以前伝説の営業マンを紹介した(http://jasipa.jp/blog-entry/6802)が、今回紹介する甲州賢(まさる)氏もすごい。42歳の若さで一昨年亡くなられたそうだが、JTB,リクルートで10年半にわたってトップ営業として活躍した後、プルデンシャル生命にヘッドハンティングされ、そこでもトップセールスの地位に輝かれたそうだ。彼の軌跡や名言集を職場の有志とともに集め、当初はP生命の社員4000名に配布され、大きな評判を得たが、社内限定では惜しいとの声に押され、ライターの神谷竜太氏が出版されたのが『プロフェッショナルセールスマン~「伝説の営業」と呼ばれた男の壮絶顧客志向』(プレジデント社)である。
「僕はJTB時代に旅行を売っていたわけではないし、リクルートでも広告を売っていたわけではありません。いまも生命保険を売っているつもりはないんです。セールスという仕事は、お客さんのために解決策を提案することですから」
甲州氏が、若手たちによく聴かせていた話のひとつである。顧客が感じている、万が一のときの経済的な不安を解決したり、経営の課題を克服する手助けのために、生命保険という商品を解決手段としてたまたま売っているという考え方だ。
「社長と自分だけがハッピーな提案ではダメ。従業員全員がハッピーになれる提案をすれば、社長に堂々と提案できる」
「プロである以上、手ぶらで帰ってきてはいけない」
IT化以前の新人時代、提案書の手づくりに甲州氏は追われていた。どんな展開にも対応できるよう、一件の商談ごとに16種類の提案書を用意していたのだ。商談当日、顧客からの細かい要望にも、即座にこう応じた。商談と商談の合間が勝負で、その間商談のシナリオを繰り返しイメージしているのだ。
「そんなこともあろうかと思いまして、もう一案だけご用意して参りました」
加えて顧客との約束の時間や、顧客からの電話対応を大事にした。携帯電話にはこまめに留守録を入れた。「はい、甲州です。会議のためXX時まで電話には出られません。XX時にこちらからご連絡いたします」。そしてその間に電話をもらった相手にXX時きっかりに電話する。重要な約束の場合には、前日近くのホテルに泊まるなど、顧客の気持ちを考えた行動を徹底した。
「商品ではなく自分を売り込め、キャラクターを売り込め」
彼の周囲の人が積極的に甲州氏の話を聞かせてくれたが、この取材を通して、部下の育成にも人一倍気を遣い、サービス精神旺盛で思いやりに溢れる甲州氏の人柄を、神谷氏は感じたそうだ。
甲州さんは「他の営業マンと何が違う?」との問いに対して、「知識や技術的なことは皆さんと何も違いませんよ。ただ一つ、本気度が違うんです」と。営業はテクニック以上に心が成果を左右する、それもいかに顧客視点で行動できるか、そのレベルは人によって大きく異なり、その差が成果となって現れるということか。営業だけではなくSEにも通じる話である。