「生き方」カテゴリーアーカイブ

ハチドリのひとしずく

新日鉄の大先輩で、いつもご指導いただいている方から、お知り合いの方の講演録を送って頂いた。元外務省の医務官でスーダンでご活躍の方(K氏)の話だ。その講演録の最後に「ハチドリのひとしずく」が紹介されていた。早速インターネットで調べると、南米のアンデス地方に昔から伝えられてきた話だとの事で、それを辻信一氏が翻訳して絵本として出版された。その全文を下記する(出典:「ハチドリのひとしずく」辻信一監修,光文社刊,2005)。

森が燃えていました
森の生きものたちは われ先にと 逃げて いきました
でもクリキンディという名の
ハチドリだけは いったりきたり
口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは
火の上に落としていきます
動物たちがそれを見て
「そんなことをして いったい何になるんだ」
といって笑います
クリキンディはこう答えました
「私は、私にできることをしているだけ」

この話に共感した坂本龍一さん、中島朋子さん、C.W.ニコルさんといった著名人からの「私にできること」のメッセージや、地球環境のために誰でもできるアイディアも盛り込まれた構成の本だそうだ。辻さんからこの話を聞いたケニアのワンガリ・マータイさんも“ハチドリ”となって、各地でその話を伝え、ひとしずくを広められたとか(マータイさんは2011年亡くなられた。日本語の「もったいない」を世界語にされたかたで、当ブログでも紹介http://jasipa.jp/blog-entry/6826))。私たち一人一人はちいさなハチドリの力に過ぎないかもしれませんが、この無力感やあきらめを吹き払い、しっかりと目を開き問題と向き合い、「わたしにできること」について考え、行動し、それらを積み重ねてゆくことができるとしたら燃えている森の「火」を消す力にだってなれるかもしれません。

2006年頃この話がブームになって、若者の心を動かし、その閉塞感を打ち破り、ボランティアや、環境問題へと行動を駆り立てたとインターネットにある。講演されたK氏は、スーダンで医療活動に携わられているが、たまたま帰国していた時に東日本大震災が起こり、すぐさま救急車で東北現地に入り、医療活動を展開されたそうだ。K氏は言う。『「ハチドリのしずく」の話は、自分の出来ることをやることの大切さを教えている。しずくの大きさに違いはあるかもしれないが、やろうとする気持ち、志、ハートに差はない。私は東北とスーダンで自分なりに出来る一滴を垂らそうとしている。皆さんもそれぞれのステージで一滴を垂らしていただき、互いに手を携えていけば日本の今の大変な状況も乗り越えられると信じている』。

高年齢化問題が叫ばれている中、元気なうちに「自分のできることをやる」を実行に移し、社会のお役にたつことが出来れば、それぞれが一滴でも、大きな力になること必定。さて何からやっていこうか?真剣に考えたい。

歴女白駒妃登美さんの講演に感動

博多の歴女「白駒妃登美さん」の事に関しては、今年の2月2回にわたって当ブログで紹介した。

その白駒さんの講演会があるというので、行ってきた(講演会の案内はhttp://jasipa.jp/blog-entry/8115)。白駒さんは慶応大学経済学部を出られた才媛で、大手航空会社のキャビンアテンダントを経て、現在は結婚コンサルティング会社を経営されている。その間、子宮頸がんと闘われ、人生に対する生き方・考え方を苦悶するうちに、子供のころから好きな歴史上の人物の生き方に気付かれ、自分の考え方を変えた途端に、がん細胞も消え、幸せな人生を送られている。その経験談と歴史上の人の生き方の話は、人の心に感動を与えている。

白駒さんは、優秀であるが故に、欧米流の「目標達成型」の生き方で、試験、資格取得など叶えたい夢は次々に叶えていかれた。しかし、この生き方は欲望が際限なく広がり、達成感は得られても、安心感、幸福感が生れることはないことに、ガンとの戦いの中で気付かれた。そして「天命追求型」、すなわち、「自分の与えられた環境やご縁に対して、意味を見出し、とことん信じぬく生き方」に目覚められた。今、自分の置かれた環境でベストを尽くす。それを続けていくと、天命に運ばれ、いつしか自分では予想もしなかった高みに到達するとの考え方だ。そこでは、自分の夢だけを考える「For me」より、周囲に喜びや笑顔を与える「For you」の精神、つまり志が優先される。その「天命追求型」の生き方が、日本人が歴史の中で培った素晴らしい生き方であることに闘病を通して気付かれた。この生き方に気付かれて3週間後の検査で、医師も驚く「転移していたものも含めてすべてのガン細胞が消滅」したのです。

今回のご講演もキーワードは「天命追求型」「For meではなくFor you」「夢は自分のみ、志はリレーされていく」「感謝と報恩」だった。マザーテレサや正岡子規の話に加え、伊能忠敬の千葉県佐原での造り酒屋経営の立て直しにおけるFor youの精神、晩年の17年間40,000km歩き奉仕の精神で作成した精巧な地図(日本の文明レベルをバカにしていたペリーはこの地図を見て日本の文化の質の高さに驚いた)の話を通して、日本人の生き方の素晴らしさをお話しされた。また、前田利家の娘「豪姫」と浮田秀家の悲恋物語を題材に、秀家の八丈島への島流し後、秀家の死後も含めて250年間、前田家11人の殿様が八丈島の島民にコメなど物資を送り続けた由。まさに「志はリレーされる」の典型的な事例に、心を動かされた。詳しくは白駒さんの著書「人生に悩んだら日本史に聞こう(ひすいこたろうさんとの共著、祥伝社)」を参照ください。

悩みは、過ぎ去った「過去」を悔やみ、「将来」への不安から来るもの。「いまここ」を見れば悩みはない筈。だから何も悩まず、ベストを尽くせる。曹洞宗大本山總持寺参禅講師大童法慧氏の説話「いま、ここ」(http://jasipa.jp/blog-entry/7593)にも通じる話だ。1時間半のご講演の間、ずっと笑顔で丁寧に、かつ迫力を持って話される白駒さんに400人の参加者は大きな拍手で応えていた。

「あなたは宝石」存在を認める言葉は私を丈夫にしました(渡辺和子氏)

今朝の朝日新聞5面の全面広告に、PHP文庫の本として、岡山にあるノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんのものが紹介されている。現在85歳で、本や動画(You Tube )、講演など、傷つくことの多い日常をどう生きるかを説くために精力的に活動されている。9歳の時、2・26事件で父(教育総監渡辺錠太郎)を目の前で暗殺された。上智大学を出て30歳で修道女会に入り5年アメリカで学び、帰国したら初めての岡山の地に行かされ、翌年には学長に任じられた。初代、2代目の学長は70歳を超えた外国のシスターが学長だったが、初めて日本人、しかも36歳という若さでの学長となった。が、その重責と周囲の風当たりの強さに自信を喪失されたそうだ。そのような時、先輩神父に相談したとところ慰めの言葉はなく、「自分が変わりなさい」と突き放された。

そのような経験の中で得た心構えとして「自分が置かれた場所で精一杯咲き、そこが和やかな場になるようにすればいい。その力があるのに、ただ環境のせいにして甘えている人が多い」と説く。「環境を選ぶことは出来ないが、生き方は選ぶことが出来る。」そして、小さい頃から劣等感を持ち、自信のなかった私に、アメリカ人の上司が言ってくれた「あなたは宝石」と言われ、心に響いたその言葉に支えられたと言う。「人間の価値は何が出来るか出来ないかにあるのではなく、存在そのものが貴いのだ」と気づかせてくれたそうだ。どんなに愛想が尽きる自分であっても、自分を受け入れなければ、他の誰も受け入れてくれません。「愛とは見捨てないこと」と言いきる渡辺氏は、最近の学生は親からあまり褒められた経験がない子ばかりと言う。「あなたのお辞儀はきれいね」とか、「今日の靴はかわいいね」と折に触れ褒めていると、次から皆、態度が変わると言う。

この渡辺氏の話しで思い出すのは、当ブログでも紹介した福井県鯖江市の岩堀美雪さん(小学校教諭)の「自己肯定感が人を劇的に成長させる」です。「どの子にもいいところが必ずある、すばらしい可能性を秘めている」との信念に基づいた教育指導方法です。http://jasipa.jp/blog-entry/6579

今年6月1日のブログで紹介した曹洞宗大本山總持寺参禅講師大童法慧氏の法話にある「いま、ここ」を大事に生きるとのお話にも通じます。http://jasipa.jp/blog-entry/7593

苦労を乗り越えてこられた渡辺氏のお話は、貴重な教訓として我々の心に染み入ります。