「顧客サービス2012」カテゴリーアーカイブ

お客様よりお客様の家づくりに熱心であろう

標記を基本理念として掲げ発展を続ける工務店が浜松にある。一条工務店だ。今朝の日経6面の“活かす企業人”に一条工務店宮地剛社長が「顧客のために考え抜く」熱い人材に”と題して求める人材像について述べられている。以前、“「おもてなし経営」を実践する都田建設(http://jasipa.jp/blog-entry/7041)”で紹介した都田建設も浜松だが、気風として浜松には「お客様のために」との気風があるのだろうか?

1978年創業の木造注文住宅メーカーで、2011年度の販売戸数が8596個で木造住宅メーカーでは全国2位の企業。グループ売上も2400億円以上。宮路社長は「株式公開もせず、宣伝活動にも注力してこなかったため、一般の方にはなじみが薄いかもしれない」と言われるが、その中でこの業績を上げられるのは、それなりの理由があるのだろう。

「お客様よりお客様の家づくりに熱心であろう」との理念のもと、「住まいの性能の差は、暮らしの差」と考え、家の性能を追い求め続けている。まずは、実現困難と言われた戸建て住宅の免震化に、普及可能な性能とコストで1999年に成功し、この「免震住宅」の受注実績は、主要住宅メーカーにおけるシェア8割強と圧倒的な地位を確保している。さらには、省エネ住宅としての断熱性能は国の基準値の約4倍。太陽光発電も、初期支出をゼロにし、搭載費用を入居後の発電による売電益で賄う「夢発電システム」を用意し、現在搭載率は88%強と業界トップ。この夢発電システムはさらに進化していると言う。

このように発展をし続けるための求める人材は、「自らのミッションに対し、しぶとくとことんやり抜く“熱い人”」と言う。「たとえお客様が“それでいい“とおっしゃっても、疑問が少しでもあればよしとせず、お客様の為に、納得でき、満足できるまで”考え抜く“人材とも言える」と。さらに続けて「当社では”とりあえず頑張る“というのは目標になりません。目標と期日はあくまで具体的かつ明確に定め、その実現に向け自ら行動する。そのための支援は決して惜しみません」と言う。そのため、入社歴などに応じた画一的な教育ではなく、個人ごとの習熟度に応じた「テーラーメイド型研修制度」を用意。ITを駆使して課題解決の進捗を個別にチェックするそうだ。自分で受けたいプログラムを選び、順番にこなす「スタンプラリー型」の制度もあるとか。

ジョンソン・エンド・ジョンソンなど外資系の経営に携わってこられた、新将命(あたらしまさみ)氏は「人の採用、不採用の決定時、心がけているのは、価値観が共有できそうな人か、もう一つは目に光があるかどうかが決め手」と言う。「目に光」とは、目を見れば熱き人材かどうか、問題意識を持ち、意欲がある人かどうかという事。「目は口ほどにものを言い」どころか「目は口よりもものを言い」だと言っています。

「お客様視点」で物事を考え、「お客様のため」を思って情熱を燃やし、妥協しない人材を求めるのは、IT業界でも同じである。

顧客の期待値を下げるIT営業

昨年5月に諏訪良武氏の「サービスサイエンス」を紹介し、お客様の事前期待を把握し、そして期待を上回る実績を出すことによって、お客様を繋ぎとめることが出来ると言った(サービスに関する“事前期待”についてhttp://jasipa.jp/blog-entry/6387)。その中で、「お客様の期待はやればやるほどキリがなく高まっていく。サービス会社は常にサービスレベルを上げていかねばならないが、それでは会社はつぶれる」、だから「お客様の事前期待のマネージメントが必要」と紹介した。

10月16日のITproで次の表題の記事に目が止まった。『顧客の期待値を下げる“IT営業”、「満足の科学」のススメ(by 日経コンピュータ玄忠雄)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20121012/429499/』。玄氏も、「顧客満足度を高める上で。顧客から期待が過剰に高まっている状態は危険だ」と言い、ネットコマースの斎藤氏(IT営業のコンサルタント)の「顧客の期待値をあらかじめ下げることこそ、IT営業の仕事だ」との発言を紹介している。もちろん、競合他社がいる進行中の商談で、顧客の期待値を下げる営業活動は実のところ難しい。まずは、自社が可能なことに正直になり、受注が欲しいがための安請負などをしないと言う姿勢が必要との主張である。

顧客企業の担当者に、自社の提案の欠点や自社では対応できない点など、過剰な期待を抑制するためのネガティブ情報を伝えることも重要。前向きな提案ばかりよりも、正直に、お客様のことを真剣に考えている心情を理解してもらえれば、提案者に対する信頼感も増すのではなかろうか。顧客の期待値を適正に保ち、これに応え続けることが顧客の満足を生み、信頼につながる。ユーザー企業との継続的な関係維持のため、改めて満足の仕組みを科学してみてはいかがかとの玄氏の提言である。

私も、過去SEを統括する役割を担っていたが、ほとんどのバースト案件は、売上を重視する営業が無理をしてとってきたものだった。結局受注時お客様にいいことを言って、結果失敗すれば、その顧客を失うばかりではなく、自社にも大きな打撃を与えることになる。玄氏の提言にあるように、「お客様の事前期待のマネージメント」に関して、科学してみることも重要ではなかろうか。

愛知のスーパーにもこんなサービスが!

愛知県豊橋市の「一期家一笑(いちごやいちえ)」という食品スーパーがある。朝日新聞10月8日の4面に「スーパー密着路線」という特集記事があり、その中で紹介されている。記事のリード文には「徹底した地域密着路線で黒字経営を続ける食品スーパー」として紹介され、「消費者の心をつかむのは、客を名前で呼んだり、配達先で電球を変えたりといった‘お金に代えがたいサービス’」で、全国の地域スーパーの希望の星として注目を集めているそうだ。

客と店員の大半は店から500㍍圏内に住むご近所さん。「あら、田中さん、いらっしゃい。この間のナスはどうだった」、このような会話が店員とお客の間で交わされる。10年前に近隣に大手スーパーが進出、立て続けに近隣のスーパー3社が閉店に追い込まれた。「一期家一笑」の杉浦店長は悩んだ末にたどり着いたのが「地域になくてはならないスーパーにあること」だった。近所付き合いを深めるために、年中、子供料理教室や餅つき大会などの行事を開催、店員は7割の来店客の顔と名前を覚えるまでになったと言う。5年前から力を入れているのが高齢者向け宅配。そして配達時のモットーは「ついでの頼まれごとも大切にする」。電球や電池の交換、段ボールの回収などもやる。「将来は冷蔵庫の中身まで把握し、食生活の助言をすること」と言い切る。

生き残りをかけて、大手スーパーは規模拡大路線をとる。しかし地域の中小スーパーは、規模ではなく付加価値を追い求める。「一期家一笑」の他にも、100種類の惣菜で有名な仙台の「主婦の店さいち」や、産直青果が売りの東京多摩地区の「福島屋」も黒字経営を続けている。

今年の2月に当ブログで紹介した町田市の「電化のヤマグチ」も地域密着型で成功した事例だ(http://jasipa.jp/blog-entry/7295)。別のブログで紹介した日産プリンスの営業マンも同じような考え方でトップ営業となった(http://jasipa.jp/blog-entry/7882)。

IT業界も、ますます競争が激しくなること必至である。我々中小ベンダーは、大規模ベンダー以上に、お客様に対する付加価値で差別化していくことが求められる。お客様のニーズの把握、お客様への接し方など、異業種の情報も参考になる。