「経営改革2」カテゴリーアーカイブ

愛される会社

日経1月15日朝刊25~27面の2か月に1回掲載されるWAVE.1(ウェイブワン:変貌する私達の生活と現在、その「波」をとらえた記事)に目が止まった。「愛される会社」とのテーマ記事で、そのリード文には「“愛社精神”と言う言葉を聞くことが少なくなった。滅私奉公型のサラリーマンがめっきり減ったせいであろう。ただ時代は変わっても、社員が心を寄せる会社はある。“愛される会社”は、いま、どこに—-」とある。

10社が紹介されている。私が注目したポイントを各社ごとに記す。

まずは、富士山の南側にある建築工事会社「南富士」。建築会社でありながら中国人人材紹介ビジネス(中国北京や広州にカレッジを設置)や、カフェ大福の販売をヒットさせたり、それも若手を抜擢して鍛える環境を整備している。若手は「自分が成長できる機会がふんだんにある環境」だと言う。社員数200人、採用は数人なのに大卒の応募が毎年6千人に上ると言う。

次は楽天。「世界一のインターネットサービス企業になる」「(通販サイトへの出店を促し)地方を元気にする」と言った企業の目的が明確で、社員にも浸透。テレビ会議を使って、グループの全社員が参加する毎週火曜の朝会では、社長から事業の最新状況や、何がうまくいって、何が上手くいっていないかを話し、社員と経営者が志を再確認する場としている。

亀戸にあるくず餅製造販売の船橋屋。業績数値や成果を管理する方法で社員が辞めていく苦い経験から、社員が活き活きと働ける環境つくりに舵を切った。パートの人たちも含めた約180名の満足度調査をベースに1年半で338回、社長との対談を実施した。「ありがとうカード」や「巨匠」「達人」など工場で働く人の資格を定めた「職人マイスター制度」の制定など「働く人が自信と誇りを持てる会社」作りに邁進している。

女性衣料ブランド「アースミュージック&エコロジー」を軸に急成長するクロスカンパニー(岡山市)。全従業員2500名がすべて正社員で、平均年齢24歳の若い会社。人の壁、組織の壁という大企業病を打破する施策として、多くの社員の声を吸い上げる取り組みを促進している。小売業では珍しい「日曜日休暇制度」や「シングルマザー手当」もそんな中で生まれた。受付の女性の提案で会社加入の健康保険の見直しを実施し、数千万年の経費削減につなげた。人を活用するのではなく、人が「躍る」ように活躍する組織つくりを標榜する。

鎌倉の古民家を本社とする鎌倉投信。投資先は「これからの社会に必要とされる、いい会社」。成長企業を選ぶ決め手は「社員」だという。現場に足を運び社員と話す。いい会社は社員が理念を共有し、自由に意見を言い、生き生きと働く。社長の発言や決算が立派でも、投資家が社員に会うのを渋るようでは怪しい。「会社の良さは社員一人ひとりの表情に出る。まず社員を大切にしなければ現場の力が弱まり、時代や顧客のニーズをくみとる力も落ちる。新しい価値も創造できない」と言う。成績は好調で、昨年ブロガーが選ぶ優良投信ランキングで大手を抑え2位に選ばれた。

他にも「縁の下の力持ち」の人たちを救い上げる対話重視のコマツ、ダイニングチェアの生産量トップの飛騨の高山市で、地元の人材と木材の力を引き出し、デザイン性の高い洋家具を製造している飛騨産業、知的障害者がモノづくりの主力となっている、粉の出にくいダストレスチョーク最大手の日本理科学工業、「好きこそものの上手なれ」とアウトドア好きの社員を採用し、自由な発想でアイデア商品を開発するスノーピーク(新潟・三条市)、「人が会社に合わせるのではなく、会社が人に合わせた職場をつくる」と高齢者が従業員18人中14人という紙加工品製造のスバル(愛媛・四国中央市)などが紹介されている。

地域に愛され、社員に愛される会社には、人が集まる。先日紹介した伊奈食品工業もそうだ(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2013/1/7)。ソーシャルメディアの普及によってこの傾向はますます顕著になるかもしれない。

東日本大震災の時、「無私の経営力」を発揮した企業

11月に『日本型「無私」の経営力~震災復興胃に挑む七つの現場(グロービス大学院田久保善彦著、光文社新書)』と言う本が出版された。一過性の話ではなく、ストック情報として後世にも伝えたい話としてグロービス大学院在学中の生徒と一緒に取材を重ね本の出版に至ったそうだ。

搭載企業は下記7社(本の「はじめに」より)。

  • ヤマトホールディングス㈱:現地での物流支援活動や、荷物1個につき10円で合計140億円を超える寄付を実施(2011年度)。当ブログでも「クロネコヤマトのDNA」で紹介(http://jasipa.jp/blog-entry/7953)。
  • 富士フィルム㈱:津波で海水を被った写真を洗浄する技術の開発と、大規模な戦場ボランティア活動を実施。加えて関連会社が地域の除染活動に貢献。
  • 富士通㈱:被災地域へパソコンやクラウドシステムを提供し、NPOと連携したプロジェクトを展開。在宅医療システムを構築。
  • ㈱東邦銀行:被災直後から迅速に払い戻しを行い、他の金融機関との協力関係をいち早く構築。
  • ㈱みちのりホールディングス(岩手県北バスグループ、福島交通グループ):原発周辺地域から住民を移送し、ホテルを避難所として開放。観光を通じた復興を目指し、ボランティアツアーを実施。
  • ㈱八木澤商店:全社員の雇用を維持するとともに、「地域全体経営」を構想。
  • 一般財団法人KIBOW:産官学のリーダーが発足させて震災支援活動。被災地のトップや有志達を集めたイベントを数多く開催。「夜明け市場」など、被災地での新たな取り組みの発足につなげる。

『「利益より地域や顧客に対する愛情」(皆さんのお蔭で今がある。恩返しする時と)、リーダー又は現場の強い責任感・使命感(すべてを無くした方々にとって唯一の思い出としての写真を、写真の会社としての責務として取り戻すべき)、様々な形で発揮されたリーダーシップ、従業員の会社を思う心、企業理念の浸透、普段からの経営と現場の相互理解と信頼,自社が社会に提供している価値の理解など様々な要素が影響しあいながら、本当にすばらしい活動が各地でなされた』と著者は、あとがきで言う。著者が言う「無私の経営力」は、上記要素が日頃から備わっていることを言うのだろう。

東邦銀行では、本人確認なくても10万円以下の払い出しを可能とした。頭取の「“事故を起こさない”ことよりも“被災者の役にたつこと”を優先せよ」との指示があり、スムースに実施できたと言う。被災者との信頼関係も日頃から出来ていることもあり、残高以上の払い出しを受けた分もすべて回収できたと言う。銀行の真心が、被災者の心にも通じたのだと思う。すばらしい日本の美質と言え、後世にも言い伝えられる話だと思う。

このような社会貢献活動の結果、自分の会社の社会へ提供する真の価値・使命をあらためて認識(宅配便が社会に必須のインフラ、写真の持つ意義など)でき、従業員の会社に対する愛情・思いが強まり、CSR活動の重要性を会社としてもあらためて感じることとなったと言う。

町の床屋を激変させた「稲盛和夫・4つの金言」

日経ビジネスオンライン記事『成長が止まらなくなる「稲盛和夫・4つの金言」 町の床屋を激変させた言葉~大串哲史・オオクシ社長に聞く』(http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121218/241208/?mlpに目が止まった。

リード文に「景気の後退が続く中で、10年連続2ケタ成長を続けるカットチェーン、オオクシ。千葉市稲毛区で32店を展開する同社は、過当競争と淘汰が進む業界で、異色の成長企業として注目されている。客が再来店する比率は「6割あれば優良店」と言われる理容業界で、オオクシは83.2%という驚異的な数字を上げている」とある。10年以上前に、1店のみでかつ倒産寸前の借金まみれの理髪店を継いだ大串社長だったが、今では他業界からの視察も絶えないと言う。今年の稲盛氏が主宰する「盛和塾」の第20回世界大会(横浜4000人参加)で、世界一の表彰を受けた。盛和塾には、海外でも広がり米国、ブラジル、中国含めて8000人を超える経営者が参加しているそうだ。

その大串氏が、店を引き継いだとき、「経営の軸」を求めて盛和塾の門をたたき、以降稲盛さんのアドバイスを受けつつ経営をすすめ、今の状態を作り上げた。その金言とは・・・。

「私の店はまだ1店舗ですが、多店舗展開するには何が必要でしょうか?」の問いに「大きくなっても使える仕組みを、小さい時から作っておくことだな」と。この教えを「漫然と店を増やしていくと、どこかで行き詰る」との教えと理解し、現在32店舗を目標の80店舗にするため、実際100店舗を経営している経営者に話を聞きに行き、問題点を把握する。例えば、個人商店では従業員の名前や家族構成などは分かっているが、大きくなると分からなくなるため、従業員DBを作っておくとかの対策を打っておく。組織の肥大化を防ぐため、業務の外部委託化も先行してやっておく。

二つ目は、「先代の悪口を言わない」ということ。とかく悪い面だけをあげつらって先代のせいにしたがるが、先代が築いてきた信用などプラス面を考えて経営せよと言うことだと解釈し、納得。

三つ目は、「現場を見ろ!」。盛和塾である経営者が事業計画書を稲盛さんに見せたところ、1分もしないうちに、計画書を閉じて「お前、現場をみていないな」と一喝。経営計画書は金融機関の為ではなく、現場目線で描く。現場の人が計画書を読んで「よし、やってやろう」と打ち震えるものかどうかが重要だと理解した。今は、パートの人にまで事業計画書を配り、何度もみんなで読み合わせをして共有していっている。

4つ目は非常に難しいことだが「結果につながるやるべき事をやれ!」と言うこと。多くの会社は「結果が保証されないやるべき事を決めてしまいがち。従って、結果が出るやるべき事を追い求めなければならない。そのためにすべての施策の結果を数値化し、「結果が出る施策かどうか」の検証をしている。

詳細は記事を見て欲しいが、言えることは、自分の弱みを(大串氏は経営経験なし)補完するために、理論だけのコンサルタントではなく、経営を実際にしている稲盛さんの教えを請うために盛和塾に参加し、稲盛さんの一言一言を深く噛みしめ、その意味を自分なりに解釈し、実行していく姿勢と行動力が大串社長にはあったということだろう。「信奉できる人を見つけ、その人をとことん信じて実行に移す」。松下幸之助氏の言う「素直な心」も必要だ。ちなみに盛和塾は年会費6万円だとか。安いものですね。JASIPAの会員、とりわけ経営者の皆様にも参考になる話だと思います。