宅配寿司「銀のさら」や宅配釜飯「釜寅」を展開し、宅配寿司業界では44%のシェアを有するライドオン・エクスプレス。高校卒業後アメリカに渡り、寿司店での経験から飲食店を経営するとの目標をもって帰国。アメリカで人気だったサンドイッチ店を岐阜市に創業したのが1992年、しかし上手くいかず、寿司店経営に変わった。紆余曲折の中で見つけた経営手法は「感謝の心」と「怒らないこと」。「人間はみな平等だと分かっていることが、どんな経営手法を学ぶより大事」という江見朗社長の人間大事の経営に関する記事が「PHP Business Review松下幸之助塾2014年3・4月号」に掲載されている。
サンドイッチ店が上手くいかず、にっちもさっちもいかなくなった時、仕入れ業者の納品の時ふと「ありがとう」の言葉が口をついて出た。背水の陣に追い込まれた時の気付き「自分には相手の気持ちを思いやる優しさがなかった。業者さんもきちんと納品してくれるが、自分は彼らに対して何ができているのだろう」と、その時心の底から感謝の気持ちが湧きあがってきたと言う。そこから経営状態が改善し始めたそうだ。松下幸之助氏、本田宗一郎氏、盛田昭夫氏など名経営者も著書の中で言っていることに共通点があった。それは、「周囲への感謝の気持ち」だった。それ以来、「私は半端な気持ちではなく、99.999%周囲のお陰と感謝の気持ちを持って生きている」と江見社長は言う。「感謝の心」はよい人との出会いを引き寄せ、人生の好循環を生みだす原点であるとも。
もう一つ「怒らない経営」は、宅配寿司を配達した時のお子さんも含めたお客さまの笑顔が忘れられず、宅配の役割は「お寿司を届けることではなく、家族の団欒を届けている」ことに気付く。「お客さまとの一瞬の接点が宅配ビジネスの要諦」と。そのためには、社員みんなが常に気分よく仕事ができ、常に笑顔でお客さまと接することが出来る雰囲気を作ることが経営者や店長の役割と考えた。人間の尊厳と言うはかりでは、経営者も従業員も同じ重さであり人間に上下の序列はなく、自分には一方的に怒り人を傷つける権利はないとの考え方でもある。しかし「叱る権利」はあると言う。それは例えば仕事をさぼったり、手を抜いたりする人が居れば、その人は評価が下がり、給料も下がる可能性がある。江見社長は「自社の利益と言うよりも相手(従業員)の利益を最大化するために叱る」と言う。しかし、自分は完璧な人間ではないため怒ることも有るが、その時は、自分がとても恥ずかしく、すぐに「怒っちゃってごめんね」と謝るようにしているそうだ。
「怒らない経営」を世間では「ぬるま湯」と批判する人もいる。しかし、江見社長は「怒らない経営が一番も儲かるからやっている。証拠は、ぬるま湯ではなかなか達成できないシェア一位がとれたこと」と言い切る。
最後に江見社長は「“よい人生”とは、夢をかなえたときに訪れるのではありません。いちばん大事なのは、今この瞬間。その積み重ねが、よい人生になるのだと思います。怒ることで「今」を不快にするのではなく、感謝をしながら生きて見ませんか」と言う。
今回の「松下幸之助塾」のテーマは「人間大事の経営」。名経営者の誰もが言う「社員こそ宝」との考え方をいろんな形で実行、具現化している企業は数多くある。この事例もヒントにはなると思われる。