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あなたは「なかなかの人物だ」?!

前稿(http://jasipa.jp/blog-entry/8460)の樋口廣太郎さんは著書「人材論」の中で、「人間的な魅力がなければ仲間が集まらず、仲間が集まらなければ、どんなに能力のある「人材」でも物事を前進させることは出来ない。「人材」として伸びるよりも、「人間」として成長する方が大事。今の社会に必要なのは、「人材」よりも「人物」なのです。」と言っている。さすれば「人物」というのはどういう人を言うのか?経営コンサルタントの小宮一慶氏の『ビジネスマンのための「人物力」養成講座~人はあなたのここを見ている~』(ディスカバー携書2012.1)を紹介する。

たしかに「あの人はなかなかの“人物”だ」「あいつは大した“人物”だ」と人を評価する言葉がある。小宮氏は、”人物“を「長期間にわたって尊敬される人」と定義する。典型的な人物として、松下幸之助氏、渋沢栄一氏、稲盛和夫氏などを挙げる。小宮氏は著書「社長の教科書」(ダイヤモンド社2010.2)の中で、経営と言う仕事は①企業の方向付け、②資源(ヒト、モノ、カネ)の最適配分、③人を動かす、の三つと定義している。そのうちの②、③は経営者の「人物力」次第で上手くいくかどうかが決まると言う。稲盛さんが何かやる(資源配分)時、「動機善なりや、私心なかりしや」と自らに問いかけるとの有名な話があるように、②が難しい。

「人物力」の要件として12個挙げる。

  • ①細かいことに気付き、心配りが出来る:人に対する気配り、経営の小さな変化にも敏感
  • ②前向きに考え行動する
  • ③妥協しない:正しい信念を持つことが基本
  • ④受け入れる:包容力、意見の異なる人の話でも、謙虚に、素直な気持ちで聞くことが出来る
  • ⑤見栄を張らないがケチではない:人のために金や時間を使える
  • ⑥軽くはないが偉そうではない:誰とでも打ち解ける気さくさを持ちながら、存在感を感じさせる(not威圧感)
  • ⑦決断力がある
  • ⑧動じない
  • ⑨奢らない:実るほど頭を垂れる稲穂かな
  • ⑩怖いけれど優しい:叱っても相手の事を考えてフォローできる優しさ(松下幸之助)
  • ⑪他人の事でも自分の責任と言える:経営者として成功したければ、電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも全部自分のせいだと思いなさい(経営コンサルタント一倉定)
  • ⑫自分のことをすべて捨て去り、他人のために生きることが出来る

そして、街中で、職場で、初対面の人、お付き合いしている人の行動で「人物」を見分ける方法が事細かく書かれている。例を一部挙げる。

  • 子供の目前で、信号無視をして横断歩道をわたっていないか?:自分の子と一緒ならしない!
  • 電車の中で席が空いたら、端につめて座り直していないか?:他の人も座りたい筈。
  • 初対面の人の前で偉そうに座っていないか?
  • 目下の人の話もメモを取りながら聞いているか?
  • いつもタクシーに最後に乗っていないか?

小宮氏は、「いくら意識改革を叫んでみても効果は薄い。まずはきちんとした挨拶の徹底などの行動が意識を変える」と言う。確かに以前紹介した伊奈食品工業(http://jasipa.jp/blog-entry/8368)では、会社に車で入る場合の右折の禁止(後ろの車に迷惑)や、スーパーに行った際の駐車は、出来るだけ遠くに止める(近隣の方に近くに止まってもらうため)ことなどを徹底されている。そして48年間増収増益!なんでこんな些細なことまで会社が言うのか?と思うが、小宮氏の言う「意識改革はまずは行動から」のお手本とも言える。

先述の12個の「人物」の条件を一度じっくりチェックして見たい。

耳触りな話を聞けるか?

日頃余りしない資料の片づけをしていたら、表題の新聞の切り抜きが目に留まった。裏の記事がロンドンオリンピックなので、昨年8月中ごろの日経の記事だと思う。元アサヒビールの社長だった樋口廣太郎氏に関するエピソードだ。「樋口廣太郎の『感謝』の仕事学」の本の中の話で、日経特別編集委員の森一夫氏が書いたコラムだ(樋口氏はその1か月後に86歳で亡くなられた)。

「悪い情報ほど積極的に集める。それに耳をふさぎ、目をそらしていたら、気付いた時には取り返しのつかない事態を招きかねません。」という。だが、誰しも偉い人の機嫌を損ねたくない。そこで耳障りな話を持ってきた部下には「大切なことを教えてくれてありがとう」と感謝しなさいと戒める。

他の経営者も似た話をよくするが、実際には苦言を嫌うお偉いさんが多いようだと森氏は語る。住友銀行の頭取、会長を歴任した磯田一郎氏に森氏が取材に行くと「最近、うちの評判はどうかね」と行内では入らない情報を探っていた。

その磯田会長に副頭取だった樋口氏は、商社のイトマンへの野放図な融資をいさめた。気に障ったのだろう。「邪魔立てするな」と一蹴された(自著「樋口廣太郎 我が経営と人生」より)。ある同行元幹部によると、部屋を出ようとする樋口さんにガラスの灰皿が投げつけられたそうだ。樋口氏がアサヒに転出したのはこれが原因だったらしいと森氏は言う。名経営者とたたえられた磯田氏だったが、絶大な権力に毒されたのだろう。このイトマン事件で失脚し晩節を汚した。

森氏は最後に言う。「一般的に狭量な人物は、耳の痛い話を聞きたがらない。結局は人間としての器の大きさに帰する問題である」と。

稲盛氏が、日々「動機善なりや」と自らに問いかけながら、いろんな施策をうったと聞く。人間とは弱いもので、権力の座に長くいるとついつい傲慢になりやすい。信頼できる「ナンバー2」を必要とする理由とも言える。