を追求するにしても、顧客の期待度を知ることが原点であり、そのためには、宗一郎氏の言う「人の心に棲んでみる」との強い思いがなければ、人や社会の求めていることの真の把握は無理かも知れない。

宗一郎氏は、「ワイガヤ」に見るように、社員との対話を通じて、「人の心に棲む」訓練をされたのかも知れない。ともかく社員に対する思いは深く、社長退任時、1年半かかって全国700か所の事業所のほぼすべてを回り、「全員」にお礼を言われたそうだ。

背広を着たサラリーマン風の人が、電車の改札口の前で定期を捜して、後続の人の邪魔になっている姿を見ると寂しくなる。他人に対する日頃からの配慮がなくて、顧客満足度を論ずることは出来ない。難しいことだが、常に「人の心に棲んでみる」ことを意識しながら行動してみたい。

日本語のすばらしさ

昨日(11月30日)の日経朝刊1面のコラム「春秋」に「日本語の書き言葉には緊張感が宿っている」との米国生まれで日本語作家のリービ英雄さんの話が書かれていた。「大陸の文字を変形して島国の感性をあらわす仮名をつくった。文化の越境です」と。春秋子は言う。「そう言われてみれば、ここでもこうしてつづっている仮名文字とはなんと不思議なものか。元々は中国伝来なのに、今ではすっかりオリジナルみたいな顔をして日本語を支えている。その微妙な佇まいを、リービさんは緊張感と表現するのだろう。模倣と創造があやなす日本文化を象徴しているのかも知れない。」

もともと「ひらがな」や「カタカナ(片仮名)」は西暦800~900年ころ、漢字の字体を簡略化したり、崩したりして生まれたものだそうだ。例えば「あ」は「安の簡略化」、「ア」は「阿の左部分を崩したもの」と言う風に。

11月25日に当ブログで紹介した「世界が憧れる日本人という生き方」(http://jasipa.jp/blog-entry/8239)の本の中にも日本語の特殊性が記述されている。「日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字、そして外来語から成り立っている。26文字のアルファベットで構成される英語に比べると、数十倍の組み合わせの単語や熟語を覚えるわけ(外国人は英語表現専門のカタカナ文字があることに驚く)で、知らず知らずのうちに‘マルチタスク脳’に育っている」。料理にしても伝統の日本料理だけでなく、フランス料理、イタリア料理、中華料理、はてはハンバーガーやホットドッグまでも‘和製バージョン‘にしてしまう、世界から見ても画期的な’カメレオン文化‘だと言い、それが言語のマルチタスク性で磨かれた日本人が誇れる天賦の才能とマックス桐島氏は言う。春秋子が言う「模倣と創造のあやなす日本文化」と相通ずるものがある。

明治天皇の玄孫(ひしゃご)竹田恒泰氏は「日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか」(http://jasipa.jp/blog-entry/6826)の本で、「日本語こそ世界遺産にふさわしい」と主張する。原始民族が現代に至っても、言語だけではなく国土と国家を持っているのは、世界でも日本だけである。万物に神霊が宿ると考える神道の源流は縄文時代、その縄文時代の大自然を畏れ、敬い、そして利用してきた日本の和の文化から生まれ出た日本語は、「もったいない」や「いただきます(大自然の恵みへの感謝)」や「ご馳走様」、「津波」など、英語には訳しがたくそのまま英語になっているものが多い。竹田氏は、「日本語は日本人の個性の根幹を担保するものである。近年、蔑ろにされつつある日本語の価値を再発見することは、現代日本人にとっても非常に重要なことである」と主張する。